夜の倉庫街に音が響く。常なら静かであるにも関わらず、今日に限ってここは魔術師の戦場。剣劇の音に染められていた。
しかし、それは割り込んできた一人の大男、征服王によって止められる。
緊張感高まるさなか、征服王はあっさりと自身の真名を晒した。
そうした彼のいっそ馬鹿とさえ言える行動にその場は呆れ返り、マスターであるウェイバーは傍から見ても哀れな程に混乱していたが、征服王は気にすることもない。その上セイバーとランサー、二人にあっさりと勧誘をかけた挙句振られたくせに彼は微塵も気を落としもせずに、自分のペースで奔放に行動する。
たった数分で場の空気を自身の色で染め上げたイスカンダルは空を、何かを見上げるようにして大声を張り上げる。
「まだ、余のほかにこの場を盗み見ている物がいるであろう!これ程の闘争を見て、なおもこの場に姿を見せぬ臆病者は征服王イスカンダルの侮辱を免れぬものと知れ!」
それは王の怒号であった。戦いに生きたものであるならば、先ほどの試合を見て闘争心を刺激されない者はいない。
そして賞賛もせずにただ隠れ見るのみであるならば、そいつは戦いに生きるものとイスカンダルは決して認めない。
けれど、イスカンダルの声に反応するものはいなかった。倉庫街は静まり返り、何の物音も立てないまま時が過ぎる。
しばらくしてイスカンダルが顔をしかめて言葉を発しようとした時、少し離れたところに二人の人間が降り立った。
「なんだ、臆病者ばかりかと思ったがそうでもないらしいな」
イスカンダルは新しくやってきた二人に振り返りながら話しかける。
新たにやって来た二人を見ながら、イスカンダルは内心驚きの声を上げる。
まず圧倒的な存在感を放つ黒髪黒目のサーヴァント。整っている顔立ちではあるが、今この場にいるランサーやセイバーなどとは違ってそれなりにといったレベルだ。
けれど纏っている雰囲気が、放っている威圧感が彼から皆の目を離させない。幾人もの万夫不当の英雄を従えてきたイスカンダルにして、なおも無双の域にあると言わざるを得ない程の高みにいた。
もしかすれば、イスカンダルが憧れた大英雄ヘラクレスであるかも知れない。そう思うと期待せずにはいられなかった。仮に違ったとしてもあれ程の英雄であれば、是非ともに覇道を志したいものである。
先ほどのサーヴァントが口を開く。
「何、別に隠れ見ていたわけではない。自身はアーチャーであるが故に距離を取らざるを得なかっただけだ」
「成程、確かにそれでは仕方がないな。……ところでお前さん、アーチャーの割には良さげなもんを腰に下げている様だが?」
イスカンダルの視線はアーチャーの腰に据えられた漆黒の剣へと注がれる。間違いなく宝具級の一品である。
「まあ多少の近接戦闘には自信があってね。それに近づいちゃあ弓を持ってきても使い物にならんしな」
そう言ってアーチャーはぽんぽんと剣を叩く。それは随分と様になっていた。
「確かに確かに。それも道理であるな。」
イスカンダルはそれにうんうんと相槌を打つ。
そしてやけに静かだなと、ちらりと横を見ると自身のマスターであるウェイバーが真っ青な顔をして震えていた。完全に気迫に飲まれおったなこいつめと思いながら、イスカンダルは声をかける。
「どうした、そんなにガタガタ震えおって。怖気づいたか?」
いつもならば、すぐに顔を真っ赤にして反論したいただろう。だが今は気にする余裕もないのか、ただ茫然とした表情でぽつりぽつりと言葉を発し始めた。
「ば、化け物だ。ライダー、あいつやばいぞ……。あいつ、全てのステータスがA+だ……」
「ほう……。そいつぁ、なんとも豪勢な話だ。あやつアーチャーの癖しおって、もしかすると近接でもセイバーとランサーの二人を上回っておるかもしれんのか」
間違いなく、セイバーとランサーは一流クラスの英霊である。国や時代を代表する英霊と言っても過言ではないの程の。
けれど、恐らくはアーチャーには敵わない。根拠も何もないが、長年数多の英雄を見てきたイスカンダルはそう感じた。いや、当人であるセイバーとランサー自身も口には出さずとも同じようなことを考えていた。
それ程までにアーチャーは突出していた。もしセイバーが第五次の記憶を持っていたらならばヘラクレス級だと称しただろう。一流のその先、トップサーヴァントレベルだと。
「ねえ、セイバー……。」
アイリスフィールが不安げに話しかける。それに対してセイバーは何も言わない。何も言えなかった。もし仮に左腕の負傷がなかったとして、それでも勝てるとは思えなかった。
ランサーも口を挟まない。勿論主に命じられたのであれば、何としてでも首級は頂くつもりではあるが、その時は大きな綱渡りをする羽目になるであろう。
