小さな町の中心で俺は大きな椅子に座りながら話をしていた。辺りは暗く、何か所かに設置された松明が辺りをぼんやりと照らしている。
辺りにはこの町にいる大半の人間が詰めかけて、俺の話に耳を傾けている。決して子供たちだけではない。老若男女問わずに誰もがこの集会場に集まっている。
けれども決して俺が話し上手なわけではない。俺の話はなんてことのない童謡だ。
果物から生まれた青年が3匹の動物を仲間にして化け物を倒す話。竹から生まれたお姫様が月に帰る話。勇敢な小人が鬼からお姫様を救い出し、なんでも願いを叶えてくれる宝物を手に入れる話。
きっと現代でならば誰もが聞いたことのあるつまらない話だ。
じゃあ何故こんなことになっているのか。
それは俺が今いる時代は古代も古代。恐らくは人類史に残っていないほどの過去にいるからだ。
☆
何故俺がこの様な事態に巻き込まれたのかは分からない。気が付けばとしか言いようがないからだ。
それにこの時代は過酷であった。その日その日を暮らすだけで精一杯である。何かを調べるような余裕など無かったのだ。
そしてそんな時代において、自分は現代知識を活用することなど出来なかった。根っからの文系であったし、たまたま昔テレビなどで見たことがある知識はこれからずっと先の中世や江戸時代の技術で参考にもならなかった。ゆえに俺はただこの時代を生きることしかできなかったのだ。
けれど俺はこの時代にしてはいい暮らしをすることができた方であろう。
それは昼は計算、読み書きが出来る文官として、夜になれば吟遊詩人として毎晩話をしているためだ。この集落はここいら一帯を治める村であるために少しばかり裕福で、そして俺はその中でも希少な技能を持った人材であった。小学生レベルの知識でもこの時代なら限られた知識なのだ。
こうして俺はこの時代で36年もの月日を過ごした。日本であれば働き盛りだが、この時代ではこれでも十分に長生きだ。
体力も衰えてきているし、もう長くはないのを感じている。まあ後継者も育てたし、俺がなすべきことは終えた。
後は村長から頼まれた依頼を終えるだけだった。
頼まれたのは俺が今まで語り明かした物語の編集。毎日のように皆に語って見せたそれを、これからも継いでいきたいということらしかった。
聞いたときは思わず涙が出てしまった。二十数年の間色々と物語を紡いできたが、どうやらそれはみんなの心に響いたようだった。
なので俺はこの一年、知っている物語をひたすら粘土板に記録した。そうして自身が知っている有名所は既に書き終わっているのだが、まだ自分の天命は尽きないようであった。
何かないものかと頭をひねっているとふと思いついた。
現代における圧倒的な小説の量を誇るweb小説サイト。
"小説家になろう"の作品を書いていこうと思ったのだ。
現代ではそのテンプレばかりのストーリーで評価は高くないが、この時代にあった話も似たようなレベルなので対して問題はないだろう。まあ流石に詳細なことまでは覚えていないし、展開も似たり寄ったりなので一つの物語にまとめてしまうのがいいだろう。
こうして俺はマサツグという主人公が様々な問題を解決していく話、「ナロウ・チート物語」を書き始めたのだった。
☆
暗い自室の一室で時臣は必死に笑いをこらえていた。聖杯戦争の管理者と結託し、そして最強のサーヴァントの触媒を用意することまで出来たのだ。
正に勝ったも同然である。時臣は大量の金を放出してまで手に入れた触媒を撫でる。
「ナロウ・チート物語」の粘土板の欠片。
これはこの世で最古の物語である。紀元前2600年頃のギルガメシュ叙事詩よりもなお古い紀元前4000年頃であり、既存の物語の中では圧倒的に長い歴史を持つ物語なのだ。
もはや神代と言っても過言ではない時代であり、召喚されるサーヴァントも最強クラスなのは間違いない。
そうして、その上でこの物語の主人公であるマサ・ツァグは万能の天才とされ、サーヴァントとしても優秀なのは間違いない。
まずナロウ・チート物語の多くは怪異やモンスター退治の逸話が占め、物語の中でも剣や槍、弓矢など様々な武器も十全に使いこなす様が描かれており、マサ・ツァグは非常に優秀な戦士とされている。
これだけでも遥か古代、歴史最古の物語であることを考えれば十分すぎるほどだ。かのヘラクレスにも追随できるかもしれない。
そして、三百人で五万もの魔物を包囲し殲滅したなど優れた軍略家としての一面も併せ持つ他に、神にも愛され、あらゆる属性の魔術を習得した上で人の何十倍もの魔力を保有できる加護を得た優れた魔術師とも伝えられている。
武術、戦略、魔術ともに高水準。圧倒的な性能である。
またサーヴァントの強さとは直接関係はないかもしれないが、掛け算や割り算の概念や金属が熱によって融解することを把握していたりするなど発明家、知識人としての才能も高い。
特に青銅器が広まるのはおおよそナロウ・チート物語の400~500年後であり、マサ・ツァグは初めて金属を手にした人類とも言われている。
死因についても老衰であるとされ、ジークフリートやアキレウスの様な弱点も有していない。まさしく最強、最優にふさわしいサーヴァントである。召喚に成功すれば負けることはありえないだろう。
少々触媒を手に入れるのには苦労したが、しかしそれに見合う成果は得られたはずだ。
時臣はワインを口に含む。もはや勝った気でいる彼にとって勝利の美酒である。いつもと変わらない味のはずだが、時臣には芳香な味わいに感じられた。
「この聖杯戦争……。私の勝ちだ」
肉の片面焼きに関してはさすがにどうしようもなかった……。
読み返して気付いたけど、ナロウ・チート物語以外は途中で遺失して後世には伝わってないのを描写するの忘れてた。