竿魂   作:カイバーマン。

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今回はランの昔話があります、原作では彼女は未登場なのでこちらで色々設定弄ってます

まあ原作に登場してようが主人公だろうがメインヒロインだろうが弄りますけどね私は



第二十二層 知りえなかった貴女の別の顔

これは今から少し前のお話

 

寺子屋でパソコン研究会という集まりに入っていた5人の男女はちょっとした軽いノリで最先端MMORPG・EDOのゲームを始めた。

 

仮想世界という未知の領域にダイブし、そこでは現実世界ではお目にかかれない幾度の出来事に最初は恐怖したり戸惑いはしたものの

 

その折に、彼等はとある人物と出会えた事でこの世界で冒険する事が徐々に楽しくなっていった。

 

その人物の名は……

 

 

 

 

 

 

「遅いな二人共……約束の時間にはいつも俺達より先に着くぐらいなのに」

 

5人の男女の一人でリーダー格のケイタは、心配そうに自分のメニューに映るメールボックスを見ていた。

 

EDOの世界を体験して早数か月、そこそここの世界に慣れてきた5人はいよいよある特殊ダンジョンへ赴いていた。

 

二十層にある複雑な迷路で構成された虫型モンスター多めの森のダンジョン。

 

最深部には誰もが欲しがるお宝が出るという情報を聞いて、五人は意気揚々と入り口に集まっていた。

 

しかし肝心な、このダンジョン攻略を行う為にはなくてはならない存在の人物が二人来ていない。

 

すると近くの木に寄りかかって暇を持て余してそうなテツオがふと

 

「なんか現実世界でトラブルでもあったんじゃねぇの? 前に二人共病持ちでずっと入院してるって聞いたし……」

「ちょっと心配だよな、もしかして容体が急変したとか……」

「止めてよそんな不吉な事言うの!」

 

テツオと隣にいたササマルがやや不安そうな表情で会話している所を、紅一点のサチが大きな声で怒鳴りつける。

 

「仮想世界だからって言って良い事と悪い事あるでしょ!」

「わ、悪い……っていきなり怒るなよ! なんだよ珍しく大声上げて!」

「怒るのも無理ないよ、サチにとってあの二人は憧れだもんな」

 

急に怒鳴られてビックリするササマルに、ため息交じりにダッカーが窘める。

 

「とにかく彼女達抜きでは今の俺達じゃダンジョン攻略は不可能だ。二人がこのまま来なかったら大人しく諦めて、二人が連絡できる状態にあるか調べておこうよ、ケイタ」

「そうだな、でもみんなが心配してるような事は無いと思うよ。あの人いつも「まあ私もう長くないんだけどね」って言ってる割には元気そうにしてるし」

 

そう言いながらケイタはハハハと苦笑していると、入り口で待つ彼等の所にフラリと一人の人物が歩み寄った。

 

「……ごめん遅れた」

「あ! 噂をすればユウキさん!」

 

やって来た人物は小柄でありながら大胆な動きで敵を翻弄させる事を得意とする熟練女剣士・ユウキであった。

 

待っていた人物の二人の内の一人がやって来た事にケイタは嬉しそうに顔をほころばせるも、すぐに彼女の表情を見て気付く。

 

「あれどうしたんですか? いつも笑顔でハイテンションなユウキさんがやけにテンションだだ下がりみたいですけど」

「……いやうん、ちょっと姉ちゃんがヤバい事になっててさ……」

「お姉さんがどうかしたの!? ま、まさか!」

「そんな!」

 

明るく活発でなんにでも楽しんでプレイしている彼女が、今日は何処か浮かない表情で声もボソボソ気味で小さい。

 

その様子を察してケイタはまさか何かあったのではと絶句し、サチもまた口を両手で押さえて恐れていた事が起きたのではとショックを受けているみたいだが

 

ユウキはそんな彼等に申し訳なさそうに目を逸らすと

 

「いやそういうヤバいって意味じゃなくて……ちょっと特殊なヤバいって感じで……」

「へ?」

 

自分でもどういえば良いのか困ってる様子のユウキにケイタが少々戸惑っていると

 

「おう、待たせたなお前等コノヤロー」

「は! その声は! どうしたんですか一体! ユウキさんから聞きましたけどなんかヤバい状態になって……」

 

背後から聞き慣れた女性の声が飛んで来た。

 

