よくよく、自分が異世界に行くとなると中々に緊張するものだ。
渡された番号札とにらめっこして早数分。いやもしかしたら数秒なのかも知れないけれど、自分の感覚では数分なので既に数分も経過しているのだ。
大して何か大きな事をした訳ではない。薩長同盟を組んだ末に暗殺された訳でもないし、国を助ける開発をした訳でもない。極々普通の一般人である自分が極々自然とトラックに轢かれて死んでしまった訳である。
気がついた時にはよく分からない機械の前に居て、機械の口からベェ、と出てきた番号札を手にした訳である。
色めきだつ待合室にごった返す自分と同じように番号札を握りしめる人達。
なんとなく、「ああ、こいつらも転生するんだろうなぁ」とわかってしまう。
さて、転生するに辺り、よくある特典というモノがある。神様に下賜されるモノだ。
それはスキルであったり、能力であったり、伝説の武器であったり、はたまた女神であったり。それはそれは心踊る訳である。
自分はどんな能力にしようか。どんな世界に行くのだろうか。どんな事が起きるのだろうか。期待で胸が一杯だ。
「114514番さーん。114514番さん。いらっしゃいませんか? じゃあ次の――」
「あ、はい! 居ます! ココです!」
自分の番号を呼ばれて手を上げて反応する。立ち上がり、恐らく係の人? であろう方へと近寄り案内される。
ではコチラです、と言い残されて扉の前に残された。
変に緊張してきた。いや、落ち着け。落ち着くんだ。深呼吸を一つして、三回扉を叩く。
「どうぞ」
短くハッキリとした言葉が扉の向こうから聞こえ、眉を寄せながら扉を開く。
部屋の中心にはパイプ椅子が一つだけ置かれていた。そしてその先には重厚感のある机に書類の山が置かれ、書類に羽ペンを走らせコチラを一瞥する部屋の主が存在していた。
純白の髪が眉の高さでバッサリと切られ、吊り上がった鋭い瞳がコチラを向いている。可憐よりも美麗と言える美しい容姿に気怠さが隠す事もされずに滲み出ている。
「はぁ……掛けてください」
「あ、はい」
面倒くささを隠す事が下手なのか、それともわざと見せているのか、大きく溜め息を吐き出した女性が座る事を促して、俺はパイプ椅子を鳴らした。
「――今回アナタを担当させて頂きます、女神です。よろしくお願い致します」
「よろしくお願いします」
「まず最初に、アナタは異世界転生をご希望されていますが、それは天界にとって何か利益に成りえますか?」
「は? えっと……?」
「ですから。我ら神の存在する天界――ああ、これはあなた方への説明を省く為に想像しやすいようにそういった俗称を用いているのですが。天界に何か利益を生む事はできますか?」
「ま、魔王を倒します」
「なるほど。魔王を倒す、と」
ヤバイ。変に口走った言葉が女神様の手によっておそらく自分の書類である紙に書かれていく。
「あ、あの、ちょっと」
「はい?」
「その魔王を倒すのはやっぱり無理かなぁー……なんて」
「……つまりソレは私に嘘を吐いた、という事ですか?」
「魔王倒します凄い倒します」
「凄い倒す、と……なるほど」
淡々と女神様の羽ペンが動いていく。まだ見ぬ魔王様。すいません、頑張って倒しますので、倒されてください。
「――それで、具体的にどう倒すのですか?」
「どう、とは?」
「まさか手段も思いつかないまま口にした、と?」
「ああいえ! もう聖剣とかでバッサリと倒しますよ! ええ!」
「聖剣、ですか。コチラで聖剣を準備すればアナタが魔王を倒す、という事ですね?」
「ハイ!」
やった。これで魔王を倒せる。この圧迫面接よろしくのチュートリアルから逃げ出す事が出来る。待ってろ異世界。今すぐ行きます。
「しかし、アナタの筋力値では聖剣を振ることも出来ず。精神値を見ても聖剣に触れる事も出来ませんが」
「さ、触れもしないんですか……」
「ええ。現在のアナタが今存在している聖剣に触れれば聖剣の意思――つまり現在に至るまでの勇者……便宜上聖剣を握った存在を勇者と呼んでいますが。過去の勇者達に乗っ取られ魔族を殲滅するまで戦う事になりますがよろしいですか?」
「魔剣じゃねぇか!」
「聖剣です」
異世界怖い。何、その世界観。世紀末なの? いや魔王が跋扈してる事を考えると世紀末なんだろうけどさ。
「じゃ、じゃあ……えっと、こう大魔法を使って、バーンと」
「……」
「……ダメですか?」
「いえ。魔力も無いくせに何言ってんだコイツとは思いましたが……」
「辛辣ゥ……」
「……これでも慈悲深い方です」
「あ、ハイ。すいません」
鋭くなった睨みに思わず謝罪を言葉にする。
いや、それよりもどうする。魔法もダメ。聖剣もダメ。魔王を倒す事は義務付けられている。考えろ、考えるんだ。
「そ、そうだ。転生特典とか無いんですか?」
「輪廻の輪に乗せず異世界に転生させる事が特典だと思いますが?」
「そうですね! 恵まれてる!」
ダメだ! 逃げれない!
