竿魂   作:カイバーマン。

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Q銀さんはいつもどこでフルダイブしてるんですか?

A突然の来客が来てもいいように基本的に居間の自分用の椅子に座ってプレイしています。

おかげでゲーム終わった後は腰が痛いみたいです。



第七十六層 知り合いの友人となると距離感が難しい

コレは今より大分前の出来事。

 

結城明日奈がまだ幼い頃、従兄妹である土方十四郎の所へ兄と共に疎開し、武州へと来ていた頃。

 

道場に向かうがてらに土方は毎回立ち寄る場所があった。

 

「”先輩”稽古の時間です、迎えに来ました」

 

「土方ァァァァァァァ!!!」

 

そこはこじんまりとした小さな家、庭の方から入った土方が無愛想に呟くと

 

すぐに中から一人の小さな少年が自分の家の襖を蹴破って彼に向かって飛び蹴り。

 

「二度とウチの敷居を跨ぐなって言っただろうがぁ!!」

 

「いや無理っす、自分、近藤さんに先輩を連れてこいって言われてるんで」

 

自分よりずっと背も高い年上の相手に向かって果敢に奇襲をかまそうとする少年は沖田総悟。

 

この頃から土方の存在を疎ましく思っており、事あるごとに隙あらば痛い目に遭わせてやろうとしているのだが

 

まだ小さな少年である彼ではそれも上手くいかず、こうして飛び蹴りを繰り出しても土方は平然とした様子で軽くいなしてしまう。

 

「そんじゃ先輩、遊んでないで行きましょうか、近藤さん待ってるんで」

 

「てんめぇ土方コノヤロー! それが先輩である俺に対する態度か!」

 

自分に対してなんで沖田がこんなにも苛立っているのかは知らないしどうでもいいので、とりあえずさっさと用事を済まそうと彼の後襟を掴みズルズルと引きずりながら、土方はこの家を後にしようとする。

 

するとその時

 

「あ、あの~……」

 

沖田を引きずって道場に向かおうとする土方に、おずおずと話しかける少女が一人。

 

彼の所で厄介になっている結城明日奈。この家に来る時は毎回土方は彼女もここに連れて来ているのだ。

 

その理由は自分が道場にいる間はこの家、強いて言うなら沖田の姉の所へ預ける為である。

 

「い、いってらっしゃい十四郎さん……」

 

「……」

 

「おい泣き虫娘コラ、土方の野郎には挨拶して俺には何も言わねぇってどういう事だコラ」

 

「ひ、ひぃ! ごめんなさい!」

 

縮こまった様子で頭を下げながら見送る明日奈に土方は何も言わずに顔を背け、彼に引きずられたまま沖田は彼女に中指を立てながら文句を垂れる。

 

この頃の明日奈にとって沖田という少年は正に天敵そのものであり、事あるごとに彼に泣かされていていつも怯えていたのだ。

 

「おい、言っておくが姉上に迷惑かけたら承知しねぇからな、姉上は体が弱いんだ、お前なんかと遊んでる暇なんかねぇんだよ」

 

「う、うん……」

 

「それと姉上は”俺の”姉上だから、前にお前、姉上の事を「ミツバ姉さん」とか呼んでただろ、次に姉上の事そんな風に呼んだら、お前マジで墓穴掘ってそこに生き埋めにすっから覚悟しろよ」

 

「先輩、そこまでいくと流石にシスコン過ぎてキモイっす」

 

「オメェが話に入ってくんじゃねぇよ土方コノヤロー!」

 

自分より一個しか違わない明日奈に対し、厳しく注文する沖田に対し、彼を引きずっていた土方が振り返らずにボソッとツッコミ。

 

殴り掛かろうとするも拳が届かず、悔しそうにしている沖田を連れて、最後に明日奈の方をチラッと視線だけ向けた後、土方は最後まで彼女に何も言わずにそのまま道場へと向かってしまうのであった。

 

「……」

「フフ、行ってくるぐらい言えないのかしらね。あの人」

「!」

 

いつも無言で行ってしまう土方を見送りながら、取り残された明日奈がガックリと肩を落とすが

 

背後から透き通った声がしたので、明日奈はすぐに後ろに振り返る。

 

そこには沖田と同じ髪色をした細い体付きの、とても優しそうな目をした女性がこちらを見守る様に立っていた。

 

