Scene:バロン城下町
セリスはこちらに背を向けてもう一つの戦いへ加勢に向かうロックを無視し、目の前の相手――ソルジャーの男へと目を向ける。
セリスにしてみれば竜騎士団のクーデターによるバロン王国の被害は瑣末事でしかない。わざわざ戦場に出てきたのは、自分がバロンに来訪しているタイミングでのクーデターがガストラに対する策略である可能性を否定できない以上、城の中で大人しくしていることが安全だとは限らず、現場を目にしたほうがその真偽についての判断材料も増えるというだけの話だ。そこにガストラと敵対する者の存在があったのは単なる偶然に過ぎない。
(いや、竜騎士団長は私がバロンにいることを知っていたか――)
バロン王国軍竜騎士団長――カイン=ハイウインドが如何なる男であるかは、噂以上のことは知らないセリスだが、自身のバロン滞在に合わせてリターナーの助力を受けて事を起こしたのであれば、中々に厄介な将である。
「名乗り忘れていたな。私はガストラ将軍、セリス=シェール。貴公はソルジャーのザックスと見受ける。私としてはバロンの内輪揉めには興味がないところだが、どうやら部下が世話になったらしいのでこのまま大人しく見逃すつもりはない。それに、ここでバロンに恩を売っておくのも悪くはないだろうからな」
セリスの発言を聞いて、彼女が自分達の素性を知っていたことに納得する。ナルシェへ侵攻してきたガストラ兵の上官だったというわけだ。
「興味はない!」
クラウドの取った行動は、フェイントなしの最高速度での突貫。相手がガストラの人間であれば、中・遠距離戦では分が悪い。
ブリザド
当然セリスにもそれはわかっている。氷塊でクラウドの接近を拒む。
ブレイバー
クラウドは剣を振りかぶりながら大きく飛び上がり、セリスの
先程の打ち合いで膂力の差はわかっている。到底受け止めきれる攻撃ではないと悟ったセリスは、身を捩って体捌きだけでクラウドの攻撃を躱す。
「はぁっ!」
クラウドは地面に突き刺さった剣で大地を抉りながら、大剣をセリス目掛けて振り上げる。
「くうっ…きゃぁっ!」
セリスはクラウドの剣撃を辛うじて受け止めるが、先程同様に強引に吹き飛ばされる。
「いけっ!」
剣を振り抜いた勢いを殺さず、クラウドは。再びセリスに接近しながら腰にマウントしていた小型の機械剣を抜くと当時に放り投げる。投げ出された剣は回転しながら弧を描く軌道でクラウドとは違う方向からセリスを襲う。
「生命見守る眼よ。在りし我が姿を、改め給え――」
テレポ
2つの剣での挟撃を受けるはずだったセリスの体はその寸前で姿を消し、クラウドの背後、少し離れた場所に出現する。
ブリザド
自分の剣同士がぶつかった衝撃で反応が間に合わないクラウドの背中にセリスの
「ぐっ!」
先程セリスが使用した魔法『テレポ』は『ファイア』や『ブリザド』などの現象を引き起こして攻撃に使用する『黒魔法』や『ケアル』などの人体に作用して回復や補助の効果を発揮する『白魔法』とは別系統の魔法――『時空魔法』である。2つの魔法体系と比較してまだ歴史も浅く――というより、まだ完全に体系化されておらず組織や集団ごとに『時魔法』『空間魔法』と呼び方も統一されていない程である。人体に作用する、という性質から白魔法の一環と見なす流れすら存在する。
時空魔法の発動には、他の魔法が必要とする「世界認識」「現象理解」に加えて、高度な「空間把握」が必要とされている。
つまり、クラウドの剣撃を受けて吹き飛ばされながら適切な位置へ
魔法学に明るくないクラウドはセリスの今の瞬間移動にどれほど高度な技術が要されているのかなど知りもしないが、このような魔法を戦闘中に使ってくる相手など今までに出会ったことはない。それだけで、セリスが並の使い手ではないことくらいは理解できる。
(闇雲に突撃しても瞬間移動の餌食。かと言って、待ち構えたところで魔法に蹂躪されるだけだな…)
クラウドは深く息を吸い、意識を集中させる。自らの体内、そして大気と大地に流れる魔力――魔晄の流れをイメージし、シンクロさせる。
(ここで使いたくはなかったが――俺が「ザックス」なら、負けるわけにはいかない――)
「限界を超える!!」
リミットブレイク
クラウドの体が周囲の魔晄エネルギーを取り込み、それが自身の魔晄と反応し、爆発的にエネルギーを生み出す。過剰な魔晄エネルギーが青いオーラとなって、クラウドの体から溢れ出す。
(コレがソルジャーの本気――恐ろしいわね)
クラウドのリミットブレイクによる魔力の乱れはセリスの周りの空間にまで及び、魔導戦士たるセリスにとってそれは明確な圧力となる。
星の力――魔晄エネルギーを自身の力とし、人の限界を超えた兵士。故に彼らは
「行くぞ――」
先程までとは比較にならない速度でクラウドがセリスへと迫る。常勝将軍と謳われたガストラ帝国軍最高峰の戦士であるセリスですら、青いオーラの残像を残してクラウドの姿が消えたようにしか認識できない。
(前――いや、上!)
