Scene:バロン城
謎の甲冑の男が去ってから、セシルとアルバートは夜番の近衛兵に事の顛末を報告し、念の為自分達でも城内の見回りを行ってからそれぞれの自室へと戻った。
夜番の兵士以外は殆どが床についている時間帯ではあったが、あれだけの
(挨拶に来ただけだとは言っていたけど、謁見の間にいたという事はやはり目的は陛下だったのか?だとしたら、陛下はあの男に会っている?)
翌朝、セシルが目を覚ましたのは自室をノックする音に気がついてのことだった。
昨晩あのようなことが起こったのにしっかり眠れるというのはいかにも軍人らしいなと自嘲しながらセシルは体を起こしてベッドを出る。
「入ってくれ」
「眠りを妨げてしまい申し訳ございません!団長!扉越しで失礼します。至急謁見の間に来るように、と陛下より御命令が下りました」
「ん、ありがとう。すぐに準備する。下がってくれていいよ」
「ハッ!」
至急、とは言われたものの流石に寝間着のままで陛下の元に赴くわけにも行かないので簡易礼装に着替えて謁見の間へと向かう。
(やはり、昨晩の件だよな)
セシルが謁見の間の前までやってくると、セシルを通すべく守衛の兵士二人が左右に捌ける。
「セシル=ハーヴィ、入ります」
謁見の間にてセシルを待っていたのは、バロン王オーディンと近衛兵長ベイガン=フリッグ。
謁見の間の中ほどまで進んだセシルは、右手を左胸に当て片膝を付き王の前に頭を垂れる。
「うむ、急な呼び出しですまぬな。ベイガンから話は聞いておる。賊の撃退、見事であった」
「ハッ!」
ベイガンから聞いた、ということはあの暗黒魔道士は陛下の元にはたどり着いておらず、ただ謁見の間にいただけということなのだろうか。暗黒魔道士の目的は結局わからぬままだったが、とりあえず陛下が無事であればそれで良い、とセシルは余計な思索を打ち切る。
「まあ、謎の暗黒魔道士の事はもう良い。それよりも、本題は別にある」
「は、はいっ……」
それはあまりにも楽観視しすぎでは、と戸惑うセシルの耳に入ってきたのは――
「バロン王国軍飛空艇団長、セシル=ハーヴィ。貴公にミシディア国の水のクリスタルの奪取を命ずる」
――信じがたい王命だった。
「な、なぜそのような――」
当然の疑問だ。そのような行為に出れば各国の反発は避けられず、バロンは忽ち世界中を敵に回すことになるということなどセシルにも――いや、誰だってわかることだ。
「理由は簡単だ。風のクリスタルが失われた今、その他のクリスタルの守護は最重要事項――して、それを為すべきは誰か。最強の軍事力を持つこのバロン王国こそが相応しい。それだけだ」
「し、しかし……そのようなことをすれば、各国からの糾弾は避けられません…!下手をすれば、幾多もの国を巻き込んだ大戦にまで発展する恐れがあります…!第一、ミシディアがこちらの要求に応えるとは思えません……」
戸惑いながらも確かに意思を持ったセシルの進言。だが、それもバロン王には届かない。
「要求?何を言っておるのだセシル。私は『奪ってこい』と言ったのだ。邪魔をする魔道士共は、殺せばよかろう」
「なっ――」
セシルはそこで言葉を失った。あの心優しき陛下――オーディン王がこのようなことを言うはずがない。父親代わりとして、我が子のように愛情を向けてくれたオーディン王が、自分の話を聞いてくれないはずがない。
そんなセシルを気に留める様子もなく、ベイガンが一歩前に出る。
「陛下からの御命令は以上だ。水のクリスタル奪還作戦の部隊編成、指揮はセシル=ハーヴィ団長に一任する。では、下がり給え」
茫然自失。セシルの頭は無意味な思考のループを繰り返しながら、無意識のうちに自室へと足を進ませる。
『赤い翼』の詰め所とセシルの部屋がある外壁の塔の前までセシルがたどり着くと、ちょうど入り口にカインが立っている。
「おお、セシル。聞いたぞ。昨晩、謎の暗黒騎士がバロン場内に出現したとな。俺としたことが、それに気づかずにまさか呑気に夢の中だったとは――ん、セシル、どうかしたか?」
カインは用件であった昨晩の出来事について話しながら、親友の異変に気づく。
「ああ、いや…今は――違うな。カイン、僕の部屋に来てくれ。話すことがある」
「構わない。元々そのつもりで来たのだからな」
