戦姫絶唱シンフォギア Tears to Tiara 作:リューイ
狭い遺跡の通路に戦の音が響きわたる。
翼を一番槍に響、アロウンと続き後ろでクリスが援護する。
つたない付け焼刃の連携だが骸骨の兵隊程度を相手にするには十分だった。
アロウンは翼たちと連携しつつも緒川や未来の方に骸骨たちが行かぬようにうまく立ち回りつつ近づいてくる骸骨どもを切り伏せていく。
そしてその間も装者たち3人のフォローにいつでも回れるように気を配っていたが装者たちには必要なかったようだ。
3人それぞれ戦いのスタイルは違えども実戦と訓練で磨かれてきた力は骸骨の兵士ごときを倒すのに何ら不安を感じさせない。
「このまま一気に駆け抜けろ‼」
「云われるまでもない!」
「はいっ!!」
「オッサンこそとろくさ動いてあたしの邪魔になんじゃねぇぞ。」
アロウンが号令をかけると装者たち三人はそれぞれに返事を返す。
一言が三倍になって帰ってくる、それは寝起きのアロウンには少々かしましすぎる。
しかし同時にそれはアロウンに自らの目覚めを否応なくリアルに感じさせもした。
アロウン一行が通行を阻んでいた骸骨たちを一掃し遺跡の出口に向かい進んでいると翼たちや響たちが通ってきた道が落盤により塞がっていた。
「どうなってんだよ! これ! あたし達は建物壊さねぇように来たってのに一体誰が崩しやがった。」
クリスのまるでここにいない誰かに怒鳴るような疑問にははアロウンが答えた。
「恐らく至る所にしたいが埋め込まれていたんだろう。 骸骨どもが外に出てくるときに一緒に崩れたのだろう。」
「だとすれば壊して進んでも生き埋めになるだけと言う事か。」
剣を強く握りしめ忌々しそうにつぶやく翼が呟く。
そんな時、一行の後ろから足音が聞こえてきた。
「何者だ!!」
翼たちが振り返るとそこには竜の装飾を施した杖を持つ体格の良い人物が立っていた。
その人物は最初青いローブのフードを目深にかぶっており誰だか分からなかったが、翼の声に従いフードを取った。
フードの下のその顔は頭髪だけでなく綺麗に整えられた口髭まで白髪かったがどこか逞しく感じられた。
響、クリス、未来は最初、そのがっしりとした体格とよどみを感じさせない歩みに老人だと思っていなかったのか驚いていたが翼は別の事に驚いた様子でその人物の名を呼んだ。
「オガム翁‼! なぜこんなところに!?」
「お久しぶりですな、翼殿、アロウン様もお変わりなく。」
オガムのその矍鑠とした姿にアロウンは懐かしくなりつい悪態をつく。
「お前の方こそジジィのくせにまだ死んでいなかったか、相変わらずしぶとい奴だ。」
気の置けない相手の様に接するアロウンとオガムに翼は何がどうなっているのか問い詰めようとしたが何やら後ろのアロウンや響がうるさい。
「ダメですよ! 魔王さん、お爺さんに対して死んでなかったかなんて言っちゃ。」
「別に死ねと言っているでなし、これぐらいかまわんだろう。」
そんな事で痴話げんかの様な言い争いをする響たちに翼は苛立ちを感じずにはいられなかったのか声を荒げる。
「あなたたち少し静かにして、いま私がオガム翁から話を聞こうとしているの分からないの!」
アロウンは翼に怒鳴なれるなど何も堪えていないが響には効果絶大のようで叱られた子犬の様にシュンとしている。
そんな響を見て不憫に思ったのかオガムはとりなす様に話を進める。
「まぁまぁ、翼殿、今は此処から脱出することが一番。詳しい話はあとにいたしましょう。 さぁ、こちらへ。裏口へと通じる隠し通路が伸びている故。」
その言葉に一理あると感じた翼はオガムについて行こうとしたがこれまで黙って翼たちのやり取りを見ていたクリスが翼の腕を掴み己に引き寄せ耳打ちをする。
「おい、あの爺さんについて行って大丈夫なのかよ。こんなところに急にあんな古風な格好で現れて魔王とまで顔見知りって、どう考えてもうさん臭さが限界突破してんじゃなねぇか。」
「大丈夫だ、 オガム翁は以前からの知り合いだ、信頼できる。 ここは信じてついて行こう。」
