ひたすらゲームとネット大喜利に勤しんでいたので、めちゃくちゃ更新止まってました。
「得物はどうする?やっぱり剣か?俺はもちろん無手だ」
マッシュは訓練場の壁に立掛けられている訓練用の木製武器を見ながらバッツに尋ねる。"やっぱり"と言うのは、バッツの腰に下げてある剣を見てのことだろう。マッシュは武器を使わない選択をしたということは、バッツの見立て通り武術家という線は合っていたようだ。
「いや、せっかくだし俺も無手で行こうかな」
バッツはファリスに声をかけて、腰の剣を鞘ごと外して放り投げる。
(なるほど、せっかく格闘使いと手合わせできる機会だ。モンクの力を試そうってわけか)
クリスタルの力を得たバッツ達は同時に古の戦士たちの記憶──技も同時に受け継いでいる。しかし、それは一つ一つの技の使い方程度のもので、戦いの中での立ち回りについては彼ら個々人の戦闘技術に依存している。つまり、バッツは本物の武術家との試合を通じてクリスタルから受け継いだ
だが、ファリスの予想は外れることになる。
「ほう、面白い構えだな」
体の正面を横に向ける、つまりマッシュに対して殆ど肩を向けるような姿勢で、腕をたたむようにして両手を顔の前に直列に並べる構え。これは、ファリスたちが受け継いたモンクの記憶には無いものである。
一方、マッシュにはバッツの構えに覚えがある。エブラーナの忍者やドマの侍が使う――刀剣のサブウェポンとしての格闘術における構えだった。剣を持っているバッツが選択する格闘術としてはふさわしいものに思えた。
「流石に徒手空拳だと俺のほうが有利だろ。いいぜ、いつでも来な」
「じゃあ、遠慮なく」
そう言い終えると同時に、バッツの身体が元の位置から一瞬で消える。
シーフアビリティ『ダッシュ』の高速移動ではない。バッツ自身の体術による歩法。忍者や侍が使う"縮地"と呼ばれる戦闘技術の1つである。この技術のキモは移動速度ではなく、予備動作の少なさである。上位の使い手を相手にしたものは、まるで全く動きのないまま敵が目の前に瞬間移動したと感じるであろう。そして、バッツの縮地もそれに近いレベルのものであった。
「──ッ!」
「はぁっ!」
マッシュの懐に潜り込んだバッツはその腹部に突きを叩き込む。
(硬ッ──)
マッシュはそれを力を込めた腹筋で受け止める。バッツは腕を曲げ、肘で腹筋を削り、その勢いのまま身体を折り畳んでマッシュの顎に目掛けて足刀を突き上げる。
マッシュの顔が弾けた──かに思えたが、バッツの足刀は両手に止められている。顔を仰け反らせたのは、押し込まれた手の甲で自分の顎が打たれるのを避けるためだった。
「打たされたか?」
「いや、反応できなかっただけだ」
両者元の間合いに戻って再び対峙する。
今度はマッシュが先に仕掛ける。
バッツとは異なる、膂力に任せた突撃。速度で言えばバロン最強の竜騎士カイン=ハイウインドには劣るが、格闘術由来の独特な動作がバッツの判断を鈍らせる。
古今東西の戦闘技術は対モンスターを想定して発生した流派が多いのだが、それらは戦争に用いられることもあれば、訓練自体は人同士で行う関係上、対人でより効果を発揮する技法も自然と発生している。その中でも格闘術は単なる戦闘技術というよりも、鍛錬法としての側面も強いため、剣術・槍術等の武器術に比べると対人の戦闘技術の比重が大きい。
軍人でも武術家でもないバッツは彼らと比較すれば、人間との戦闘経験は浅い。とは言え、バッツもあのカイン=ハイウインドやセシル=ハーヴィに匹敵する程の使い手。凡百の武術家では相手にならない実力の持ち主ではあるが、目の前の男──マッシュは並の武術家ではなかった。バッツが見せた僅かな反応の遅れは明確な隙となる。
バッツを間合いに捉えたマッシュは脇腹付近まで引いた左手を、腰の回転と同時に突き出す。コンパクトながら、体重の乗った威力の高い突きを繰り出す武術家らしい動き。
反応の遅れを自覚していたバッツはマッシュの突きを、視覚ではなく直感を頼りに回避する。マッシュの最短最速での攻撃に絞り、その予測地点から身体を逃がすことに全力を出す。マッシュの突進方向と直角に横跳び。それでも間合いに残る上体を強引に捻る。直後、バッツの胴体スレスレをマッシュの剛腕が突き抜ける。
(っぶね──)
まともに喰らえば一撃で勝敗が決する程の強烈な突き。バッツの背中に冷や汗が流れる。だが、ピンチはまだ終わっていない。
