救世と共に祝杯をあげよう   作:ぱぱパパイヤー

7 / 21
第6話 設計図通りのあなた

 

 マシュが知る限り、深波真昼という名前の英霊は、とても不思議に満ちた存在だった。

 

 先日詳しく聞いた所によると、なんと深波はシステム・フェイトを介さずに立香が呼び出した存在らしいのだ。彼女は、召喚の為の陣も、呪文もない状態で現れたという。

 

 深波という存在は本当に不思議で、怪しくて――だけど、どうしてか悪い人とは思えない。

 従来の人の良さが出ているというか、なんというか。ともかく、彼女は"いい人"なのだ。敢えて言い換えるならば、彼女はとても――普通だった。英雄なのに。

 ブレザー姿で歩く姿は、資料で見た日本の高校生そのもので、気迫や気負い、悲哀も無く、そして見た目相応に振る舞った。

 

 マシュは、そんな普通の女の子っぽい深波の事がずっと気になっていた。同い年ぐらいの(見た目の)少女で、立香と同じ高校生で、それからマシュの、初めての女の子の友達……かもしれない人だったからだ。

 

 友達、というのは定義が難しい。深波が召喚されてから、何度か野宿を共にしたり、戦闘で連携したりはしたが、マシュは深波のことを何も知らないし、深波はマシュのことを知らない。

 これは多分、友達ではない、と思う。

 しかし、逆に言い換えれば、お互いのことを知れば友人になれるチャンスがある、ということだ。

 

 マシュはぐっと拳を握り、ダ・ヴィンチちゃんと立香を相手に、駄々を捏ね続ける深波をこっそり追っていく。

 

 「えー、やだよ……。だって、"私"が消えた後に、"直近の私"の意識データをサルベージして登録霊基に突っ込む、ってことでしょ? それ、ちょっと危ないんだよなぁ……」

 

 「何が危ないもんかい! 君も何度か見たことがあるだろう? 誰も、何の欠損も記憶の齟齬も無しに復活しているよ? この天才から見ても、再構築システムに欠点は無いしね」

 

 「ほら、ダ・ヴィンチちゃんもこう言ってるよ? ね? お試しで登録してみようよ。今ならお安いよ?」

 

 「お安くてもなぁ……システムは勿論信頼出来るだろうけど、そっちじゃなくて私の方に問題があるんだよなぁ」

 

 「でも、このままじゃ――そりゃあ消滅なんて、極力させないけど、消滅しちゃったら、深波そのまま居なくなっちゃうんだよ? 俺と一緒に世界、救ってくれるんだよね……?」

 

 「…………………あー、分かったよ、やるよ。でも、あのさ、復帰した私のこと見ても、怒らないでね?」

 

 「消滅した相手を責めるとかしたことないよ! 寧ろ労るよ! よし、そうと決まれば、システム・フェイト一名様ご案内ー!」

 

 「本当に怒らないでね? 泣かないでね? 覚悟今の内に決めといてね?」

 

 「深波はそんなこと言うけどさ……。俺が、何でそんなこと言うの? って聞いても教えてくれないでしょ?」

 

 「だって私が消滅するまでは、知らないで済むことなんだもん……」

 

 (話しかけるタイミングが、掴めません……!)

 

 マシュは意気消沈しつつ、ドナドナされていく彼女を追う。契約の為に召喚サークルの設置された部屋へ入るのを確認してから、マシュは心臓の鼓動を抑えようと深呼吸する。

 

 (大丈夫、大丈夫、特異点でも何度かお話したことはあるんですから)

 

 ダ・ヴィンチちゃんがシステム操作のためにコントロールルームへ向かう。立香は他の英霊に呼ばれて部屋を出ていった。

 

 「深波、逃げちゃダメだからね!」

 

 「はーい……」

 

 沈んだ声の主が一人で部屋に残されているのを聞き取り、今度こそ、と意気込み、マシュは心臓を高鳴らせながら歩く。

 胸元を抑え、頬を紅潮させながらドアノブに手をかけ、緊張のあまり鬼気迫る顔で叫ぶ。

 

