竿魂   作:カイバーマン。

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実写版銀魂による原作でも人気の高い話を揃えたギャグ短編シリーズがdtvでやってます。

今週は3本の内の1本目「眠れないアル」が放送中です

アニメ銀魂の神楽役の釘宮さんもちゃっかり声で出てたりと色々と小ネタが含まれてますので興味がある方は是非




第四十五層 ロンゲでも変な生物を連れてても

アレは数年前の出来事、今でもよく夢で見る事がある。

 

田舎から遠出して初めて江戸にやって来た私は、父と母の手を握って江戸で最も大きいデパートに買い物に来ていた。

 

その日はクリスマスという事もあって多くの家族連れが、自分達と同じように笑顔を浮かべながら楽しんでいる。

 

そして私達がそのデパートに入って数時間後

 

 

大きな爆発音が鳴ってすぐに

 

周りは火の海と化した

 

耳をつんざく悲鳴や怒声、今まで嗅いだ事のない「何か」が焼かれてる嫌な臭いが辺りに充満し

 

視界は火と周りで倒れる人達から流れ出る血の色によって真っ赤に染まり

 

幼かった私はただただ怯えて呆然とその場に座り込む事しか出来なかった

 

だがその時、私の両手にはいつの間にかあるモノが握られていた。

 

どこに落ちていたのか、何処で手に入れたのか、その時の記憶は酷く曖昧で、とにかく無我夢中で自分と両親を護る為に手にした事だけは覚えている。

 

幼い子供の手には不釣り合いな、この建物を火の海にした者達の中の一人が所持していたと思われる

 

『トカレフ TT-33』

 

後に調べてその名を知る事になるが、今の私にとっては唯一身を護る事の出来る黒く光る拳銃。

 

私はただそれを恐怖で歯をカチカチと鳴らしながら銃口を前に向けてグリップを握り締める。

 

 

そしてその銃口の先に

 

 

あの男がいた

 

 

 

 

長い黒髪を腰まで伸ばした

 

こちらに向かって真っすぐな視線で見つめ返してくる

 

血に濡れた刀を持ち、身体に返り血を浴びたその男が

 

「すまなかった」

 

その男が僅かに口を小さく開いて放った言葉を耳にしながら

 

私は彼の足下に横たわるモノを震えた目でハッキリと凝視する。

 

 

背中に大きな一太刀を受けて真っ赤に染まり動かなくなった父と

 

その隣ですがる様に意識を失っている母

 

それを見た瞬間、私はまるで氷を喉に詰まらせたかのような酷く冷たく苦しい感覚に襲われ

 

「!」

 

無意識に手の震えを抑え込んで、初めて持ったにも関わらず、銃の照準を僅かにズラし

 

目の前で立ち尽くしてこちらに手を伸ばし、何か言いたげな様子の男に向けて

 

 

 

 

 

私は引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「蕎麦を作る為には何が必要なのか知りたいか?」

 

ラーメン屋、北斗心軒にて店員の娘に向かって、カウンターで座りながら静かに語りかける男

 

「素材? 太さ? コシの強さ? つゆ? 作り手が持つ腕? 断じて違う」

 

目の前に出された蕎麦を半分ほど食い終わったところで、男は箸を置いて腕を組みながら鋭い視線を彼女にぶつける。

 

「情熱だ、お主が作る蕎麦に足らぬもの、それは蕎麦に対して注ぐパッションだ! 蕎麦を作る工程の中で一心不乱に蕎麦を作る事だけを考え! それ以外の余計な考えは一切持たずにただただ蕎麦の事を考え! 蕎麦のみに愛情を持ち! 蕎麦との幸せな一時を過ごし! 蕎麦との今後の老後について語り合い! 遺産は誰に渡すかについても蕎麦と相談するぐらいの! 強い情熱が必要なのだ!!」

「ごめん、後半からなに頭おかしい事言ってるんだろうと思って聞いてなかった」

 

