俺がモデルになるわけがない   作:NYO

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第2話

時は遡ること数日前。

 

「お兄さんには――――女装して貰います」

「女装!?」

 

おいおい。いつのまに相手の弱みを握ろうって話から、俺の黒歴史を作ろうって話しにすり替わっているんだ。

 

「あのね。女装っていうのは男の人が女の人の格好をすることで」

「そんぐらいわかるわ」

 

驚いてるのはそこじゃねーよ!?

なんでお前はエロゲーの『妹』がしてほしいことは全てわかるのに、実の兄の考えていることは歪曲して考えるの?

 

「なんで、俺が女装をしなくちゃならないんだ」

「あのさあたしたちの話聞いてなかったの?」

 

聞いたうえで分からないから聞いてるんですけど?

 

「仕方ないわね。才色兼備のあたしが簡潔に説明してあげるわ」

「おう。よろしく頼む」

「まず、あたしたちは体をベタベタ触られるのがいや」

「確かに言ったな」

「けど、あいつがセクハラをしているところを撮らなくちゃ脅す材料が手に入らない」

「そうだ」

「だからあんたに女装をさせる」

 

……なんかすげぇ嫌な予感がする。

 

「あんたに女装させて、体をベタベタ触っている瞬間を撮る!」

「囮か!? 俺は囮なのか?」

「ちがいますよ」

 

おおっ! そうだよな。さすがはあやせ。考えていることが桐乃とは一味違う。

 

「お兄さんは生け贄です」

「同じ! それ意味同じ!!」

「あんたバカ? 囮と違って生贄は死ぬことが確定なのよ」

「バカはお前だ!」

 

なお酷いじゃねぇか!

 

「うっさいわねぇ。あたしたちが考えた作戦になにか文句でもあんの?」

 

俺は脳内でこいつらの言葉を反芻させる。

ようするに、だ。こいつらは俺にカメラマンに襲われて、その姿をセルフ撮影しろって言いたいらしい。

……前回悩んだのがバカみたいじゃないか。俺の葛藤を返せ。

 

「大丈夫、写真を撮るぐらいはあたしたちがやってあげるから」

「当然の行為を親切でやってあげているみたいに言うな」

 

てゆーか、なんで心の中を読めるの?

 

「普通に桐乃の兄として参加させろよ」

「あんたを兄として紹介するとか――それなんてイジメ?」

 

こ、このアマ……!!

 

「それに、いくら関係者の家族って言っても男の人を簡単に呼べるものではないんです」

「なら、どこかで隠れて見守っていれば」

「撮影前に不審者を追い払う人がいるんですよ」

 

くそっ。正論すぎて怒りをどこに集約させればいいのかわからん。

 

「よし、百歩譲ってモデルになるのは許してやる」

「それこっちの台詞だし」

「そこで条件がある」

「華麗にスルーしましたね」

 

なにやら桐乃たちが言っているが無視だ無視。

いまは何よりも俺の黒歴史誕生の瞬間だけを避けることに専念するんだ。

 

「女装はだめだ。男の読者モデルとして参加させろ」

「あんた程度がモデル(ぷっ)」

 

……あ~もうだめだ。さすがの俺も堪忍袋の緒が切れた。

なんだよ。人が最大限の譲歩をしてやっているっていうのによ。もう言っていいよな。いいよね?

 

「囮ならお前らがやればいいだろ!」

「体を触らせるとかマジ無理だし」

「俺だっていやだよバカ野郎!」

 

なにが悲しくて男に体を触られなくちゃいけねぇんだ!

 

「じゃあなに? 他に案があんの? ほら、待っててあげるから言ってみなさいよ!」

「逆ギレすんな! それを考えるのがお前らの役目だろ」

「あたしたちはこれで完璧だと思ってんの!」

 

怒りに身を任せた俺は、心の片隅で思っていたこの計画の残念な部分を言ってやった。

 

「俺が女装したってすぐバレるに決まってんだろ!」

 

そう言った瞬間に、まるで『その台詞待ってました』と言わんばかりに桐乃とあやせの口角が上がった。

瞬間的に部屋の空気が変わる。 なっ、なんなんだこの寒気は!?

