竿魂   作:カイバーマン。

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和人は現在ほとんど銀さんの家に泊まってます、自分のナーヴギアも置いてますのでもう住んでると言っても過言ではありません。

彼曰く妹の冷たい視線を受けないで済むから居心地が良いのだと

実家に戻るのは腹が減った時ぐらいです




第二十六層 お天気アナの占いも馬鹿に出来ない

かぶき町に構えるオカマだらけの巣窟、かまっ娘倶楽部はかぶき町の四天王マドモーゼル・西郷が営む店だ。

 

外は明るくても店内は薄暗く妖艶なピンク色に染まり、客席から見える舞台場ではオカマ達が縦に並んでグルグルと回って踊りながらお客達を楽しませている。

 

「つい何も考えずに店の中に入って来ちゃったけど……思った以上にカオスな店ね」

「……」

 

怪しげな店内の雰囲気に結城明日菜は頭がクラクラしながらも、自分の隣で頬を引きつらせながら黙り込んでいる店員の方へチラリと目配せ

 

「そんな店でなんであなたが働いてるの? もしかして本当にオカマ?」

「違うわ! ウチの所の社長が金無さ過ぎて仕方なく俺も付き合わされてるだけだ!」

 

ここに就職してる訳ではなく不本意で働いてるだけだと高らかに主張するキリ子こと桐ケ谷和人に、明日菜は「ふーん」とテーブルに頬杖を突きながらつまらなそうに返事した。

 

「ま、どんな仕事にせよ真っ当に働いてるだけニートよりはマシかもしれないわね、このまま頑張ればナンバー1の地位に辿り着けるんじゃない?」

「いやよ! オカマのナンバー1になるならニートの方がマシだわ! キリ子が目指すナンバー1はEDOでのナンバー1だけよ!!」

「いやもうすっかり女口調が板についてるアナタが言っても説得力皆無なんだけど」

「ぐわぁぁぁぁ! なんだか自然に女言葉で話しちまってた! キリ子マジヤバい!」

「ヤバいわね~、キリ子超ヤバい」

 

ムキになって否定しようにも和人の口調は所々すっかり女性っぽくなってしまっている。

 

明日菜がそれを冷ややかに指摘すると我に返った和人はテーブルを両手で叩きながら激しく落ち込み始めるも

 

そんな彼に明日菜はすっと手元にあったグラスを差し出す。

 

「はい、とりあえず私は未成年だからレモンティーね、あとマヨネーズ1本」

「クソ……客と店員という上下関係が生まれているのを利用しやがって……ていうかマヨネーズってなんだよ、ウチのメニューに無いぞそんなの」

「お店なんだから調味料ぐらい一式揃えてるでしょ、早く持って来て」

「く……! 少々お待ちくださいませ~……」

 

レモンティーはともかくマヨネーズをまるまる一本注文する客なんて非常識にも甚だしい。

 

見た目は向こうの世界と変わらず優等生なお嬢様って感じだけど、なんかちょっとおかしいだろと思いつつ

 

和人は渋々と立ち上がっていそいそと店の奥へと行ってしまった。

 

「随分と親しい様子みたいだけど、あなたもしかして和人君とも知り合いだったのかしら?」

「あ、お妙さん」

 

和人が座っていた所から反対隣りに座っていたお妙に急に話しかけられると

 

さっきまでずっとしかめっ面だった明日菜の表情がケロッとにこやかな微笑に変わって彼女の方へ振り返る。

 

「知り合いというか敵同士です、私達ゲームの世界で何度か会ってて」

「ゲームの世界? ああ、あの子が昔からよくやってるあのゲームね、新ちゃんや直葉ちゃんも最近……ああ、この話は誰にも内緒にしてくれって言われてたんだわ」

 

話していた事を途中でいきなり折ると、お妙は改まった様子で彼女の方へ顔を上げる。

 

「とにかくどんな関係であれあの子がこんな可愛い女の子と知り合いだったなんて姉貴分からすれば目から鱗だわ、これからはゲームの世界だけじゃなくてこっちでも仲良くしてあげてね」

「いえ私はアレと仲良くしてる訳じゃなくて本当に敵同士で……」

 

なにか自分と和人の事を誤解してるんじゃないかと思った明日菜は、急いで仲が良い訳ではないと否定しようとするも、お妙は今度は向かいの席に座るもう一人の女の子の方へと振り返り

 

「神楽ちゃん楽しんでる?」

「私は凄く楽しいアル」

 