力強く蕎麦について熱く語り出す男に対して冷めた目を向けながら

 

この店の店員こと朝田詩乃はカチャカチャと食器を洗いながら適当に答えた。

 

「というか前作った奴よりは自信あるんだけど」

「確かに前の奴は硬くて到底蕎麦とは呼べぬ代物であった、だが今回は逆に柔らかすぎて箸でつまんだ瞬間すぐに切れてしまうぞ、おまけにめんつゆは前回と同じくしょっぱ過ぎる、一体ダシはなんだ?」

「醤油100%」

「それもはやただの醤油ではないか! めんつゆならスーパーにでも売ってるから買ってこい!」

 

料理店の店員のクセに料理に関してはてんでダメダメな詩乃に対して喝を入れてやっている男の名は桂小太郎。

 

国家転覆を企む凶悪犯で、江戸で指名手配されている攘夷志士の一人だ。

 

しかしそんな怪しい危険人物に対して、詩乃は平気な様子で「あー」と反省の態度ゼロの様子で頷くと

 

「普通に売ってるのは知ってるけど、私としてはちょっとオリジナリティを含めた方が新鮮な味出ると思ったんだけどね」

「いや新鮮どころか醤油の味しかせんのだが……料理を出来ぬ者がオリジナルだの斬新な発想だの持つな、そんな事を勝手にするからいつまで経ってもお主は幾松殿に半人前としか思われぬのだ」

「……」

 

詩乃としては桂に対して他人が真似できない自分だけが作れる料理だと、胸を張って言えるモノを作りたいのだ。

 

しかしそんな考えは不要だと言われた上に、店主の幾松の名前まで出して指摘した桂に対してちょっと不満げな様子で目を逸らす。

 

「一応これでも努力はしてるつもりなんだけど……」

「そこだけは俺も認めよう、こうしてこの店に幾度も顔を見せている俺だからこそ、お主なりに精一杯頑張っているのであろうという点はわかっている、だが努力だけでこの俺を満足させる事の出来る蕎麦を作れると思ったら大間違いだ」

 

桂なりに彼女の頑張りは素直に評価しているが、それだけでは足りぬと首を振り

 

「お前もそう思うであろう」

 

さっきから隣のカウンターでラーメンをすすって食べているもう一人の客に向かって話しかける

 

「我が右腕、銀時よ」

「あ、ごめん、店で顔合わせた時からずっといないモノだと思って無視してたわ、おたく誰?」

「桂だ!」

「あーヅラか」

「桂だ!!!」

 

 

彼の隣に座っていたのはまさかの古き知り合いの坂田銀時であった。

 

たまたま桂と同じ時間にこの店にやって来て、さっきからずっと彼の話を聞かずに幾松の作ったラーメンを食べている真っ最中だ。

 

「つうか店の中だし被ってるモン取れよ、マナーを守れ」

「取れるか! お前こそラーメンズルズルしながら喋るな! 汁がこっちに飛び散ってるぞ!」

「オメーが食ってる時に話しかけたのが悪いんだろーが」

 

口にズルズルと麺を入れながらこちらに汁を撒き散らす銀時に、桂がかかった汁をおしぼりを拭いながら叫んでいると

 

食器を洗い終えた詩乃がキョトンとした表情でそんな二人を見比べる。

 

「それにしてもやっぱり驚いたわ、まさか銀さんがこの人と知り合いだったなんて」

「知り合いでもなんでもねぇよこんな奴、ただ行く場所向かう場所にコイツがいただけの話だ」

 

桂と偶然この店で鉢合わせした時、詩乃は桂から無駄に長ったるい銀時との長きに渡る青春物語を聞かされたのだ。

 

長過ぎて後半は全く耳に入れていなものの、とどのつまり銀時と桂は昔からの腐れ縁だというのはよくわかったのである。

 