過去に異世界に行けた人たちはどうやって特典をもぎ取ったんだ! 思い出せ。思い出すんだ。ウハウハ異世界ライフの為に必死に記憶を探すんだ。
「そ、そういえば今回、私が死んだのは神様のミスなので――」
「全知全能である我らが父を愚弄するのですか?」
「いえ、確認の為に聞いただけですごめんなさい」
ガッデム! 女神様強すぎない!? 特典をもぎ取る事も出来ないんだけど!
やばいよ。このまま何も無く異世界転生してもそのまま死んじゃうよ。
「では、これ以上無いようですので異世界転生させますが、何かご質問はありますか? 来る日も来る日も異世界転生を望まれる魂のお陰で疲れてるので休みたいんですが」
そりゃ最低114514つの魂も処理してたら疲れるのは分かるんですけど、そんなおざなりにならないでくださいお願いします。
「あ、あの!」
「はい。なんでしょうか」
「私の担当、という事は異世界で魔王を倒す、世界を救うまでを見届けなくてはいけないのでは?」
「……なるほど。面白い冗談ですね。笑っちゃいます。現実見えてます?」
「デッスヨネー……」
もう無理だお終いだ。異世界転生を果たしてもそれほど意味のない人生を送るに違いない。
記憶が持ち越されているかはわからないけれど、すまない。異世界の俺。今世の俺が不甲斐ないばかりに特典すらもらえなかった。強く生きろよ。お前、魔王倒すんだぞ。
マジかよ。
異世界の目覚めというのはそれほど特殊なこともなく。強いて上げるのならば綺麗な青空の下で目が覚めた事だろうか。
うわー。一面平原なんですけど。凄い異世界って感じがする。なんだろう。異世界だ。もう異世界だ。異世界なんだろ……魔王倒すんだぜ? マジかよ。
「マジよ」
「うぉう!?」
声のした隣を見れば純白の髪を眉の高さでバッサリと切り、見えなかった背中まで髪の長い女性がいた。鋭い目つきのまま俺を向いて、やはり気怠さを隠そうともせずに溜め息を吐き出した。
「君の突拍子もない、常軌を逸した言葉だけれど、確かに正論だったわ」
「こ、言葉遣いが変わりましたね、女神様」
「仕事とプライベートで言葉遣いの変わらないヤツなんているの?」
なんだこの女神様凄い俗っぽいぞ。
いやしかし考えてみれば、女神様の祝福さえあれば魔王も頑張れば倒せて俺ツエーとか出来るのではないだろうか。希望が見えてきた。
「祝福? 無教徒のくせに何言ってんのよ」
「ですよねー」
「ま、君が魔王を倒すまで見ててあげるわ」
「うわー、嬉しいなぁ。ちなみにフォローとかは」
「無いわよ」
「デッスヨネー」
「さ、行くわよ。君の冒険はまだ始まったばかりなんだから」
女神様の手を取り俺は立ち上がる。街道らしき道と平原の広がる世界。
確かに俺はここに立っていた。
「そうそう。夜になると街の門が閉まるから急いで移動する事をオススメするわ」
俺は走った。もう久しく全力で走ってなかったけどそんな事は関係なしに走った。
主人公
何の取り柄もない極々一般的な人。
世に蔓延る異世界転生に憧れたものの現実に打ちのめされた人。夢は夢。
やや運動不足で筋力値も低く、現代日本人であるが故に神秘性が足りず魔法も使えない。木の棒で素振りをして筋肉痛になる未来を彼は未だ知らない。
目標である『魔王を倒す』を達成する為に女神様に監視されながら異世界を満喫する。
女神様
冷淡系美少女。毒舌家。正論を真っ直ぐ口から出してる結果。
職務である異世界転生の斡旋の仕事量が近年で増えて疲労が蓄積してる。そろそろ部下がほしい。
神様の中では慈悲深い方でありながら正論を言うので、アッサリと信徒を他の神様に奪われたりする。
基礎スペックが高く、オークをステゴロで倒せる。
異世界
実は主人公が最初に「魔王を倒す」と言ったから殺伐とした世界になっている。「商会を創り、神へ奉公する」とか言ってたら平和な世界に転生している事を主人公は知らない。
敵キャラが洋ゲ―ベースなのでゴブリンが最弱であるけれど数が揃うと危険度が跳ね上がり、スライムが強敵認定されている。
魔王が沢山居て、人間と共存を望んでる魔王も居る。(凄い倒す要素)
続かない。