「今度私から女の子の扱い方を教えてあげようかしら、それと総ちゃんにも女の子に意地悪しちゃダメって事も言ってあげなきゃ」

 

「ミツバ姉さん!」

 

それは沖田の実の姉であり唯一の彼の家族である沖田ミツバであった。

 

明日奈は先程の沖田の忠告もすっかり忘れて彼女に向かって叫びながら勢いよく飛び付く。

 

初めて会った時からすっかり自分に懐いてしまった明日奈を、ミツバはまるで本当の姉の様に優しく微笑みながら、腰にしがみ付いて来た彼女の頭を撫でてあげた

 

「さて、今日は明日奈ちゃんとどんな事して遊ぼうかしらね~」

 

嬉しそうに呟く彼女に頭を撫でられながら、明日奈はその感触を心地よく感じながら

 

そっと眠る様に目を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~……じゃあ前に近藤さんに教えてもらったベーゴマ遊び……ん?」

 

次に明日奈がパチッと目を開けた時、目の前に現れたのは異星の船が飛び交う大空であった。

 

先程まで幼かった筈の彼女は、そこからかなり成長している様子がうかがえる。

 

「……まさか昔の事を夢で見る事になるなんてね……あの頃はなんのしがらみもなく楽しかったわねホント……」

 

かつて武州にいた頃の思い出を夢として見ていた事に、明日奈は寝ぼけながらもふと懐かしく思っていると

 

「あれ?」

 

ふと自分がどうして空を見上げながら眠っていたのだろうと疑問に思い始めた、それだけではない、なんだか体の上にとんでもなく重たいモノが乗っかってる様な感覚が……

 

「え、動けない……どういう事? 私は確か真撰組の屯所で自分の部屋で眠っていた筈なのに……!」

 

体を上から圧迫されて身動きさえ取れないことに明日奈がますます不思議に思っていると

 

「お、なんでぃ、お目覚めかいお姫様」

「!?」

 

目の前に見える大空の中にヒョコッと顔を出して来たのは、子供の頃よりも更に捻くれて成長してしまった哀しきモンスター、沖田総悟。

 

一体どうして彼がここに……と明日奈がギョッとした様子で驚くのも束の間、沖田はこちらの顔を覗き込んだままスッとスコップを取り出して

 

「せっかくなんの苦しみも無く安らかに寝かせてやろうとしてたのに」

 

「ちょ! ちょっとなによそのスコップは! ってアレ!? もしかしてここって!」

 

土で汚れたスコップを持つ沖田に明日奈はどういう事かと問い詰める前に、自分自身で周りを見渡しながらすぐに気付き始めた。

 

よく見ると自分の周りは四方の土の壁で囲まれている、そして自分の体にのしかかっているのもまた土。

 

これらの情報で結びつく答えは……

 

「穴の中!?」

 

「惜しい、墓穴だ」

 

「同じじゃないの! てかどうして生き埋めにされそうになってるのよ私!」

 

「お前が寝てる間に俺が早朝からせっせと作っておいたのさ」

 

「なんで朝からそんなのせっせと作る必要があったのよ!」

 

「そこにムカつく野郎がいたからさ」

 

「頭おかしいんじゃないの!?」

 

どうやら自分が寝ている間に沖田は部屋に忍び込み、前もって既に庭に掘っておいた穴に埋めようとしていたらしい。

 

今まで散々自分に対して嫌がらせを行ってきた彼であったが、まさか早朝から生き埋めにされるとは予想だにしなかった明日奈であった。

 

「いい加減にしなさいよもう! せっかくミツバさんとの楽しい思い出を夢に見ていたのに!」

 

「なに人の姉上をテメーの夢の中に登場させてんだ、姉上に出演料払え出演料」

 

「だから私の体を土で埋めないでったら!」

 

自分の姉の夢を見ていたと叫ぶ明日奈に、沖田はイラッとした様子でジト目で彼女を見下ろすと、そのままスコップで彼女の上に土を被せるのを続行。

 

このままだと本当に彼の手によって生き埋めにされてしまうのではと、明日奈は慌てて頼れる親友・神楽の名を叫ぼうとしたその時

 

「あ、アスナ姐こんな所にいたアル」

「神楽ちゃん!」

 

助けを呼ぶ前にヒョコッとこちらに顔を覗かせて向こうからやって来てくれた神楽。

 

いつも自分の窮地に颯爽と現れてくれる頼もしき彼女の登場に明日奈が素直に喜ぶも

 

