氷漬けの幻獣がナルシェで発見されたという報告が上がり、城内に落ち着かない雰囲気が漂っている。ガストラ帝国の軍事力の要である「魔導」、その源は幻獣から抽出された魔力だ。
もし、その氷漬けの幻獣をガストラに持ち帰ることができれば、帝国の軍事力は更に強固なものとなる。しかし、そんな喜び方をするのは帝国の上層の人間だけだ。末端の兵士まで浮き立っているのは、幻獣捕獲の任務が原因だろう。
軍拡へと繋がる今回の任務は、ガストラ軍そのものに影響を与える極めて重要な任務だ。ここで功績を上げればかなりの報酬が期待できるし、出世だって夢ではない。
セリスは場内を歩きながら、いつもと違う兵士たちの様子を楽しんでいた。普段であれば、将軍である自分に対して畏れ敬うような兵士たちだが、セリスを前にしても今はもっと別の緊張に支配されているようだ。期待と不安、またあるものは絶望か。これだけの重要任務であれば、任される可能性がある者とそうではない者とが明確に別れる。そして、ここにいるものは全て自分がどちらに該当するかわからぬほど愚か者ではなかった。それ故に、軍内の勢力図を書き換え得る巨大イベントを前にその意識がはっきりと表情として抉り出される。
(帝国軍人とて、人の子か――)
自分も他人のことは言えないか、とセリスは苦笑する。周りの人間が動揺している様子を分析して楽しむなどあまりいい趣味だとは言えない。俗な愉悦だ。しかし、そんな愉しみが自分に残っていることを嬉しく思った。
将軍として幾多もの戦場へ出撃し、必要であれば敵国の人間を殺してきた。最初の方は殺した人数を数えていた。この世界で生き延びるには仕方のないことだとしても、自分の罪として背負っていくつもりだった。そうすることで人で有り続けようとした。
だが、気付けば止めていた。むしろ心が壊れてしまいそうだった。人で有り続ける――いや、また人に戻るためには、もう殺しをしなくてもよくなるその時まで心を無にして戦い続けなければならないと考えた。殺戮マシーンに成り果てたセリスは戦い、殺し、勝ち続け、先のマランダ攻略戦を指揮する頃には「常勝将軍」とまで呼ばれるようになっていた。もう何人殺したのか考える意識すら消え失せていた。
自分に対して無感情になりつつあったセリスだったが、先程の兵士達――同じく戦を生業とする者達の人間らしい様子に共感じみた感情を抱けたことで、閉ざしていた心がしっかり守られていたことに気づき、安堵した。
こういうエピソードって普通はキャラをもっと掘り下げてからやるものですよね。