毒舌女神正論派   作:猫毛布

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次でおしまいです。


夢想異世界暗黒派

 あの日から俺の異世界人生は始まった。

 魔物、モンスターを倒し、殺しを享受し、殺される事も理解して、殺していく。ただ自身の利益の為に殺し、魔物を血を浴びて更に力を付ける。それは最早、人としての生を逸脱した存在でしかない。魔王を倒す事だけを思念とした怪物だ。

 理想とかけ離れた夢想通りの異世界転生。光など必要ない世界。それこそ光など女神様だけで十分だと言えるような生き方。

 そんな生き方もいいだろう。それこそ夢想通りである。

 

 けれど、しかしながら、待ってほしい。

 どうして俺は筋トレを未だにしているのだろうか。

 怪物に成ったにも関わらず、人としての何かを得ようとしている――訳ではない。

 そもそも俺はダークサイドになんて落ちてない。

 モンスターを殺して、血を浴びた所で女神様に「臭いわね。そこに川があるからさっさと流してきて」と言われるだけなのである。川は思った以上に冷たかったけれど、女神様の視線に比べれば温泉のようだ。

 

 果たしてこの世界はどういう世界なのだろうか。

 よくよく、異世界転生というモノを筋トレしながら考えていると疑問に思う。

 これでも街から出て、女神様と旅をして既に二週間。倒した魔物の数は三七体。ゲームで言うなら、レベル一の俺がレベルアップしてもおかしくないと思うし、ゲームのシステムとかで大器晩成型だったりしてもレベルが上がらないのはおかしい。三七体である。

 変に思った俺が女神様に少しばかり巫山戯て「女神様、俺の次のレベルアップまでの経験値はいくらですか?」なんて聞いてみれば極寒の眼差しで「頭のレベルは下がったみたいね。筋トレのさせすぎかしら」なんて言われるのだ。

 俺の知能レベルは決して低下していない。むしろ以前よりも思考が回転するようになっている。

 どのように鍛えればどこの筋肉が付くのか、すぐにわかる。いや、そうじゃない。

 

 経験値のない世界。スキル制でもない世界。もっと言えばステータスオープンなんて言っても、ステータス画面はさっぱり出なかった。言い方の問題なんじゃないかと思って色々と試したんだ。女神様の視線が汚物を見るようなモノに変化するまで俺は頑張ったんだ。

 ステータスも確認出来ない世界、と嘆く意味はそれほどなかったりする。そもそも自身や他人のステータスなんてわからないのが当然なのだから、俺は異世界転生に夢を見すぎていたのかもしれない。筋トレばっかさせられてるし。

 

「女神様女神様」

「何かしら?」

「何体も魔物を倒してる訳じゃないですか」

「経験は蓄積してるわよ」

「あ、いや、レベルの話じゃなくて」

「……アナタの身体に蓄積してる魔素の話かしら? 直ちに人体には影響はないから安心なさい」

「うわー、聞こうとしたことと全く別の事なんだけど聞き逃せない情報が飛び出てきたんですけど……」

「アナタの生前――というのは正しくはないわね。以前のアナタであった存在が関係しているのか、溜まりにくい体のようだから安心なさい」

「ちなみにその、マゾ――」

「魔素」

「……魔素が溜まるとどうなるんです?」

「どうにもならないわ」

 

 どうにならないんかい。

 相変わらず面倒そうにそう呟いた女神様に心の中でツッコんでしまう。こう……魔物になるとか、魔法が使えるようになるとか、そういうモノかと思ったのに。

 いいや、そうじゃない。俺がそもそも聞きたかった事は魔素とかいうどうでもいい成分の事ではない。

 

「この世界って魔物を倒してもお金とか落とさないんですね」

「………………」

「いい加減、『何言ってんだこいつ』視線には慣れましたー」

「何言ってんのアナタ」

「言葉にされると効きますゥー」

 

 冷徹極まりない視線に加えて言葉まで追加された口撃は当然の如く俺の心へと打撃を与えてくる。刺突系であったならば心を撃ち抜かれる所であったけれど残念な事に女神様は拳で戦う女神様なのだ。撃ち抜かれるどころか穿ち抉られる事だろう。

 胸を押さえている俺に溜め息を吐き出してからやはり面倒そうな顔をしながら女神様が口を開く。

 

「前のアナタが居た世界で生物を倒せばお金は落ちたのかしら?」

「落ちませんね」

「そもそも魔物が人類で流通している金銭を所持している訳がないわ」

「ほ、ほら光り物が好き、とか?」

「人類で流通している金銭は信用で成り立っているのよ。魔物に襲われる理由に成り得る増えるモノが信用に足ると思う?」

「……つまり?」

「この世界の魔物を倒してもアナタが得るモノは溜まりにくい魔素と足りない経験だけよ」

 

