次章で多分完結するんですが、そこへ行くための繋ぎみたいな感じです
第二のオリ主? あるいはオリモブが主に出ます
八百比丘尼はその名を受けて酷く驚いたように目を見開いたが、すぐに元の無表情へと戻り、落ち着いた声で告げた。
「その名前は、私を指すのには適切とは言えません」
「ハァ!? じゃ、じゃあ何て呼べばいいのよ? マ、マ、マヒル、とか!?」
「いえ、そうではなく……」
「呼ばれたくないですって!? 私の純情弄ぶのはやめなさいよ!」
「おい、黙っていろ突撃娘。ボッチを極めコミュ障になるのは構わんが、今はこの女の話を大人しく聞け」
そう言ってアルトリア・オルタはさりげなく、顔色の悪い立香を顎で指した。立香にとって深波は色んな意味で大切な仲間であり、傷まみれな彼女というのはあらゆるトラウマが刺激される光景だった。
ジャンヌ・オルタは口を噤み、腕を組んで八百比丘尼から顔を背けた。
一方で、新宿のアーチャーはじっくりと八百比丘尼を観察している。あれは多分、敵か味方かを見極めているのだと思う。彼女が雀蜂という部隊と行動を共にしていたことを、事前に知っていたのだろう。
一部緊張感を持つ空間で、八百比丘尼は口を開く。
「私の九割九分は現在、八百比丘尼という幻霊で構成されています。特に"深波真昼"という霊子は希薄極まり、英霊として単独で存在出来ないほどなので。
よって今話している私という自我も、合成された幻霊、八百比丘尼の面が強く出ておりますので、"深波真昼"と呼ぶよりも、其方の方がより正確でしょう」
立香は少し寂しいような気がしたが、それでもほっと息を吐いた。彼女が名前を呼ばれて、あんまりにも驚くので、まさか炎を召喚する内、名前まで忘れてしまったのかと思ったのだ。
「ふん、何よ……じゃあアイツとは殆ど別人ってことじゃない。赤い炎もアンタの力って訳?」
何故か急速に落ち着いたジャンヌ・オルタが、治療を受けながらつまらなそうに髪を弄る。立香は知らなかったが、彼女は深波と友人の間柄だったそうだ。いつの間に?
それにしても、赤い炎というのは立香も気になる話だった。
「……? 貴方がたは"深波真昼"というサーヴァントと出会ったことがあるのですよね?」
八百比丘尼は不思議そうな顔で、主に立香を見つめた。そんな風に見られても、立香の中では一度目の深波も、二度目の深波も、青い炎を使うイメージしかなかったし、ジャンヌ・オルタが言う"赤い炎"というのが、皆目検討もつかなかった。
「私は"深波真昼"ではありませんが、この体や、ほんの僅かな彼女の霊子から知り得ることは幾つかあります。
その知識によれば――深波真昼という英霊は、召喚された場合、赤焔を使うサーヴァントとして現界する筈ですが……」
「――え?」
深波真昼が英雄になったのは、青い炎を使用して人々を救い、ウィルスを滅したからだろう。ならば宝具は蒼炎であって然るべきで、赤なんていうのは普通ではない。
立香が疑問で満ちた頭を捻るのを見兼ねたのか、八百比丘尼は話し出した。
「"深波真昼"は世界を救う為の存在で、その力たる蒼炎も、世界に仇なすモノを焼却せしめる為のもの。アラヤは、世界へ危機が訪れた時のみ彼女の召喚に介入し、蒼炎を呼び出せるだけの魂を与えるのです。
赤焔は、蒼炎の龍よりも弱い幻想種の吐息。遥かに小さな魔力で呼び出せる劣化版の炎。魂は、ほんの少しで構わない」
八百比丘尼は無言で自身の心臓部に手を宛てる。そこへは今、蒼炎を呼び出せないほどに僅かな深波の魂の欠片が入っているのだろう。
ならば――立香とずっと冒険をしてくれた深波は、どうして十全な魂を持っていたのだろうか。
アラヤから介入されることなく、元より保持していた魂は、一体どこから手に入れたものなのだろうか。
「勿論、人理の危機とあらば、蒼炎の彼女が現れてもおかしくはありませんが……貴方が世界を救うまで、抑止力は活動を停止していました。アラヤの介入は不可能、"深波真昼"は赤焔使いとして顕現する筈……」
八百比丘尼は最早自分の思考を吐き出すのみで、外界の様子は意識の外であるようだ。
深く疑問に潜り、意味不明なものを理解しようと眉根を寄せていた。
「一体何故――?」