 「っえ、マシュちゃんどうし――」

 

 「ッ、わ、私とっ、どうか――女子会をして下さい!!」

 

 

 

 

 

 詳細は省くが、今日の深波は午後から女子会の予定がある。

 

 その時に食べようと、おやつをエミヤに依頼することも忘れない。深波は受け取るまでの時間を、調理をするエミヤの背中を見て過ごしていた。

 

 厨房係は大体はエミヤで、実は深波はここだけの話、勝手に彼に親近感を抱いていた。口に出したことはないが、彼のような高潔な人もアラヤと契約し、頑張っているのだと思うと、若年で、未熟者で、オマケになんの覚悟もない深波でも、きっと誰かの役に立てている……そんな気がするからだ。

 

 生前、何度も何度も「何故?」と思った。体が勝手に動いたり、大怪我をしたり、怖い目に遭ったりして。どうして生きているのかって疑問がずっと止まなかった。

 自殺しようしても、体が動かなくなってしまって出来ない。怖くて辛くて寂しくて、どうしようもなかった。誰も助けてくれなかった。逆に何度も「助けて欲しい」と望まれた。

 やがて深波の脆弱な精神は擦り切れて、いつからか思い出せないくらい自然に、こう思うようになった。

 

 ――あの時、死んでおけばよかったな、と。

 

 「うぅ、何で契約なんかしたんだよ、過去の私めー……」

 

 「パンケーキが一枚焼けた。先に味見をしておいてくれ」

 

 「はーい」

 

 アラヤは一応、死者を雇用する際に契約を持ちかけるそうだ。

 深波は全く覚えていないが、多分命惜しさに契約してしまったのだろう。頭と腹の復活の為に死後まで縛られるとは、今思うと本当に馬鹿だなー、と呆れる。

 体は特別製の物に総入れ替えだし、ちょっと生きたかと思えば英霊として死ねだし。

 

 「エミヤ先輩って、本当に優しくて憧れの先輩です……美味しすぎ……」

 

 「パンケーキの美味さで尊敬されるとは、な。……君はパティシエ志望かね?」

 

 「ウーン……」

 

 フォークを口の中に放り込み、暫く斜め上を見る。

 

 「ここに居る間は、そういうのもいいかもなぁ……」

 

 とある高校の一年生から始まる深波の契約後の人生。専門職は独学では厳しいし、趣味の範囲は出ないだろう。まかり間違って時が巻き戻っても、恐らくパティシエは無い。

 この世界での第二の人生は、深波の意思など関係なく、全て神様の掌の上。死ぬまでのレールが引かれていて、途中からは毎日命懸けのデスマーチだった。

 

 しかしここでは、好きなだけ、好きなように、好きなことを研鑽することも出来る。

 

 「――ここは、本当にいい所ですね」

 

 「ああ、本当に」

 

 食べ終わった皿をシンクに持っていくと、入口にマシュが立っており、深波の様子を伺っていることに気づいた。

 エミヤが焼き終え、トッピングも済ませてくれたパンケーキを受け取って、深波はマシュへ駆け寄る。

 

 「マシュちゃーん。じゃ、行こっか! 女子会ってすっごい久しぶり!」

 

 「私は初めてで、少し緊張しています……。ふ、不肖、マシュ・キリエライト! 精一杯甘いお菓子を食べて、友好を深める為にも、楽しい会話に従事させて頂きます!」

 

 「真面目〜〜!」

 

 

 

 

 深波が召喚後に割り当てられた部屋で、女子会を聞きつけたダ・ヴィンチちゃんがくれた二人分のクッションに座る。

 カーペットも柔らかい色合いで、シンプルながらも、まるで最初から女の子のために誂えられたみたいな部屋だった。

 

 「ここの家具、他の部屋より可愛いよねー」

 

 「そっ、そうですか? その、深波さんが、サーヴァントとはいえ日本の女子高校生とお聞きして、私の備品を一部……」

 

 「えぇ!?」

 

 「わ、私のお古ですみません!」

 

 「いやいやいや! 言ってよ! めちゃくちゃありがとう!! お礼に……! お礼に……っ?」

 

 (何にも持ってねー!)

