俺がモデルになるわけがない   作:NYO

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俺がモデルになるわけがない

窓の外はこれでもかと言うほどに照りつける陽光。

家から一歩でも外にでようものならすぐさま熱風が襲ってくる。

狂ったようにセミが鳴き、どこからか聞こえてくるチリンチリンという風鈴の音。

残暑。それがこの暑さの正体。

扇風機の音をバックグラウンドに、厚めの布団が消え少し寂しくなったベットの上で俺は漫画を読んでいた。

 

「ねぇ」

 

半月ほど前、妹に友達の間柄を取り持って欲しいと頼まれた。

やっかいなことに巻き込むんじゃねぇっ! 

普段は俺と全然関わりを持とうとしないくせに、自分が困ったときだけ妹面しやがる。

妹を助けるのが兄貴の役目? そんな道理があってたまるか!

 

けど数日後、北へ南へ、東へ西へ、大っきらいな妹のために精一杯駆け抜けている俺がいるんだ。

なんでかって?

当たり前だろ。いつもの勝気なあの妹が、兄貴を下僕として扱っているあの妹が、高慢で女王様気質なあの妹が、

端正な顔を涙でくしゃくしゃにしながらそれでも嫌っている兄貴に助けを求めたんだから。

 

結果から言えば成功した。

俺のおかげで妹とその友達の仲は修復することができ、妹は良好な学生生活を送っている。

その代わり俺は尊厳や信頼を失い、変態鬼畜兄という不名誉な称号を得ることになったわけだが。

 

「ねぇったら」

 

いまや俺と妹の仲は氷河期に突入した。

それも仕方のない事だと思う。

いきなり体を抱かれて、「俺は妹が大好きだぁぁああっ!」なんて叫ばれたら誰だって距離をとりたいだろう。

しかし、それは俺にとってはとてつもない僥倖だ。

いや、放置プレイが好みとかじゃなくてだな、そもそも俺はアイツと関わりたくないんだ。

というのも顔を合わせるたびにろくでもないことが起こるからだ。

 

「ねぇ、聞こえてるんでしょ」

 

だから、今回もろくでもないことが起こるに違いない。

俺が数日前の出来事を思い起こしていると、風通しのために全開にしているドアから妹の声が聞こえてきた。

読んでいた漫画から目を離し、ドアの方を向き直る。

 

ドアのところにいるのは腕を組んで仁王立ちで立っている少女。

髪の色はライトブラウン。見え隠れする耳には銀色のピアス。手の爪には艶やかなマニキュア。

これが件の俺の妹・高坂桐乃。

 

「なんだよ」

 

俺は軽く体を起こし、桐乃の方をむく。

珍しいな、コイツの方から話しかけてくるなんて。

 

「いま暇?」

「暇じゃないな」

「ウソ。漫画読んでるだけじゃん」

 

わかってんなら聞くなよ。

 

「あのさ、ちょっと相談があるんだけど」

 

……相談ねぇ。

今までの経験から桐乃の相談が並大抵のことでないことはわかっている。

二つ返事でOKしたらどんな状況になるかわかったもんじゃない。

だから、ここは用心に用心を重ねて対応すべきなんだが、

 

「相談ってなんだ」

 

どんなに考えても桐乃の相談を断るなんて選択肢は俺の中には存在しなかった。

そりゃそうさ、こいつのはお願いではなく命令なんだ。断って無理に妹を怒らせるような事はしない方が賢明と言えるだろう。

さすが俺。妹の命令を断れない自分の地位の低さをよくわきまえている。

 

「それなんだけど……ちょっと話しにくいからこっちに来てくんない?」

 

くいっ。首を振って「こっちにこい」とジェスチャーする桐乃。

ああやだやだ。なんで俺の妹には、俺の部屋で話をするという発想ないのかね。

それにその態度、普通なら来てくださいだろ。来てくんない? ってなんだよ。

……まぁ、いまさらだからどうでもいいけど。

でもさ桐乃、お前間違ってるよ。

 

「廊下の方が聞こえやすいだろ」

「バカ。アタシの部屋って意味よ」

 

それならそうと早く言え。

 

「仕方ねぇな」

 

読んでいた漫画を枕元においてドアに歩いて行くと、桐乃が無言で自分の部屋の方に歩いていった。これは『ついてこい』ってことだよな。

扇風機のスイッチをOFFにして部屋を出ると、桐乃は自分の部屋のドアを開けずに廊下で待っていた。

どうやら俺の予想は間違ってなかったようだ。

 

「はいって」

 

ガチャ。ドアの隙間からガンガンと流れ込んでくる冷気。

うおっ、寒!