沖田によって埋められている状態の自分に神楽は何食わぬ顔で

 

「なんかさっきゴリラがアスナ姐の事探してたネ、なんか知らないけど、偉いオッサンがアスナ姐に用があるみたいだからすぐに客室に来て欲しいんだって」

 

「あ、そうなんだ、でもねぇ神楽ちゃん、それより今の状態の私を見てどう思う?」

 

「土の中から頭だけ出してるから、穴の中で転がってる生首が喋ってるみたいで正直不気味アルな」

 

「いや率直な感想はいいから助けてよ! どう見てもピンチでしょ私!」

 

「え? アスナ姐自分からそうなってるんじゃないアルか? 私てっきり最近若い娘の間で流行ってるとかいう土風呂をエンジョイしていると思っていたネ、いいなー今度私も入らせてヨ」

 

「流行ってるのは土風呂じゃなくて砂風呂よ! しかもだいぶ前にブーム過ぎてるし! ってだからどうでもいいのよそんな事!」

 

こちらを覗き込みながらキョトンとした表情で首を傾げる神楽、こちらの状況をまだ把握していない様子の彼女に、明日奈は助けを求めるよりもツッコミの方を優先してしまっていると

 

「お、いたいた! 探したぞ明日奈ちゃん!」

「近藤さん!」

 

神楽に続いてヒョコッと顔を覗かせて来たのは真撰組の頼もしき大黒柱、近藤勲であった。

 

誰の指図も受けないフリーダムな沖田にいう事を聞かせる事が出来る唯一無二の存在。

 

彼がやって来てくれた事でやっとここから解放されると明日奈がホッと安堵の表情を浮かべていると

 

「急ですまんが松平のとっつぁんが明日奈ちゃんに用があるって今客室に来てるんだ! 総悟達と遊んでいた所悪いがすぐに来てくれ!」

 

「あ、はいわかりましたすぐに行きます、ってそうじゃなくて!」

 

「よし! それじゃあ俺は先にとっつぁんの所に行ってくるから!」

 

「ちょ、ちょっと近藤さん!」

 

助けて貰えるどころか、用件だけ伝えたらさっさとどっか行ってしまう近藤に明日奈は叫ぶ事しか出来なかった。

 

来てくれと言われても出るに出れない状況だというのに、どうして誰も気づいてくれないのだろうか

 

「なんで! なんで私の周りの人達って人の話を聞かない連中ばかりなのよ!」

 

悲観して嘆く明日奈に対し、スコップを肩に掛けた沖田は澄ました顔でボソリ

 

 

 

「そりゃお前も人の話を聞かないタイプだからに決まってんだろ」

 

「……あ、そうか」

 

とどのつまり、同じ穴の貉

 

それに気付くと自然に自分で納得してしまう明日奈であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後、沖田がちょっと離れていた隙をついて山崎が彼女を救出し

 

山崎が戻って来た沖田によって、自分の代わりに彼が生き埋めにされている事も知らずに

 

明日奈は近藤と来客のいる客間へと急いでやって来ていた。

 

「いや~急に来ちゃって悪かったな~明日奈ちゃん、あれぇ? しばらく会わない内にまた綺麗になった?」

 

「ハハハ、いくら女でもほんの数日の間じゃそんな変わり映えなんてしませんよ」

 

「つーかなんで寝巻きの上に泥だらけな訳?」

 

「あー……ちょっと朝から人知れずハプニングに遭遇してまして……すみません」

 

「どんなハプニング?」

 

客間で待っていたのはやはり警察庁長官である松平片栗虎であった。

 

明日奈がやってくるといつも通り機嫌良さそうにいつもキャバ嬢に言っているお世辞を言い

 

彼女の格好が泥だらけのパジャマ姿だという事に不審そうに尋ねると、鋭い目を明日奈の隣に待機している近藤に向ける。

 

「おい近藤、明日奈ちゃんは嫁入り前なんだからデリケートに扱えよ、しかも嫁に行く先はあの将軍だ、この子に何か遭ったらテメェ等の首全部飛ばしても示しつかねぇって事を肝に銘じておけ」

 

「安心しろとっつぁん、明日奈ちゃんが晴れて将軍様の嫁入りするまで俺達は徹底的にマークして警護に務めるさ、不逞な輩なんぞ誰一人彼女に近付けん」

 

「いや私にとって一番不逞な輩が絶賛朝から殺しにかかってんですが……」

 