天高く飛び上り、大剣の質量を相手に叩きつけるクラウドの必殺技『ブレイバー』。だが、リミットブレイクにより底上げされた超人的な膂力により繰り出されるそれは、もはや別の技へと変化を遂げる。
ソニックブレイバー
避けた後のことなど考慮している余裕もなく、身を投げ出すように大剣の射程外へと回避したセリス。だが、限界速度を超えて振るわれた超質量の大剣は空気を切り裂きながら突風を巻き起こし、強引にセリスの身体を切り刻む。
「きゃぁあああっ!」
荒れ狂う風に弄ばれたセリスの身体は受け身を取るまもなく地面へと叩きつけられる。
(ま、マズイ――)
全身に刻まれた傷から血が滲み出し、立ち上がるのもやっと。目視が役に立つ相手ではないが、それでも霞み始める視界になんとかクラウドを捉える。
そこに映ったのは、頭を押さえながら苦しむクラウドの姿だった。
「ぐっ――こんな時まで…邪魔を…!」
クラウドが苦しむ理由はわからないが、九死に一生を得たセリス。このチャンスを逃せば、恐らく次の攻撃には耐えられない。残った魔力を全て注ぎ込み、『ケアル』で全身の傷を塞ぐ。消耗は相当だが、今出せる全力の力を使って最後の特攻。
「ちいっ!」
クラウドは頭を押さえたまま片手で強引に剣を振って地面を抉り土の礫をセリスに向けて弾き飛ばす。その妨害は今のセリスの足を止めるには十分すぎるものだった。
セリスにはこれ以上動くだけの余力はない。だが、追撃のための力が残っていないのはクラウドも同様だった。その気になればセリスを殺すことはできるが、ここは敵地。その後に撤退するするだけの余裕は残されてはいなかった。
「くっ――」
もはや動けぬ敵は無視し、クラウドは剣を引き摺りながらこの場をあとにする。
(助かった――)
結果だけを見ればお互い戦闘不能の引き分け。だが、その中身を見れば一方的に傷を受けたのはセリス。
常に勝利し続けてきた自身にとっての初の敗北、そして生命が残ったことに対して覚えてしまった安堵の気持ち。その悔しさに、セリスは涙をこらえながら歯噛みする。
お互い殺すわけにはいかないので苦い結果になってしまったクラウド対セリス。特にクラウドの剣はまともにヒットすれば体の部位が吹き飛ばないと不自然になってしまうせいで扱いが難しいですね…
元々は破晄撃をまふうけん(魔封剣)で吸収するという展開を入れる予定でしたが、それだとリミットブレイクを使うという展開にはならないと思い、セリスにはテレポート+ブリザドという新しいコンボを使ってもらうことにしました。
こちらもこちらで本当はもっとセリスがこのコンボで戦闘の主導権を握り続ける展開にするつもりだったのですが、リミットブレイクを使う理由を明確にしつつ、原作とは大いに事情が異なるクラウドが背負っているものを匂わせる事ができるのでは、とこの展開に落ち着きました。