俺は思わず体を両腕で抱きしめ、手で腕をこする。

たしかにさ、相談を受けるのには冷えた空気で考えた方がいいよ。茹った頭で相談を受けても何が何だかわかんなそうだしさ。だけどこれどう考えても寒すぎるだろ。

桐乃が部屋に入っていくので俺も部屋に入る。

ん? 誰かいる―――――って、げぇっ!

 

「……お邪魔してます」

 

ウサギ柄の座布団の上に正座で座っている少女。

肩より長い透き通るような黒い髪。素の自分を生かすような軽いメイク。

どこぞの妹のように派手に着飾っておらず、清楚な令嬢を連想させるかのようなたたずまい。

しぶしぶと言った感じで俺に挨拶したそんな少女が、冒頭での妹の友達・新垣あやせ。

俺に変態鬼畜兄のレッテル貼った女の子だ。

 

「あいかわらず気持ち悪いですね」

 

ふぃっ。俺を視界にいれたくないのか、窓の外に視線を向けるあやせ。

理由は分かってるんだが、改めてこういう態度をとられると傷つくなぁ……。

いや、もちろん俺が悪いのはわかってるんだけどさ。

初めて会ったときにはあんなに優しくしてくれたのによぉ。なんでこんなにすれ違っちまったんだ。

っと、いけないいけない。

あやせの事を考えるのはこれぐらいにして、桐乃に重要なことを聞かないと。

 

「桐乃」

 

俺はあやせに聞こえないように、桐乃に話しかける。

 

「なによ」

 

だというのに、桐乃は普通の声量で返してきやがった.

あーもうっ! なんなのこの妹さんは! 

お兄さんの好意をどれほど無駄にすれば気が済むの!?

い、いかん。落ち着け、こんな精神状態で満足な話し合いができるわけない。

 

「あやせに聞かれてもいいのか?」

 

年長者としての意地とプライドで怒りを抑え、俺は再び小声で話しかける。

 

「ダメだったら来るわけないじゃない」

 

そうか。それは分かったからさ、小声には小声で返してくれないかな?

お兄ちゃんもう泣きそうだよ。

 

「そこらへんに適当に座って」

 

ボスン。ベットに腰かける桐乃。

そこらへんったってなぁ、椅子も何もないじゃんかよ。なんだ? わざわざ相談されにきたっていうのにお茶の一つはおろか座布団も出さないってか。

いつもは立場が低い俺でもな、こんなときぐらいは優遇されてもいいだろ。

 

「桐乃。俺にも座布団をくれよ」

「桐乃の座布団に座るつもりですか?」

 

絨毯の上に座るって意外と気持ちいいな。

 

「それで? 相談ってなんだ?」

「それ、なんだけどね……」

 

桐乃がカリカリと首のうなじ部分をかく。

ふ~ん。こいつにも言いにくいことがあるんだ。どんな事でも相手の気持ちを考えないで言うのに。

 

「実は、ちょっとトラブルがあるんです」

 

言いにくそうな桐乃の代わりにあやせが答える。

おいおい、またなんかあんのか。

面倒事に巻き込むなとは言わないけど、頼むから簡単なのにしてくれよ。

 

「トラブル?」

「はい。読者モデルのことなんですけど」

 

まずいな。あくまで俺が手伝えるのは、親父を許させる、とか、友達との仲を直す、とかいう何かと解決案が浮かびそうなことだ。

だけど今回は『モデル』だという。

そんな俺にとって未知の領域に手伝えることなんてあるのか? 