だからこそ、イスカンダルは大声をあげて笑い、そしてアーチャーに話しかけるのだ。
「なあ、アーチャーよ。お主の力量は剣を交えずとも分かる。間違いなくお前さんは最強の一角だ。
どうだ?余の盟友となり、共にこの星を征服せんか?お前さんがいればどんな相手であろうと敵ではない」
「そうだな。正直に言わせてもらうならば、興味深い話だ。俺はそこの二人のように騎士ではなくて、ただの戦士だ。仕える先など無い。それに軍を率いたことはあれど、それは俺が最も適性があったからで、俺が彼らを従えていたわけでもない。お前と組むことに異論はないし、中々楽しそうではある」
まさかの好感触に、おお!っとイスカンダルは戦車から身を乗り出す。けれど、イスカンダルが言葉を発する前にアーチャーが続きを話し始める。
「だが、申し訳ないが俺にはすでに盟友がいてな。まあお前に比べれば面白みには欠けるが、共に戦うには悪くないやつなんでな。
すまんが、今回はパスだ。ぜひ、次があったら誘ってくれ」
なまじ期待させられた分、イスカンダルは悔しそうな表情でやって来た思う一人の男を見る。
「なあ、お前さんの盟友ってのはそこにいる金ぴか野郎のことか?」
そう、そこには金色の鎧を纏い、手には宝石を填めたステッキを持った中年の男が立っていた。
「ああ、そうだ。俺のマスターだよ」
「ほう。魔術師でありながら、鎧装束を着こむとは……。しかし戦うわけではあるまいのだろう?」
金色の鎧は傍から見ても十分分かるほどに強い神秘を纏って入るが、だからといってそれだけで人とサーヴァントの差を埋めることはできない。少なくともそれが分からぬほど馬鹿なようには見えない。
「勿論、私がこれを着ているからと言ってサーヴァントと戦えるなどとは露程にも思っていません。しかし、戦を指揮する物が後ろでふんぞり返ってはいけない。常に鎧を着こみ戦場にて立たなければならない。
そうでしょう?征服王よ」
「おうともよ。誰よりも雄々しく、勇敢に敵に立ち向かうのが王としての、将としての責務であるからな」
そうしてイスカンダルは笑うと同時に納得する。成程、この時代の人間にしては、そして魔術師にしては随分と心得ている、と。
恐らくは戦いに生きる人間ではないのであろう。けれども、誇り高く戦いから逃げることを良しとしないだけの気概はあるようであった。また、戦場を、戦士を、完全にとは行かなくともある程度は理解できているのであろう。
「アーチャーよ。中々いいマスターに巡り合ったようだな。
しかし、……だな。
その、いくら何でもその年でその恰好はきつくないのか?」
イスカンダルにしては珍しくおずおずとした言い方であった。
その瞬間、時臣がぐっと呻きながら膝をつく。そう、余程自信のあるナルシストでなければ全身金色の鎧を着て戦場に立つことなど出来ない。
80年代、90年代のアニメかと言いたくなるほどに、言ってしまえばその姿はダサいのだ。それこそ人類トップクラスの美貌がなければ違和感の塊でしかないファッションである。
どんな時でも余裕を保ってきた時臣もそこを突かれるとさすがに痛かった。思わず隣にいたアーチャーが慰めに入る。
(……仕方ない、仕方ないんだ。二人で決めただろう。お前には一番ヒヒイロカネで作った鎧が相性がいいんだ。
それに多分そんなにダサくないって、割と優雅だって。安心しろよ、時臣)
(それは分かっています……。ですが、やはりこれを着るのを冷静に突っ込まれるのは少し厳しいものなのです……)
さすがのイスカンダルもこれはやってしまったと思ったのか、フォローに回り始める。
「あ~、なんだ……、アーチャーのマスターよ。
古代なら割とそういう奴もいたしな?あんまり気にするでないぞ?
なあセイバーよ。割と似合っていると思わんか?」
これは決してイスカンダルが逃げたわけではない。ただの戦略である。もう一度言うが決して逃げたわけではないのだ。
そして急に話を振られたセイバーはしどろもどろになる。ぶっちゃけ正直セイバーから見てもダサかった。でも王様は人の心が分かるのでそんなことは言えない。
「え、えぇ。現代ではコスプレ?だとかが流行っているらしいですし、そういうのもありだと私は思いますよ」
セイバーの必死のフォローにも関わらず、時臣は最早四つん這いにまでなっている。ちなみにセイバーは自身が止めを刺したことには気づいていない。
けれど、ここに時臣をさらに痛めつけようとするものが一人。
ゆらりと霊体化を解いて現れたそいつは、絶叫しながらにアーチャーへと向かっていく。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
愉悦麻婆の表情筋壊れてそう。