ケイタはすぐにその声の主が誰かと気付くと、笑顔で彼女の方へ振り向く

 

しかしそこにいたのは

 

 

 

 

「ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ、倦怠期ですかコノヤロー」

 

雲の描かれた空色の着物を着飾った銀髪ロングの

 

わざとらしく死んだ目をしながらけだるそうな雰囲気を無理矢理醸し出そうとしているユウキの双子の姉・ランだった、

 

「愚妹に散々止められて来るのが遅れちまったぜ、今日も張り切って冒険すっぞコノヤロー」

「え?……どうしたんですか”ランさん”?」

「どうもこうもいつものランさんだろうがコノヤロー」

「ホントどうしたんですかランさん!? なんか変なモンでも食いました!?」

 

首を傾げながら慣れない感じでぶっきらぼうな口調を使ってみせるランの姿にケイタと一同はひどく困惑気味に

 

中でも彼女と得に仲が良かったサチは素っ頓狂な声を上げて

 

「その恰好と口調は!? 前は綺麗な黒髪だったのに!」

「うるせぇコノヤロー、ランさんだってたまにはイメチェンしたい時もあるんだよコノヤロー、そういうお年頃なんだから気にすんなコノヤロー」

「なんか口調まで変えてすっごい無理して行ってる感じが伝わってくるし! 何があったんですか一体!?」

「あー……んとね」

 

口をへの字にしながらいきなり喧嘩腰で向かって来たランにサチが戸惑っていると、一連の流れにユウキが眉間にしわを寄せながら困り顔で入って来た。

 

「ここ最近の姉ちゃん恋人の真似をして楽しむっていうロールにハマっててさ……そんで今は絶賛そのロールを楽しんでるって訳」

「えーと……確かロールって自分が演じてみたい口調や設定を作って、それを実際に自分でやって楽しむプレイスタイルだっけ?」

「そうそう、でも流石に君達にはこんな恥ずかしい姉の姿を見せたくなかったから必死に止めてって言ったんだけど全然聞かなくて……」

 

どうやらランはオンラインゲームではよくあるロールプレイにハマってしまったらしい。

しかもその演じてるキャラがまさかの自分の恋人……

 

ここに来るのが遅れたのは、恐らくそんな姿を自分達に見せたくなかったユウキが必死に止めていたからだった。

 

「あーもうヤダ、ヤバい凄く恥ずかしい……こんな姉ちゃん見てらんないし見られたくない……」

「おい妹、コンビニでジャンプ買って来いコノヤロー、それとパフェもな」

「うるさいよ! もういい加減素の自分に戻ってよ! 姉ちゃんにその真似は全然似合わないから!!」

「んだとコノヤロー、妹のクセに生意気な事言ってると頭カチ割るぞコノヤロー」

「その変な口調と締まりの無い顔だけでも止めてお願いだから……」

「こんな弱々しい声上げるユウキ見るの初めて……」

 

身体を左右にフラフラさせながらいつもは絶対に言わない様な事を連発するランに

 

両手を合わせながら祈る様に懇願するユウキの姿を見てサチも頬を引きつらせた。

 

「恋人ってあの人よね……ランさんがいつも言っているあの”坂田銀時”って人……」

「あ! 言っておくけど本物はここまで酷くは無いからね! 確かに本物もこんな感じだけどあっちはちゃんとしてる所はしてるから! もっとカッコいいから!!」

「ああうん、その事はいつもユウキから聞いてるから……」

 

ランの恋人の名を呟いた途端ムキになって必死に弁明するユウキにサチはちゃんとわかってるからと正直に頷く。

 

坂田銀時という存在はこの二人からは何度も聞いている、会った事は無いがサチにとっては「ちょっとぶっきらぼうだけど頼れる人」みたいな印象がある。

 

何せ自分達にとってこの世界で最も頼れる二人が、ここまでムキになったり影響を受けて口調を真似したりする人物なのだ。正直ちょっと会ってみたいのだが、残念ながら彼はこのゲームをやる気は更々無いらしい

 

「おい何してんだオメェ等コノヤロー、早く行かねぇと例のモンを先に奪われちまうだろうがコノヤロー」

「姉ちゃん! 言っておくけど銀時は毎回語尾にコノヤロー付けないから! 恋人のクセにそんな事まで覚えてないの!?」

「うるせぇコノヤロー、妹の分際でランさんに指図するな目玉引っこ抜くぞコノヤロー」

「なんかもう誰だかわからないキャラになってるし! キャラブレブレじゃん!!」

 