とりあえず、すぐにでもあげられるように白旗の準備だけはしておくことにする。

 

「私たち読者モデル雑誌には専属カメラマンがいるんです」

「ほぅ」

「この間、そのカメラマンの一人が辞めてしまってですね」

「それで?」

 

真剣に聞いているふりをしているが内心だらだらだぜ俺。

もしここであやせに、「いま写真を撮ってくれる人がいないんです」って言われてみ?

当然「だから、お兄さんにカメラマンをお願いしたいんです」なんてことを言われて、写真を撮ることになり

 

『お兄さん、こんな格好恥ずかしい……』

『だめだよあやせ。ほら手をどけて』

『あんっ だめ』

 

んでもって、写真撮影だと言ってあんなことやそんなことやして、あやせが俺なしでは生きられなくなったら、今度はあやせを餌にして他の女の子に手をだし

 

「……キモいのよ」

「ハッ!」

 

桐乃の一言に俺は我に返った。

こんなに冷房が効いた部屋で俺の体中の汗腺から汗という汗が噴き出てくる。

まずい。これは非常にまずい。

俺は壊れたブリキ人形のようにギギギと頭の上だけを桐乃の方に向けた。

 

「……もしかして口に出てた?」

「はぁ?」

 

『何言ってんのコイツ』そんな蔑んだ目で見てくる桐乃。

しばしの沈黙の後、桐乃は俺が話を聞いていなかったことに気付いたようで、

 

「新しく来たカメラマンがキモいのよ」

 

若干イラついた感じで再び口を開いた。ほっ、カメラマンが嫌いなのか。

……ってちょっと待て! 

俺の頭の中に物凄い幻想が思い起こされる。

 

「まさか、裸とかを撮影させられているのか!?」

 

俺は思わず立ち上がり怒りで体を震わせる。

健全な男の子なら一度は想像したことのあるシチュエーションをもうすでに誰かがやっているだと!?

桐乃とあやせには俺がやろうとしていたのに……

 

「くそっ! うらやま……妬ましい!」

 

誰だ! 誰が俺の妄想を具現化しているんだっ!

 

「バカ! そんなわけないでしょ!」

「へっ!?」

「あいかわらずお兄さんはクズなんですね」

 

俺は込み上げた怒りをどこに向かわせることなくすごすごと座る

桐乃とあやせの視線がびしばし突き刺さってくる。

いったい俺が何をしたっていうんだ。健常な男子高校生なら当たり前の妄想じゃないか!

そんな事を言えるはずもなく、ただひたすらに背中を丸めていた。

 

「ねぇあやせ。こんなやつに頼んだのが間違いだったのかな」

「違うわ桐乃。こんな下等生物に頼むって考えた私たちが間違いだったんだよ」

「でもコイツ以外にアタシたちの奴隷はいないし」

「そうだね。使い捨てできる人なんてこのゴミ以外にいないんだよね。残念だけど」

 

なんだろう。すごく……いたたまれない。

 

「と、ところで、そのカメラマンがどうして嫌なんだ」

 

この空気に耐えきれなくなった俺は話を本題へと戻すことにする。

そうだよ、ものすごい強引だよ。悪いか。

違和感だってありまくり。桐乃たちにも『あっ、こいつ話を戻しやがった』なんて顔をされてるさ。

でも俺のチキンハートはもう限界なんだよ。

 

「撮影中に体中を触ってくるのよ」

 

桐乃が顔を歪め、思い出すのもいや、といった感じで話す。

両腕を交差させ体を抱いているところをみると、本当に気持ち悪かったんだろう。

 

「私は触られてないんですけど、それが原因でモデルを辞めちゃった子もいます」

 

しゅん。顔を曇らせ、床を見つめるあやせ。事は思いのほか深刻なようだ。

 

「なら、モデルを辞めればいいんじゃん?」

 

