Scene:バロン城下町
バロン軍飛空艇団と竜騎士団の混成部隊がミシディアに到着する数刻前、バロン軍竜騎士団長カイン=ハイウインドの依頼を受けてバロンの城下町へとやってきた。
「落ち着かないか?」
「まあ、な…」
クラウドに話しかけているのは、ナルシェから引き続き今回のバロンでの任務でもパートナーを務めるロック=コール。
落ち着かない、と言っているのはクラウドの装備のことである。というのも、今回彼はいつもの大剣とソルジャーの服ではないのだ。
理由は単純な話だ。まずあの大剣は目立ちすぎる。まず間違いなく衛兵を呼ばれる羽目になる。その上ソルジャーの服など着ていたら、城に連れて行かれて尋問を受けるのは避けられないだろう。
それではマズい。このあとの作戦の遂行が不可能になってしまう。
代わりにクラウドには、フィガロの試作兵装が与えられている。
まず1つは黒を基調とした戦闘服である。今後もクラウドに依頼をかける想定の元エドガーの独断で作成したものである。
クラウド用の兵装ということでソルジャースーツをベースに作ってあるため、ノースリーブのトップスと動きを阻害しない余裕のあるボトムスを採用してはいるが、フィガロ最新の強化繊維を使用した腰布と大口のアームカバーが追加されている。右利きのクラウドの剣撃の邪魔とならぬよう、強化繊維の袖と腰布は左側のみに備えられており、アームカバーは左肩のショルダーアーマーへの着脱が可能となっている。
エドガー曰く「ソルジャースーツと同様の着心地を維持したまま、印象だけガラリとかえたのさ」とのこと。
そしてもう一つは、フィガロの機械技術を導入した大小様々な6本の機械剣である。状況に合わせて各種の剣を使い分ける想定であり、剣同士を合体させて使用することも可能である。今後も様々な任務をクラウドに依頼したいというエドガーの意思の表れでもある。そして、6本全てを合わせた形状は、クラウドが以前使っていた超大型の片刃剣――バスターソードに似ている。
「というか、これで武器商人は無理があるんじゃないか?」
「そうか?どこからどう見ても武器商人だろ」
クラウドの発言通り、彼らは一応武器商人という体でバロンを訪れている。これまたクラウドの発言通り、正直武器商人を名乗るには色々と怪しい部分はあるのだがカイン=ハイウインド名義の入国許可証があるのでそこはどうにでもなる。要はソルジャーだと疑われさえしなければ問題ないのだ。
「じゃあ、コイツを売るのか?」
エドガーに渡された6本の機械剣が収納された大型のトランクケースを掲げるクラウド。
「馬鹿言うな。カイン=ハイウインドの依頼で俺達はこの剣を持ってきてるんだぞ。他のやつに売ってどうするんだ」
「冗談だ」
ふざけた戦闘服と機械剣を寄越したリターナーへのクラウドからの細やかな仕返し。わかってますよとでも言いたげにロックは肩を竦める。
「ま、俺達は時が来るのを待つだけさ。それまではバロンの城下町をぶらぶらしてようぜ」
「そうだな」
それから数時間程、途中バーでの休憩を挟んで城下町を見て回ったクラウド達だったが、特に怪しまれる様子もなく自由に町を歩くことができた。バロン程の街であれば各国から商人達がやってくるのも当たり前で、実際にクラウド達も明らかにバロン国民ではない人間を何人も見た。
大国バロンの城下の雑踏の中では、クラウド達もただの異邦人に過ぎないのであった。
「城付近はあらかた見て回ったし、どうする?一旦宿に戻るか?」
「いや、始まったみたいだぞ」
城の方から中隊規模のバロン兵達――事前にエドガーから聞かされていた特徴と符号させると、恐らく陸兵団が城下町へと駆け出してくる。
「緊急事態です。現在、バロン城内では戦闘行為が発生しております!市民の皆様は、直ちに避難されますよう!」
バロン城内での戦闘行為――カインの計画通り竜騎士団のクーデターが決行されたということだ。
「バロン城で戦闘行為だと!?」
「何が起きているんだ!?敵なんか攻めてきていないだろう!」
「は、早く逃げないと…!」
当然そんなことを知る由もないバロンの民草には動揺が走る。
「避難所まで我々が誘導しますので、着いてきてください!」
