Scene:シドの家
「お待たせーっ♪ミラちゃん特製トロイア産ミルクの激ウマシチューだよっ♪」
ポレンディーナ家の食卓にて待つセシル、カイン、ローザ、そしてシドの前にどんどんどんっとお皿にたっぷり注がれたシチューが置かれる。料理を給仕してくれるのはもちろんシドの娘、ミラ=ポレンディーナである。
「激ウマって、自分で言っちゃうのね?」
「だって、自分で美味しいって思ってもないものをお客様に出すなんて失礼じゃない?」
無駄なアクションを取り入れた配膳のせいで乱れた自慢のポニーテールを整え直しながらミラが言う。
「そだそだ。パンもあるからすーぐ持ってくるね!あ、飲み物もいるね!何がいい?」
「ワシはカイポビールを頼む!」
もう待ちきれない、とばかりにスプーンを握りしめるシド。
「んもーっ、お父さん明日も仕事でしょう?」
「一杯だけじゃ一杯だけじゃ……」
ミラは呆れたようにため息を付き、エプロンの紐を解きながら台所へと向かう。
「はいはーい。みんなはー?」
「では、俺もビールを頂こう」
食事に邪魔な金の長髪を束ねながらカインが注文する。
「じゃあ…僕は、ミルク」
「えーっ!?シチューあるのに!?」
セシルのオーダーに驚きのあまり、ミラがポニーテールを振り回しながら勢いよく食卓の方を振り返る。
「それもそうか…だったら、バノーラホワイトのジュース、あるかな?」
「あ、私もそれで!」
「はいはーい、バノーラホワイトありますよ〜っ♪」
皆のドリンクオーダーを聞き終えたミラは台所で準備を始める。
「にしても、相変わらずミラは元気だね…」
久方ぶりに合う幼馴染の変わらぬ様子に思わず苦笑いするセシル。
「その方がシドも安心できるというものだろう」
いつものようにニヒルな笑みを浮かべるカイン。
「元気じゃないミラなんてミラじゃないもの」
若干失礼(?)なことを言いながら、ミラに負けず劣らずの笑顔のローザ。
「ワシは…幸せじゃ……」
握っていたスプーンを宅に置いて目元を拭うシド。
「あーっ!私抜きで楽しそうな話してる!ずるーい!」
食卓の周りを優雅に移動しながら各人の飲み物を配って回るミラ。
「はーい♪じゃ、シチューが冷めないうちに食べちゃお食べちゃお」
トン、と最後にパンだけは優しくテーブルの中央に置いたミラが席に付き、皆が食卓に揃う。そして、ミラが手を合わせるのに続くように他の四人も手を合わせて。
「「「「「いただきます」」」」」
父と子供たちの夕餉が始まる。
「うん、美味しいね」
「でっしょー?セシル、シチュー好きだもんね♪」
シチューを一口すすり、満足げな顔を浮かべるセシルを見てミラが微笑む。
「何だか昔に戻ったみたいだわ」
その様子を見て昔を懐かしむローザに、ミラが今度は目を丸くする。
「あわわっ!違うのよローザ!別に『大好きなシチューでセシルの胃袋もハートもガッチリキャッチ♡』なんて考えてないんだから!」
「そ、そんなこと疑ってないわよっ!」
パタパタ慌てて手を振って何かを否定するミラ。少し頬を染めてありもしない誤解を解こうとするローザ。そして、セシル、咽る。
「大丈夫か?飲むか?」
「いや、大丈夫……というか、ビールだろそれ」
「フッ――」
気遣うふりをして親友を誂うカイン。差し出されたビールを手振で拒否し、セシルは自分のジュースを飲む。
「じゃあ、カインにしよっかな?イケメンだし、お金持ちだし、団長だし♪はい、あーん♪」
「んっ――」
自分のシチューをスプーンで掬い、カインの口元へと運ぶ。カインは一瞬戸惑うが、大人しく口を開けてそれを受け入れる。
「どう?」
「ん、確かに美味いな。どうだ、ミラ。今晩うちの屋敷に来るか?」
「もうヤダ♡」
「ゴフッ――」