「つうか俺もお前がコイツと妙に親し気だった事に驚きだよ、悪い事は言わねぇ、例え男に飢えてもコイツだけは絶対に止めておけ、代わりに和人君紹介してあげるから、相手選ぶなら年上より同年代にしろ」

「いやいや何勘違いしてんのか知らないけどそういうのじゃないから、あの子もいらないし」

 

変に疑って勘繰って来る銀時に詩乃は苦笑しながら手を横に振って否定して再度口を開く。

 

「そもそもこの人がこの店に頻繁に来るのって、私じゃなくて店主さんに気があるからだもの」

「ええそうなの? ヅラ、やっぱお前も男だねぇ、人の事散々言っておいて結局男としての本能に逆らえてねぇじゃねぇか」

「おうい詩乃殿! 変に誤解を招く発言はよせ! 俺は幾松殿に惚れたのではない! 幾松殿が護るこの店に惚れたのだ!」

 

 

桂の中のストライクゾーンは未亡人、もしくは人妻がベストだと長年の付き合いでわかっている銀時

 

詩乃も腰に手を当て桂がこの店の店主とよく話しているのを見ているのでおおよその検討は付いていた。

 

しかし慌てて桂は幾松ではなくこの店を目当てにやってきているのだと言い訳する。

 

「周りを見てみろ、天人の介入によりこの国の技術が進化していく一方なのにも関わらず、ここは全く文明開化の兆しも無い古びた内装のままだ、俺はこういう古き良き江戸の風習にならった古臭くてボロい店が気に入ったのだ」

「褒めてぇのか乏してぇのかどっちなんだよ」

「ていうかそういう店ならウチ以外にも一杯あるんだけど」

「これで後は蕎麦が上手ければ他に言う事ないのだがな」

「そもそもウチってラーメン屋なんだけど、あなたが来る度来る度蕎麦出せっていうから私が仕方なく作ってあげてんだからね」

 

言い訳にならない言い訳とはこの事だな、と呆れながら詩乃がため息ついていると

 

お客用のトイレのドアがガチャッと開き

 

中からにゅっと真っ白なペンギンの様なアヒルの様なよくわからない見た目をした珍妙な生物が現れ

 

何事も無かったかのようにストンと桂の隣の席に座る。

 

「ていうかお前本気で革命する気あんの? さっきからお気に入りの店だの蕎麦だの幾松と○○○したいだの倒幕に全く関係ねぇ事ばかりじゃねぇか、やる気ないなら止めれば?」

「ふざけるな! やる気が無いのは貴様であろう! 俺は常日頃からずっと幕府打倒を心がけて……てちょっと待て! 幾松殿と○○○ってなんだ!? 俺はそんな事一言も言っておらんわ!!」

「言わなくてもわかってんだよこっちは、いいじゃん別に、向こうだって相手はいないみたいだしいっぺん口説いて来いって」

「だから俺は幾松殿に対してそんなやましい事は考えておらんと言っている!」

 

 

けだるそうにカウンターに肘を突きながらイジって来る銀時へ桂が声を荒げて怒鳴りつつ、隣に座った珍妙な生物の方へ振り返る。

 

「全くどいつもこいつも勝手な事ばかり言いおって……ほらどうだ”エリザベス”、お前も詩乃殿が作った蕎麦を一口食べてみんか?」

 

着ぐるみ感漂うその不気味な見た目の相手に向かってエリザベスと呼びながら、桂は優しく自分が食べていた蕎麦を進める。

 

そしてそんな光景を横からジーッと見ていた銀時は頬杖を突きながら

 

「……ていうかさっきから気にはなってたんだけどよ……」

 

 

 

 

「なにその気持ち悪い生物?」

「気持ち悪くない、エリザベスだ」

「いや単体だとそうでもねぇけどお前とセットだとより存在感が強くなるんだよ、というかお前が気持ち悪い」

 

この店に来てから銀時はずっとこの生物はなんなのだろうと疑問に思っていた

 