 俺はあとこの女神様に幾つの憧れを潰されるのだろうか。いや、マテ、俺はあと幾つの憧れ(残機)を持ってるんだ? 唯一残ってるのは美少女要素だけだぞ。異世界、美少女、そしてステゴロ。なぜなのか。

 絶望にも似た日常的な感覚を溜め息で吐き出して気持ちを切り替える。

 旅を続けて、二週間。あの柔らかくもないベッドが恋しくて仕方ない。

 

「今日も野宿ですかねー」

「近くに村はあるわ。そこまで頑張りなさい」

「というか、どうして俺が荷物を持ってんですかね?」

「か弱い美少女に持たせるつもり?」

「か弱……いや、か弱いです。すいません、腕を下げて、拳を下げて」

 

 革製の手甲装備でゴブリンの群れを殴殺するほどか弱い女神様にお願いされては仕方ない。決して脅されている訳ではない。

 ともあれ、近くに村があるのならばソレは朗報である。乾物ではない食事、火の番をしなくていい夜、柔らかくないベッド。

 それを想像すると、重さを感じる荷物が余計に軽く思えた。けれど思うだけで口や態度に出さないのはその瞬間に女神様が「筋力が足りないわね」とか言うに決まってる。知能レベルは下がってないのでそれだけはわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冒険者殿。お願いがございます。どうか、近隣に住まうオークを倒してくだされ」

 

 と村長さんに言われたのがつい一時間程前。その依頼を女神様が快諾してからの時間もまた同じである。

 体長が一メートル程度のゴブリンに対してオークは人の倍程の体躯であるらしい。そんなモノと戦える程、俺はたぶん強くない。

 村の人に教えられたオークの巣までの道のり。正確に言うなら獣道、もっというなら道なき道を歩きながら後方にいる女神様に声を掛ける。

 

「俺ってオーク倒せるぐらいには強くなったんですか?」

「攻撃を全部避けて、死ぬまで攻撃してれば勝てるわ」

「正論だなぁ。……ちなみに勝てる可能性とか?」

「勝てると思えば勝てるわ」

「根性論だぁ……」

 

 果たして目の前に俺の想像するオークとやらが出てきたら勝てるのだろうか? きっと無理だろう。『攻撃を全部避けて』と女神様が言うからには一撃でも当たれば俺はアッサリ死んでしまうのだろう。

 負ける気しかしねぇよ。

 そんなある意味無謀極まりない依頼である。加えて一時間近くも村の近くにあった森を突き進んでいる俺は結構疲弊している。旅の疲れもあるし。

 

「それで女神様」

「何かしら?」

「どうしてこの依頼請けたんですか?」

「どういう事かしら」

「ほら、俺が勝てるか微妙って事は成長の為でもないし、村の依頼って事はそれほどの稼ぎにもならない筈だし」

「困ってる人を助けるのは当然でしょ」

「それを言われると返す言葉が無い」

 

 たぶん後ろでは『何言ってんだこいつ』って目で見られているんだろう。そんな感じがする。

 確かに、女神様の言っている事は間違いではない。正論だ。相変わらずの正論である。

 けれど、正論であるのだけれど、正しいのだけれど、それは間違っているのかもしれない。それこそ俺視点――人間視点から見れば正論しか吐き出さない女神様は正しくて清純で触れ難いモノなのだ。女神様であるから当然なのだけれど。

 

「止まって」

 

 どうにも纏まらない思考は肩に置かれた女神様の手によって遮られる。骨がミシリと鳴った気もするけれどきっと気のせいに違いない。

 足を止めた俺もようやく違和感に気づく。辺りに漂う悪臭。嗅ぎ慣れた血の匂いとはまた違った腐ったような、吐き出しそうな匂いに思わず眉を顰める。

 地面を揺らす足音と草だけでなく枝も折りながら進んでいるだろう音が鼓膜を揺らした。

 

 木々の隙間からその巨体は見えた。

 カビたように、苔でも生えているかのような深い緑色の肌。巨木のような筋肉の塊の腕。自分の倍ほども高い背丈。

 アレと戦う、と考えれば思わず緊張してしまう。というか、死ぬ。アレは絶対に死ぬ。手に持ってる棍棒は俺が振ってたような棒ではない。巨木を折り、無骨に削っただけなのだけど、上から落ちてきただけで人間なんて潰されてしまうだろう。