謎のイチャつきを見せるカインとミラに、今度はシドが咽る。
「そ、そういうのはワシの前でやるもんでは……」
「じゃあ、お父さんのいないところではいいの?」
「そういうわけでは……」
しどろもどろなシドの横で、ローザが何やらひらめいた顔をする。
「今の、レナさんに言っちゃおうかな?」
「なっ――それはやめてくれ、ローザ!」
いつも冷静なカインが珍しく表情を崩し、椅子から立ち上がる。
「えーっ、どうしようかしら?」
「おい、セシル!お前からも言ってくれ!」
「えーっ、やだよ。自分が撒いた種だろう?」
先程誂われた仕返しとばかりに笑顔で返すセシル。
「そんな、カイン……私じゃなくて、レナさんを選ぶのね……」
そして、悲しげな顔をカインに向けるミラ。
「これが最近の若者というやつかの……」
我が子の成長に戸惑うシド。
こんな様子で、混沌とした家族団欒の時間が過ぎてゆくのであった。
楽しい食事の時間も終わりを迎え、カインがビールの最後の一滴を飲み干すと、食卓からは飲食物がすべてなくなる。
「ところで、2日後俺の竜騎士団とセシルの飛空艇団はミシディアへ行く。任務だ」
「ミシディア…?一体何の用で?」
極秘任務を除けばセシルはローザにすぐに今の仕事を教えてくれるので、知らない話がカインから出てきたことに驚く。
「か、カイン――」
「水のクリスタルの奪取だ」
「「はーっ!?」」
止めようとするセシルに構わずカインはそれに構わずその目的を告げてしまう。それを聞いたローザとシドが声を上げて驚き、ミラは二人の声に驚いてしまう。
「そ、そんなことして大丈夫なのかしら…?」
「大丈夫なわけあるかい!そうか、セシル…それで、お前さん…昼間は元気がなかったんじゃな」
「なになに、そんなにヤバいの?」
『赤い翼』の団員達と同じく、皆に動揺が広がる。セシルとの立場の違い故か、今回は各々思ったことを言ってくれているが。
「セシル――ワシの飛空艇もお前たちも、可愛い息子たちなんじゃ。できるだけ――人殺しなぞさせたくない――」
セシルは軍人で、バロンの飛空艇は兵器。そんなことはわかっている。だが、シドが飛空艇を開発した理由は――空を飛ぶ船に託した夢は、決して「バロンの他国への侵略」などというものではなかった。シドはセシルを抱きしめ、絞り出すように思いを伝える。
「うん、わかってる。だから、今回はカインにも協力してもらう。誰も殺さないし、殺させはしないよ」
抱きしめる父の肩に優しく手を置き、誓う。貴方の子供たちを人殺しの道具にはさせないと。
「うむ、すまんな――柄にもなく取り乱してしまったワイ」
「仕方ないさ。僕だって、未だに信じられないんだ」
「しかし、陛下がのぉ――」
シドはバロン王オーディンとは旧知の仲である。オーディン王がまだ軍属であった頃、当時は船舶技師だったシドとたまたま出会い、妙に気が合いお互い飲み友達となった。故に、個人的な付き合いで言えば、その関係はセシル以上とも言える。
「陛下――オーディン様もなにか考えのあってのことじゃろう。辛いこともあるとは思うが、陛下を助けてやってくれ。我が息子よ」
「ああ、わかった――」
シドの息子への頼みに、セシルは深く頷く。
というわけで、前回お名前だけだったミラちゃん登場です。
序盤は完全にメインキャラですね……
クリスタルの戦士としての使命に巻き込まれながら関係を築いていくFF5組の対比として幼馴染のFF4組を見せるためのお話だったんですが…ミラちゃんのコメディリリーフ力(ちから)が強すぎて、結局FF5組と同じ感じになってしまいましたね(単なる作者の力量不足です)
そろそろFF6,7組も登場させないとどんどん話に入りづらくなってくるぞ!