 

「バカね」

「バカですね」

「お、おい、ちょっと待てよ二人とも」

 

俺はさっきまでの威勢を地下深くに沈め、後ずさりながら悪魔の笑みをしている二人を落ち着かせる。

(外見だけ)綺麗な二人の少女に迫られるなんて男冥利に尽きるが、その二人が怖い顔だとろくな結果になるとは思えん。

むしろ全く逆の結果が想像できる。

俺の第六感が告げている。

早く逃げろ。さもなくば女装の刑(=社会的な死)が待っている、と。

 

俺は幾度となく入らされた妹の部屋を思い返す。

脱出経路は窓か俺の後ろのドアだけ。しかしドアはしまっている。

窓の鍵はあいているようだが、現実的ではないだろう

くそ。ドアを開けるのに引くか押すかだいぶ状況は変わる。

 

……そういえば。ドアを引いて閉めたな。

となると、こちらからだとドアは押せば開くのか!

よし、となると一撃。最初の一撃だけ避ければこの恐怖から逃げられる。

あやせとの距離は1.5メートル、桐乃とは2メートル。もうすこしで一足一刀の間合いに入る。

 

だけど今動くわけにはいかない。

そう、逃げるためには一回は後ろを向かないといけないんだ。

それに加えて相手に結構な隙ができる必要がある。

わずかな隙では階段下で桐乃に追いつかれてそれまでだろう。

 

狙うはただ一点。相手が攻撃してきたその瞬間!

 

だが避けて後ろを向くじゃ遅い。避けながら後ろを向く、これが大切。

もちろん問題はある。

投げた瞬間は見えても、投げた軌道が見えにくいことだ。

だけど、その問題は些細な推理で解決できる。

あいつらの目的は俺をこの部屋から出さないこと。なら、あいつらの狙いは足に絞られる!

 

「あやせ!」

 

桐乃の掛け声で、あやせが近くにあったバックを手に取り攻撃態勢に入る。

――きた!

 

「甘い!」

 

俺はジャンプして即座に後ろに振りかえる。

空中でドアノブの位置を確認すると、俺はそのドアノブに手を伸ばし――

 

「ぐえっ!?」

「どこに行くおつもりですか、お兄さん」 

 

開けることなく地面にたたき落とされる。

あ、あやせさん。頭を直接狙うのは卑怯だと思います。

 

 

 

そして俺は気絶している間に、桐乃とあやせにあられもない姿を撮影されて、いやいやながら女装で撮影に参加する羽目になりました。

 

 

……ぐすん。もうお嫁にいけない。

 

 

 

              ☆

 

 

 

 

「はい笑ってー」

 

カメラマンが言うには人間一番自然にできないのが笑顔らしい。

そして、素人はそんなにすぐにカメラに慣れることはできないという理由から、俺は笑顔で写真撮影の練習をさせられている。

ちなみに、写真を撮っているのは見習いのカメラマン(♂)。

 

「いいねいいね、その調子でお願いね――京子ちゃん」

「あ、あはは……」

 

さて、笑みが中途半端になったついでにいまの俺のスペックを説明しておこう。

いいか、俺だって現実を直視したくないんだ。だから軽くしか説明しないぞ。

 

まず、俺――高坂京子は桐乃の親戚ということで話が通っている。

どうしても俺と血縁関係を持っていることを説明したくない桐乃の最大限の譲歩らしい。

撮影に参加した理由は興味があったから。なんともアバウトな理由だと思うが、特に何も言われなかったのでこれはこれでよしとする。

 