バロン兵の指示に従って民衆が城とは逆方向の避難所へと移動していく。
「ここで城になんか向かえば目立ちそうだな」
「関係ない。竜騎士団のクーデターの援護となれば、どの道目立つことになる
」
ロックとクラウドは避難所へ向かう人の流れに逆らってバロン城へと突き進む。城門前までたどり着いたクラウド達の前には、門番の兵士二人が立ちはだかる。
「貴様ら、何者だ!バロンの民ではないな!」
「もしや、竜騎士団の協力者か!」
クラウドはトランクから機械剣を取り出し、ハンドガードまで刃がついている片刃の長剣、合体時のベースとなる両刃の大剣をそれぞれ左右の手に装備し、残り4本の剣はホルダーに入れて腰にマウントする。
「そういうことだ。通してもらうぞ」
「通すわけがなかろう!此処から先には一歩も進ませ――」
剣を構えるクラウドに口上を述べていた兵士達は、いつの間にか背後に回っていたロックの手刀により気絶させられる。
「さ、城に突入しようぜ」
バロンの城門を抜けた先の大広間では、バロン軍同士の戦闘が行われていた。片や当然今回のクーデターを起こした竜騎士団、片や陸兵団と近衛兵団の混成部隊。混成部隊約50人に対して、竜騎士団は20人――カインから聞いていた話ではバロンに残っている竜騎士団全員ということになる。
これだけの戦力差かつ竜騎士の最大の武器である機動力を十分に活かせない状況ながらも戦況は拮抗している。、白兵戦最強と名高いバロン王国竜騎士団――『天駆ける稲妻』の名は伊達ではない。
「何奴!」
「貴方達は――」
クラウドとロックを見て反応を示したのは、混成部隊と竜騎士団それぞれの後方で団員に指示を出している指揮官達。
混成部隊が事を起こす前に、一瞬で竜騎士団の指揮官がクラウド達の前へと跳躍してくる。
「お待ちしておりました。団長より伺っております。リターナーの方ですね。私は、竜騎士団副団長のアーロン=ファフナーです」
「ああ、俺がロック。こっちがクラウドだ。戦況はどうだ?」
「ご覧の通り、ほぼ互角です。増援を考えるとこれ以上は――」
「だったら、さっさと城から撤退しちまおう。城下町の住民はもう避難済みだと思う。少なくとも、城付近の居住区には一般人は残ってないはずだ」
ロックから城下町の様子を聞いたアーロンは一言礼を告げて、戦闘中の部下達へと振り返る。
「バロンの住民達は避難したそうだ!作戦をフェーズ2に移行する!」
アーロンの指令を聞いた竜騎士達は槍で相手との距離を取った後、一斉に跳躍して中庭の城壁を超えて城下町へと散る。
「クソっ!奴ら城下町の方に…!追え!追うんだ!」
司令官の言葉を聞いたバロン兵達はそのままなだれ込むように城門の方に向かうが、そこにはクラウド、ロックそしてアーロンが立ちはだかる。
「アンタ達は先に行け」
「ひとりで行けるか?」
「ただの時間稼ぎだ。問題ない」
ロックはアーロンに目で合図し、この場を相棒に任せて竜騎士たちの援護に向かう。
「一人で何ができる!構わん、そのまま突き進め!」
押し寄せてくるバロン兵達を前に、クラウドは右手の大剣を肩に担ぎ腰を落とす。自らの体内に宿る魔晄を呼び水にして、周りの魔晄エネルギーを剣に収束させる。そして、魔晄エネルギーを纏って青緑色に輝く剣をそのまま勢いよく地面に叩きつけるように振り下ろす。
破晄撃
剣に纏わせていた魔晄エネルギーが地走りとなって一直線にバロン兵達へと突き進む。
「ぐわぁっ!」
先頭を走っていたバロン兵が慌てて剣で振り払うものの、剣と接触した瞬間に魔晄エネルギーが爆発してバロン兵たちを吹き飛ばす。
「な、何だあの技は…!?青い光…まさか、魔晄――ソルジャーか!?」
吹き飛ばされたバロン兵達と驚愕のあまり立ち竦む司令官を余所目に、クラウドはロック達の後を追う。
というわけで、クラウドのAC衣装お披露目回です。
Ch.2後半からバトルになりそうでならない展開が続きましたが、ようやく本格戦闘が始まります!
バロン軍団長の名前は北欧神話の神様縛りだったので副団長もそうしようと思っていたのですが、中々良いのが見つからなかったのでアーロンには北欧神話の竜の名前を使うことにしました(竜騎士だからいいかなって…)