マッシュの突きの間合いとタイミングの読みは、反応の遅れを帳消しにする程完璧だった。しかし、マッシュの突き手の左右を読み間違えた。右手での突きを想定して左側──マッシュの側面、若しくは背後を取るように回避したのだが、実際に突きを繰り出したのは左手。つまり、今バッツは強引な回避による不安定な体勢でマッシュの真正面にいる。
突きか蹴りか、右か左か。如何様にも技を繰り出せるマッシュを前に、バッツは全身に力を込めて攻撃を耐えるしかない。
しかし、マッシュの動きが一瞬止まる。バッツにも戸惑いが走るが、身体は自然と反応する。脚を伸ばしマッシュに蹴りを入れる。威力のある蹴りではなく、マッシュの鋼の肉体には対してダメージを与えられないが、その反動でバッツの身体は床に倒れ込みながらマッシュから離れ、地面を手で押して身体を翻して十分にマッシュとの距離を作る。
(手加減されたか?いや、これだけの実力差だ。仕方ないか──)
マッシュの動きが鈍った原因は分からぬが、二度の打ち合いで彼我の力量差を明確に自覚した。
肉体強度も及ばず、格闘術の練度もマッシュが上手。はっきり言って、この勝負にバッツの勝ち目はほぼ存在しない。
たが、勝ち目がないのは試合の前より分かっていたことだ。それでも本職の格闘家相手に何かを掴もうと挑んだこの試合。こちらから投げ出すわけには行かない。
「どうする?まだやるか?」
「いやっ⋯⋯もう⋯限界かなぁ」
訓練場の床に大の字で倒れているバッツを前に、マッシュが構えを解く。
「あんまり良いところ見せらんなくて悪かったな⋯⋯」
「いやいや、十分だろ。結局、まともに捉えられたのは最後の一発だったし、それすらもガードはされちまったしな。大した体捌きだぜ。こりゃ剣使われてたら負けてたかもな」
軽快に笑いながら讃えるマッシュに、バッツが納得していない顔をしながらゆっくり身体を起こす。
「そういうアンタも本気じゃなかっただろ。途中のアレ。"闘気術"だろ?止めたの」
闘気術──闘気という生命エネルギー──魔道士たちが操る『魔法』の源である『魔力』と同一のもの──を戦闘に用いる格闘技術の一種である。
とはいえ、武術家に限らず武器を用いた近接戦闘を主体とする者にとっても魔力による肉体強化程度は初歩中の初歩の技術である。確かに武術家と呼ばれる者たちはその肉体強化の練度が高い──故に、肉体一つで武器を持った人間と渡り合えるのだが、闘気術はその枠を越えた技術である。
闘気をエネルギー波として撃ち出す技はもちろんのこと、高位の格闘家ともなれば炎や雷などを纏う者や闘気で作られた己の分身を作り出す者までいるという。
「そこまで見抜くか。やっぱりタダモンじゃねぇだろ、アンタ」
格闘術では自分に及ばなかったがまだ底を見せないバッツを気に入ったマッシュ。身体を起こしているバッツに手を差し伸べ、立ち上がるのを手助ける。
「終わりましたかな、マッシュ殿」
そこに、バッツ達の手合わせが始まって直ぐに姿を消したモンク総長のヤンが戻って来る。
「タイクーンの王女殿下が、まさかお忍びでファブールに観光に来たわけではありますまい。ご要件は?」
話の早いヤンに軽くお辞儀をしながらレナが前に出る。
「ありがとうございます。ヤン僧長」
レナは自分達がクリスタルに選ばれ、その力を得たクリスタルの戦士であること。クリスタルを狙う邪なる存在がいること。それに対抗すべく、ファブールの土のクリスタルとの接触を望んでいることを話す。
「タイクーンの姫君であられますから、クリスタル絡みの話だとは思っておりましたが──なるほど、承知しました。私からラモン王へ話を通しておきます故、明日の午後、改めてファブール城に来ていただけますかな?」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえ、急を要するのは理解しておりますが、これよりエブラーナの方々との会談がありましてな」
「エブラーナぁ!?!?!?」
エブラーナの名を聞いて、すぐさま反応を示したのはバッツ。先程の試合で疲弊していた人間と同一人物とは思えない大きな声で驚きを示す。
「ば、バッツ?エブラーナがどうしたの?」
「いや、マズい⋯エブラーナはマズい⋯」
不可解なリアクションに戸惑うレナをよそに、顔から血の気が引いていくバッツ。
ファブール編はヤンとマッシュの顔見せ&クリスタル巡り消化であっさり終わる予定でしたが、長らく更新を止めてた間に色々小ネタが浮かんできたのでそれを盛り込むことにしました。