自分勝手に一人でさっさと森の中へと行こうとしてしまうランを慌てて追いながらユウキがツッコミを入れているのを、後ろで見ていた五人組は少々戸惑いつつも二人の後について行った。

 

「一応俺達が心配していた事は無かったけど……」

「アレはアレで別の意味で心配だよな……」

「次に会う時はランさん元に戻ってればいいが……」

「ま、まあアレだけはっちゃけられるのは元気だという証拠だしいい事じゃないか……」

 

男四人がそんな事を言い合いながらついて行く傍ら、サチは目の前で漫才しながら進んでいくランとユウキの後にいち早くついて行こうと駆け足になっていると……

 

「きゃあ!」

「サチ!」

 

そこへ突如茂みの中から一匹のモンスターが立ち塞がる

 

現れたのは歪な模様の付いた羽根を小刻みに震わせながら飛ぶ巨大な蛾の昆虫型のモンスター

 

鳴き声も上げずただブンブンと羽根の音だけを鳴らしながら空中からサチを獲物と見定めて見下ろす。

 

 

「はん、こりゃまた随分と気色悪いモンスターが出迎えてくれたなコノヤロー」

「ラ、ランさん!?」

「可愛い妹分の為に一肌脱いでやるのが姉貴分の務めって奴だコノヤロー」

 

いきなり目の前に現れた巨大なモンスターにサチが面食らって怯えていた隙に、いち早くモンスターと彼女の間に颯爽とランが躍り出た。

 

そして腰に差していたGGO型専用の片手剣『カゲミツG4』を抜いてブォンと刀身を光らせた。

 

いわゆるビームサーベルの様なモノで、刃ではなく高熱を帯びた円柱型のエネルギー波を鞘から放ち、GGO型では珍しい近接特化型の得物。

 

ランはそれを右手に握ってモンスターの興味をこちらに移させると、力強く一歩前に出る。

 

「覚えておきな、普段はけだるさMAXのちゃらんぽらんだがいざという時は決める。それがランさんのカッコよさだコノヤロー」

「ていうか姉ちゃん! 流石に戦う時だけは素に戻って! 素で戦えば楽勝だけど今の姉ちゃんじゃ不安しかない!!」

「うるせぇ愚妹、元気があればなんでも出来る、やる気と根性も付け足せば誰だってチャンピオンになれるんだコノヤロー」

「それ”銀時”じゃなくて”猪木”!」

 

なんかどんどん元のキャラからズレ始めている事に気付いてない様子のランにモンスターの背後からユウキがツッコミを入れるも、彼女は全く聞く耳持たずに得物をグッと強く握ると……

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! ゲホゲホッ!」

「ほらもう慣れない叫び声なんか上げるから……」

 

威勢良く雄叫びを上げたかったのだろうが途中で激しく咳き込み始めたランにボソリとユウキが呟く中。

 

それでも彼女はグッと奥歯を噛みしめてビームサーベル・カゲミツG4を両手で持ったまま、モンスターではなく自分の方へと先端を向け

 

「クソッタリャァァァァァァァァァァ!!! うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 何やってんすかランさん!?」

「「「自分で自分の腹に得物突き刺したァァァァァァァァァ!!!」」」

 

勢いよく腹に向かって自分の得物を突き刺すランの姿に、ユウキ以外の者達は驚愕を露にする。

 

一同が何故そんな真似をするのか理解出来ないでいる中でも、滅茶苦茶苦しそうにしながらランは更に深く得物を腹の奥へと突き刺していく。

 

「うへぇぇぇぇ!! やっぱこれキツイ! いざやってみるとやっぱキツイわコノヤロォォォォォォォ!!」

「あのーランさん……キツイなら止めた方が……」

「うるせぇダンカンバカヤロォォォォォォォォ!!!!」

「もはや”彼氏”じゃなくて”たけし”!!」

 

血走った目を剥き出しながら喉の奥から叫ぶランにケイタが慌ててツッコんでいると、HPバーが赤く点滅した所でやっと彼女は腹に刺さった得物を一気に引き抜く。

 

「よっしゃ! 正直削り過ぎたけどこれで使えるぜコノヤロー!」

「いやぁランさぁん!! 腸が出てる! 腹から出て来ちゃいけないモンがポロリと出てる!!」

「こんなモンただの読者サービスだコノヤロー!!」

「どの層に需要あるのその内臓剥き出しサービス!?」

 