そう言うと翼は先に言っているアロウンや響たちに続いてオガムを追っていった。
その後をクリスも「あぁもう! しゃねぇなぁ。」と言いながら何もわからないイライラを紛らわすように己の頭をかきながらついて行く。
暫く一行がオガムの先導で歩いて行くと出口らしきものから外の月明かりが入ってきている光景が見えた。
だが皆が喜んだのもつかの間出口から外に出てみるとそこは遺跡の裏側で切立った崖だった。
「やい! じじぃこれは如何いうことだ!! 全面崖じゃねぇか?」
クリスは怒っていた。
オガムを信じてついてきて、出口が見つかったと喜んだのも束の間、外に出てみれば周りは崖、クリスの怒りも仕方のないことかもしれない。
自分たち装者は何とか崖を降りるなり何なりできるだろう、緒川も心配はいらないだろう、しかし生身の未来はどうだろう。
最初喜ばされた分怒りに転じた今落差が大きかったのだろう。
だがそんなクリスをオガムは苦とも思わず年相応の好々爺然とした雰囲気でなだめすかす。
「ホッホッホッ 若い方はせっかちで行けませなぁ、もうすぐ迎えが来るでしょうからしばしお待ちを。」
オガムがそう言うと遠くからヘリのローター音が聞こえてくる。
その音は次第に大きくなり近づいてきているのが分かった。
やがてその機影が見え始めた頃、翼たちはそれが迎えなのだと確信を持つ。
なぜならばそのヘリにはS.O.N.Gのマークが書かれていたからだ。
ヘリが着陸するとすぐに扉があいた。
「みんな、早く。」
「ヘリに乗るデース。」
扉を開けたのは調と切歌だった。
すぐに響たちはヘリへと乗り込む。
全員乗り込んだことを確認すると翼は「全員乗った! 出発してくれ!!」と声を張り上げた。
「OK! 離陸するわよ、しっかり掴まっていなさい。」
ヘリを運転していたのはマリアだった。
調と切歌が乗っていたので予想はしていた翼だがなぜこんなところにS.O.N.Gのヘリがあるのかと戸惑う。
「マリア、これは一体…… なぜS.O.N.Gのヘリがあるんだ?」
「それは潜水艦本部がバルベルデまで来ていたからよ。 それで指令がそこのお爺さんの要請でヘリを出すことを認めたのよ。 けど今は撤収優先、詳しい話は本部に戻ってからにしましょう。」
マリアはさも簡単に言うがそれはとてつもなく大変な事態なのではないかと翼は思ったがマリアの言う事ももっともであるし、何より今は無事に未来が戻ってきたことを皆と喜ぶべきと考えそれ以上は何も言わなかった。
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本部潜水艦に着いたアロウン一行を迎えたのは指令風鳴弦十郎だった。
「お前たち、よく戻ったな‼ 未来君も無事で何よりだ。 早速で悪いんだが中で何があったのか報告を頼む。」
弦十郎が先導し全員が指令室に入ると緒川、未来そして装者たちが口頭で起きたことの説明をしていった。
はじめは黙して聞いていた弦十郎だが流石に響がアロウンを引き取ると言う所では顔をしかめ唸る。
だがそれでも何も言わず最後まで報告を聞く一言。
「響君が魔王を引き取ると言うのは後でまた話し合うとして、今度はこちらで何があったのか説明しておこう、今後の行動にも関わってくるしな!」
そう言いと今度はS.O.N.Gの本部で何があったのかを話し始めた。
「潜水艦本部は我々が空路でバルベルデに向かう前、皆が準備のため艦を降りた後すぐに日本を出港していたんだがやはり我々のバルベルデ到着には間に合わなかった。しかし我々の到着から数時間遅れで到着してくれた本部も到着したのでヘリを応援に出してもらったのだが、その時オガム翁とであってな。お前たちが崖の方から出てくるだろうから迎えに行くように頼まれたんでヘリの一機をマリア君たちに任せ迎えに行ってもらって 俺は本部からいつでも応援部隊を出せる様に準備していたしだいなんだが、それは必要なかったようだな。」
弦十郎は一通り話し終えたが険しい顔を崩さない。
それはまだ言いにくい話が続くと言う事に他ならなかった。