 生唾を飲み込んでいる俺の肩に手を置いていた女神様がゆっくりと動き出す。動き自体は緩慢であるけれど、胸を張り、隠れるという事はしていない。

 

「な、何してんですかっ」

 

 思わず女神様の腕を掴んだ俺は悪くないと思う。

 女神様のことだから無警戒、ということはないだろうけれど、その姿はあまりにも隙だらけであった。

 顔を少し動かして瞳だけで俺を冷たく見る女神様。いつものように面倒を露わにせず、綺麗過ぎる顔からはさっぱり表情が読み取れなくなっている。

 

「何?」

「どうして真正面から戦おうとしてるんですか。もっと奇襲とかあるでしょ」

「卑怯でしょ、そんなの」

「そうだけど! そうなんだけどさ!」

「それに――来たわよ」

 

 影になった視界を上げれば、そこには先程まで少しばかり遠くにいた筈のオークが立っていた。

 興味ありげにコチラを見下し、棍棒で肩を軽く叩いている。死んだ。絶対死んだコレは死ぬ。

 死んでしまうというのに、俺の体は反射で行動した。腰に帯びた剣を抜き構えている。手は震えているけれど、ちゃんと構えてしまっているのだ。

 

「無理無理、絶対死ぬってコレ」

「アナタは逃げてもいいのよ」

「逃げたいけど身体が戦う方に向いちゃってるんですゥ! 戦闘訓練のお陰ですかねチクショー!」

「……そう」

 

 俺の弱音の叫びをどこか少しだけ嬉しそうに頷かれる。女神様のせいですよ!

 震える腕を無理やり抑え付けて、俺はしっかりと目を開いてオークを視界の中へと入れた。

 怖い。けれど怯える事はない。相手の動きをちゃんと見れば、大丈夫な筈だ。

 俺は出来る。それは正しい事を口にする女神様が証明してくれているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 果たしてオークとの戦闘というのは呆気なく終わった。

 特筆すべき事はそれほどない。俺もそこそこに戦えた事……は別に必要ない事だし、女神様が頭上から振り下ろされたオーク渾身の一撃である棍棒をガードした事ぐらいだろうか。けれどオークも俺も唖然とした事は言うまでも無いことなのである。

 

 村の危機を救った、という事で村人総出で祝ってくれている。非常に嬉しい事だけれど、俺の隣にいる女神様は顔を僅かに顰めている。

 

「どうかしたんですか?」

「……当然の事をして感謝される意味を考えてたの」

「あー……」

 

 木製のカップを両手に包んでそう呟いた女神様に納得してしまう。

 誰かを救う事も、誰かの願いを叶える事も、女神様には当然の事で、感謝されるような事ではないのだろう。

 感謝されたとしても、それは神様としての信仰の一部であるし、こうして女神様個人(個神)として感謝されるという事もなかったのだろう。

 困った人を助ける事は当然の事。それは正論で当然の事だ。そして当然の事をしたのだから、感謝される意味が理解出来ないのだろう。

 神様としてならソレはたぶん、当然の思考で、正しい思考なのだろう。

 

「困った人を助けたからですよ」

「……意味がわからないわ」

「ほら、困ってる人を助けるのは当然だけど、困ってて助けられたら嬉しいでしょ」

「…………それは、わかるわ。でも私は女神なの」

 

 カップの中に注がれていた葡萄酒の水面に視線を落とした女神様に俺は笑ってしまう。

 

「でも今は俺と一緒でしょ」

「え?」

「俺と女神様は単なる《冒険者》でしかないって事」

 

 ほら、と楽しんでいる村人達の方へと視線を動かせばどうやらコチラの視線に気付いたようで笑顔のままカップを持ち上げて反応してくれる。そして口々に「ありがとう冒険者さん」と言ってくれるのだ。

 それは、助けられた側の当然なのだ。神様ではなく単なる冒険者である俺たちに感謝している。それだけなのだ。

 

「……正論ね」

「でしょ? だから今は楽しみましょうよ」

「……アナタ、今日のノルマは?」

「げっ……やっぱり熟さないとダメですかね」

「……いいえ、今日ぐらいはサボってもバレないわ」

 

 ホッとした俺が可笑しかったのか、女神様はクスクスと楽しそうに笑ってカップを軽く持ち上げる。

 俺もソレに倣ってカップを持ち上げ、少しだけ言葉に迷う。

 

「村の平和に?」

「いいえ、冒険者であるアナタに」

「じゃあ、冒険者であるキミに」

 

