「おいおいケツの青いガキ共、俺の女にちょっかい出す覚悟はできているんだろうな?」
フィンやディルムッドに槍の
ケツどころか全身が青い私の夫がやってきた。
民族的な意味で大先輩で大英雄な夫に戦々恐々としている私の教え子たち。
随分と怯えているようだ。
「いや、待って欲しい。人妻に手を出すのはディルムッドの領分であって、
私は寧ろ奪われる側なんだ。只の善良なイケメンさ」
「我が王ッ!?」
相も変わらず笑えない冗談が好きなフィンは、この状況を悪化させるだけのジョークを放ってくれた。
本心から言っているわけではないのは部下も判っているだろうが、まあ、彼らの境遇を考えるに笑えないな。
「ほう、そうか。生前の反省をもとに成長が無いのもサーヴァントらしいと言えばらしいな。
で? どうするんだ? 槍試合ってのも悪くないが…」
ヘタレにしては女冥利に尽きる事を言ってくれる。概ね、あの糸目辺りが背中を押したのだろうが。
また、視界の向こうにある壁の向こうで、夫が私を自分の女と呼んだのを聞いていた姉が壁を叩き壊しているのも小気味良い。
だが、散々待たされたのだ。少しくらい嫌がらせをしても構わないだろう?
…決してどこかの姉の様に拗らせているわけでもない。
「今更出てきて夫面か。偉くなったものだな」
「う…。そりゃあそうだろうが、気まずいだろうが」
誰よりも勇敢で英雄の中の英雄である夫が、私の前ででは少々幼げな情けなさを見せる様子は、
何と言うか子宮に響くものがある。
いや、私は自分は良い年だからと、自分の懸想する相手に自分の娘を宛がいながら、
娘に嫉妬するどこかの姉の様に拗らせてはいないのだが。
「気まずさで、放って置かれる妻の立場は考慮した事があるか?」
「そりゃあ…悪かったと思ってる」
目線を逸らしながらそう答える夫。
その後ろを歩いていたアーサー王も何故か下を俯いているが、今は其処に構ってはいられない。
「悪かったと思うのなら、今度は私の製作した戦衣装を着て貰おう」
「ちょっ!? おま―――」
別に冗談で無い訳でもないが、私の製作する衣装がそんなに恥ずかしいのだろうか?
いい年して母に服を用意して貰うのではなく、自分の妻が用意するというのなら恥ずかしくは無いと思うのだが。
まあ、いいか。
夫も少しほぐれた様だが、また何か言い辛そうに口を開いた。
「それと……アイツの事は―――」
「お前が其れを言う事は許さん。それこそ真っ直ぐ進む誓いを立てた息子が浮かばれない」
「……ったくイイ女だなオマエって」
「それを一番良く知ってくれていたと思っていたが、そうでなかったのなら残念だとしか言えないな」
そして私の頬に手を添えて顔を近づける夫。
二人は幸せなキスをして終了―――――――となる前に私達の顔が合った辺りに槍が飛んできた。
いや、翔んできた。
矢除けの加護や気合と運などで何とか躱したが、その首謀者は更に槍をもう一本投げようとしていた。
「年甲斐も無くイチャつきおってっ…」
年甲斐も無く
そこまでの情熱があるのなら、何故素直になれなかったのか解らないが、
素直になれずに拗らせに拗らせた姉の様子を見るのは、何と言うか愉悦としか呼べない。
素直に生きて拗らせる事も無い私を見習った方が良いが、姉には到底それは出来まい。
そんな学習能力も無くプライドだけが成長している姉は、私を庇うように立つ夫の姿を見てどんな気持ちだろうか?
ねえ、どんな気持ち?
ひたすらそう連呼してやりたい。
姉はアレでいろいろ隠しているつもりなのだろうが、私にはバレバレだ。
夫が気が付いたかどうかは解らないが、解っていた所で私の前でそれを現す事は出来ないだろうから詰みだ。
そう言えば英雄としての素質はあるのに息子は一向にこのカルデアには現れない。
まさか私に逢いたくないという事は無いだろうが、私としては早く会いたい。
夫の母は、亡くなった子供を産み直したという。
もし聖杯の力などで私と夫の受肉が叶うのなら、その手段で息子を呼び出せない事も無いはずだ。
赤子から育て上げるのも良いし、成長したままの姿で私の身体を突き破って生まれてきても、
私的には、それはそれで構わない。その程度の苦痛で息子との再会を諦める程でもないし、
そもそも
その程度で死んでいたら姉は殺せないからな。
魔法戦士的にも、極太い触手に腸を貫かれた程度で死んでいては勤めは果たせない。
良く生まれて、良く生きて、良く死ぬ。
一般的な人間の幸福の最後の部分が、少々他の人間達より難易度が高いだけだ。
まあ、何はともあれ夫の背中を押してくれたフェルグスに感謝をしつつ、
姉を小馬鹿にしつつ殺し合い、息子との再会を待つこの生活を今しばらく楽しむとしよう。
因みに夫の衣装は某魔法戦士シリーズの悪役の衣装。
ケ○ト男子的にはセンスの無さすぎる服な模様。