タイクーンで再びレナと会ったバッツは城の医務室へと案内された。もちろん、今バッツの目の前でベッドに横たわっている謎の老人のためだ。
ちなみに、バッツ達よりもレナの方が先にタイクーンへと着いており、タイクーンに着くと直ぐにレナが出迎えてくれたお陰ですんなり城に入ることができた。ボコは随分と悔しそうにしていたが。
そんなボコは今タイクーンのチョコ房にいる。他のチョコボと仲良くやっているだろうか。
元々タイクーンに用事があったバッツにとって簡単に城に入れてもらえたのはありがたいが、肝心のタイクーン王が不在らしい。というわけで、特にやることもなくこうして老人の様子を見ている。
「にしても、起きねーな……」
回復薬に回復魔法にその他諸々と至れり尽くせりの処置を受けた老人は、顔色も戻り見た目はもはやただの昼寝をしているおじいちゃんだ。きっと気持ちよく夢でも見てるのだろう。
「すみません、バッツさん。任せてしまって…」
レナが少し息を切らせて医務室へと入ってくる。きっと隕石関係で色々とやっていたのだろう。王女様も大変だ。
「いや、いいよ。助けちまった以上、このまま死なれても後味悪いしな」
「ありがとうございます……」
レナは深く頭を下げる。王族というのはもっと偉そうというか、堂々としているものだと思っていたが、レナのような気立てのいいお嬢さんもいるのだな。よくよく考えれば王家の人間とこうやって話すのは当たり前だが初めてだ。もしかして、自分は随分と無礼な態度を取っているのではないか、とバッツは今更不安になる。
「あら、私だってお礼くらいは言えますよ?」
余程、変な顔をしていたのだろう、今まで慌ただしくてか余裕がなかったレナの表情が年相応の女の子らしい笑顔に変わる。何だか調子が狂う。相手がお姫様だからか。
「あ、いや……えっと、その……でございます」
「ふふっ、面白い方ですね。別にさっきまでと同じで大丈夫ですよ。バッツさんには、色々と助けていただきましたから」
今になってレナ相手に萎縮しているバッツは自分を情けなく思う。なんともないつもりだったが、タイクーンの森ではあの異常事態に気が昂ぶっていたのだろうか。
「そう言ってくれるなら……」
「はい♪」
このお姫様、明らかに楽しんでないか?急に様子が変わったレナを見ると、バッツは少しだけ冷静さを取り戻すことができた。本来はこういう女性なのだろう。
「ところで、タイクーン王はいつ頃戻ってくるんだ?」
「そうですね…流石に、明日には戻ってくると思いますけど…」
「そっか。ありがとう」
「すみません、わざわざ来ていただいたのに…」
せっかく明るくて可愛い女の子に戻ったレナがまたも思い詰めた表情をしてしまったが、元々の要件だから仕方がない。ということにしたい。
「いや、王様が忙しいのはわかってたし、元々タイクーンには何日か滞在するつもりだったから」
嘘ではないので、せめてレナをフォローする。どうせなら女の子には笑顔でいてほしい。
「ふふっ、そう言ってくださると助かります。ところで、父にどういったご用件で?」
当然の疑問だ、とバッツは思った。こんなどこぞの者とも知れない旅人がそう易々と一国の王に面会できるとはバッツも思っていない。
「王様に渡さなきゃいけない手紙があるんだ」
と、バッツは今回の要件である父の手紙を取り出す。父親が死んだのは三年も前だ。手紙は袋の中で他の物に揉まれてくしゃくしゃになっている。
「手紙、ですか。バッツさんのじゃないですよね?」
「ああ、俺の親父のだ」
「バッツさんのお父様は私の父とお知り合いなのですか?」
「俺も詳しくはわからないんだけど、多分そうだと思う。ドルガン=クラウザーからだと言えばわかるはずだって親父が……」
バッツも父の言い分はよくわからなかったが、どうやらレナには心当たりがあるらしく――
「ドルガン……クラウザー……」
俯き気味に、バッツから聞いたバッツの父親の名前を組み立てるように呟く。そして、直ぐに目を丸くしてバッツを見る。
「もしかして、バッツさんはドルガン様のご子息で……?」
「なんだ、親父を知ってるのか!?」
王様に知られているというなんとも怪しい父親の話だったが、その娘に名を知られているとは流石に驚きだった。もしかして、自分の父親は意外と立派な身分の人間だったのだろうか。
悪を見張るために旅をしている、と父は言っていたが、それもタイクーン王の勅命を受けての事かもしれない。バッツは、いまいち素性の知れなかった父の真実に急激に迫ったような気がして脈が加速する。
「はい、直接お会いしたことはありませんが……父から話を――バッツさんはクリスタルの事をドルガン様から聞いてはいないのですか?」