八百比丘尼は一通り不可解な事象を考察した後、何かを思いついたように目を細め、いつの間にか再生の終わっていた足で立ち上がる。
「……もしよろしければ、貴方方にご同行することを許しては頂けませんか?」
「おお、それは助かる! いやー、君の炎は心強いからネ!」
調子の良い新宿のアーチャーの返事を聞いた途端、アルトリア・オルタが眉を跳ね上げ、純真なアラフィフの胸倉を掴みあげる。あまりの惨さに見ていられず、立香は「や、やめたげてよぉ!」と叫んだ。
「勝手に決めるな。そもそもコイツが深波真昼ならまだしも、八百比丘尼だというのなら立香とも初対面だ。あの女を信頼することはお前を信頼するくらい困難だし、先ほどの赤焔の説明だって真実か疑わしいぞ」
「息をするようにディスるのやめてくれない!? ま、まあ聞きたまえ。これはすこぅし、悪くない選択だよ。
おーい八百比丘尼君ー! ちょっと作戦会議するけどいいかナー?」
「構いませんよ」
構わないんだ……と思いつつ、傷が再生途中の彼女が心配で後ろ髪を引かれつつも、立香はアルトリア・オルタと新宿のアーチャーの手招きに従い、側に寄った。
「彼女ね。私が最初に見た時は、もっと機械的だったんだ。今の自発的に話す姿なんて嘘のようで、以前は指示されるまでは何もしないお人形みたいな状態だった。
それが何らかの要因でああまで自我を持って、さらにどうやら――"深波真昼"のことを、よく分かっていないらしいね? 蒼炎というのを私は知らないが、彼女はそれがえらく引っかかっているようじゃないか」
「それがどうした? やつは敵だ。今のうちに始末しておいた方が良いことには変わりあるまい」
「そうでもないのサ。彼女は多分、深波君の魂を対価にするという炎を使う度に、八百比丘尼の面が強くなるんだろうね。そして、八百比丘尼に近づけば近づくほど自我は強くなり――今のように、我々と行動を共にしたい、などと言い出す。これは間違いなく、離反だ。向こうからすれば重大な裏切り行為だ」
「……人形的で無くなるほどに、あちらから寝返る可能性が高くなる、そういうことか?」
「その可能性は高いね。さらに付け足すと、八百比丘尼が人間らしいというのなら、"深波真昼"は立香君から聞いていたのとは裏腹に、かなり無機物的だったということだ。
彼女は抑止の守護者らしいし、こんな特異点を作り上げた黒幕に協力するとは思えない。彼女に掛けたマインドコントロールのようなものが――ウーン、なんと例えるべきか。そう、八百比丘尼君が――濃くなるにつれて無意味になっているのでは? ……とまあ、そういう考察サ」
マインドコントロールとはまた、穏やかでない単語だ。立香は眉を顰めつつ、八百比丘尼の方を見た。
八百比丘尼が表に出られるほどに消費された魂。傷が全て治ってしまう今の彼女の体では、どれだけ深波が傷ついたのかも、分からなくなってしまっていた。
アルトリア・オルタは、ジャンヌ・オルタと立香がじゃれ合いながら八百比丘尼に絡んでいるのを見遣り、周囲に敵影がないのを確認した後、新宿のアーチャーの頬に剣を突きつけた。
「さて、貴様に一つ聞きたいことがある。
――マインドコントロールというのは何の戯言だ?」
「やっぱバレちゃうよねー……」
「答えによってはここで斬る。胡散臭いオッサンはそこらでのたれ死んだとマスターには報告してやろう」
アルトリア・オルタの眼光の鋭さに負け、新宿のアーチャーは渋々口を開く。言うつもりのないたことだったのに……。
「……マインドコントロールしなきゃいけないような英霊を、そもそも喚ぶ必要が無い。もし喚んだとしても、反抗的なら消すのが一番ローコストだ。
恐らく彼女は、この地に偶然召喚されたサーヴァントなんだろう。そのことが指し示すのはただ一つ――」
新宿のアーチャーは一瞬マスターの位置を視線で確認し、それでも、万一にでも彼に聞こえないよう、声を出さずに口だけで、ゆっくりと話した。
"――深波真昼は、元から人形のようなサーヴァントだったのだ"、と。
「マスター君には内緒にしててやってくれ。深波君もそれを望んでいるだろう。聞けば学友だそうじゃないか。カルデアでも共に戦ったという。
