後、一番最後にものすごいネタバレがあります。
私の妹は完璧に近い。
何故完璧に近いかと言えば、私と同じ起原をたどる存在だからだ。
そして何故完璧ではないかと言えば、既に更なる完璧がいるからである。
最強かつ最美の女戦士が既にいるからな。 それは誰かなど問うのも野暮だろうから敢えては言わぬが。
…私の謙虚さは留まる事を知らないからな、美しい沈黙と言うのも私らしくて良い。
疑問や文句があるものはいるのか? 無い訳では無い?
……んーそうか、そうかんー、死ぬか。ここで死ぬな?
私の妹は私には及ばないが、ありとあらゆる分野、一部服の好みを除いては私に肉薄する所にある。
私がいなければ衣服を除けば全てが最高位にある。
戦い方は即効性のあるルーンよりも、土着のオガム文字を使った事前に周到に構えた戦略を好むが、
所詮私にはあと少しで届かない。
それは妹のいまいち燃え切らないというか、競い合える宿敵との戦いに燃え尽きようという執念が足りて無いのが理由だと思っている。
こんなことは妹には言いたくないが、本来私たち二人の性能は互角だと思っている。
だが、妹が私と並ぶためには一つ欠けているものがある。
スペックを最大限に引き出すための理由だ。
勝てるかどうかはそれ次第だ。
だが、妹は戦士の勇名としても、戦士の師の評判としても私には届かない。
それでも死すら逃げ出す存在となった私を殺し得るのは妹を置いてはいないだろう。
劣化版の私に過ぎないだろうが、それでもそれくらいしか候補が無い。
私は何処かで妹を蔑んでいる所もあったが、それ以上にそれ以外の有象無象に期待が出来なかった。
それも、ある一人の男の出現で全ての価値観を変えられた。
猛犬の様に滾る血を流し、忠犬の様に知性に溢れた英雄の候補生。
――正直に言えば、その男に私は戦士としてでなく男としても惚れ込んでいた。
成長速度こそ凄まじいが、当時未完成な彼を殺したくは無いと思ってしまった。
故に戦いから遠ざけた。
一国の女王である妹との戦争という名の、戦士の品評会という場から。
だが、その時には妹は何時も以上に奮戦していた。
私に匹敵する戦いを繰り広げた。
これが妹の本気の一端だと理解できた。私を本格的に殺しに来てくれたのだ。
私は歓喜した。これでこそ私の妹だ、と。
私は後悔した。何故、今になってなのだ、と。
生き永らえる理由を見つけたと思った時になって、私を殺しに来た妹は、
私に嫉妬したのだろうか? それとも死を望む死の国の女王が不憫になったのだろうか?
まあ、後者に関しては自惚れかも知れないから、良い男になった弟子を抱えた私に嫉妬した事にしておこう。
だが、まさかの私が劣勢になってしまった所で彼は来た。
私が僅かにも生き延びたいと願った理由、私が戦士らしい死を与える事を拒んだ弟子、
そして私が恋した男。神の血を流す一騎当千の猛犬が。
正直、この時、今ならこの弟子の子を生んでもいいと思った。
私の女の部分が全面的に渇望を隠さなくなった。
―――――――――だが、私をあっさりと助けた弟子はよりによって妹に求婚した。
何故だっ!? スタイルだって負けてないし、私の方が死ぬほどハードな修行だってつけてやれる。
アイツが勝っているのは貞淑さと衣服の修繕と読書量と料理くらいじゃないか。
それともあれか? あのセンスの欠片も無い年を弁えない衣服がツボに入ったのか?
もはや言葉すら満足に出なくなった私に対し、同じように呆然とした後、
一転して勝ち誇った顔をした妹をぶち殺そうと思ったが、それを弟子が庇いおった。
その後、私に勝つ為だけに弟子の妻として過ごしていたというのなら、それを理由に戦争を仕掛けても良いと思ったが、
聞こえてくるのは子煩悩になった妹の話ばかり。
余りにもその息子の話しか聞こえてこなくなった上に、戦士として腑抜けてしまったようだったので、
私はその様子を見に行くことにした。そしてその原因となった息子の事も。
その息子は弟子に似ていた。弟子を幼くしたらこのような姿だろうか?