追い打ち。クリスタル。草原で見た夢。風の異変。謎の隕石。全てに父が関わっているのか。記憶に触れられたような嫌な感覚。父から聞いていたのかもしれない、クリスタルに関する話を。
「クリスタル…そうか、親父が…」
バッツは頭の中で急速にパズルが組み上がっていくような感覚に襲われる。乾いた口内を唾液で潤して飲み込む。
「バッツさん?」
「ああ、悪い――」
レナに呼びかけられてバッツは我に返る。
「いや、はっきりとは覚えてないんだが、俺は今回の風の異変とクリスタルを無意識に結びつけた――というか、夢を見たんだ、クリスタルの夢を。そしたらあの隕石に叩き起こされて、それで風も止まっていた。俺は、親父からクリスタルについて何か聞いてたのかもしれない」
バッツの言葉を聞いたレナは神妙な面持ちをした後、瞳に決意を宿らせる。
「そうですか……では、バッツさんにお願いがあります。私と共に風の神殿に来てくださいませんか?」
「風の神殿…?」
ガツンと頭を殴られたような衝撃。聞かずともわかる。そこにクリスタルがあるのだ。バッツは掻き乱された意識を必死に固め直す。
「ええ、父は風の異変を感じ取りそこへ向かいました。何事もなければよいのですが、とてもそうは思えなくて……」
「わかったよ。ちょっとまだ混乱してるけど、親父が関係あるかもしれないなら、俺も連れて行ってほしい」
「ありがとうございます、バッツさん」
「じゃあ、出発は明日かな。もし何もなければタイクーン王も戻ってくるだろうし、何かあったんなら万全の状態で臨みたい。それに、じーさんが目覚めれば何か聞けるかもしれないしな」
「はい、そうですね…!」
今すぐにでも父のもとへ向かいたいであろうレナの気持ちは察することができるが、そんな緊急事態だからこそ下手に慌てるわけにもいかない。レナも同じ考えだったようで、表情に迷いはあるがバッツの意見に同意する。
「では、客室を用意しますので、ここで待っててください」
「悪い…助かるよ」
程なくして城の召使いがバッツを迎えに来る。ベッドに寝ている老人を一瞥して、バッツは召使いの後についていく。
医務室のすぐ近くにある客室に案内される。流石は王城の一室、備品こそ最低限だがそこらの宿とは質が段違いだ。召使いが部屋を後にするやいなや、バッツはすぐさまベッドに飛び込む。
(すげぇ、柔らかい!)
まるで雲にでも包まれたかのような感覚――話によると雲は水滴の一団らしいので実際は違うのだろうが――にバッツの意識はすぐに微睡みの中に沈んでいく。
(色々あったな…)
バッツは今日の出来事を振り返りながら眠りに落ちていった。
気持ちの良い目覚めだった。さすがは王城のベッド、ここまで睡眠の質が変わるものか、と一瞬だけ旅をやめたくなってしまった。すぐにそんな考えを振り払って、風呂に入らずに寝てしまったことを思い出して軽く風呂に入ることにする。
入浴を終え、いつもの旅装束に着替えたバッツはとりあえず医務室へ向かう。そのほんの僅かの道中、城の様子が昨日とは違うようにバッツには感じられた。隕石の情報が城中に行き渡って緊張感が増したのだろうか。自分が気にしても仕方のないことか、とバッツは医務室へ入ると、なんと老人が目を覚ましていた。
「じーさん!目が覚めたのか」
「ここは…?」
喜んでいるバッツとは対照的に困惑している様子の老人。無理もない、目が覚めたと思ったら城の医務室にいるのだから。
「隕石の中でじーさんが倒れてたからここまで運んできたんだよ」
「隕石…?」
どうやら、老人には心当たりがないらしい。隕石の中にいたのは自分の意思ではないのではないのだろうか。しかし、そういう問題ではないことがすぐに発覚する。
「ありゃ…どうしたんじゃ…?思い出せん…何も思い出せんぞ…!」
まさか、記憶喪失。頭から血を流していたということは、落下の衝撃で頭部をぶつけたショックが原因か。
「大丈夫かじーさん!」
「そうじゃ…ガラフ!わしの名前はガラフじゃ!」
よかった、名前は覚えているみたいだ。なら他には、とバッツの目に期待が宿るが、そんなバッツには目もくれずガラフはうーんと考え込んで――
「だめじゃ…名前以外は何も思い出せん…」
「そうか……」
「あら、目を覚ましたんですね!」
ガラフの記憶喪失が思った以上で肩を落としていると、レナが医務室へやってくる。次から次に見知らぬ人物が現れて、ガラフは困惑しているようだ。
「どうも、このじーさん。記憶喪失らしい。名前以外は思い出せないとさ」
「あら、そうでしたか…」
「すまんのォ」
「いや、じーさんが目を覚ましてくれただけで十分さ」
そうだ、いつの間にか重要参考人として期待してしまっていたが、元々はこの老人が心配で助けたのだった。今、一番混乱しているのはこの老人だろう。バッツは、焦る気持ちからガラフを困らせてしまったのを反省する。
「邪魔するぞ」