 

 アワアワとポケットを探るが何も無い。ナイフなんてもらっても困るだろうし……そもそも私物とか殆どないし……。

 狼狽して手をフラフラさせていると、マシュがクスクスと笑った。

 

 「ふ、ふふふっ! っあ、し、失礼しました。しょんぼりした顔が何だか、微笑ましくって」

 

 「うぅ……私は今、とても不甲斐なく、しょんぼりしてます。どうか何かお礼をさせて下さいぃ……」

 

 マシュは深波に私物の類がないことを察してしまったのか、暫く考えたあとに、両手を叩いて言った。

 

 「でしたら、よろしければなんですが、深波さんの高校生活についてお聞きしたいです。それがお礼……では、ダメですか?」

 

 「ううん、ありがとう! バッチ来いだよ! 聞きたいんなら何でも話すよ。勿論我らがマスター、藤丸のこともね」

 

 ニターっと笑いかけると、マシュはたちまちのうちに頬を赤くして俯いたが、小さく頷いて「それも、お願いします……」と言った。

 マシュのあまりの可愛さに暫し深波は言葉を失ったが、なんとか戦慄く口を開き、高校生時代の思い出を語り始めたのである。

 

 

 

 

 「――つまり、その修学旅行の恋バナのデスマッチを乗り越えた者だけが、相手にアピールする事が出来るのですね……!」

 

 「上手く行けば協力者もゲット! この理論はカルデアでも役に立つよ、絶対!」

 

 純粋に目を輝かせるマシュに、深波は上機嫌で語った。深波の大切な宝物である思い出を共有できて、とても嬉しかったのだ。

 

 「では、深波さんはその時に誰について語ったんですか? 矢張り、クラスに一人は居ると雑誌に書いてあった、二枚目サッカー部員さん等でしょうか……?」

 

 深波は一瞬目を見開いて、それから口籠もって誤魔化し笑いを浮かべた。

 

 「…………内緒かな! それよりマシュちゃん、親睦も深まったことだし、私のことは真昼でいいよ?」

 

 深波がそう言って笑いかけると、マシュは慌てて照れた様子で目を泳がせた。

 

 「え、ええと、ええっと……まひる、ちゃん……」

 

 「カワイイの暴力」

 

 深波は口をポカーンと開けて可愛さの嵐に唖然とした。

 マシュは恥ずかしさを晴らそうと、自身は紅茶を含み、さらに深波に持参したクッキーを勧めて来る。

 

 「まひる、ちゃん……。その、先輩と真昼ちゃん、は高校ではどんなお話をしていたんですか?」

 

 露骨な話題転換だったが、真昼ちゃん、と呼んでくれている。深波はニコニコ笑って促されるままに話した。

 

 「どんな、か……。大抵は学校の先生とか、テレビの内容とか、そういう何て事ない話ばっかりだったかな。今思い出してみると大したことない話ばっかりなのに、あの時は吃驚するぐらい、それが楽しかったんだろうなあ。

 ……そうだ! 藤丸の携帯にダウンロードされてるデータもあるし、よかったら見せてもらいなよ」

 

 マイルームで二人っきりになる口実ゲット! と親指を立てると、今度はマシュは照れずに、何やら沈鬱な面持ちで、ティーカップを手で包み込んでいたのだった。

 

 彼女のような、純粋で、人への理不尽な悪意を抱かない人間を、深波は初めて目にした。

 マシュの性質を表すように、言葉は柔らかく、声質は穏やかで、いつも目は優しい色をしている。誰を見るのにも敬意のようなものがあって、彼女にかかれば、どんな人間も、立っているだけで尊敬に値するという風だった。