念を押して忠告して来る松平に近藤は腕を組みながら力強く答える。

 

だが明日奈からすれば、護ってくれる真撰組内にいる一人の存在が最も近づいて欲しくない人物なのだが……

 

「この前も明日奈ちゃんに会いに来たとかほざいて、ああだこうだ言いながら無理矢理屯所に入ってこようとした貧弱な優男を隊士達で袋叩きにしてやったしな」

 

「絶対須郷さんだわ……」

 

「で? ちゃんと殺したのかそいつ?」

 

「いやーそれが中々にしぶとくてさ、弱いくせに生命力だけはゴキブリ並でよ、仕方ないから港に運んで海の底の沈めて来た」

 

「おい、ちゃんとコンクリートに詰めて沈めただろうな、ゴキブリってのはマジでしつこいんだぞ」

 

「すみません、さっきからお二人の会話が警察組織の会話には聞こえないんですけど……完全にヤクザの会話なんですけど……」

 

どうやら事あるごとに毎回自分の前にやって来ていた須郷は、今回は自分と会う前に真撰組によってシメられてしまったらしい。

 

近藤は港に沈めたと言っていたが、何故であろう、彼の事だからどうせ生きているんだろうなと明日奈ははぁ~とため息をついた。

 

「ていうかそろそろツッコミたいんですけど、私と将軍様の縁談話ってまだ解消されてないんですか? 確か私散々松平さんに断ったと思うんですけど?」

 

「あれぇ~? そうだっけ~? ごめんおじさん最近物忘れ激しいからさ~、年は取りたくねぇな~ホント」

 

「……」

 

明日奈の追及に松平はすっとぼけた様子で後頭部を掻く、それをジト目で見つめながら明日奈はすぐに察した。

 

この男、ハナっから自分が何言おうがお構いなしに将軍の縁談を進める気なのだと。

 

こちらの都合などお構いなしに勝手に裏で自分の縁談を進めていた松平に、明日奈は無言で非難の目を向けるも彼はおもむろに別の話題に切り替える。

 

「そういや明日奈ちゃん、今はここに住んでるみてぇだが不満とかあんならおじさんに言ってみな ただでさえ四方八方に汚ねぇ野郎共に囲まれてストレス溜まってるだろうに」

 

「そうですね、皆さん本当に優しいですし、一人除いて……」

 

「いや大丈夫だとっつぁん! 俺達は明日奈ちゃんが将軍の嫁になるまでここで預かると聞いてから! 隊士達は一丸となって清潔には気を付けてるんだ!」

 

明日奈は将軍との縁談を進めてる間は、真撰組屯所でその身を預かっている形となっている。

 

晴れて将軍の所へ嫁入りするまでの間、良からぬ虫が付かぬよう真撰組によって厳重に警護する為だ。

 

それも数日経った今、明日奈にも不満の一つや二つあるのではと松平が尋ねると、またしても近藤が自信をもって

 

「俺達は常に己の体に付着する汗と加齢臭を排除する為、肌身離さずファブリーズを携帯する事になったのさ!」

 

そう叫ぶと近藤はおもむろに立ち上がって、本来刀を差すべき場所に「クールアクアの香り、獣臭完全除去」とデカデカと書かれたファブリーズがしっかりと差してあった。

 

「己の体臭を消し去る為、何より明日奈ちゃんに嫌われない為に! 俺達は常にファブリーズをまんべんなく体に吹きかけてます!」

 

「かけてます、じゃねぇよ、おい無臭ゴリラ、刀はどうした刀は」

 

「刀? ああーアレはファブリーズ差す時に邪魔だったからよ、今はもう差してねぇや」

 

「おい、いくら体臭に気を遣っても侍の魂である刀を所持してなかったら、いざという時にどうやって明日奈ちゃん護るんだこの腐れ脳みそゴリラ」

 

「あーそうだった! ハハハ、俺とした事がうっかり! てへぺろ! ってうおわぁ!!」

 

江戸を守護する侍であるべき真撰組が、揃いも揃って刀を持たずにファブリーズを携帯しているという前代未聞の問題だ。

 

おまけにその真撰組の大将は、舌をチョロッと出して自分の頭をコツンと叩くという完全にナメた態度を取って来たので、警察庁長官として松平は冷静に銃口を向けて躊躇なく2、3発彼に向かって発射する。

 