皿の上に乗ったフライドチキンを豪快に3本同時にとって一気にかぶりつく様を見せながら、大食い少女神楽は愉快な様子。

 

「アネゴやアスナ姐と一緒に食べて喋って、そんで周りにはわんさか化け物ばかりで、そんで……」

 

神楽は口に物を含みながらニヤリと下衆な笑みを浮かべ

 

「かつての恨みを晴らす事も出来て本当にここは最高アル……!」

「神楽お嬢様~! オロナミンC3本お持ちしました~!!」

「遅ぇんだよパー子! 40秒で持って来いと言っただろうがコラァ!」

 

ドタドタと駆けながら必死の形相でオロナミンCを持ってきたのはオカマの店員・パー子こと坂田銀時

 

かつて向こうの世界で神楽に肉汁を舐めさせた張本人である。

 

「おらお前も飲めアル、前に私にやらかした分、今日はとことん私の言う通りにするヨロシ」

「あのーお嬢様……失礼ですけどオロナミンCは一日1本にしておいた方が……あの、子供には少々刺激が強過ぎると思うんで……」

「私を子ども扱いすんじゃねぇ! 私はもう立派な大人の女ヨ! 黙って私の酌に注がんかい!」

「へーい……」

 

酒を注ぐのに使うお酌にけだるそうな感じでオロナミンCを注ぎつつ銀時は、死んだ目を向かいに座る明日菜の方へ向け

 

「……もう帰ってくんないマジでお前等?」

「来たばかりの客にすぐ帰れって、新人に一体どんな教育してるのかしらこの店は」

「生憎勝手な真似をされるお客様はこちらからとしても迷惑なんで」

「勝手な真似なんかしてないわよ、私はただこの店で情報収集に来ただけ」

 

キッパリと明日菜がそう断言して見せていると銀時は小首を傾げながら更に顔をしかめる。

 

やはりどうも話辛い……銀時が内心そう思ってる中、二人の会話を聞いていたお妙は彼の方へ顔を向ける。

 

「もしかして銀さんも明日菜ちゃんと知り合いだったんですか? 世間は狭いですねホント」

「いや俺もゲームの世界で会っただけだから、知り合いっちゃ知り合いだけど仲が良い訳でもねぇし」

「銀さんもあのゲームをやっていたの? 本当に流行ってるのねアレ」

「まあ俺は付き合いでやってんだけどな、前に会っただろユウキって奴? 俺はアイツの為にやってるだけだから」

「ああ、あの元気一杯で明るくて無邪気で」

 

ユウキと聞いてお妙はすぐに分かった様子で

 

「首がポロッと取れちゃう子?」

「首がポロっと取れた!? どういう事!?」

 

自然に口に放つ際どい言葉に明日菜の方が敏感に反応するも、銀時はめんどくさそうに

 

「どういう事も何も極々よくある事だろうが首が取れる位、侍しかり国会議員しかり、誰だってみんな首ぐらい取れるじゃねぇか」

「取れないわよ!」

「でもアスナ姐、昔私のパピーもマミーに首取られそうになったから、もしかしたら首って案外簡単に取れるモンかもしれないアル」

「……なにやらかしたの星海坊主さん……?」

 

神楽の父親についてはよく知っている明日菜だがそんな話は初耳だった。

 

唖然とした様子で彼女が神楽の話に疑問を浮かべていると、ついさっき彼女の注文を受け取った和人がフラフラと戻って来た。

 

「はい注文されたモンで~す、レモンティーとマヨネーズ。飲んだらとっとと帰って下さい」

「ちょっと、さっきユウキの首が取れるとかなんか末恐ろしい話を聞いたんだけど本当?」

「あー取れる取れる、この前2階から落として下の通行人をビビらせる遊びしてたな」

「なにその遊び!? 不謹慎だからすぐ止めさせなさい!」

「つっても今俺達がこうして仕事中の時は大体一人で暇してるからなアイツ、今頃絶賛頭落としやってる頃だぞ」

「ええ……首が取れるってなんなのよ一体、上流階級で暮らしてる私でさえ知りえない知識だわ……」

「サラリとブルジョア暮らしなのを自慢するな」

 

隣に座りながらあっけらかんとした感じで話す和人に、明日菜は頭を抱えながらどういう事だと首を横に振りつつ。彼が持ってきたレモンティーに

 