腹部からボロンとピンク色の腸が出てしまい、地面に垂れている光景を目の前で見てサチがショッキングな声を上げていると

 

ランは手早く手に持っていたカゲミツG4をアイテムメニューに戻し、サッと新たな得物を一気に引っこ抜く。

 

「またせたな虫けら! ランさんのメインウェポンをとくと拝みやがれ!!」

「あ! あれはランさんが自ら作り上げたという刀型の特殊武器!」

「そうかランさんは最初からあの武器を取り出す為に自ら腹をきってHPを減らしたのか!」

 

メニュー欄から引き抜いたのは、普通の刀よりも長く特殊な形と色をした彼女オリジナルの切り札。

 

『物干し竿』

 

かつてランがこのゲームを始めた時に何よりも欲しかった武器は、侍の魂の象徴である「刀」であった。

 

しかし最初に自分のアバターをどのタイプにするかという選択で

 

何も考えずに適当に選んでしまったGGO型は、近接よりも射撃分野に特化している上に普通の刀を装備する事が出来ないタイプだった……

 

そしてヤケクソ気味に何度も失敗しながら遂に自力で組み立てて作成したこのオリジナルの刀こそが

 

この世界では侍として行きたいと願うランにとっての魂の象徴なのである。

 

「コイツでぶった斬ってやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

さっきからずっと叫びっぱなしなおかげで、すっかり喉がガラガラになっているのもお構いなしに

 

ランは両手に持った物干し竿を振り上げてモンスター目掛けて駆け出す。

 

あの得物を持った彼女が負けた姿は一度も見た事が無い。

 

「勝ったな……」

「ああ……」

 

ケイタ達が静かに勝利を確信していると

 

「ん?」

 

ランは走りながらふとブニッと何かを踏んだ感触を覚えたので思わず足を止めた。

 

一同がどうしたのかと彼女を見つめてる仲、ランは自分の足をずらして何を踏んだのかその目で見てみる。

 

自分の腹から出て地面を引きずっていたピンク色の腸に

 

くっきりと自分の足跡が着いていた。

 

それをしばし見つめた後、ランは口元から静かに血を滴り落とすとケイタ達の方へ振り返り

 

「みんな……後は任せたぜコノヤロー……」

「なんか勝手に死んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そう言い残しすと彼女のHPの残り僅かであったHPがゼロとなり、その身体は青色の破片となってその場で弾け散った。

 

「何がしたかったんだアンタァァァァァァァ!!!」

「ウソでしょ姉ちゃん! はぁ!? なに自分で自分のHP10割削り切ってんの!?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ずっと待ってくれてたモンスターが遂にこっちに襲い掛かって来たぁ!!」

 

訳の分からないロールをしながら訳の分からないまま勝手にゲームオーバーになったランに残された一同は阿鼻叫喚の声を上げながらモンスターを前にてんやわんやする。

 

かくして第二十層の特殊ダンジョン攻略は、まさかのランが自決してしまった事によって撤退するハメに

 

そして後日、彼女と再会した時には何事も無かったかのようにいつもの口調と見た目になって戻っていたそうな

 

 

 

 

 

 

 

そして話は戻って今に至る。

 

ここはあの時と同じダンジョンで、話が終わった頃には中間辺りまで来ていた。

 

「……っとまあこんな事がこのダンジョンでありましてね、いやーあの時のランさんは今思い出すとホントおかしくて……あれ? どうしたんですか銀時さん?」

「……」

 

あの頃には無かった闇夜の黒猫団というギルドを結成したケイタから、今までの話を詳しく丁寧に聞いていた銀時は彼等から目を逸らしながらしばし黙り込んだ後に顔を手で覆い

 

「……なんか超恥ずかしいんだけど」

「え!?」

「なんかこう、自分で話すなら気にしないけど、他人から身内がそんな醜態晒してたとか聞いたら悲しくなってきた……」

「……心中察します」

 

顔を手で覆いながらボソリと呟く銀時

 

かつての恋人がよもやそんな恥ずかしい真似をしていたと聞いては、流石に銀時もこの黒猫騎士団という者達に申し訳ない気持ちになってしまう。

 

しかしそこへ後ろからサチが慌てて銀時へ近づき

 

