Shall We Play? 作:ハチク
『今日も元気にお過ごしください。』
ニュースで毎日聞くフレーズを飽きもせずに聞きながら、グダグダと布団の上でアイスバーを頬張る。ラムネの味が口の中に溶けていく。いつもはミカンだけどたまにはこういうラムネ味もいいかもしれない。でもやっぱりミカン味が食べたい。
動くのも億劫だ。冷蔵庫の中を《視》てミカン味のアイスバーの所在を確認した。警部、大変です。容疑者が消えています。至急、応援を要請してください。夏でもないのによく食べる、と誰かさんが耳の奥で呟くのが聞こえた。うるさい。春だろうと私には必需品なのだよ。
携帯の電話帳を開いて知り合いの一人に電話をつないだ。
『急にど「ミカン味のアイスバー」君ねぇ…。』
なんだ文句あんのか。やるか?お?
『え?いいの?』
やだよ。それよりアイスバー。買ってきてよ。日本にいるだろ?
『やだよ。』
呪うぞ。知り合いならお前でも余裕で呪えるんだぞ。剣が持てない呪いかけてやんからな。かけにいくぞ。
『今すぐ買って来る。その代わり今度あそ』
通話を切ってガッツポーズを決めた。やったね。まあ可哀想だし今度少しなら遊んであげよう。
カレンダーを見ると明日で春休みも終わりだ。この自堕落な生活もそ休みと共にろそろ終わりかと思うと憂鬱な気分になっていく。本当にアイス食べてないとやってらんないよ。
勉強は、問題ない。いつも上位だ。
部活はやってない。帰宅部だ。家に帰って寝たいし。
教室での立場はそこそこだ。欠席してもバレない程度。
問題は隣の席の、人物にあるのだから。
私がある日まつろわぬナントカを殺してから早数年。面倒臭い委員会連中の目を掻い潜り、かつ次々と1匹いたら100匹いると思えみたいなまつろわぬナントカから逃げ続けトラブルから逃げてきた。
どうしようもない時は諦めて自分への被害を最小限にする方向で立ち向かったが、これでも他の同類たちのなかじゃ大人しいほうだ。というか今のところ存在バレてるのドニとアルくらいだし、存在すら隠せてるから大人しさNo.1は私が頂く。
そもそも、こいつがこの国に来てるのも隣の席の奴絡みだ。
「ドニ。」
転移してやあ、とコンビニを出てドニに後ろから声をかけると辟易した感じで、アイスの入ったビニール袋を渡された。容疑者確保。速やかに署へと連行します。
「それで、君は遊んでくれるってことで良いんだよね?」
肩を掴まれた。このまま転移したらドニ君ともれなくお家で戦闘になる。公務執行妨害です。ドニ君よ。本官は速やかに帰投しなければならないのです。
「……大体、日本に来た本来の目的は私じゃないよね。私は明日に備えて心の準備もしなくちゃいけないんだ。今日は、ダメ。アイス代渡すから、ほら帰った帰った。」
150円をポイと渡した。しっしっ。
「今日は?じゃあ明日は?」
「しつこいと呪うよ?まじでやるよ?少なくとも一日は持つよ?」
筋肉剣おバカはすごすごと退散した。大勝利。さて、アイスも溶けるし家に帰ろうか。
あ、ドニ。家に来てモンスターをハントする?そういう意味でなら遊べるけど。
この後めちゃくちゃハントした。
◆
ねっむ。
部屋の外出るときは権能の一つ使って一般人のふりしてるけど、体も人間に引きずられるから、当然徹夜でゲームしてれば翌日の学校は眠気が襲来する。
おはよう新学期。
新しいクラスだね。みんな友達作り頑張りたまえ。
私は寝る。
「お前ら揃ってどうしたんだ?」
「今朝悪魔が家に来てなぁ…兄妹関係をズタズタに切り裂いていった。」
「ほぉ、じゃお前は?」
構うな少年。私は悟りを開きかけている。
そう、具体的には、これで終わりにしようは終わらない、とか。
私のことは気にせずどーぞ。
と言うか次起こしたら社会的にぶっ殺すぞ少年。
「スミマセンデシタ。」
宜しい。おやすみ。
「はい!皆さん注目して!……というかあなた起きて」
何だ、私か。起きたよ起きた。
ふむ。どうやら転校生の紹介があるようだ。知ってるぜい。草薙の愛人さんやろ。
「みなさーん!ボンジョルノ!」
うっわほんとに金髪の美人さん来ちゃったよ。
しっかしまあ寝ぼけ眼でもわかるレベルで美人さんだ。人形みたいに整ってる。
まあどっかのジジイ達んとこの人形って意味もあるけどね!