モデルってさ、華やかで綺麗で、自分に自信が持てる職業だと思うけど、そこまでして働くのはどうかと思う。

俺は働いた経験などないが、嫌々ながら楽しくないってことはわかる。

例えば―――ゲームってあるよな。

俺んちは親父が駄目だって言うからそういうものを一切持ってないが、黒猫や沙織、桐乃が楽しく遊んでいるところを見ると『俺もやってみてぇな』って思う。

だけどさ、どんなにやりたいゲームだからってそれが『妹を攻略する』なんてコンセプトならやりたくない。

やると桐乃から怒られなくてすむ、そんな報酬があったとしてもだ。

 

「それはできない」

 

フルフル。首を左右に振る桐乃。

 

「なんで?」

「体中をベタベタ触られるのは確かにイヤ」

「だからモデルを辞めろと――」

「でも、『妹』と遊べなくなるのはもっとイヤなの!」

 

俺は桐乃の言葉に唖然とした。

『妹』か。そういや、俺はコイツのせいで人生が変わったんだよな。妹は二次元の『妹』を俺より大事に扱うし、『妹』と友達を天秤にかけるほどだ。

そんな俺の妹だ。下手したら『妹』と遊ぶために自分の体を犠牲にするかもしれん。

桐乃の年じゃ読者モデル以上にお金を稼げる仕事はないしな。

OK。お前がモデルを辞めたくない理由は不純だが、確かにこの兄の心に届いたぜ。

 

「そんで俺は何をすればいいんだ?」 

「そのカメラマンに撮影を止めさしてほしいのよ」

「ん? 他に止める大人がいないのか?」

「いるにはいますが、撮影ではポージングのために時々体に触れますし、マネージャーさんもそこまで口出しできないんです」

「じゃあ、お前が直接言えばいいじゃないか」

「アタシが言うと、モデル辞めさせらちゃうかもしれないの。扱い難い読者モデルなんて簡単に辞めさせられるんだから」

 

それに、それでは残った人たちや後から入ってきた人も同じ目にあいます。そう後ろに付け加えるあやせ。

中学生なんてまだ子供だと思ってたけど、もう充分しっかりしているんだな。

ふむ、止めてくれる大人はいない。しかし、桐乃本人が言うとモデルを辞めさせられるかもしれない。

 

「なら、あやせが言ってやれば」

「私と桐乃を引き離すつもりですか!!」

「すいませんでした」

 

あやせの眼光の怖さに光の速さでジャンピング土下座。

プライド? なにそれ? 食べられるの?

 

「……あんたって時々なりふり構わず行動するわよね」

 

ほっとけ。

 

「ですが、第三者が言うと言うことには賛成です。今回はその役をお兄さんにやってほしいんです」

 

俺の頭上からそんな声が聞こえてくる。

声の調子からすると……怒ってないのか?

 

ちらっ。顔をあげてあやせを見る俺

ギロッ。人を見下す氷の目を向けてくるあやせ

ささっ。額を床にこすりつける俺

 

無理です。般若様が降臨しております。

 

「ね、ねぇ、あやせ?」

 

おおっ。桐乃がびびりながらも意見をしてくれるらしい。

 

「なに? 桐乃」

「は、話が進まないからさ」

「うん?」

「……なんでもないです」

 

うおおぉぉぉいっ!

あともうちょっとだろ!? 勇気出そうぜ!?

桐乃ならいける、ファイトッ! ファイトッ!

 

「ふぅ。仕方ないですね。……お兄さん、もう顔をあげてもいいですよ」

 

あやせも話しが進まないと判断したのか、俺を許してくれたらしい。

よかったぁ。これ以上あやせとの距離が開いたら困るもんな。物理的にも、精神的にも。

擦りむいた膝を痛めないように手で押さえ、俺は床に座りなおす。

 

「でもさ、どうすんだ」

「なにが?」

「俺が言ったところで、そいつはその場だけ止めるつもりかもしれないだろ」

 

俺は話しを本筋に戻し、この問題となる核の部分を問いただす。

そう、注意しただけでは意味が無い。

むしろ一度言っただけでスッパリ止めるといった奴の方が珍しい。

金輪際絶対にモデルには手を出さない、そう契約させることが必要なんだ。

そしてそれは容易なことではない。

口約束なんて軽いものではなく、それこそ紙の上での契約のような強い強制力でないと止められないだろう。

 