 お互いに可笑しくなって笑い合う。そして声を合わせて言葉を吐き出す。

 

「乾杯ッ!」

「乾杯」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたのは、日が高く昇ってからであった。

 アルコールが未だ残っているのか頭痛に眉を寄せながら起き上がった俺は辺りを見渡して、違和感を感じた。痛む頭を抑えながら、何度も頭の中で否定して、どうにか立ち上がって、宿として貸してくれていた家を出る。

 その違和感が不快感に変化し、冷や汗が溢れる。

 村長の家の扉を乱暴に叩いて、返事が返ってくる前に開く。

 そこには申し訳無さそうな表情をした村長がいる。不快感が絶望感へと変化していき、心臓を掴まれたような錯覚を感じる。

 

「――……俺の連れを、知らないか?」

 

 何度か呼吸を整えて、口籠りながら、ようやく出てきた言葉を村長はわかっていたのか、目を伏せて、やはり申し訳なさそうに口から謝罪を溢した。

 そんな事を聞いている訳ではない。そんな言葉を聞きたい訳じゃない。

 

「女神様は――、魔王に連れて行かれました」

 

 オークの棍棒を頭に受けたような衝撃が走った。酒による頭痛などすっかり吹き飛んだ。

 魔王に連れて行かれた、という言葉もそうであるがソレ以上に俺の頭を支配したのは、()()()が口にした女神様という言葉だ。

 

「アンタ――知ってたな? 彼女が女神だって事」

「仕方なかったのです。この村を守る為に」

「知ってて、俺たちを嵌めたんだな!」

 

 考えれば変だった。オークに襲われて困りながらもどうして()()()()()の位置を正しく知っていた? 討伐は本当に困難だったのか?

 ふつふつと心を揺らす感情が拳になり、村長の目の前にあった机を叩く。広がる痛みで少しだけ頭が冷めていく。

 

「許してくだされ、冒険者殿。我々も罪の意識は――」

「わかった、わかったから謝るな。アンタは正しい選択をした。だから彼女も正しい選択を選んだ。だから謝ってくれるな。彼女を侮辱するな」

 

 歯を食いしばり目の前の男から視線を外す。

 そう、女神様は正しい選択をする。だから、きっと間違いではない。正論しか吐かない女神様だからこそ、魔王とやらに連れて行かれた。

 大きく呼吸をして、感情の波を小さくしていく。

 

「――その魔王とやらはどこに居るんだ?」

「ま、魔王の所在ですか?」

「ああ。知ってる事は全部言ってくれ」

「その、大変申し上げ難いのですが……」

「知らない? 俺たちを騙した挙句、そんな事を言えるのか?」

「いいえ! 魔王城への道のりは知っておりますが……。その、女神様からの伝言がありまして」

 

 辿々しく言葉に出す村長の方へと改めて視線を戻し、言葉を促す。

 

「『アナタが魔王に立ち向かうにはまだ早い』と」

「……なるほど、正論だ」

 

 間違いなく正論を言う女神様の言葉だ。

 俺は大きく溜め息を吐き出してどれだけ自分が愚かな事をしようとしていたかを認識する。

 オーク相手ですら怯えていたのに、急に魔王だなんて確かに正気の沙汰ではない。俺には早い、というのも理解出来る。

 確かにそれは正論だろう。間違いなく、正論だ。

 

 

 

「それで――

 

      魔王城までの道のりは?」




>>魔素
女神様「直ちに人体には影響はない」
 蓄積されると人体に影響が出る。
女神様「どうにもならない」
 蓄積された結果どうにもならない事になる。

 蓄積していくと魔物化して主人公を殺す事になる。因みに魔物を倒し終わって、主人公が寝てる時とか、ふとした時に女神様が主人公に触れて浄化してたりする(設定)

魔物の序列とか
>>ゴブリン
 単体なら大人は倒せる。群れだと強い
>>オーク
 単体でも強い。薄い本担当。今作は薄い本ではないので弱め
>>スライム君
 人体を溶かす系のグロい見た目の粘体生物。物理攻撃が利かないヤバイ奴。コアの破壊の為に腕をツッコンでシャイニングフィンガーするか、魔法で焼却するか、巨大扇風機で吹き飛ばすと倒せる。
>>魔王
 基礎スペックは低い奴もいるけど、不思議な力()で倒せない。
 ヤバイ級のヤバイ奴は山奥で惰眠を貪ってる龍(人に対して好意アリ)と人に紛れて一つの街の代表をしている錬金術師(人に対して敵意ナシ)。今作には出ない。
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