「あなた達の話にはついていけそうにないわ……」

「……俺からすれば注文したレモンティーにいきなりマヨネーズぶっかけるアンタの思考についていけないんだが」

 

一緒に持ってこさせたマヨネーズの蓋を開けて思いきりぶっかけ始める明日菜、その奇行に和人の思考が一瞬停止した。

 

「……何やってんのお前?」

「知らないの? マヨネーズはどんな食べ物や飲み物に合うように出来ているオールマイティーな調味料なのよ」

「知らねぇよ!」

「あげないわよ」

「いらねぇよ!」

 

そんなの誰が飲むかと一蹴しながら和人は疲れた様子でため息を漏らすと、さっきからこちらに向かって笑いかけているお妙の方へ顔を上げて

 

「なぁお妙さん、頼むから新八や直葉には俺がここで働いてる事教えないでくんない?」

「さあそれはどうしようかしら、あなたここ最近家に戻ってこないって直葉ちゃんから聞いてるわよ」

 

どうかこのことは内密にと口止めさせようとする和人だが、お妙は頬に指を当てながらとぼけた様子。

 

「妹ぐらいにはちゃんとあなたがちゃんとやっているかどうかぐらい教えてあげた方が良いと思うけど」

「いやちゃんとしてないから教えないで欲しいんだよ……兄貴がオカマやってるなんて知ったらアイツ絶対泣くぞ」

「オカマやろうと自分で体張ってお金稼いでるんだから以前に比べればずっと立派じゃない」

「……」

 

それはどうなんだろうか? これが立派に働く姿なのかとカツラの長い黒髪をクルクルと指に巻きながら黙り込む和人をよそに、お妙は今度は銀時の方へと振り返る

 

「これもそれも銀さんが和人君を拾ってくれたおかげね」

「おいおいいくらなんでもお前飲みすぎ……え? なんの話?」

「ウチの所の愚弟の面倒見てくれてありがとうございます」

 

調子に乗った神楽がハイテンションで頼んだオロナミンCをガバガバと飲み始めるているのを隣から気にしていると、不意にお妙に話しかけられ、銀時はへキョトンとした表情を浮かべて振り返る。

 

「別に礼なんか言われる筋合いねぇよ、こちとら丁度低賃金で働く下僕が一人欲しかっただけだ、役に立たないと判断したら即そっちに返品しておくから覚悟しておけ」 

「その時はこちらの道場で心身共に鍛えてそちらに再返却いたします」

「そん時はダンボールに入れてそちらの玄関にほおり捨てます」

「本人の意思なくたらい回しにする気かアンタ……」

 

当人そっちのけで話を進める銀時とお妙に和人がボソリと呟いていると、明日菜の方が目を細め

 

「あなたって……ひょっとしてお妙さんとずっと前からの仲なの?」

「幼馴染だ、俺の祖父がこの人の父親の剣の師匠とかなんかで家族ぐるみでの長い付き合いなんだよ」

「へーどうしてこんな良い人が傍にいたのにこんな捻くれた性格になるのかしら」

「はん、良い人だと? お前この人の事なんにも知らないんだな」

 

ジト目をこちらに向けながらお妙を良い人と称する明日菜に和人は鼻で笑う。

 

「ま、その内お前もこの人の本性を見る事になるさ、てかお前こそ何であの人と知り合いに?」

「河原沿いの橋の上で会ったのよ、あなたの雇い主と眼鏡の男の子が決闘してる所に丁度出くわしてね」

「へぇ……へ!?」

 

彼女とお妙があった経緯を聞いて和人はサラッと聞こえた重要な事に目を丸くさせる。

 

「お前あの時にいたのか!? この人と新八が決闘やった時!」

「私も神楽ちゃんも見てたわよ、それであなた達の事もちゃんとハッキリと見てたわ」

「通りでリアルでこうして顔合わせても大して驚かなかった訳だ……」

 

現実世界での自分達の事を既に知っていたとは……流石にその事には驚きを隠せないでいた和人を見つめながら明日菜はマヨネーズたっぷりのレモンティーをクイッと飲む。

 

「まあそれっきりあなた達の姿は見てないけどね、あの時はたまたまかぶき町の近くを通っただけだし。あなた達ってこの町に住んでるんでしょ?」

「いや俺の実家はかぶき町じゃないけど今はもっぱら俺はこっち住まい……ってリアルの情報を上手く引き出そうとするな!」

「悪用する訳じゃないから安心しなさい、ただあなた達が向こうの世界で不正ばかり繰り返すモンならリアルの家にけしかけようと思っただけよ」

「紛れもない悪用じゃねぇか!」

 