俺の全体のコンセプトは、おとなしい女の子という感じ。

桐乃曰く『森ガール』を意識したらしい。

オシャレ関係に疎い俺としては何のこっちゃさっぱりわからん。

まず、エクステントとかいう付け髪で俺の目を隠す。後ろ髪もちょっと付けたして、外見を女の子っぽくする。

次に、メイクをするわけだが、それは桐乃とあやせのメイクでどうにかなっているらしい。

鏡を見てないからどういう状態かはわからんが。

おっと、口にリップを塗る時に間接キスなんてことは期待すんなよ。

メイク道具は全部新品だからな。しかも代金は俺持ち。

おかげで今月の小遣い全部パァだぜ。

 

腕や脚はもともとそんなに太くないので小細工せず、最後に上から女性ものの服を着るだけで京子ちゃんの完成。

上はTシャツにポロシャツを着ており、下はジーパンを履いている。靴はクロなんとかいうサンダルだ。

 

「お疲れさまでした。では本番まで待っていてください」

「ありがとうございました」

 

ぺこり。軽い練習を終え、あやせがいる場所へと戻る俺。

おっと、声について説明していなかったな。

声に関しては桐乃たちではどうにもできないので俺が必死で裏声を使い中。

 

「おつかれさまでした。京子ちゃん」

「ふん。どういたしまして」

 

あやせが座っている公園のベンチにどかっと座る。

基本的に読者モデルっていうのは撮影してない時は自由らしい。

待機場所ひとつとっても様々だ。

ミニバンに乗っているやつ、撮影側が用意したテントに座っているやつ。

我が妹はというと、少し離れた場所で絶賛撮影中だったりする。

 

「なんていうか……モデルって大変なんだな」

 

暑い。ただひたすらに暑い。

まるで一か月前、夏真っ盛りの時へとタイムワープしたみたいだ。

写真を撮る練習をしていたわずかな間だけでも暑かったのに、それをおくびにも出さないで涼しい顔で平然と撮影を続ける桐乃を見てると、やっぱすげぇなって思う。

 

「お兄さん」

「ん?」

「そんなに桐乃を見ないでください。桐乃が汚れます」

「そうかい……」

 

いったい俺を何だと思ってんだコイツは。

とはいえ、これ以上あやせの機嫌が悪くなっては困る。

しゃあない。俺は理不尽だなと思いつつも桐乃から視線をはずし、周りを見渡す。

見えるのは、撮影に関係している人ばかり。どうやら本当に人払いがされているらしい。

周りに見えるのは木・木・木。動物や昆虫もいない変わり映えのない景色。

他の人に目を向けても携帯をいじってる人や、一心不乱に働いている人しかいなくて正直つまらない。

 

「ふぁ……」

 

思わずあくびが出る。

俺とあやせの撮影は桐乃の次だ。

しかし、いま桐乃が撮られているといっても雑誌に載る写真は何十枚撮った内の一枚なわけで、一人撮るのにもそれなりの時間ががかるらしい。

暇だ。暇すぎる。

あやせはあやせでぼーっと桐乃を見ているだけだし。

 

「なぁあやせ」

「なんですか?」

「お前はさ、いつも暇な時間なにをしてるんだ?」

「私はほとんど桐乃や加奈子とかと話してます。携帯とかは……ほとんどいじりませんね」

 

ふぅん。桐乃なんか家じゃしょっちゅう携帯をいじっているけどな。

 

「あやせは携帯とかに詳しくないのか?」

「桐乃や加奈子に比べたら詳しくはないと思いますが、普通だと思いますよ」

「あいつらそんなに詳しいのか?」

「詳しいですよ。最新のアプリなんて誰よりも早く手に入れますし、写真の加工もすぐにやっちゃいます」

「そりゃすげぇな」

「私もこの前、迷惑メールや着信の拒否の仕方を教えて貰いました」

 

そんなことを教わるなんて。あやせにも嫌いな奴がいるんだな。

 

「俺にもまともな事を教えてくれたらいいんだがな」

 

