救世と共に祝杯をあげよう   作:ぱぱパパイヤー

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残酷描写注意
出血や骨折、グロテスクな描写が含まれます


第3話 出会いと別れは一度だけ 上

 

 某日某時、フランスにて。

 立香たちは、特異点に残る歪みを無くすため、レイシフトをしていた。

 

 既に邪竜の魔女との激突は終わっていたが、その際大量に召喚されたワイバーンが巣を作ってしまったというのだ。

 レイシフトの経験を順調に積み、第三の特異点へも到達していた立香たちは、ボスが消滅し烏合の衆となったワイバーンの群れを危なげなく倒した――までは良いものの。

 

 「……深波、これ、ヤバいね?」

 

 「ヤバい所じゃないよ! マジヤバだよ!!」

 

 任務が達成され、帰還の為のレイシフトが開始されたタイミングで、ウェアウルフの矢で射られ、立香のレイシフトだけが失敗してしまったのだ。

 

 カルデアではなく、立香に顕現を依存している深波だけが残ったのは不幸中の幸いだろうか。しかし数の力の前では、全体攻撃が得意ではないサーヴァントなど役に立たない。

 立香と深波はたったの二人で、太古の森ジュラにて数十匹のウェアウルフとの乱戦状態に陥っていた。

 

 「多すぎだよこれ! えいっ、そらっ、そいや!」

 

 未来での繁栄が未だ影もない森の中、立香はウェアウルフの振り回す斧や槍を避けながら、深波と背中合わせになりガンドを放つ。

 勿論乱発は出来ない。立香には元より大層な魔術回路は無く、今も肩を揺らし、荒い呼吸で汗をボトボトと地に落としていた。

 

 深波は深波で、血液を利用して指先の傷から弾丸のように青い炎を飛ばしているのだが、こちらも乱射すれば当然の帰結として貧血となり、長期戦となると消滅の危険性も高まる。

 その場合立香は一人で戦場に残されることとなり、それだけは絶対に避けなければならないことだった。

 

 つまるところ――このペアは、カルデアで最も長期戦に向かない組み合わせだったのだ。

 

 深波は体内に循環する有限のオドを使い、自身の肉体を糧に呪術を行使する。それは血液であったり髪であったり、肉であったりするが、言うまでもなくサーヴァント屈指の持久力の無さだ。

 主に血液を利用し攻撃するが、今のように出血量が少ないと攻撃対象が絞られ過ぎる。大群の相手には向いていない。

 

 彼女は顔を真っ白にしながら荒い息を吐いた。目眩がするし、戦況は長くは保てないだろう。

 さらに悪いことに、立香の体力も限界に近い。肩越しに彼を見ると、膝が大きく震えていた。最早賭けに出るしかないようだ。

 

 「……っよし! 藤丸、目閉じてて!」

 

 一瞬目を強く閉じて、覚悟を決める。深波は歯を食いしばり、生前から自傷用に持ち歩いていたナイフをレッグシースから取り出した。

 

 「……深波?」

 

 それを逆手に握ると、勢い良く――自身の肩に突き刺す。まさか、そんなはずはないと立香は思いたいが――まるで狙ったかのように動脈が傷つき、深波の血が大量に、水道を捻ったように溢れ出た。

 

 「――ッな、にしてるの!? 深波!! 止めてくれ! 何でそんなことを……ッ!!」

 

 「あああ゛……ちょう、ッイタイ……!! っは、ぁ、よーし、じゃあ、っ行くよ、『せーの』で、北の方、走り抜けるよ」

 

 「深波、俺の話を――!! 」

 

 「今は、逃げる。後から、話す。でしょ?」

 

 言いながら深波は、どこからか飛んできた矢から立香を庇い、右肩の傷を広げた。

 

 「ッい、っ〜〜!!」

 

 立香はむせ返りそうなほどの血の匂いに頭がくらくらしたが、深波は脂汗をかきつつも慣れた風で、いつもとは違う言葉を発した。

 

 「adolebitque(燃えろ)adolebitque(燃えろ)Monstri Sánguinis(怪物の血)!」

 