想像以上に良くて思わず涎が出てしまった。
息子は誰に似たのか、…少なくとも妹には似ていないのだろうがとても素直で、
彼の母が自身に課した誓約を私に話してくれた。
私はその制約の内容を知ると、昏い考えが浮かんできた。
今になって思えば女の嫉妬めいた情念の類だった。
私は妹の息子を手元に置く為、そしてその息子を使って彼の父親の気を惹く為に一計を案じ、
妹の誓約をも利用して息子を私の弟子とすることにした。
妹の息子は流石に良い血筋を持つだけはあり、両親譲りの凄まじい才能の塊であった。
そして学ぶ姿勢にどん欲で素直な理想的な弟子であったと言える。
だが、私は何処かでその理想的な弟子を通じて、理想的ではないが最も求めた弟子を見ていた。
そしてそれが抑えきれなくなって、かつて思考の片隅に浮かんだ計画を実行した。
妹の息子には、彼の父親が母親に託した教育方針を利用して3つの誓約を課した。
本来は弟子が息子に与えて置く様にと言った誓約を、
とにかく息子の自主方針に任せるという誓約を自身に課した妹は与えていなかった為だ。
だから私が与えた。弟子の為に、そして私自身の計画の為に。
1つ目は『真っ直ぐ進む事』
これは普段から彼が母親から、真っ直ぐに生きて欲しいと言われていた事もあり、直ぐに誓約を実行した。
どうやら夫から頼まれた事を自分なりの解釈で教育は施して、その上で誓約を結ぶかどうかは本人の意思に任せようとしていたようだった。
2つ目の『いかなる挑戦にも応えなければばならない』という誓約も、日頃からやりたい事には戸惑わず挑戦する事。
自分がやりたくないことは他者もやりたくなく、自分がやりたいことは他者もそう望むだろうと思いやりの気持ちを忘れない事と、
教育されていた事で上手く進んだ。
また、そう在る方が戦士らしく、彼の父親にもそういう所があったと話すと喜んで決めていた。
そして3つ目の誓約。
『誰にも名乗ってはならない』
これは他の2つほど直接的に言われてはいなかったようだった。
だが、自分の持ち得る事になる勇名に奢らずに、常に謙虚な挑戦者の様にあれとは言っていた妹の言葉を利用して、
言葉巧みに誘導して誓約させた。誰に似たのか素直さの塊であり、誘導には苦労しなかった。
かくして、妹の息子は正体が不明な武芸者として、彼の父親と戦う事になり、
そして――――――その果てに死んだ。
私はそこでとんでもない事をしたのだと思った。
それでも、心のどこかで、これで妹と弟子との楔が抜き放たれた事。これで私に介入する余地が出来た事。
そして、妹がかつて一度見せた時のように本気で私を殺しに来ることに何処かで悦んでいた。
自分が性根の腐り切った冥府の魔物のようだった。
妹に、彼女の息子の死を告げると怒るのでも哭くのでもなく、
時が止まったように固まってしまった。
それ程の事だったのだ。
私達の民族性からいって、誇りの上に戦死するならそれも良い。
戦士の母親は誰もがそういうものだと思っていた。事実妹もそう言ってはいたが、
私は忘れていた。
―――――かつて私自身が何故、弟子を戦場から遠ざけようとしていたのか、という事を。
母親たちの強がりがその言葉に一遍も含まれておらず、心から子の華やかな死を願っていたと本気で考えていた?
そんなはずはない。私でさえ何処か解ってはいたはずだ。いや…、解っていなかったかもしれない。
結果がこれなのだから。
罪滅ぼしに、妹の息子を蘇らせようとしたら、
妹が息子と共に決めた一つの誓約がそれを阻んだ。
その誓約は、『息子が決めた道に口を出さない事』。
息子が戦士として己が父と競い合えた事に後悔していなかった事が、最後の最後で私たちの共同魔術を否定した。
最初で最後の姉妹の共同魔術は実を結ぶ事無く、私の後悔を浮き彫りにするだけだった。
そして、妹は今準備をしている。
かつてない程の本気で、全力で私を殺しに来てくれている。
それは息子の為と言う建前で、私を永遠から解放してくれようとしているのではないか?
何処かそう考えてしまったが、それはきっと私の自惚れなのだろう。余りにも烏滸がましい。
だが、この空虚を埋めてくれるのは、彼か妹をおいてはいないのだろう。
浅ましくも戦士としての情動が込み上げてくる。情けない程に節操が無い。
だが、それでも応えねばならぬだろう。
手は抜かない。逆に妹を息子の元に送る気概で立ち向かわなくては失礼と言うものだ。
そう考えながら私は槍を握った。
そして私には何時もの様なセンスの無いデザインでありながら、
幾多もの魔術文字を刻印した戦装束に身を包み、肩口に愛する息子の名前を彫った妹に正対する。
「今日こそ死を与えてやる――――――――――――スカサハッ!!!!!」
「やれるものならやってみるが良い――――――――オイフェッ!!!!!」
お姉さんって実はスカサハ師匠だったんですよ。
普通気が付かないって。ホントたまげたなー()