あいにく、俺に教えてくれるのは選択肢の選び方やら、『妹』の好感度のあげ方やらまったくためにならない知識だ。

いくらそんなものを教えてもらったところで、現実世界で役に立つことなんか一つもありゃしねぇ。

ん? なにやら横から視線を感じる。

 

「どうした?」

「お兄さん、言葉使いに気を付けて下さい」

 

じとーっとした目線を向けてくるあやせ。

 

「言葉使い?」

「ええ、お兄さんは"京子ちゃん"です。ですから女の子らしく喋ってください。『俺』なんてもってのほかです」

 

はぁ、めんどくせぇ。

あやせの言いたいことは分かるがよ。なんで俺がそんなことまでしなくちゃいけないんだ。

ちっ。妹とあやせを変なことに巻き込まないためと思って割り切ることにすっか。

 

「わかった。注意するよ」

「わかってくれてなによりです」

 

へぇへぇ。そりゃよかったですね。

 

「ありがとうございました」

 

俺の返事の終わりとほぼ同時に、遠くから桐乃の声が聞こえてきた。どうやら撮影が終わったらしい。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「そうだな」

「言葉!」

「……そうですわね」

 

あやせの言葉に表面上だけ返事をして、問題となるカメラマンの所に行こうとすると、今しがた撮影を終えたばかりの桐乃がこちら側に歩いてきた。

ああ? 撮影が終わったんだったらさっさと車にでも乗って指示待ちしてろよ。

なんだってこっちに来るんだよ。

 

俺が桐乃を避けるためにわずかに右にずれると、桐乃も右にずれ俺の進路を塞いでくる。

ん? お見合い現象か?

今度は左にずれると、桐乃の同じく左にずれ進路を塞ぐ。

どうやら意図的にやってるっぽいな。

なんだ? カメラは撮影が始まる前に渡しておいたはずだが?

お互いの距離が一メートルくらいになったところで、俺と桐乃は足をとめた。

 

「なんかようなのか」

 

いくら協力していると言っても俺はこいつが嫌いだ。できることなら会話は早めに終わらせたい。

 

「……あんた、今回の作戦覚えてるわよね?」

 

やけに上から目線で、しかも会話の内容は疑問形。会話が長引くこと間違いなし。

ほんと何様だろうなコイツ。

いつもの俺、とゆうか俺たちなら適当な返事をしてそれで終了。

口喧嘩なんて仲の良い兄妹がするようなことは絶対に無い。

だけどな、こっちは暑さと慣れない言葉使いでイライラしてんだ。

その喧嘩買わして貰うぜ!

 

「はっ! 覚えてるに決まってんだろ。お前こそ忘れてるわけないよな」

「何言ってくれてんの。あんたじゃあるまいし」

 

桐乃がちょっと怖い表情で、ぶちぎれそうなのを必死に堪えてる感じで笑みをみせる。

 

ここで、今回の作戦をもう一度おさらいしたいと思う。

俺が囮になり、あいつに体をべたべた触られている瞬間を桐乃が撮る。

念のため、俺はズボンの右ポケットにボールペン型のボイスレコーダーを仕掛けており、桐乃が撮れなかったとしても言質をとるという二重の作戦だ。

シンプルだが、俺たちに出来る範囲ではベストだと思う。

 

「俺が手伝ってやってるんだ。絶対に失敗すんじゃねぇぞ」

「あんたこそきちんとやりなさいよ………ねっ!!」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

 

すれ違いざま、俺の足の小指だけをパンプスのかかと部分で正確に踏み抜いて行きやがった。

いっっっってえぇぇえっ!!!

折れてる! 折れてるってコレ!!

あ、あの野郎……あとで覚えれやがれ!

 

「お兄さん、早く行きましょう」

「待てあやせ。お前には慈悲の心というものがないのか」

 

俺の言葉を無視して一人で歩くあやせの後を足の痛みを我慢しながら懸命に歩いて行くと、さきほど桐乃が撮影していた場所で作業をしている人が見えてきた。

あいつか、俺の妹にちょっかいを出している野郎は。

握ったこぶしに自然と力が入る。

お前のちょっかいは桐乃の怒りを貯めて、その怒りの矛先は全て俺がこうむるんだ。

いいか、俺やあやせに変なことをしてみろ。その瞬間にぶん殴ってやる!