 青い炎が、深波の血を舐めとるように広がっていく。対象を燃え尽くすまでは消えない炎が、ウェアウルフたちと立香たちとの間に立ち塞がった。

 

 立香は深波にドン、と背を押され、頭が真っ白になっていたこともあり、反射的に最も敵の少ない北西へと走り抜ける。

 深波は肩を抑え、青ざめた顔ながらも満足げに笑い、自身も殿を勤めて駆けた。

 

 

 

 

 森の中、ワイバーンの巣であったのだろう場所で身を寄せ合う。

 深波は頑なに傷口を見せようとはせず、ここで、ウェアウルフ包囲網とはまた別の、新たな戦いの火蓋が切って落とされていた。

 

 「深波? 俺のへっぽこ魔術でも何もしないよりマシなんだよ?」

 

 「いや、この程度、ッなんの、その。しかも、それ……っクーリングタイム、凄いでしょ。藤、丸が、自分のために、取って、おきなよ」

 

 深波の呼吸は荒かった。血が足りないのだろう、顔色は紙のように青白く、気休めに魔力を供給しようと手を握ると、いつもなんて比にならないぐらい冷えきっていた。

 

 ぴとんぴとん、と水滴の落ちる音がする。深波の傷口は立香とは反対側にあるので見えないが、血だまりが出来ているだろうことは、薄暗い洞窟で見えなくても分かった。

 何度言い募っても深波は頷かず、立香は段々焦燥に駆られていく。このまま深波が消滅したら、どうしよう? 

 そんな不安が胸に湧いてきた頃には、すっかり目が暗闇に慣れ始めていた。

 

 「……あ、ヤバっ、ちょ、待って待って不味い」

 

 「!? どうしたの!? やっぱり痛いのか?!」

 

 「いやー、うん、大丈夫。戦闘に差し支えるから良くないんだけど、流石に痛覚切ったわ……藤丸、ちょっと目閉じてて」

 

 そう言われて閉じる立香では無かった。先刻同じことを言った深波が何をしたのか、忘れられるはずがない。

 暗くて見えないのは深波も同じだ。立香は、こっそりと目を開いた。

 

 立香は特異点での旅のうちで気づいたのだが、英雄深波は、どうも戦いで名を馳せた英雄では無いらしいのだ。

 よって千里眼等のスキルはなく、大火力の青い炎の行使以外は只人と殆ど変わらなかった。

 夜目も程々に効かない。案の定、立香が目を開けているのにも気づかず、深波はしかめっ面で傷口の処置を始めた。

 

 「アー、はいはい、なるほどね。骨砕けてたんかーい……。でもまあ、これも結果オーライ、って奴かな?」

 

 二、三度触診すると、深波は諦めたような顔で項垂れると、腰のポーチから包帯を取り出して、片方を口で咥えながら、腕を固定するように巻いていく。見事な手並みだった。

 

 「な、なあ深波。大丈夫なの、それ」

 

 「大丈夫大丈夫ー。いざと言う時の手榴弾が出来たってプラスに考えよう」

 

 立香の気のせいでなければ、手榴弾といって指したのは深波の右腕のように見えた。

 立香は、深波が血液以外を燃焼させているところは見たことがないが――状況的に腕が千切れかかっていると考えるのが自然だった。

 

 「深波、消えるのか……?」

 

 マスターになって、まだそう長くもない。だが立香は、シミュレーションや実戦の中で、サーヴァントが消滅する程度を把握しつつあった。

 大量出血に片腕、さらに大規模な呪術の行使。これ以上ダメージが重なると、深波は消えてしまうだろう。

 

 「うん、まあ。……私が消えたら、また電話してね」

 

 「する、絶対するよ。でも、消えないで。戻れるから死んでも良いなんておかしいよ。絶対に、消えないで」

 

 「……うん。そうだね」

 

 深波はゆっくりと目を細めて笑った。

 

 立香はその顔が余りにも穏やかで、何度も見たことのある顔だったので、まるで自分も今制服を着て、教室にいるみたいだと思った。

 

 それから、深波がここで消えるとしたら――いや、死ぬとすれば、一体どんな風に死ぬんだろうと、ぼんやりと、怖気のするような未来を思った。

 

 

 

 