「なるほどな、水のクリスタルか――確かに、陛下の言うことにも一理あるな。今からクリスタル所有国と他主要国を招集して話し合いなぞしたところで、あっさりことが運ぶとは到底思えん。その間にセフィロスが全てのクリスタルを砕いて回るほうがずっと早いだろう」
セシルから謁見の間での顛末を聞いたカインは、自分なりに推測したバロン王の意図を推測する。あまりに淡々と話すカインに対して、セシルは少し苛立ちを覚えながら問いただす。
「君は、陛下の命令を肯定するっていうのか?ミシディアが大人しく渡してくれないなら、殺せって――」
「それについては、奪還作戦には竜騎士団も同行するとしよう」
「やっぱり、君も――」
「まあ、待て。バロンの飛空艇団と竜騎士団が――しかも、団長二人が雁首揃えてやってくるんだ。ミシディアの連中も抵抗は無駄だと察するだろう。殺しは、したくないのだろう?」
「でも……」
「命令を拒否したところで、飛空艇団長の座を追われるだけだぞ。力は持っておけ。それが必要な時まで。だから、今回の件は俺達でできるだけ穏便に済ませる。それが一番いい」
「――――わかった。君の言うとおりにする。部隊編成と指揮権は僕に一任されているけど、竜騎士団の編成は君に任せてもいいかい?」
「無論だ。では、早速俺は今回の作戦を団員に伝えてくる。決行は?」
「2日後。飛空艇の整備、二軍団合同部隊の指揮系統の整理が必要になる。明日、飛空艇団と竜騎士団での軍議を開こう」
「わかった、ではまた後でな」
まだ納得できているわけではない。だが、カインが言ったことが荒唐無稽なものではないこともわかる、陛下があの様子なのだ。セシルがいくら命令を拒否したところで、手を替え品を替え奪還作戦は実行される。それならば、バロン王国飛空艇団『赤い翼』の団長として、最も平和的に今回の作戦を遂行するのが、少なくともセシルにとっての最善だ。
カインが作戦を伝えに竜騎士団の詰め所に向かった一方で、セシルはまだ団員達には知らせず、一人また別の場所へと向かっていた。
「やあ、シド。飛空艇の調子はどうかな?」
「ん、セシルか。ちょっと待っとれぃ!」
セシルがやってきたのは、飛空艇ドック。セシルの呼びかけに反応した声のあと、飛空艇の底から金属音が数回聞こえ、黒くすす汚れたヒゲの老人が出てくる。
「元気にしてたかい?」
「おう、ワシこの通りバリバリ元気じゃよ!しかし、そういうお前さんはどこか元気がなさそうじゃの…」
「ふふっ、やっぱりシドに隠し事はできないな…」
「息子のことなど簡単にお見通しじゃよ」
オーディン王が保護者、責任を負う者としての「父」であれば、このヒゲの男――バロン王国軍技師長シド=ポレンディーナは育ての父親とでも言うべき男だ。当然、どちらとも血のつながりはない。
「ミラは元気?」
「お、そうじゃった。今日は帰らんとミラの奴に怒られてしまう!」
ミラとはシドの一人娘のことである。シドは奥さんを若くして亡くしており、家のことはほとんど娘のミラがやっている。
「どうじゃセシル。せっかくじゃし、今晩は久しぶりにワシの家に来んか?ミラの料理も恋しかろう。アレから更に腕を上げてのぉ…セシルにもぜひ食べてもらいたい!」
「うん、わかったよ。じゃあ、仕事が終わったら行くよ。どうだろう、カインとローザも呼ぶかい?」
「おうおう!好きにせぃ!」
シドとの会話で、少し落ち着きと笑顔を飛び戻したセシル。
「ありがとう。じゃあ、僕は仕事に戻るよ」
「ん、何か用があったんじゃないのか?」
「ああ、それはもう大丈夫。飛空艇の整備も順調みたいだし」
「もちろんじゃよ!特に、セシルが操縦した後の飛空艇の整備は楽で助かっとるわい」
「じゃあ、また後で」
「以上が作戦の概要だ。詳細な部隊編成、及び作戦内容は明日僕と副団長、そして竜騎士団長カイン殿と軍議を開き、そこで決定する」
セシルから水のクリスタル奪取作戦をされた飛空艇団員達に動揺が走る。皆、セシルと同じくあのバロン王がこのような作戦を決定するとは俄には信じがたいのだ。
結局、団員からはまともな発言が起きぬまま作戦通達の場は終了となった。
FF4周りはやたらとオリジナルキャラクターが出てきますね。
バロンが大国という設定なので仕方ないのかもしれないですが……