医務室を満たす気まずい空気を破ったのは二人の男だった。その特徴的な格好――竜を模した鎧と禍々しい雰囲気を放つ暗黒の鎧――から二人が竜騎士と暗黒騎士だということはバッツにもすぐにわかった。
「あらカイン兄様」
「兄様…?」
レナが兄様と呼ぶということはこの竜騎士はタイクーンの王子ということだろうか。ならば、その後ろにいる暗黒騎士はお付きの騎士だろうか。
「フッ、レナは従妹だ。そもそも俺はタイクーンの人間ではない。バロンの竜騎士だ」
表情に出ていたのだろうか。バッツの疑問を察したらしい竜騎士は自らの身分を明かす。バロン王国のカイン=ハイウインド――聞いたことがある。なんでも、最年少で最強と謳われたバロン王国竜騎士団の団長となった天才竜騎士。ということは、もしかして暗黒騎士の方は「赤い翼」のセシル=ハーヴィか。
「ごめんね、急に押しかけて。驚かせちゃったかな。僕はバロン王国飛空艇団隊長のセシル=ハーヴィ。こっちは竜騎士団隊長のカインだ。よろしく」
やはりか、さっきはお付きの騎士だなんて思ってごめんな、と心の中で謝りながらバッツは差し出されたセシルの手を握る。
「俺はバッツ=クラウザー。なんだ、その…ただの旅人だ」
別に自分が旅人であることに負い目を感じているわけではないが、さすがにコレだけの面子に囲まれれば誰だって気圧されるものだ。
「レナ様から話は聞いてるよ。なんでも腕が立つらしいね。風の神殿には僕達も同行することになった。当てにしてるよ」
「ああ、任せてくれ!」
あのセシル=ハーヴィから期待されれば気合も入る。何よりも軍事国家バロンの二大エースが味方になってくれる。こんなに頼もしいことはない。
「風の神殿…?」
カイン達の乱入から沈黙を守っていたガラフが反応を示す。
「お主ら、風の神殿に行くのか…」
「ガラフさん!何か思い出したのか!?」
この時、遅れてやってきた3人はバッツの発言から初めてガラフの名を知る。知らない名前だったのか、誰もこれと言った反応は示さない。
「いや、はっきりとは思い出せんが…わしはそこに行かなければならない、気がする…!」
失われた記憶を絞り出すような声をガラフは漏らす。見かねてか、カインが口を開く。
「ならば、そのご老人も連れて行こうか」
カインの提案にセシル以外の三人が驚く。目を覚ましたばかりで、しかも老人だぞ。
「いや、大丈夫なんじゃないかな。その人――ガラフさんでしたっけ?相当腕が立つ人だと思うよ。本人は覚えてないかもしれないけど」
二人の騎士の発言を受けて改めてガラフの身体を見る。確かに、ただの老人とは思えない体つきだ。バッツも観察眼にはそれなりの自信があったが、あのときは余裕がなく、バその身体を抱きかかえたにも関わらず気づけなかった。だが、さすがは軍事大国の騎士様だ、普段からそういう目で人を見る癖がついているのだろう。
「うむ、そう言われればそんな気がしてきたぞ…!わしも風の神殿に連れて行ってくれ!」
本当か、とバッツは怪訝な表情を見せるが、バロンの騎士が言うのならきっと大丈夫だろうし、もしコレがきっかけでガラフの記憶が蘇れば立て続けに起こった異変についても何かわかるかもしれない。
「でも、どうやって行きましょうか。風の神殿は森に囲まれていて、お二人が乗ってきた飛空艇では神殿の近くまでは行けません。飛竜ならば可能ですが、アベルは昨日の隕石で怪我をしてしまって…」
そうだ、目的地に向う方法までは考えていなかった。今日のレナが落ち着かない様子だったのは、あてにしていた飛竜が怪我をしていたことがわかったからなのだろう。レナの言い分からは陸路だけでは向うことができないようだ。絶望的だな、とバッツが焦っていると特に調子を変えずにセシルが言葉を発する。
「そういえば、タイクーンに来る途中、動いている船を見ましたよ。見た目は帆船だったけど、風とは違う動力を積んでいたと思われます。あれを借りられたら風の神殿まで行けるのではないかと。神殿の近くだったから、トゥールの村の辺りですね」
「本当ですか?だとしたら、おそらく海賊団の船かと思います。では、ひとまずトゥールの村まで飛空艇で向かいましょうか。お願いできますか?」
「無論、そのつもりでタイクーンに来たのですから」
「そうと決まれば、出発だな。ガラフさんも大丈夫か?」
「うむ、随分眠っていたようじゃからの。元気モリモリじゃ!」
斯くして、急遽編成された五人の風の神殿調査団の出撃が決まった。
原作と違って飛空艇も飛竜もあるなら直接風の神殿に向うよな、ということでこんな形に。流石にレナが歩いて風の神殿に行くのは無理だよね…ということで出したタイクーン二体目の飛竜だったんですけど、かえって展開を悩ませることに。6,7組はどうやって合流させようか思案中です。