そしてお人形さんは流暢な日本語で思いもよらない事を発した。
「わたしにはもう将来を約束した人がいます。それはあの人、草薙護堂です。」
教室がざわめく中、草薙のほおに…おぉおぉお熱い。
牽制もばっちし。さすが愛人。
半眼で隣の様子を伺ってるとするとお人形さんに声をかけられた。
え?隣の席譲れって?
「愛し合う私たちを助けると思ってこのワガママをお許しいただけないでしょうか」
はぁ?
「何言ってるの?いや、別に勝手に楽しんでるのはいいと思うけど他の人押しのけて迷惑かけるのはどうかと思うよ。」
「……え」
「まあ、この席に執着もないしいいけど。」
驚き呆けるお人形さんの横を通り、立ち上がって空いてる席に移動した。
魔術で言い聞かせようとしたみたいだけど、私には効かないし流石にそれはカチンと来たわ。人に頼む態度じゃないだろ。このお人形さんマイナス点だな。
ん。
あーちょっと寝たら帰るか。
あのやんちゃな爺さんが動き始めそう。面倒なことになるぞ。避難所を作らないと!具体的にいうと、家に帰ったら防衛強化しなくちゃ。
◆
夕方、学校を適当な理由で早退したら夕食が足りなかったのでとりあえず買出しに出かけてる時だった。
不穏な光景を見つけたのでワクワクしながら現場へと向かう。物陰からこっそり覗くといかつい男子高校生が儚げなか弱い女子高生に頭を下げさせている。これは事件ですね。
ぱしゃり。
おやおや。そこにいるのはマスターニンジャさん。王様が困ってるみたいだから助けてあげたら?
「…ッあなた誰ですか!」
あーちょっと魔術かじった草薙のクラスメイト。ほら、日本でカンピオーネとか全然見ないし鑑賞くらいいいでしょ。
早く行ってあげないと2人とも困ってるよー。
「そんな言い逃れに私が納得するとでも?それにどこで聞いたのか分かりませんが、その呼び名は嫌いです。」
いや、聞いたわけじゃないけど、その懐に入ってるのってクナイじゃないん?ニンジャ一択。
「馬鹿に、しているのですか?!殺されたくなければーー」
「良いよ殺して。『
無防備に手を広げその身を晒すが、攻撃は来ない。苦虫を噛み潰した様な表情のニンジャは武器を下ろすと草薙たちの方へ行ってしまった。
私の事を少し教える形にはなったが、どうせ記憶には
このやり取りは全くもって時間の無駄だったという事だ。
◆
「ただいマンモス。」
「何言ってるんだ君は。」
このギャグの高尚さがわからん…だと?!馬鹿な!いやドニは馬鹿だったな。
「それにしてもいつまでお前はここにいるん、だ!」
ドニに買ってきたドーナツを投げつける。しっかり片手でふんわり中身を崩すことなく受け取るちょっと芸達者な所がイラッとくる。当然のように封を開けて食べ始める。感謝の一言くらい欲しいよね。
「もちろん君と護堂と戦えたらかな!」
「一生出る気がないという事かな?呪われる覚悟は?ここにいるなら納得できる対価と理由を吐け。」
手をワチャワチャさせて迫ると諦めたように口を開いた。昨日はそれなりに私が楽しめたからいいけど、今日も泊まるつもりは全くないんだぞ。
「ここを出ないのは、ここがいい隠れ家だからだ。日本にあの元気な爺様がやって来ているのは君も知ってるだろう?」
もちろん。基本スタンスは触らぬ神に祟りなしなのでもちろん放置してるけど。
「護堂に勘づかれて逃げられると爺様と戦ってくれないじゃないか。」
ああつまりは、またパワーアップした護堂と再戦したいから護堂を育てるためにあのおじいちゃんぶつけると。
はあ?
「…冗談じゃない。私の街で勝手にドンパチ起こすなよ。めんどくさい。私の平穏を勝手に乱すな。と言うかお前がここにいたら私が巻き込まれる!尚更出ていけ!もうモンのハントは充分しただろ!」
話は終わりだ、とドニの首根っこを捕まえて窓の外に持っていく。大丈夫。お前だったらこのくらい死なないのは知っている。You can fly. 飛べなくても、死んでも問題ないだろ?