「そこはあやせがいい案を考えてくれたわ」

「案?」

 

へぇ。ということは俺はその案に乗っかればいいのか。

最初は解決策が思い浮かばなかったらどうしようとか思ってたけど、どうやら杞憂だったみたいだな。

 

「じゃあ、さっそく教えてくれるか?」

「相手を脅迫します」

「怖ぇよ!」

 

前言訂正。中学生は子供じゃないと思っていたが、俺よりも大人でした。

 

「脅迫と言っても刃物を使って脅したりするわけじゃありません」

 

あっ、違うの?

よかったぁ。あやせなら相手を誘拐して手錠をつけて監禁してから、拷問して二度と相手に変なことをできなくさせそうだし。

あ、やらせない、じゃなくて、できない、な。ここ重要。

 

「……何か不愉快な思惑を感じるのですが」

「イエイエ。キノセイデスヨ」

「……そう……ですか」

 

なんか納得いかない。そんな感じで引き下がるあやせ。

 

「脅迫の方法は、相手が言い逃れできないような証拠写真を撮り、それをネタに相手を脅すという方法です」

「古典的な手だな」

「でもさ、効果的だと思わない?」

 

たしかに、な。

残忍さや狡猾さとかを除いたら、さっき俺が考えた案よりはずっと現実的で効果的だろうよ。

でもさ、それをやるためには誰かが囮にならなくちゃいけないんだろ?

それも嫌いな相手に体を触らせるっていう屈辱的な囮。

 

全国の兄を代表して言わしてもらう。

それはムリだ。やらせることはできない。

 

だけどそれは桐乃の体を触らせ続けるという事に直結していて、あやせの体を触らせることになる可能性を産むという事だ。

ならば……やらせるべきなのか?

俺は頭を抱え込む。

くそっ! どっちだ! どっちがいいんだ!?

 

「ねぇ。そんなに(この案が)不安なの?」

「ああ、(お前たちが)不安だ」

「大丈夫です。(私が考えた案を)信じて下さい」

 

 

 

……俺はなんて勘違いをしていたんだ。

実行するのは俺じゃない。他の誰でもない彼女たちなんだ。俺が彼女たちを信じなくてどうする!

俺は膝をパンッ! と叩いて覚悟を決める。

 

「よし、その案で行こう。なら俺は何を手伝えばいいんだ? 写真を撮る役か? 相手が襲ってきた時のための用心棒か?」

「お兄さんには―――

 

 

 

 

 

 

                ☆

 

 

 

 

撮影当日

 

俺と桐乃とあやせは電車に乗って、少し離れた場所にある公園に来ていた。

緑が多くその下には無数のベンチ、遊ぶ遊具は一つもない。

ついたあだ名は森林公園。たしか本当の名前があったと思うが今の俺の頭では思い返すことができない。

来たことのあるこの公園。

なのに、俺の眼にはこの公園が別物のように見えていた。

 

周りには多くの読者モデル。アイドルとかタレントとかにあまり興味が無い俺でもわかる。ここにいる人はみんな可愛い。いや、もちろん可愛いからこそモデルをやっているのだと思うが、何か光る物があると言ったら分かりやすいか?

俺の目の前にはカメラマンがいて、その奥には白い板を頭上に掲げている人、おそらくスタッフだろう、首にプレートのようなものをかけている。

周りを囲まれているようで、なんだか息苦しい。

 

「君の名前は?」

 

目の前にいるカメラマンが俺の名前を尋ねてくる。

そうだった。今は撮影の最中なんだっけ。

俺は落ち着きなくキョロキョロしていた視点をカメラマンに合わせ口を開く。

 

「高坂――」

 

口を開くだけで痛い。口の中がパイ生地のようにカラッカラに乾いている。

それでも話さなくちゃいけない。

相手に少しの猜疑心を与えてはいけないのだから。

気休めにもならない唾液を口に含み、意を決して俺は言葉を発した。

 

 

 

「――京子です」

 

 

 

 

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