「テメェ等に将軍の嫁候補を警護するという重要な仕事を命じたのは俺だ、つまりテメェ等がヘマしたら俺も責任を取らなきゃならねぇ、わかるな近藤? 俺とお前等の命も全て明日奈ちゃん次第だ」

 

「お、おう……」

 

「こちとらテメェ等と違って妻子持ちなんだよ、残すモンがあるとそう簡単にくたばる訳には行かねぇからさ、マジで頼むわホント」

 

「りょ、了解であります警察庁長官殿!」

 

「ま、それはそれとして……」

 

まだこちらに銃口を向けられているので近藤は半ば脅される形で慌てて敬礼すると、松平はゆっくりと立ち上がり

 

「俺も最近おっさん臭いってキャバ嬢に言われてっから、ファブリーズ頼むわ」

 

「わかりました! とっつぁんは特に加齢臭半端ねぇから全身まんべんなく吹きかけます!」

 

「いい加減マジでぶっ殺すぞテメェ」

 

「結局ファブリーズに落ち着くんですか!?」

 

自分もまた臭いを消して欲しいと思っていたのか、ちゃっかり近藤にファブリーズをこちらにかけろと指示。

 

そんな松平と、それに従い急いで彼にシュッシュッとファブリーズを吹きかける近藤の姿に

 

明日奈が唖然とした表情で声を出してしまうのであった。

 

 

 

 

 

それから数分後、近藤によって無事に体の臭いを消し去る事に成功した松平は改めて明日奈と向かい合うように座り直した。

 

「よし、それじゃあおじさんの臭いが無事にフローラルな香りになった所で、明日奈ちゃんにお願いがあります」

 

「フローラルかどうかは知りませんが……え? お願い?」

 

目の前でおっさんがおっさんにファブリーズという光景を見せつけられてちょっと参ってしまっている明日奈に

 

松平はようやくここに来た本来の目的を語り始めた。

 

「前に明日奈ちゃんと会った時に俺が話した事覚えてる? 明日奈ちゃんが今やってるゲームで、俺のダチを一日面倒見てくれって話」

 

「ああその話ですか、良かったまた将軍様絡みの話かと思った……大丈夫です、ちゃんと覚えてますよ」

 

「そうか、なら話は早ぇ、今からダチがそのゲームをやる予定なんでな、明日奈ちゃん、ちょいとその前に色々とゲームについての事を教えてやってくれねぇかな」

 

「え、今からですか……? 随分と急ですね」

 

彼との約束を覚えていた明日奈は、今から手伝ってほしいと言われて若干戸惑うものの、すぐにコクリと頷いた。

 

「まあ私は構いませんけど、今日は偶然にも私、丸一日予定がないんで」

 

「……偶然つかいつもじゃね?」

 

「今日は”偶然”にも私、丸一日予定がないんで」

 

「あーうん、これ以上ツッコむのは無しって事ね」

 

偶然、という部分を強調して二度同じ言葉を真顔で言う明日奈を見て、松平はもう何も言うまいと諦めた。

 

「あ、もうそろそろそいつがここに着く頃合いだから、ちょいとおじさん迎えに行ってくるわ」

 

「わかりました、それなら私はEDOをプレイする為の準備しておきますね」

 

「おう、カセットフーフーしながら待っててくれや」

 

「いや今のゲームは必要ないんでそういうの……」

 

ゲームの知識に関してはファミコンぐらいしかわからない松平、そして重い腰を上げてそそくさと客間を後にして行ってしまう彼を見送りながら、明日奈はやれやれと苦笑する。

 

「どうせあの人の事だから、友達とか言っておいてキャバクラのお姉さんとかなんでしょうね」

 

「ハハハ、違いねぇ、しかし明日奈ちゃんがゲームとはいえ人に物事を教える立場になるとはなぁ、昔は俺が明日奈ちゃんにメンコ遊びやベーゴマ教えてたってのに」

 

「そんな大袈裟ですよ」

 

隣でしみじみと昔の出来事を思い出す近藤に、遠回しにまだ子ども扱いされていると気づいて明日奈は不満そうに答える。

 

「これぐらい誰だって出来るモンじゃないですか」

 

「いやだって、俺の記憶の中の明日奈ちゃんっていつもトシやミツバ殿の後をついて回って、よく総悟に泣かされてる印象が強くてな」

 

「嫌な事思い出させないで下さいよ……そんなに子供扱いするなら見ててください、私はもう一人前ですから」

 

