南中吹奏楽部へようこそ!   作:千歳灯

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吹部見学

 さて、やってきました音楽室。中からは無秩序な楽器の音が聞こえてくる。

 50人近い人数のチューニングの音は聞くだけでも圧巻だ。小学校のころの吹奏楽は20人にも満たない数だったため、規模の圧倒的な違いにわくわくしてくる。

 

 音楽室に三人で入る。壁際には同級生だろう女の子達がある子は興味津々に、またある子は観察するように先輩たちを眺めている。

 私達も彼女たちの隣に並び、先輩たちを見る。皆真剣に、でも楽しそうに楽器を吹いている。とても良い雰囲気だ。

 

「よーし、結構集まったわね。みんな、やめっ!」

 

 私達の後にも何人か集まったのを確認した先輩……あの部長だ、が立ち上がって手を叩いて演奏を止める。

 

「ようこそ、吹奏楽部へ!私が部長の三月郁奈よ。正式な入部は来週になるので、それまでは体験入部という形になります。あ、もう入部を決めてる子は大歓迎よ!新入りとしてこき使ってあげるわ!」

 

 部長のドSー!と先輩たちから笑いの声が上がる。明るくて愉快な人だ。あんな綺麗な人がルパンやってたのかあ……。

 

「ちなみに、現時点で入部するって子はいる?手ーあげて!」

 

 その言葉に、壁際にいる1年生のほとんどが手を上げた。手を上げていないのは、力強く手を上げている大きなリボンの子の隣でだるそうな顔をしている子みたいな、友達の付き合いで来たような人くらいだ。

 

「おー、今年もいっぱい入りそうね。では、歓迎に一曲。あなたたちに送るオープニングテーマよ。ワンピースでウィーアー!」

 

 部長が話しながら指揮台に立ち、指揮棒を振り上げる。振り下ろした瞬間、金管の勇壮な音が体を叩いた。

 

 

 

 静かな余韻を残して、演奏が終わる。窓際で聞いていた私達は大きく拍手をした。

 隣に立つ笠木さんは目をキラキラさせて興奮しているようだし、みぞれも頬を赤くしながら手を叩いている。

 さっきの体育館での演奏もそうだけど、南中のレベルは高い。これで全国に行けないんだもんなあ。何が悪いのかわからない。

 

「ふう、どうだった?私達の演奏は!」

「すごくかっこよかったです!」

「ふふ、ありがとう!じゃあ体験入部の始まりよ。楽器色々用意してるから好きに見て回ってちょうだい。二三年生はちゃんと指導するように!」

 

 部長が促した途端、わっと後ろに用意してある楽器に群がる新入生たち。私達もそれに続こうとすると、先輩の一人が声をかけてきた。

 

「ねえねえ、あなた、それ、楽器?」

「あ、はい。私のオーボエです」

 

 手に下げているオーボエケースが目に入ったのだろう、そう答えると、先輩は目を輝かせた。

 

「それじゃあ、朝色々吹いてたのってあなた!?」

「あー……聞かれてましたか。うるさかったですか?」

「ううん、すごく上手だったから!うちね、部員いっぱいいるんだけど、オーボエわたししかいなくて!吹部入るんでしょ?わーい、やっと後輩ができるー!」

 

 それはもうすごくテンション高く先輩が喜んでいる。そこまで喜ばれると恥ずかしやら嬉しいやら、なんかこう、照れくさい。

 

「あ、わたし小粥紗英です。オーボエ担当で、副部長もやってるよ!よろしくね!」

「あ、はい。冷泉かなでです。よろしくおねがいします」

「かなでちゃんねー。そっちの子は?」

 

 問われて両隣を見やる。笠木さんはすでにそこに居なく、みぞれが隣……というか私の少し陰で隠れていた。可愛い。

 

「……鎧塚、みぞれです……」

「ふんふん、みぞれちゃんねー。みぞれちゃんもオーボエやるの?」

「…………」

 

 みぞれは一度ちらりと私を見上げてきて、はい、と小さく返事をした。

 

「わーい、後輩2人げっとー!二人ともよろしくねー!」

「わわっ、先輩!?」

 