色々と怖い事を呟く明日菜に和人がすかさずツッコミを入れた後、ふと気になった事を彼女にぶつけてみた。

 

「つうかアンタこそどこで何してるんだ? こんな平日の昼間からかぶき町に遊びに来てるって事は、もしかして自分こそ働いてないんじゃないか?」

「ぶっほ!」

「うわ汚ねぇ! マヨネーズ飛ばすなよ!」

 

単刀直入に聞いた途端、急に明日菜が口に含んでいたマヨネーズ入りレモンティーを噴き出した。

 

するとゴホッ!ゴホッ!とむせながら明日菜はゆっくりと和人から目を逸らして

 

「……働いてるわよ」

「どんな?」

「……それは言えないわね、機密情報だから」

「へー、天井のシミでも数える仕事? 俺も前はよくやってたよ」

「だ、だから本当に働いてるのよ! あ! ほら!」

「ん?」

 

どうもおかしな反応をする彼女に和人が疑惑の目を向けていると、明日菜は懐から一枚の紙をぺらッと彼の前に突き出した。

 

「今この人の事を調べてるの、それが私の仕事!」

「……攘夷浪士・桂小太郎?」

 

それは近頃町でよく見かける凶悪指名手配犯の人相書きであった。

 

名は桂小太郎、世間に疎い和人でも知っている程有名なテロリストだ。

 

男でありながらかなり長い髪だなと思いつつ、和人がそれをまじまじと見つめていると……

 

「へぇ、アンタこの男を探してるのかい?」

「え?」

 

明日菜の持ってる紙が突然後ろからヒョイと掴み取られた。

 

彼女と和人がそちらへ顔を上げると同時にギョッとさせた。

 

この店のオカマは大抵見ただけで一生忘れられないぐらい濃い顔をしているが

 

そのオカマ達よりも一際インパクトの高く長身なオカマが明日菜が持っていた紙をヒラヒラさせながらこちらに鋭い眼光を向けて不敵に笑みを浮かべている。

 

明日菜が口をあんぐりと開けて言葉を失っていると、和人が恐る恐る彼女に近づいて耳元に

 

「このオカマ、いやこの御方はマドモーゼル西郷、この店のオーナーだ……」

「……私達と同じ人類として定めていいのよね……」

「どうだろうか……俺としては同じ生物として扱われたくない……」

 

かまっ娘倶楽部のオーナー、マドモーゼル西郷とは初対面の明日菜と違って和人は何度も面識がある。

 

その度に嫌という程彼女(彼?)の恐怖を身に染みているので、極力接触する事は常に忌避していたのだが

 

「わーママ、なぁにその紙? あらやだ、指名手配犯の人相書き?」

 

明日菜と和人が小声で話してる中で、西郷の周りに他のオカマ達が興味持ったように駆け寄って来た。

 

「攘夷浪士の桂小太郎? やーねーホントここ最近物騒ったらありゃしないわ」

「こんな凶悪犯がいちゃ夜な夜な道を歩く事も出来ないわー」

「いやぁそれは助かるな、俺としては夜道でアンタ達化け物を見かける方が、凶悪テロリストを見かける方よりもずっと怖い……きゅっぷい!!」

 

腰をくねらせながら怖い怖いと連呼するオカマ達についいつものクセで和人がボソリと余計な事を言ってしまった途端、西郷の拳が彼の頭部に炸裂しテーブルにヒビが出来る程思いきり頭を打ち付ける。

 

しかし気絶した和人を気にせずに、西郷は桂小太郎の人相書きを見つめながら明日菜の方へと声を掛けた。

 

「この男なら噂で聞いた事があるよ、このかぶき町にあるラーメン屋にちょくちょく顔出してるみたいだね」

「え、本当ですか!?」

「店の名前は北斗心軒つったかね? よく変な生物と一緒に来店してるんだとさ」

「どうしてそこまで情報を……?」

「フン、かぶき町四天王と呼ばれてる私がかぶき町の事を良く知ってるなんて当たり前の事だよ」

 

そう言って西郷は手に持っていた紙を明日菜の方へ押し返す。

 

明日菜はそれを受け取って懐に仕舞いながら非常に有益な情報をくれた西郷に深々とお辞儀

 