 

「はじめまして、丸山です」

 

そう言って俺らの前に現れたのは、白人と日本人のハーフかと思うような日本人離れした顔の持ち主だった。

色素の薄い髪。彫刻のような彫りの深い顔立ち。目元はきりっとしていて、ピアスなど装飾品がない好青年。

服の上からでもわかる厚い胸板と、それを際立たせる引きしまった体。

そう、俗に言うイケメンさんだ。

なんでわざわざ俺がこんな事を説明しているかと言うと、このイケメンさんが今回のカメラマンなんだ。

 

「……………」

「あの、僕の顔に何か付いてますか?」

「あ、いえ、すいません」

 

んー。こりゃ今日のカメラマンは例の野郎じゃねぇのかな?

いくらなんでも、男の俺から見ても格好いいと思うほどの人が、撮影と称してセクハラみたいな事をするわけない。

よくよく考えりゃ、一人のカメラマンが毎回撮影するとも限らねぇしな。

今回は俺の女装でも撮影に参加できるって事がわかっただけで良しとしよう。

 

「おいどうすんだ」

「? なにがですか?」

「だから、例の計画だよ」

「? 言ってる意味がよくわかりません」

「わからない、って……」

 

俺は数秒の思考のすえ結論に至る。

 

「この人が例のあの人?」

 

こくり。無言で頷くあやせ。

おいおいまじかよ。

俺は驚きを隠して目の前にいる人に焦点を当てる。

世も末だよな。こんなMrイケメンが年増もいかない読者モデルに手を出してるんだぜ。

丸山さん(最低な奴だが一応年輩だしこう呼ぶことにする)はそんな俺のイメージとかけ離れた天使のような笑顔を向けてきた。

 

「じゃあまずは、名前を教えてくれるかな?」

「お………」

「お?」

 

とと、いけないいけない。

あまりにも不意を突かれたもんで、あやうく『俺』って言っちまいそうだったぜ。

俺はさきほどのあやせの言葉を頭の中で反芻させる。

 

女の子らしく……か。

残念ながら俺は同年代の女子の知り合いはいない。いや、いるっちゃいるんだがあいつはおばあちゃんだしな。あてにならん。

ふむ、ならば誰かの真似をすればそれはそれで女の子らしくはなるだろう。

俺の知り合いの中で一番女の子らしいと思ってるのはあやせだが、いかんせん付き合いが短すぎて真似しずらい。

えっと、付き合いが長くてなおかつ特徴を真似やすいのは……あいつか!

 

「拙者の名前は」

 

スパンッ! 勢いよく叩かれる俺の頭。

 

「みぎゃ!!」

「すいません! この子時代劇が大好きなんで」

 

ぐいっ。あやせが俺の後頭部を鷲掴みにして強制的に頭を下げられる。

なんで!? きちんと口元もω(こんな感じ)にしたのに!

 

「ええっと……あやせちゃん。その子の名前は?」

「高坂京子ちゃんです」

 

痛だだだっ! 俺の代わりに答えるのはいいけどよ、相手から見えない角度で足蹴りすんのはやめてくんね!?

 

「じゃあ二人とも並んでくれるかな?」

 

丸山さんは苦笑いのまま三脚の高さの調整をはじめた。

俺はあやせの指示に従って、足を肩幅程度に開いて靴の先端をあやせの靴の先端へと合わす。

あやせは右手を腰にあて、左足に重心を乗せる様なポーズをとる。

とりあえず俺も左右対称にあやせを真似する。

ちょうど、お互いの体が寄り添った感じだ。

 

「じゃあ、準備できたんで撮影を始めます」

「お兄さん、いいですか。変なことをされても我慢して下さいよ」

「はいはい、わかってますよ」

「並んで――――はい撮るよ~~」

 