さあイタリアに帰りなさ……
「
…………。
はあ、と大きなため息を一つ。
それを言われたらしょうがないじゃないか。
「ドニ。話を聞こうか。」
満足そうにドニは微笑むと頷いた。
「OK。流石に話が早いね。ゲームになると。それこそ、不自然なほどに。」
ピシリと自分の顔が固まるのがわかる。ポーカーフェイスは苦手なんだが。
「…趣味が悪い。24のおじさんがJK苛めるのはいただけないね。」
今度は相手からピシリと笑顔が固まる音がした。余程、おじさん呼びがショックらしい。メモメモ。
「とにかくゲームするなら早く内容を教えてくれ。」
「あ、ああ。ゲームは簡単だ。護堂が爺様に勝ったら僕の勝ち。負けたら君の勝ちだ。手段は問わないよ。ただし、2人の戦闘に直接手を出すのは駄目ってことで。」
ふむ。
思ったより此方が有利だ。いや、有利すぎて逆に気持ち悪い。あのお爺ちゃん相手に草薙が勝つ?無いとは言わないが、というかカンピオーネという存在は確かに1パーセントの可能性を拾って行く生き物だが、それでも勝ち目が薄いのは明らかなのだから。何もしなくてもこのゲーム勝ててしまう。
裏があるのか?いや、こいつの場合は裏はそこまで深くに意味はないだろう。私が飲む条件で私にゲームを持ちかけ、草薙に適度な障害を作るのが目的か。だが、その思惑に簡単に乗ってやるのも癪なんだけど…
「ちなみに僕の勝ちの場合は、また
…勝ったら、アレをやるんだな?
「乗った。手を出して。」
『回れ、踊れ、廻れ、歌え。さすれば遊戯を始めよう。我は遊戯を司る者。今此処に此れを創める事を宣言する。勝利せよ。勝利せよ。己が全てを使って勝利せよ。五の花をここに。』
シャラン、という音とともに私とドニの手首には花の模様の痣がついた。あまり戦闘自体には使えないが、相手を誰であれ、決めたルールで縛るという点ではなかなかに良い権能だ。
さあ、ゲーム、しようか?
◆
やあ元気?
今日も愛人さんとイチャイチャしてる?元気だねえ。ご家族の心配かけないように、結婚は高校卒業してからをお勧めするよ。
「お前なぁ…で、急に話しかけてきてどうしたんだ?」
あのさ、草薙こう、丸くて手のひらサイズの趣味の悪い蛇の髪の毛の模様の入ったメダル知らない?
「これのことか?」
草薙の差し出した手の平には間違いなく、問題のゴルゴネイオンが乗っていた。
うんうん。
ちょっと貸して欲しい。
ほーへーはーん。
えい。
「おいいいいいなんで投げたあああ!」
ごめん衝動的に。割れてくれるかな、と思って。床に向けてだし許してほしい。
それにしてもお前もこんなめんどくさいもの持たされて、大変だな。じゃあ。ばーい。
そのまま私は
◆
俺は歩きながら不思議なクラスメイトについて考えていた。
隣の席だったその少女は、今思えばエリカの呪力のこもった言葉に操られることもなく自らの意思で席を移動していった。
エリカの能力は本物だ。一般人に跳ね返せるものではない。それはまだ短い付き合いの俺でもわかる。一般人ではなくまた彼女も魔術側の人間ということだろうか。エリカの術にかからないというなら相当の手練れなのか。
だが、あのクラスメイトからは呪力を感じない。
そういう体質なのだろうか。もう理不尽な存在を嫌という程見たので、そういう魔術を跳ね除ける体質と言われても驚かないけれども…まさかカンピオーネ?いや、だから彼女からは呪力を感じなかったのだからあり得ない。そもそも同じ国に他にカンピオーネがいるなら聞いていないはずがない。
少なくとも、エリカから貰った変なメダルを知っていて、貸して欲しいと言われたのだから魔術に関わっているのだろう。
「おーいエリカ!ちょっと聞きたいことがあるんだが。」
「なあに?護堂。貴方のためならなんだって答えてあげるわ。」
「あのさ、うちのクラスの……」
エリカに彼女のことを聞いてみようとして、そしてそこで気付いた。
あの子、名前なんだっけ?