今まで桂に尋ねなかったのは、自分が何か悪いものを食べて幻覚でも見ているのではないかと危惧していたからである。

 

「ホントなんなのそのパチモンオバQ、目が怖いんだけど、吸い込まれそうなんだけど」

「ああ銀さんにも見えるんだ……私は結構前から見えていたけど、コレってただ私が疲れてるから見える幻影だと思ってた……」

「なんなのだお前達、エリザベスをオバQだの幻影だのと言いおって、失礼だぞ」

 

銀時は初対面ではあるが詩乃は実を言うと結構な頻度でコレを見ている。桂が来客する度に何時も一緒にやってくるのだ。

 

あまりにも珍妙過ぎてただの幻覚だろうとずっと思考を放棄していた詩乃と銀時に対し、桂はちょっとムッとした表情を浮かべながら注意する。

 

「エリザベスは至って普通の俺のペットだ、俺が幕府の犬共から逃げていた時に橋の下にダンボールに入れられて捨てられていたのを見つけてな、以後俺の事をずっと付き纏う様になったので思い切って飼う事にした」

「おいどっから最初にツッコめばいいのか訳わかんねぇよ、とりあえずお前がバカだというのは明確に理解出来たけど」

「桂さん……そんな犬猫を拾う感覚でコレ拾ったの? どう見てもコレ地球産じゃないと思うんだけど……」

 

 

現実世界はおろか仮想世界でさえ見た事のない生き物に詩乃が唖然としながら見つめていると

 

そのエリザベスという生き物はカウンターに置かれている割り箸に小さな手を伸ばそうとするも届かない様子。

 

ぶっちゃけ関わりを持ちたくないが、困ってるみたいだし

しょうがないから代わりに取ってあげようかと彼女が思ったのも束の間、次の瞬間彼女は目撃した

 

エリザベスの黄色いクチバシがパカッと開いたと同時に

 

 

 

 

中からにゅっと明らかに人の腕と思われるモノが離れていた割り箸を素早く掴んで手元に引き寄せたのを

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ん? どうした詩乃殿、いきなり叫び声を上げて」

「エリザベスゥ! エリザベスの口から今人の腕がにゅいーんって出て来たぁ!」

「エリザベスの口から人の腕? フ、何をバカな事を」

「いやいや見なかったの今!? ホントに腕が出てきたのよ腕が!」

 

詩乃が叫んでいる内にエリザベスは何事も無かったかのように自分の手で桂の蕎麦を食べ始めている。

 

エリザベスの口から得体の知れない腕が飛び出した事に気付いていなかった桂に、彼女はエリザベスに指を突き付けながら必死に訴える。

 

「真っ白でお肌すべすべな綺麗な腕が出てきたのよ! アレ絶対女性の腕よ間違いない!」

「ハッハッハ、おぬしも面白い冗談が言えるようになったものだな」

「笑い事じゃないから! 信じて桂さん! やっぱこの生物おかし……ぶ!」

 

自分の話に全く聞く耳持たずの桂に詩乃が真実を洗いざらいぶちまけようとしたその時

 

彼女が作った蕎麦をズズズーッと食べていたエリザベスが、突如彼女に向けて「ペッ!」と口から発射して顔面に直撃させた。

 

「……」

 

顔にふやけた蕎麦をぶつけられて固まってしまう詩乃に対して、エリザベスはどこからともなく取り出した一枚のプラカードを見せつける。

 

『美味しんぼ読んで出直して来い小娘』

「な、何すんのよアンタァァァァ!!」

「こらこらエリザベス、いくら彼女が作った蕎麦がマズかったとはいえ顔に吹っ掛けてはダメではないか、マズかったとはいえ」

「2回も強調しないでいいから! ホント何なのよコイツ! 信じられない!」

 

言葉を発さずプラカードで会話する形式なのだろうか、とにかく厳しい評価を下すエリザベスに桂が窘める中

 