「で、でも本当に強くて頼りになりましたよランさんは! たまにちょっと変なスイッチ入る事ありますけど! 根は良い人でしたしこの世界の色んな事たくさん教えてくれました!」

「いやいいよそんなフォローしなくて、どうせお前等も心の底では痛い女だと笑ってたんだろ? そしてそんな痛い女と付き合ってたとかいう俺の事も薄々馬鹿にしてんだろ?」

「思ってませんから! 私達はそんな事一度も思った事ありませんから!」

「すいやせん旦那、俺は思ってます」

「ソウゴさん!?」

 

死んだ魚の様な目が一層生気を失った様子でガックリと肩を落とす銀時に必死に弁明するサチだが

 

その隣で歩いていたソウゴはあっさりとした感じでぶっちゃける。

 

「そんな変わりモンのヤベェ女とよく付き合えやしたね」

「うるせぇ現実世界ではもっと普通だったんだよ! 俺だって今初めて知ったわ! アイツが俺に隠れて俺の真似事してたなんて!!」

 

どストレートにモノを言うソウゴに反応して銀時はバッと顔を上げて大声を出す。

 

「よく俺やユウキの事をからかってくる事はあるけどさ! 基本的にはおしとやかで良い女だったんだよ! だけどまさかこっちの世界だとそんなはっちゃけてたなんて……! 俺に隠れて何やってんだアイツは!」

「アハハ……まあランさんってずっと入院してたって聞いてましたし……」

 

今は亡き恋人に文句を垂れる銀時に苦笑しながらケイタが話に加わる。

 

「もしかしたら現実じゃ出来ない事をこっちの世界で沢山やってみようと思ったんじゃないですかね……」

「いややるにしてももっとマシな事やれよ! それにしてもお前等、アイツだけじゃなくてユウキとも知り合いだったんだな」

「はい、彼女とも何度か自分達のダンジョン攻略を手伝ってもらった事ありますよ」

「……そういや俺が初めてダンジョン行く時についてきたアイツ言ってたな、初心者の手助けすんのは姉ちゃんとよくやってたって……」

「あーその初心者ってのはきっと俺達ですね」

 

彼等の話を聞いて随分と前の事を思い出した銀時、どうやらユウキがランと一緒に助けていたのは彼等の事だったらしい。

 

「ユウキさんとはちょっと前にメールで言われたんですよ、「まだまだひよっ子の初心者を助けなきゃいけなくなったからしばらく一緒に冒険できないからごめんね」って」

「あーそのひよっ子の初心者ってきっと俺だわ、って誰がひよっ子の初心者だコラ!」

 

そんな事言ってたのかとノリツッコミしながら銀時はここにはいないユウキに軽く舌打ちしつつ「ガソリン代全部パチンコに使ってやろうかな……」とボソリと呟いた。

 

「なるほど、オメェ等がアイツ等と仲が良かったのはわかった。けどなんでそれで俺の事までそんなわかってたんだ? アイツ等から聞いたのか?」

「ええかなり詳しく教えてくれましたね、ホント隙あらばいつも二人共銀時さんの話ばかりしてくれました。だからその見た目ですぐに気付いたんです」

「……」

 

俺の事で何喋ってたんだアイツ等……と不安気味になりながら銀時は自分の天パをつまみながらクルクルと指に巻き付けていると、今度はサチの方が口を開いて

 

「その手に持ってる刀って、ランさんが持ってた奴ですよね? もしかしてコンバートして受け取ったんですか?」

「ああ? コイツか?」

 

銀時は右肩に掛けて持っていた物干し竿をヒョイッと掲げる。

 

「色々と扱いにくいけどよ、中々の得物だから有難く使わせてもらってるわ」

「きっとランさんも喜んでる筈ですよ」

「どうだろうねぇ、何時まで自分の刀に頼ってんだって呆れてたりしてな」

「フフフ」

 

刀を見つめながらぼやく銀時にサチは軽く笑って見せながら話を続ける。

 

「ユウキにランさんが亡くなった事を聞いた時は私達も本当にショックでした、私なんかもう数日泣きっぱなしで……でもそんな時にユウキが教えてくれたんです、あなたがランさんの意志を継いで、ランさんが好きだったこの世界にやって来たって」

「俺はただアイツとの約束守りに来ただけだよ、自分が死んだら自分の代わりに妹護ってくれって、俺がこのゲームやってる理由はそれだけだ」

 