 

 深波が守るべき人類という種の、善性の部分がよく見えて、深波はマシュと話すのがとても好きだった。

 

 だからこそ、こんな風に沈んだ顔をされると気になってしまう。そーっと伺うと、マシュは深波の視線に気づいて、小さく苦笑した。

 

 「私、ダメな子ですね。真昼ちゃんのこと、羨ましいって思ってしまいました」

 

 「羨ましい……?」

 

 全然、どこら辺が羨ましいのかよく分からなかった。深波は本気で頭を捻り、今の会話を思い出してみる。

 

 「真昼ちゃんはたくさんの時間を先輩と過ごしてきたんだな、って。とても、楽しそうにお話されるのが、羨ましくて……」

 

 「……何で?」

 

 余計に分からなくなる。どうして彼女はこんな事を言うのだろうか? 深波は困惑してマシュを見つめた。

 

 「も、もちろん、時間だけが関係性の全てではないと分かってはいるんですが! 折角、真昼ちゃんにお話してもらったのに、こんなことを考えてしまって、私……」

 

 「でもマシュちゃんはこれから先、ずーっと藤丸と一緒に居るんでしょ? 心配しなくて大丈夫だよ! 楽しく映画観たりとか、デートし放題だし、その内私より過ごした時間も長くなるよ、ね?」

 

 あれ? 私間違ってる? と深波が首を傾げて、今度はマシュが目を見開く番だった。

 

 「え?」

 

 それは勿論、マシュの短い寿命を加味すれば成立しない未来を語られたショックからきたもの、などでは無い。

 深波はマシュが短命であることを知らない(・・・・)のだから、この反応は当然のことだ。

 

 それよりも、引っかかることがあった。

 マシュは、立香から聞いていた。彼女が、立香の同級生で、そして卒業後に、何らかの理由で英雄になるのだと。それは深波からも聞いていて、その通りだと言っていた。

 

 「だって、真昼ちゃんは二十代で英雄になるんですよね? 世界が救われたら、分霊ではなく、本体でまた先輩と――」

 

 深波は「あっちゃー」とだけ言って、まるで"しまった"といわんばかりの表情をした。マシュは自分の顔が青ざめていくのを感じる。

 

 この、学生服の英霊の、死因はなんだ? 何故、この年齢が最盛期なのだ?

 

 彼女の服の裾は、余っている。マシュは立香から聞いたことがあった。深波は高校二年生の段階で、「制服注文、私がしたんじゃないのに、成長期終了と共にここまでピッタリになられると気持ち悪いわ……」と言っていたことがあるらしい。

 親のいない深波のソレを、では誰が注文したのか? という問いには答えてもらえなかったそうだ。無神経な質問をしたと立香はこの事が少し心に引っかかっていて、偶然会話の内容を覚えていたという。

 

 そしてこの話をマシュにしたということは、立香もまた、この制服のサイズの相違に、マシュと同じく些かの違和感を覚えたのだろう。

 

 「真昼ちゃ、」

 

 「――藤丸には、内緒ね?」

 

 彼女は口元に指を宛てて、困ったように笑った。

 

 偶然とは、三度起これば必然になるという。マシュは、三人目の疑念が浮かばないことを切に願った。

 

 

 

 

 

 「へぇ、それは興味深いなぁ」

 

 英霊の最盛期は、伝承にもよるが、凡そは最も戦闘能力が高い時期になる。

 深波真昼の最盛期は、成長を終えた高校二年時でも、経験を積んだ成人後でもなく、服の裾が少し余る高校一年生の頃だったようだ。

 

 「彼女の、一体"何"が最盛期なんだろうか? 天才を以てしても、未来の英霊の功績を予想するのは、少し難しいな」

 

 彼女はそう言うと、盗聴器の電源を落とし、イヤフォンを外した。

 





予定通り進めば次は、絶対魔獣戦線のウルクで、今までの伏線回収に励みます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。