「貴重な話をありがとうございます、じゃあこれから直接その店に行って……」

「その前に一つ聞きたいね、私がどうして無償でアンタに情報をあげたのかわかるかい嬢ちゃん?」

「え、それは私がこの男を探してるから……」

「違う、野暮な事にこれ以上首を突っ込まずにネタだけ貰ってさっさと家に帰りなって事だよ」

「!」

 

西郷の言葉に明日菜が目に驚いの色を浮かべていると彼女は更に言葉を付け足す。

 

「アンタみたいな世間もロクに知らなそうな嬢ちゃんが攘夷浪士の事を嗅ぎ回ろうとなんてするもんじゃないよ、連中が女子供でどうこう出来るモンならとっくの昔に侍なんてこの世にいやしないよ」

「だ、大丈夫です、私には神楽ちゃんが……」

「あーそいつは無理だわ、アイツ今厠でグロッキーになってるぞ」

 

いかに攘夷浪士と言えども傭兵部族の一つ、夜兎の血を引く神楽であれば対抗できる筈と考えていた明日菜であったが、そんな彼女に厠の方から戻って来た銀時が悲報を届ける

 

「オロナミンCを大量摂取し過ぎたせいで気分悪くなったみてぇだ、だからお子様は一日1本にしとけって言ったのによ、今頃盛大にゲロ吐いてる頃だ」

『オボロロロロロロロロロロロロ!!!! し、死ぬアルゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

「ええ!? 何やってんのあの子!」

「ま、俺からも釘差しておくわ、お前みたいなガキはあんな危ねぇ連中に近づくな」

 

厠から聞こえる苦しそうに悲鳴を上げている神楽の声がここまで飛んで来た。

 

あんな状態では夜兎の本領など到底発揮できまい、そして唖然としている明日菜に銀時の方も髪を掻きながら

 

「現実はゲームみたいにいかねぇんだよ、いくら向こうで強かろうがこっちじゃお前はただのガキンチョだ」

「痛い所突いて来るわね……」

「和人君を見ろ、コイツはゲームじゃ確かに強いのかもしれないが、現実のコイツはハッキリ言ってただのウンコ製造機だ」

「確かにそうね……」

「いやそれは言い過ぎだろ! お前も認めるな!」

 

明日菜に説教してるのかと思いきやこっちに流れ弾が飛んで来たので、ずっとテーブルにつっ伏していた和人がガバッと顔を上げて復活した。

 

「ったく人が一撃轟沈されてるのをそのまま放置しやがって……それとお前も桂小太郎なんかに関わろうとしない方が良いぞ、ただでさえ仮想世界の攘夷四天王にも劣るくせに、現実の攘夷四天王なんか相手にすらされねぇよ」

「ちょっと待ちなさい、誰が劣るですって? 私だって本気になればあなたぐらい倒す事だって出来るわよ」

「この前戦った時に俺に剣折られたの誰だったかねー」

「はぁ!?」

 

両手を後ろに回しながらピューと口笛吹きながら茶化してくる和人に、明日菜がいよいよ彼に対して本気で怒り出そうとすると……

 

「はいはい、さっきからどうしたのみんな? せっかく一緒にお食事してるのにピリピリしちゃって」

 

この険悪な空気を断ち切るかのように両手を叩いて声を出したのは、静かに微笑むお妙であった。

 

「銀さんも明日菜ちゃんの事を心配してるのはわかりますけどキツイ事は言わないであげて」

「いや別に俺は心配してるんじゃなくて警告してるだけだから、あんなのと関わるのは止めとけって……」

「はいはい、それで明日菜ちゃんも負けん気が強いのは良い事だけど無茶しないで。あなたはあなたで焦らずゆっくりと自分が出来る事だけをやればいいんだから」

「は、はい……」

「和人君はこのあと鉄拳制裁ね、話が終わったら店の裏に来なさい、来なかったら即死よ」

「なんで俺だけ暴力的解決なの!? 俺だけ何もしてないのに!」

 

銀時、明日菜の順に優しく声を掛けるお妙だが、自分だけ理不尽な制裁が待っている事に和人が抗議しようとするも、お妙はそれを無視して足元からゴソゴソと何かを取り出そうとする。

 

「西郷さんも怖がらせるような真似しないで上げて下さい、この子かぶき町に来たの初めてなんですよ」

「へ、初めてここに来たってんならむしろこんぐらいの洗礼される方がこの子には良い経験になっただろうさ、それよりお妙、アンタ何を取り出そうとしているんだい?」

「ああコレですか、コレは皆さんの為の……」

 