詩乃はイライラしつつ手拭いで顔を拭きながらエリザベスを睨み付ける。

 

「桂さんやっぱ捨ててきた方が良いわよコレ、明らかに人に対して悪意を持っているわ、銀さんもそう思うでしょ」

「いや俺はヅラの奴がなに飼ってようがどうでもいいんで、変なモンなら俺も飼ってるし」

「それってユウキの事?」

「バカ野郎アイツはれっきとした人間だよ、飼ってんじゃなくて一緒に住んでんだ、飼ってるつったらお前、和人君に決まってんだろうが」

「あの人もれっきとした人間よ!」

 

いつの間にかスープまで飲み干しラーメンを完食し終えた銀時がどんぶりをカウンターに置きながら答える。

 

詩乃と違って桂のプライベートの事などどうでもいいみたいだ。

 

「そんな事よりよ、お前シノンと知り合いだったろ? 今度四十三層攻略するから暇なら救援来てくれって伝えてくんね?」

「いや知り合いっつうか本人だから……店が終わった時間帯ならすぐ行けるけど、もう四十層辺りまで来てたんだ、絶好調だね銀さん」

「んーまあ、やっとあの世界での動き方のコツを覚えて来たからな、まだ本調子じゃねぇけど」

「へぇ~、こりゃ追いつかれるのも時間の問題かも」

 

桂の事などよりも銀時はどっぷりハマっているゲーム・EDOについて詩乃に相談を持ち掛ける。

 

どうやら戦い方について着々と手慣れて来たのか、彼自身が持つ戦闘力のおかげでどんどん攻略を進めているらしい。

 

三十五層で出会ったアリスという不思議な女性のおかげで、銀時は仮想世界でも確実に強くなっているのだ。

 

遂に四十層クラスに到達したと聞いて詩乃はうかうかしてられないと思いつつ感心した様に頷いていると

 

「フッフッフ、銀時、どうやら以前あの娘っ子と会話していた時に出て来たゲームの内容について喋ってるみたいだな」

「あ? それがどうしたんだよ。お前このゲーム知らねぇんだろ、話に入って来るなめんどくせぇ」

「やれやれ、俺も随分と見くびられたものだな、この俺が知らぬままだと思ったら大間違いだぞ」

「なに?」

「え?」

 

二人の会話をエリザベスが残したそばを食べながら横から入り込んできた桂が突如不敵な笑み

 

その反応に銀時だけでなく詩乃もまたちょっと驚いていると、彼は微笑を浮かべながら顔を上げる。

 

「お前の所の娘っ子に言われた事が癪だったのでな、昔のお前だけでなく今のお前を知る為に俺もまたお前のハマっているそれに手を出してみたのだ」

「はぁ!? お前まさか俺達がやってるゲームやり始めたっていうのか!?」

「フ、お前と同じ目線で同じ景色を一度見てみたいと思ったのでな」

「ほ、本当なの桂さん!?」

 

あの桂が自分がほぼ毎日入り込んでいる仮想世界へ? 彼の話を聞いてビックリする銀時よりも、何故か詩乃の方が強く反応してガタッとカウンター側に身を乗り上げて来た。

 

「あ、あ~だったら私が攻略手伝ってあげようか……? いくら桂さんでも仮想世界に慣れるには時間が必要だし助けは必要だと思うのよ……だ、だからそれまで私が傍で色々と教えてあげても……」

 

桂に仮想世界の先輩としてアドバイスしてあげれる上に一緒に冒険だって出来る。

 

そう思うと居ても立っても居られなかったのか、照れ臭そうに頬を掻きながらやや早口気味に自分が手伝おうかと言い始める詩乃

 

しかし桂は一人頑張っている彼女をよそに、ゴソゴソと懐を探りながらあるモノを取り出そうとする。

 

「とくと見るがいい銀時! これがお前がずっとハマっているゲームの正体であろう! そして俺は遂に手に入れたのだ!! 時代の最先端を行く画期的なVRゲームを!!」

 