サチに対してぶっきらぼうにそう言いながら、銀時は小指で鼻をほじりはじめる。

 

「約束守らねぇと化けて出てきそうだからなアイツ、怖くねぇけど枕元に立たれると目覚めが悪くなるしな、いやホントに怖くねぇけど」

「へーそうなんですか、ランさんから聞いたんですけど銀時さんってオバケとか怪談話とか凄い苦手って聞いたんですけど?」

「アイツの話を全部鵜呑みにするな、俺がこの年でそんなモン怖がる訳ねぇだろうが」

 

念を押して二度も言う銀時にサチが可笑しそうに笑いながら一緒に歩いていると、突如先頭を歩いていたケイタの足が止まった。

 

「おお見ろみんな! ようやく最深部に辿り着いたぞ! 前に来た時はいけなかったこのダンジョンの最終目的地だ」

「はぁ~ここまで歩くの大変だったぜホント」

「何度も誰かさんが尻にカブトムシ刺すから抜くのに時間掛かったしなー」

 

その誰かさんと言うのは当然銀時の事ではあるのだがそれは置いといて

 

とにかく闇夜の黒猫団は銀時とソウゴというおまけを連れてついにここまでやって来たのであった。

 

銀時も彼等が興奮した様子でいるので自分も顔を上げてそちらへ目を向けると

 

「おお……」

「綺麗……」

 

目の前に光景に思わず声を漏らす銀時の隣でサチが感嘆した様子で呟く。

 

先程までずっと薄暗い森の中を歩いていた筈なのに

 

茂みを掻き分けて現れたその場所はひどく広大で明るく輝いていた。

 

そして大広場の中心そびえ立つ一際眩しく輝く金色の大樹。

 

その周りには何十万本、いやそれ以上の数はあるのでは思われる枝らしきものが山積みにされてたりそこら中に沢山転がっている。

 

「ダンジョンの最深部って言うからてっきりボスモンスターでもいんのかと思ってたが……」

「ここは普通のダンジョンと違ってボスモンスターはいません、ただその代わりかなり高難易度で難しいクエストがあるんです」

「クエスト?」

「ええ」

 

クエストというのはなんらかの条件を達して報酬を貰えることが出来るイベントの事だ。

 

この特殊ダンジョンの最深部で何があるかさえ知らずに挑戦していた銀時に、サチが親切に教えてくれた。

 

「しかもそのクエストを達成したのは、EDOが開始されてたから誰一人いないんですよ」

「はぁ? そんなイベントありかよ、誰もクリアできないクエストとかクソゲー過ぎんだろ、で? 報酬は」

「『神器』でさぁ」

「神器?」

 

EDOが開始されてから2年、それまで誰一人クリアさせたことのないクエストがある事に銀時は運営側に非があるのではと顔をしかめながらクリア報酬をサチに聞いてみると

 

代わりに背後にいたソウゴはあっさりと答える。

 

「正確には『神器を作る為の素材』なんですがね、旦那だって神器の名前ぐらいは知ってんでしょ」

「あー確かここ来る前にキリト君が取って来るとか言ってたな……あれ? じゃあなんでアイツこっちに来なかったんだ? ここのクエストクリアすりゃあその神器って奴が手に入るんだろ」

「大方絶対無理だとわかってんでしょ、ベテランの奴はまずここのクエストに挑戦なんざしねぇですよ。俺が来たのもただの気まぐれですし」

「……」

 

ベテランでさえ挑もうとしない程の高難易度クエスト……どんな鬼畜レベルなのかと銀時が不思議に思っていると、ソウゴがおもむろに足元にあった一本の枝をつまみ上げる。

 

「まあクエスト内容は至ってシンプルなんですがね、旦那、この枝をよく見てくだせぇ」

「ああ? ただの小枝じゃねぇか、ってうお!」

 

ソウゴが手に持った枝を銀時に見せたその瞬間、枝は突然黒く染まって朽ち果て、パラパラと粒状になって消滅した。

 

「そこら中にこんな枝が無数に放置されてるでしょ、この中に1本だけ当たりがあるんで、それを見つけるのがこのクエストの成功条件なんでさぁ」

「一本だけ!? こんな周り全体に何十万本もある枝の中に一本しかねぇのかよ!」

「しかもこの枝、ハズレを引くと消滅して、また別の所に同じようにポップするんですよ。両手で大量に掴んでもダメ、一つ一つ自分で手に取って確認しねぇといけねぇんです」

「それ確率どんぐらい……?」

「さあ? まあ宝くじ一等当てるぐらい難しい確率じゃないですかぃ?」

 