「そして今回の事に関して国連から要望が来た。まぁ要望と言うよりは取引を持ち掛けられたと言う方が正しいかもしれんが、今回の勝手な出動を不問とする代わりにバルベルデのアルカノイズなどの錬金兵装とそれに守られている兵器工場などの排除をするように言ってきた。 装者たちには立て続けで申し訳ないがもう一働き頼む。」
そう言い頭を下げる弦十郎にはどことなく無念さと怒りが奥底にある様子だった。
そしてそれを聞き未来も自分がさらわれたせいで響たちを戦争が起こっているさなかに行かせてしまうことに罪悪感を覚えずにはいられなかった。
「ごめんなさい、私がさらわれたばかりにこんな事になってしまって。」
「そんなことないよ!! 悪いのは未来をさらった奴らですよね、翼さん」
すぐに響は未来の考えを否定し翼に同意を求める。
すると翼もそう思っていたのかすぐに同意した。
「もちろんだ。立花の言う通り小日向が気にする事ではない。」
そしてそこで話を切るためか弦十郎の方に向き直り作戦の内容を聞く。
「それで指令、作戦の内容はどのようなものなのですか?」
「次の任務は化学兵器のプラントを制圧することだ。 川を遡上して上流にあるプラントに進行する。」
弦十郎の説明は明瞭であったがひとつわからないことがあった、アロウンの事だ。
翼が皆を代表するようにそれを聞く。
「指令、私たちが任務に出ている間、魔王を如何するつもりですか? 奴は高い戦闘能力を持っています、このままここに置いておくわけにもいかないと思いますが。」
先送りにしていたがこれも弦十郎の頭を悩ませる問題なのか彼は腕を組み思案している様子だった。
そんなの時また響から突拍子もない名案が出た。
「はい! 私に名案があります! この際魔王さんにもエージェントになってもらって任務を手伝ってもらうっていうのはどうでしょう? そうすれば魔王さんを本部に置いておかなくて済みますし、戦力も増えるし、魔王さんお働き口も見つかる一石三鳥だと思います。」
響の案は一見問題をすべて解決しているようにも見えるが翼が気にしている魔王を信じていいのかと言う最初の問題を何も解決していなかった。
故に翼は反対をしようと声を上げようとするが先にアロウンから否定の声が上がった。
「ちょっと待て、勝手に起こしておいてすぐ働けって、冗談じゃない、俺はもう少し休ませてもらうぞ。」
そんなぐうたら発言をしたアロウンの背中に悪寒が走った。
そしてアロウンの肩にポンと手が添えられる。
「魔王さん、響だけ働かせて自分は働か煮つもりじゃないですよね。」
そうアロウンの肩に手を掛けたのは未来だ。
背の高いアロウンと未来ではその格好は不自然で滑稽に見えそうなものだが今は全然そのような雰囲気ではない。
それは未来がかなりお怒りだからだろう。
「そんなつもりないですよね。」
未来の指がアロウンの肩に食い込む。
これにはアロウンもたまらず許しを請う。
「わかった、わかったから、怖いから話してくれ。」
アロウンは何とか未来から逃れると弦十郎に問う。
「それでそっちの意見はどうなんだ。」
アロウンに話を振られた弦十郎はしばし考える様子を見せてから許可を出す。
「この際、戦力は多いに越したことはない、響くんの提案に乗ろう。」
弦十郎が許可を出すと響は「よかったですね。魔王さん。」と喜び、当のアロウンはと言うとめんどくさそうに出撃の準備に指令室を出る。
それに続いてオガムや翼たちも指令室を出て行く。
彼らを見送った弦十郎に指令室のオペレーターの藤尭が声をかける。
「よかったんですか、あの魔王とかいうやつを一緒に出して?」
「お前たちにもこれから任務に出てもらうからな、魔王を置いておいて何かあれば手が足りなくなる可能性もある。それに魔王と言う男を見極める試金石にもなるだろう、今回は翼たちに頑張ってもらおう。」
藤尭の質問に答える弦十郎の目は何処か辛そうでもう彼に疑問を投げかけるものはいなくなった。
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