セシルの強襲とクラウドの暴走。その騒ぎを聞きつけて集まってきたバロン兵達を掻い潜って逃げ出したロック達は、前もって決めておいたポイントで竜騎士達と合流する。
「アンタ達はこれからどうするんだ?」
「ひとまず竜騎士領に戻ります。今のバロンの状況ではそう簡単に手は出せないでしょう」
バロンの貴族の中でも、竜騎士の家は全てバロン城下町から森林地帯を挟んだ一帯に領地を持っており、バロンではそこを纏めて『竜騎士領』と呼んでいる。そのような場所に領地を持つ理由は単純で、飛竜の育成に広い土地が必要だからである。現在では飛竜を持たない家もそれなりの数あるが、それでも昔から持っている領地がなくなるわけでもなく、竜騎士領の面積はバロン城下町と比べてもかなり広いエリアとなっている。また昔からバロン市街から離れた地に竜騎士達が集まっていたこともあり、竜騎士領では他の貴族達とは異なった独自のコミュニティが形成されている。
「なるほど、そういうことならとりあえず大丈夫そうだな。じゃあ、俺はリターナーに戻るとするよ」
ロックはへへっ、と笑ってアーロン達に背中を向け軽く手を上げて、それを別れの挨拶とし歩き出す。
(早いことエドガーに報告……いや、それよりも先に……)
「くっ……!」
瓦礫を退けて立ち上がったセシルだが、すぐに膝をつく。
ミシディアでバッツにやられたダメージも癒えぬまま、アーロンを止めるべく飛空艇から飛び降り着地のために放った全力の『暗黒』。更にはクラウドと呼ばれた男の攻撃を打ち消すべくもう一度『暗黒』を使った上に、エネルギー弾を受けてしまった。アーロン達の前に立ちはだかった時点で既に立っているだけで精一杯の状態だったのだ。今こうやって一度立ち上がれたことすら奇跡に近い。
「セシル殿!」
セシルの元に駆け寄ってきたのは、陸兵団長グレア=ヴィーザル。瓦礫の上で膝を付いているセシルに肩を貸す。
「すまない。私がアーロンを逃したばかりに」
「いえ、グレア団長のせいではありませんよ。私がやられたのはアーロン殿じゃない。大剣の男です」
「大剣の?そうか…話は後で聞かせてもらうから、とりあえず今は喋るな」
「すみません。ありがとうございます」
「もう竜騎士達はいないみたいだな」
「そうだね――あそこに誰かいる!」
「アレは――ガストから来たっていう将軍サマじゃないか?」
セリスの元に若いバロン兵二人が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ…動く体力は残っていないが、なんとか無事だ…君達は?」
「失礼しました。私はバロン王国軍近衛兵団のラムザ=ベオルブです」
「私は、陸兵団のディリータ=ハイラルと申します」
近衛兵団の若い騎士、ラムザが名乗ったベオルブという家名はバロンの名門貴族の家名である。ベオルブ家はバロン王室直下の八軍団とは異なる独自の騎士団『北天騎士団』を擁する家門であり、その団長を歴代努めてきた正真正銘の武家である。北天騎士団の現団長はベオルブ家の次男――三男であるラムザにとっては兄である人物が努めており、ラムザは半ば出向のような形で近衛兵団に所属している。そのラムザと共にいるディリータはベオルブ領の領民なのだが、若くして両親が逝去した後ラムザの父の計らいによって妹と共にベオルブ家に引き取られたという特殊な立ち位置の人間である。
「申し訳ございません。バロンの内輪揉めに巻き込んでしまい……」
「いや、勝手に首を突っ込んだのは私だ。貴殿が謝ることではない」
深く頭を下げるラムザを、セリスが宥める。ラムザの謝罪は尤もでありそれだけで許されるようなことではないのだが、若い子が相手だとどうしても甘くなってしまう。
「私のことは構わなくていい。幸い傷はそう深くはない。直に自分で歩けるようになる。それよりも、他のお仲間の安否でも確かめに行ってくれ」
「しかし――」
「言わせないでくれ。一応ガストラの軍人だ。バロンの若い兵に手を借りたくないのだ」
「そういうことでしたら――失礼しました!」
ラムザはセリスの言葉に一瞬戸惑いを見せるが、直ぐに敬礼を返してその場を後にする。
(あんな若い子が――どこの国も同じだな――)
「ぐっ――」
ミッドガルのスラムの一画、廃材で建てられた小屋にてザックスは急激な胸の痛みに襲われる。
「はぁ、はぁ――今のは――」
原因はわかっている。自分の中に宿っている"細胞"が何かに反応したのだ。
「クラウド……?」
この胸の痛みにザックスは遠い地で戦っている、同じソルジャーの身体を持つトモダチを想起し心がざわつく。