土方は自分を厳しく扱い、沖田は自分を蔑ろに扱い、そして近藤は自分を子ども扱いする。

 

これは幼少の頃からずっと変わらない三人との関係性なのだが、せめて子供扱いされるというのは勘弁して欲しいモノだと明日奈は考えていた。

 

「今から松平さんのお友達とやらに血盟組の副長としてビシッとコーチングして見せますから」

 

「ほ~ならお手並み拝見としますかな、明日奈ちゃんがどれだけ成長したのか楽しみだ」

 

表情をキリッと切り替えて、EDOでは鬼の閃光と呼ばれ血盟騎士団のナンバー2として君臨する「アスナ」としての貫禄を見せつける彼女に、近藤は笑いながら期待していると。

 

「たたたたた、大変です局長ォォォォォォォォォ!!!!」

 

突如、廊下の方から猛スピードでこちらに向かって駆けて来る音が聞こえたと思いきや

 

襖をパンッ!と開けて出てきたのは、全身を土塗れにした山崎であった。

 

「ととととと、とんでもないお人が! この屯所にとんでもない超大物が自ら足を運びあそばれましたぁ!!!」

 

「おいどうした山崎、日本語変だぞ、てかなんでお前まで明日奈ちゃんみたいに泥まみれなの?」

 

「いやぁこれはさっきちょっと沖田隊長にやられまして……って俺の事なんかどうでもいいんすよ! 早く迎える準備してください! 下手な真似したら俺達全員すぐに首飛びますから!」

 

「大袈裟だなお前は、何をそんなに慌てふためく理由があんだよ、今から来るのはとっつぁんのただの友人じゃねぇか、俺達は侍として落ち着いてどっしり構えとけばいいんだよ」

 

「さ、侍だからこそ丁重に迎え入れなきゃいけないお人なんすよぉぉぉぉぉ!!!」

 

「え?」

 

何時にも増して様子がおかしい山崎に近藤は眉間にしわを寄せる。明日奈もまたどうしたのだろうと首を傾げていると

 

「おーいお前等、俺のダチ公のお通りだよ~」

「!」

 

そこへ松平の気の抜けた声が廊下から飛んで来た、すると廊下に立っていた山崎はすぐにギョッとした表情を浮かべて、すぐにその場に正座して深々と頭を下げたのである。

 

そういえばいつも騒がしい屯所が、松平が友人を迎えに行った途端急に誰もいなくなったかの様に静まり返っていたがその原因は……

 

段々近藤と明日奈に緊張が芽生えてきたのも束の間、松平が開いた襖からヌッと顔を出し

 

「まあ汚ねぇとこだがその辺は我慢してくれや、おい明日奈ちゃん、コイツが例の俺のダチの……」

 

明日奈の方へ話しかけながら、松平は連れて来た友人を遂に彼女達の前にお披露目する。

 

その人物とは……

 

 

 

 

 

「将ちゃんだ、まあ気楽に接してゲームの事教えてやってくれや」

「「え?」」

 

 

将ちゃん、そう呼ばれた松平の友人を見て近藤と明日奈は時が止まったかのように静止して動かなくなった。

 

凛々しい顔立ち、真っ直ぐに整った髷、未来を見据えるかの様に遠くを見る瞳、誰もが一度は袖に通してみたいと思えるような煌びやかな着物。

 

明日奈はこの人物の事を知っていた、というのも以前から度々顔を会わせる機会があったのだ。

 

この江戸に建つ”最も偉い御方”がお住みになられる江戸城で

 

「征夷大将軍、徳川家の14代目、徳川茂茂だ、此度はよろしく頼む」

 

((えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?))

 

松平が友人として明日奈の前に連れて来た人物は

 

まさかまさかの松平によって縁談を進められている超大物の中の大物、現将軍・徳川茂茂公だったのだ。

 

思いもよらぬ人物の登場に明日奈と近藤は唯々心の中で雄叫びを上げるしかないのであった。

 

(松平さんが私に会わせたい友人って……!)

 

(将軍かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!)

 

どうやら楽勝だと思っていたフルダイブ初心者へのEDO講座は

 

 

未だかつてない程慎重かつ強い緊張感の中で行う事になりそうだ。

 

「助けて下さい近藤さん!」

 

「い、いやさっき明日奈ちゃん自分一人でなんとか出来るって言ったから……頑張って」

 

「嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 

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