そりゃ誰だってやろうとしない訳だ……クエスト内容は至ってシンプルだがあまりにも当たりを引く確率が低すぎる……

 

キリトがここに来ずに別の所で神器を狙いに行った理由がよくわかった。銀時は足元にバラバラに置かれている木の枝を見下ろしながら既に疲れ切った表情を見せる。

 

「……こりゃあ俺には無理だな、こんなのを1本1本真面目に手に取ってら当たり引く前にじいさんになっちまう……」

「ダメ下でもやってみましょうよ、私達も無理だと思うけどやってみようって軽い感じで来たんですから」

「つってもよ、俺神器とか特に興味無いし、てかそもそも神器って何かもわかんねぇし」

「神器というのはEDOのプレイヤーであれば誰もが夢見る伝説の武器の事です」

 

心底めんどくさそうだと銀時は即座に諦めて帰ろうとするが、それをサチが呼び止めて神器について説明して上げた。

 

「手に入れた者は文字通り神の如き力を手に入れられるとかで、とにかく凄く強くて凄くレアな武器って事です」

「ああようするにはロトの剣みたいな奴って事ね……けど俺もう武器なら持ってるしな」

「ランさんから受け継いだその武器を大事にしたいという気持ちはわかりますけど……」

 

話を聞いてもイマイチノリ気がしない銀時、既に物干し竿という強力な武器を所持している彼にとっては、いくら神様の恩恵を授かった武器が手に入ると聞いても、こんなめんどくさい事をして手に入れたいとは思えない。

 

するとサチは彼の手に持つ物干し竿を神妙な面持ちで見つめながら

 

「元々体力が半分に達してないと装備出来ないという特殊武器ですし、この先を進む為には普段から使える武器を持っておいて損はないと思いますよ?」

「はぁ~お前もしつけぇな……わーったよ、ランとユウキが世話になったよしみでオメェ等と一緒に当たり探してやらぁ」

 

あまり気乗りしないが、ここまでせがまれては仕方ないと言った感じで、ため息交じりに銀時は前方でそびえたっている金色の大樹を見つめる。

 

「しっかしでけぇ樹だなオイ、ここにある枝は全部あの木から落っこちたのか?」

「えーとですね、確かあの大樹の枝はこの中にある1本だけで、後は全て侵入者を惑わす幻影っていう設定らしいです」

「いっその事あの大樹を切り落とせば神器なんざ大量に手に入るんじゃね? おい誰かチェンソー持って来い」

「それは無理ですよ、あの大樹は破壊不能オブジェクトですからね? それに神様の樹を切るなんてしたらバチが当たりますよ?」

 

手っ取り早く終わらせようとしたがる銀時に軽いツッコミを入れながら、サチもまたその大樹を見つめる

 

 

「正式名称は『金木犀の樹』と呼ぶらしいです、金色に輝くその大樹に生えたその枝は、これまた更に美しく輝く金色の剣になるとか」

「ふーん、ん?」

 

説明してくれているサチの話をあまり聞いていない様子の銀時だったが、ふと大樹の根元に何かが見えたような気がした。

 

大樹にそっと手を振れ、長い髪を靡かせながらこちらを見ている様な小さな人影が……

 

「どうしたんですか?」

「いや今あのデケェ木の傍に人が見えた様な気がしたんだけどよ……」

 

サチに尋ねられて彼が一瞬彼女の方へ振り向いてもう一度大樹の方へ振り返ると、その人影は忽然と消えていた。

 

見間違いか?と銀時は小首を傾げながら頭を掻きむしった後一歩前に出て

 

「まあいいか、それじゃあ始めようぜ」

 

 

 

 

「砂漠の中でアリのコンタクトレンズを見つけるぐらい難しい宝探しをよ」

 

 

月夜の黒猫団、そして銀時とソウゴの神器の素材探しが始まった。

 

未知なる期待と不安を抱えながら

 

 

 




銀さんの神器の素材探しがスタート。しかしその途中で思わぬ出来事が……

そしてサチから語られるランの恐ろしい本性に銀時は戦慄?

それではまた次回

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