 もうすんごい笑顔になった小粥先輩が抱きしめてきた。それに慌ててわたわたとするも、先輩は離そうとせず、さらには頬ずりまでしてきた。

 振り払えずにどうしようと思っていると、先輩の頭が小突かれた。

 

「いたい……」

「こら、紗英。新入生に絡まないの」

「だってー、オーボエの後輩ができたんだもん」

「楽器勧誘もしてたの……。それ再来週じゃない」

「だってー、朝吹いてたのこの子なんだよー?」

「あら、あの」

 

 部長の三月先輩が小粥先輩を注意しているが、のほほんとした様子に毒気を抜かれたようだ。というか、あのって何だあのって。

 

「そうだ、かなでちゃん」

「はい?」

「オーボエ、吹いてみてくれない?窓越しじゃなくて近くで聴いてみたい!」

「は、はい、わかりました。じゃあ、えっと、準備するので椅子借りたいんですけど……」

「いいよー。空いてるとこどこでもいいからー」

 

 失礼しますと声をかけてから腰を下ろす。

 オーボエを組み立てていると、部長が話しかけてきた。

 

「ごめんなさいね。うちの副部長が勝手して」

「そう思うなら止めてくださいよー……」

「ふふ、だって私も聞きたかったのだもの」

 

 くすくすと笑うその姿に悪気はなさそうだった。まあ、聴きたいと思われることは嬉しいので、私としてもそんなに抵抗はないのだが、こう、恥ずかしい。

 

「オーボエはいつから?」

「4年生からです。最初は音が出なくて大変でした」

「紗英もそうだったわねえ……1年の時泣いてたわね」

「あ、その話し聞きたいです」

「ふふ、今度話してあげるわ」

 

 談笑しながら組み立てる。リードももう大丈夫かな。開きを確認して軽く音を出す。んー、もうちょっと。

 

「これから何を吹くの?」

「どうしましょうか。朝はジブリばかりでしたけど」

「ジブリ以外だと何かできる?」

「んーと……情熱大陸とか……」

「あ、それいいわね!聴きたいわ!」

「りょーかいです。…………ん、よし。じゃあ吹きますね」

 

 立ち上がってみぞれと小粥先輩の元に戻る。……二人は何を話してたんだろう。なんか小粥先輩が私をにやにやしながら見てくる。

 

「……先輩、なんですか?」

「んー、なんでもないよー。じゃあ、きかせてー?」

「はーい。では、行きます」

 

 リードを咥えて、集中。息を大きく吸って、吹き込む。

 印象的なイントロをフォルテで奏でる。情熱大陸はタイトル通りに情熱的でかっこいい曲だ。草原を走る駿馬のように。獲物を捉える猛禽のように。野生の力強さと美しさ。私がこの曲に持つイメージを再現させるように。

 一曲を吹き上げて、一息つく。途端、大きな拍手が私の身を包んだ。いつの間にか、音楽室の全員がその手を止めて、私の演奏を聴いていたようだ。さっきまであまり興味がなさそうだった子も、興味深そうに私を見ている。

 うわー、うわー、恥ずかしい!何箇所か間違えたのにー!部長の方がかっこよかったでしょー!

 皆にお辞儀をして背を向ける。顔が熱い。耳まで赤くなってるのが自分でもわかるくらい。でも、でも、楽しい。自分の演奏でこんなに喜んでくれる人達がいる。それはとても、気分がいい。

 くい、と袖を引かれる。目を向けると、みぞれが見上げてくる。

 

「かっこよかった」

 

 にこり、と笑顔を見せてくれる。ああ、どうしよう。嬉しすぎて、泣いてしまうかもしれない。

 

「すごーい!すごい!かなでちゃん、かっこいー!」

「ほんと、びっくりしたわ。吹奏楽でやりたいわね……定演に入れちゃおうかしら」

 

 あーうー、あーうー!

 褒められまくった私は穴をほって隠れたい気分になっていた。

 けれど、口元が緩んでいるのが、止められなかった。




書き溜め終わり。メインキャラは大体出せたはず。
次回からは少し更新が遅れます。
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