世間知らずのお嬢様には良い薬になっただろうと豪語する西郷だが、ふとお妙が何かを取り出している事に気付き尋ねると、彼女はにこやかに笑ったまま取り出した物をテーブルの上に

 

「”私が作った”差し入れでーす」

 

その言葉と共に重箱をテーブルに置いた途端

 

西郷とその他のオカマ達の顔付きが一瞬にして変わる。

 

そして西郷は急に店の中に響き渡る様な声で

 

「緊急警報発生ぇぇぇぇぇ!!! 全員この場から早く退避しろぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「みんな逃げてぇぇぇぇぇ!!! 死にたくなかったら超逃げてぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「え、何々どうした急に?」

「さあ?」

 

お妙が差し入れを持ってきたというのに急に西郷が大声を上げて店員も客も急いで店を出るよう避難させ始める。

 

慌ただしく駆けまわるオカマとお客達を眺めながら、イマイチ状況が掴めていない座ったまま銀時と明日菜がポカンとしていると和人が急に立ち上がろうとし

 

「じゃあ店も閉めるみたいだし俺もう帰るわ! さよなら!」

 

血相変えて何かに怯えてるような目つきをしたまま他の人達と共に出入り口へ向かおうとする和人だが

 

それを許すまじといつの間にか彼の背後にいたお妙が着物の後襟を掴んで止める。

 

自分の前で逃げようとした和人にお妙は真顔でジッと睨み付けながら

 

「おい何処行こうとしてんだテメェ」

「……」

 

その言葉にほんの僅かに殺意が込められているのを感じた和人はその場に両膝から崩れ落ち

 

泣く泣く銀時の隣に座り直すのであった。

 

「ちくしょう……どうしてもっと早く逃げれなかったんだ俺……」

「え、逃げるってなんで? コイツが差し入れ持ってきただけじゃん」

「そうよ、なんであなたや他のみんなも慌てて逃げ出してるの? みんなで食べましょうよ」

「お前等は何もわかってないんだよ! この人が作る料理は昔から!」

 

この状況がいかに危険なのかさっぱりわかっていない平和ボケした二人に、和人が何か言おうとするも時既に遅し

 

「なんかみんなどっか行っちゃったけど仕方ないわね、ここにいるみんなで食べましょう」

 

お妙はニッコリと笑ったまま重箱の蓋を両手で取って見せる所であった。

 

開いた重箱の中身をすぐに顔を覗かせて確認する銀時とアスナ、だが二人の期待の表情は一瞬にして怪訝な顔付きに変わった。

 

そこにあったのはとても表現しがたい構造をした……とにかく黒くて固そうな不気味な物体であった。

 

「……何コレ? 現代社会の闇をイメージしたアートか何か?」

「卵焼きでーす、私の得意料理なの」

「た、卵焼き? なんか私の知ってる卵焼きと随分とかけ離れてる様な……」

「遠慮せずに食べて頂戴」

「「……」」

 

二人はその物体を見つめたまま動こうとしない。

 

これが卵焼き? そもそも食べ物なのか? いやそもそも地球の産物なのか?

 

頭の中で数々の疑問を駆け巡らせながら固まっていると、銀時の隣にいた和人が「へへ、俺達はもう逃げられねぇんだ……ハハハ」と虚ろな表情で渇いた笑い声を上げている。

 

どうやら思った以上にこの状況はヤバい様だと銀時と明日菜が目を合わせてなんとか打開策を考えようとするも

 

「さあ、冷めない内に早く食べて」

「「え?」」

「食えつってんだろ」

 

全てを包み込む女神の様な笑顔を浮かべながら、死へと誘う死神の様な言葉を放ってくるお妙を前にして打開策など思いつく余裕は無かった。

 

銀時と明日菜はごくりと生唾を飲み込むと額から汗を流しつつ鬼気迫る表情を浮かべながら

 

和人はもう何もかも諦めたかのように死んだ目をしながら

 

ゆっくりとその手に持った箸で

 

暗黒物質を三人均等に分けてつまむのであった。

 

そして数十秒後……

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」

 

かまっ娘倶楽部にて三人の断末魔の悲鳴が鳴り響く。

 

この時三人は思った。

 

 

 

ああ、あの占いは本当だったんだなと

 

 

 

 

 

 




ユウキは銀さんや和人が仕事してる時はもっぱら留守番です。

でも仕事先に彼女を預ける場所があったら連れて行ってあげる事もあります。


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