 太陽が大分低くなっていたのもあって、すぐに夜になった。

 立香は船をこぎながら、眠ったり起きたりするのを繰り返していたが、月が頂点に達した頃、場にそぐわぬノイズ音を聞いて、意識は一気に覚醒した。

 

 「ドクター!?」

 

 『正解だよぉおおお!! 無事でよかった!!』

 

 涙でぐしょぐしょになっているロマンのビジョンが虚空に現れる。立香は霊体化している深波の方を見て、ほっと息を吐く。これで治療ができそうだ。

 しかし、状況は芳しくなかった。

 

 『君たちが襲われたウェアウルフなんだけど、どうやら彼らも特異点の歪みのようなんだ。その歪みのすぐ近くにいるせいで、君たちの周囲の数値はあまり安定していない。レイシフトするには、少し危険だね』

 

 「ワイバーンは? あいつらは倒したのに」

 

 『ワイバーンなんて、ウェアウルフの歪みに比べれば軽いもんだよ……。君たちが出会ったウェアウルフたちは斥候部隊。本隊が迫っていたから、すぐに逃げ出したのは正解だった』

 

 ロマンの推察によれば、ワイバーンが森に巣食ったことで、人が近寄らなくなり、それが原因で深奥部に居た原生生物、つまりウェアウルフが、異常増殖したのではないか、とのことだった。

 

 カルデアの通信は繋がったものの、マシュが帰還してしまっているため、召喚サークルが無く、サーヴァントを呼ぶことが出来ない。

 かと言って召喚サークルの為に彼女を一人でレイシフトさせるのも危険過ぎる。歪みのせいで座標がズレれば、立香たちと離れた場所に飛ばされる可能性もあった。

 

 「つまり、歪みのあるこの森から自力で抜け出すって訳ですか」

 

 『そう、その通り! ……って深波ちゃん、何その大怪我!』

 

 「お手製手榴弾の完成ですよ。イエ〜!」

 

 『イエ〜! じゃないよ! 深波ちゃんただでさえ消耗が激しいサーヴァントなのに! その上君――カルデアに霊基を登録してないじゃないか!』

 

 「え……?」

 

 「あっちゃー……」

 

 立香は深波の顔を食い入らんばかりに見たが、深波は所在無さげに服の裾を爪で弄っているだけで、弁解はしない。

 

 「ドクター、それ、どういうこと? 登録してなかったら、どうなるの?」

 

 『どうなるってそりゃ……。深波ちゃんの霊基が無いってことは、そこにいる深波ちゃんか消滅したら、次に呼べるのはいつか分からない。それどころか、彼女が再び現れるのは、殆ど天文学的確率だよ』

 

 「そんな事ないよ。私、藤丸に呼ばれたらちゃんと行くよ?」

 

 『だけど、例え来たとしても、次に来る深波ちゃんは、今の深波ちゃんの記憶を持ち越してない。……違わないよね?』

 

 深波は口を閉じて、無事な手で困ったように自分の首を撫でた。何も、言わなかった。

 

 「深波……何で黙ってたの? 何で、分かってたのに――そんなこと、したの?」

 

 月にかかった雲が晴れていく。光が穴の空いた天井から差し込み、深波を照らした。

 立香は思わず悲鳴を上げそうになった。それは凄惨な光景が恐ろしかったからではなく、それによって深波が失われていた可能性を直視してしまったからだった。

 

 彼女の右肩は、包帯無しでは自重に負けて千切れそうな有様だった。

 少し袖の余った制服から伸びる指先から、血がポタポタと落ちて行き、彼女の足元にはたっぷりの血だまりがあった。

 

 立香はポケットの中に入れている電話を、令呪のある方の手で決して離さないように握りしめた。気休めにもならないが、深波を失う恐怖に駆られた立香の拠り所になりそうなのは、それだけだった。

 





高校生の間……表向きは凡人
卒業後……世界線にもよるが五年以内に英雄となる

書きたいシーンが思いついたんですが、その為にオリ主の設定を開示しないといけなくなったので、頑張って二人の血みどろサバイバル書いてます……

書きたい所だけ書いて、残りは自動で書いてくれるマシンとか欲しいですねc⌒っ.ω.)っ
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