高々と叫びながら桂は自信満々にそれをカウンターの上に置いた。

 

もしやナーヴギアか? と思い銀時と詩乃がすぐに目を向けると

 

 

 

 

 

 

小さな黒い脚立の上に真っ赤なボディを輝かせる

 

黒いコントローラーが付いた明らかにナーヴギアとは別物だとわかる代物であった。

 

「その名も……バーチャルボーイ!!!!」

「全然違ぇじゃねぇかァァァァァァァ!!!」

 

 

ドヤ顔でそのゲーム機器の名前を叫んでみせる桂に銀時が思いきり叫び返した。

 

詩乃はさっきまでのテンションはどこへやら、口をポカンと開けて頬を引きつらせたまま立ちすくんでいる。

 

「最先端どころか一人だけ旧石器時代にまで遡ってんだろ! まだファミコンの方がマシだわ!」

「お前の気持ちが分かったぞ銀時、コレを手にして俺も衝撃を覚えた、まさかゲームの世界がここまで進歩していたとはな」

「いやだから古いんだよ! 俺等がやってるのはEDOっていうもっと凄ぇ奴なんだよ! 今時バーチャルボーイなんてやってる奴なんかいねぇよ! つうかよく手に入れたなそれ!!」

「いやはや弁天堂の開発意欲は凄まじいものだな、まるでゲームの世界へ入り込んだみたいだ」

 

むしろナーヴギアよりも入手が難しそうな化石機器を見せびらかしつつ、桂は手に入れたバーチャルボーイに顔を近づけて画面を覗き込む。

 

「おお見ろ銀時! まるでホントにマリオと一緒にテニスをしているみたいだ! 画面が何故か真っ赤に染まっているのでちと目が痛いが! 銀時! これがお前が見ていた世界の景色か!!」

「いやそんな景色知らねぇ、一生見続けて目ぇ悪くしろバカ」

 

ラーメン屋でカウンターに置いたバーチャルボーイを覗き込みながら興奮した様子でコントローラーを握って遊んでいる桂。

 

その周りでエリザベスがどうにかして桂が嬉々としてプレイしているゲームを見ようと背後に回ったり横から覗き込もうとしいる様子がよりシュールな光景に見える。

 

銀時はしばらくそんな一人と一匹の光景を眺めていると、無言で立ち上がり懐の財布から小銭を取り出して詩乃に渡す。

 

「ごちそうさん、また来るわ」

「毎度……って銀さん! まさかこの状況を放置したまま逃げるつもり!? どう対応してやればいいのか凄く困ってる私がここにいるのに!?」

「心配すんな、ただ化け物が周りをグルグル回ってる中、いい年したおっさんがバーチャルボーイやってるだけじゃねぇか、暖かい目で見守ってやれ」

「いや見守れないから!むしろこっちが助けて欲しい側だから!」

 

こんなシュールな絵面を前にしながら一人そそくさと帰っていく銀時に取り残され

 

詩乃はカウンターに座りながらまだ叫んでいる桂にジト目を向ける。

 

「見ろ銀時ぃ! これが俺とマリオの必殺スマッシュだ! 相手コートがあっという間に血の海だハッハッハ!!」

 

銀時がいない事にも気付いていない様子の桂の笑い声が店内に響くのみ。

 

桂、銀時に遅れて遂にゲームデビュー

 

 

 

 

 

『打倒クッパを掲げ、狂乱の貴公子がマリオと共にテニスコートを駆け回る時が来たのだ!』

「いや思わせぶりなナレーション入れてるみたいだけど、やってるゲーム自体全く違うから」

 

桂の背後でプラカードを持ち上げるエリザベスに対し、詩乃はボソリと冷めたツッコミを入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 




桂が遂にゲームデビューですね


そして次回は桂が詩乃を連れて知り合いの店へ出掛けるお話です

それでは
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