きっと人形でない彼女は――それこそ、奇跡を起こして、彼に会いに来たのだろうから」
アルトリア・オルタは無言で構えを解き、腕を組んで歩き出す。どうやら見逃してもらえたようだと、新宿のアーチャーはほっと息を吐き、彼のマスターの元へと小走りで向かった。
「待ってくれたまえ〜! 置いてかないで〜!」
「いや、待てないよ! こっちはチンピラに絡まれちゃってるんだよ、ジャンヌも八百比丘尼も怪我人なのに! 腰のことは忘れて全力ダッシュだ! アーチャー早く!」
知らない内にチンピラに囲まれているマスターの為に、アルトリア・オルタは魔力放出でブーストして吹っ飛んでいった。
新宿のアーチャーにそういう能力は――無い。
「無理言わないでくれ……!」
新宿のアーチャーはそう言いつつも、先行したアルトリア・オルタの視線に脅され、足を早めた。腰がただひたすらに痛かった。
■■■
契約したの。約束を。対価を後払いにして人生を貰った。
終点までレールの敷かれた人生。だけど楽しかったし、悲しかったし、生きていた。
自分の意思で色んなことを決めた。
死んでたら分からなかった色んなことを知れた。
間違えちゃっても、諦めたくないと思えた。
意地を張ったけれど、それでもやり遂げたかった。
やってきた全部のことが、本当に自分の意思でしたことかは正直疑わしいけど、やっぱり死んでたら出来ないことばっかりで、だから苦しくても、悲しくても、今度こそは死んでもいいと思った。
契約の対価として、死んでも私は人を救う。他の人よりもちょっぴり大きい代償だから、他の人よりもちょっぴり不自由になると思うけど。
道具になるなんて寧ろ上等だ。ただのガソリンタンクだとしても、使い捨ての爆弾だとしても。
それは、私のことを私よりも上手く使って、世界を救うってこと。
アラヤが消えるその時まで。
人が全てを諦めるその時まで。
私が――今度こそ間違えずに、世界を救い続けられるってことなんでしょ?
大体、道具になって意識が無くなるのなら、怖くもないしね。真っ当に死んで輪廻に乗っかっても、アレって次に何に生まれるか分かんないらしいし、脳みそが別の物になるなら、それってほんとに自分自身って言えるの?
一回死んでみたから分かるけど――神様って結構シビアだし。対価無しでは生き返らせてくれないんだよね。
「貴方はそんなに死にたがるけど、『死』ってそんなに綺麗なものでもないし、怖いものでもないと思うよ? それなら尼らしく、解脱でも目指した方がいいんじゃないの? って、私は思うけど」
彼女はそう言って諭すように話すと、少しだけ険のある目でこちらを見た。
「あのさ、デミヤ先輩ってエミヤ先輩と同じぐらい憧れの人だから、あんまり仕事の邪魔しないであげてね」
「――っ! はぁ、は、ぁ、はぁっ……!」
再生の為に睡眠を摂っていた八百比丘尼が、呼吸も荒く起き上がる。立香はぴょんと飛び上がって、彼女に掛けようと持ってきていたブランケットを取り落とした。
「だ、大丈夫?」
「ええ――ただの、悪夢ですから」
そう言って八百比丘尼は、忌々しそうに心臓部を引っ掻いた。
「……その、八百比丘尼。火を使った方が自分の意識がはっきりしていくっていうのはもう聞いたけど……無理しないでね」
「……無理? 何の話ですか」
「赤い炎を使う時、血を流したり、怪我をしたりするでしょ。痛覚を切ってても――死の気配っていうのかな、そういうのが近付いてくることに鈍感になっちゃうと、なんていうか、あんまり良くないんだ」
元人類最後のマスターの経験談。
そう言ってはにかむ立香を見つめ、八百比丘尼はポツリと呟いた。
「私は……死なないので。そんなものを、感じたことなど、無いのです……」
悪夢の後ゆえの弱気だろうか。八百比丘尼は自身の吐き出した弱音に自分でも瞠目した。
「あなたは……死にたいんだね。賛成も反対も言えないけど、生きたいって思わないの?」
「ええ――もう沢山、生きましたので」
そう、とても長く。
目も眩むほどに、長く――。
世界観萌えこじらせてるのであんまりオリ主活躍出来なくてごめんな……次章ではオリ主めちゃくちゃ活躍する予定だからゆるして……
あと新宿風のタイトル考えるのが難しすぎてつらい