その言葉で撮影が始まり――何事もなく撮影が終了してしまった。

 

 

 

 

               ☆

 

 

 

「正座」

 

戻って来て結果を報告すると、桐乃は俺の足元を指さしそう言った。

 

「……え?」

「正座」

「いや、ここ地面だし、周りの皆が見てるし」

「正座」

「……はい」

 

なんだろう。小石が足にめり込む痛さよりも、妹の絶対零度の視線のほうが痛い。

しばし無言の時間がすぎ……

 

「ほんっっっっと、バカじゃないの」

 

ためいき混じりに発せられた言葉には、明らかに呆れや茫然といった負の感情が入り混じっていた。

 

「なんでよりにもよってアイツを選ぶかなぁ」

「それは……真似しやすいから……」

「えっ? なんだって?」

「……なんでもないです」

 

自信と声のボリュームって比例関係にあるんだな。

 

「まったく……あやせも何か言いたいことないの?」

「呆れて過ぎて何も言えません」

 

いや、あやせさん。あんたこっちに来る間に俺を物凄い罵倒したじゃないですか。

 

「けど、どうしましょう。凄く警戒されちゃいました」

「そうよね」

 

そういうと桐乃はごそごそと近くにあったバックを漁り、今回の作戦で使うはずだったカメラを取り出す。

カメラはあやせが用意してくれたもので、動画も撮れる高性能のものだ。

ズーム倍率も二十倍と高く、オートフォーカスはもちろん、手振れ補正も付いている。

 

「どっかのバカのせいでいい写真も撮れなかったし」

「待てよ。その中に使えそうな画像は無いのか」

 

そうじゃん。

別に本当に体を触られなくても、角度によっては体を触っているように見える。そんな画像があればこの問題は解決する。

痴漢とかといっしょだ。いくら無罪を主張しようとも主張を覆い返すのは難しい。

冤罪? 構うかそんなもん。

あいつが何もしてないなら絶対にやらないさ。でもあいつは本当に桐乃の体を触ったんだからなっ!

 

「なにあんた。自分が失敗したからって証拠をでっちあげようってわけ? 信じらんない」

「違う! 見ようによっては触ってるように見えるのが欲しいんだ」

「そんなんじゃ脅しの材料になるわけないじゃん」

「そ、そんなもんわからんだろ。感じることは人それぞれで――」

「まっ、その"使えそうな画像"っていうのもないんだけどね。」

 

俺の言葉を切り捨てるように言うと、ぽいっと桐乃は俺に向かってカメラを投げた。

カメラは宙で放物線を描き、俺の手元でリフティングする。

っとと、危ない危ない。あやうく落とすところだった。カメラなんて高価なもんを投げるかな普通。

俺はデジカメのボタンを操作し、撮った写真を確認する。

黒歴史となるであろう画像を削除しながらデジカメを操作していると、画面上に既に見たことのある画像が出てきた。どうやら一周してしまったらしい。

桐乃の言うとおり使えそうな画像がない。だめだなこりゃ。

 

「ね、使えそうな写真なんてないでしょ?」

 

俺が画面から目を離したとほぼ同時に桐乃が意地の悪そうな笑みで俺に問いかけてきた。

いや"そうな"はいらんな。意地の悪い笑み、これでいい。

 

「使える写真ですか……」

 

ふと、あやせの口からそんな言葉がこぼれた。

 

「どうしたの?」

「あ、うん。別に意図的に写真を作っても問題ないかなって」

「意図的に?」

 

桐乃が小首を傾けて尋ねる。

 

「例えば―――色仕掛けとか?」

「やんねぇよ!? 俺絶対やんねぇからな!?」

 

それをやったら男としての最後の砦が粉砕してしまう!

 

「じゃあどうすんのよ」

「うっ……」

 

それなんだよなぁ問題は。

いくら桐乃の親戚だって言っても、そうなんども撮影に参加させてくれるとは限らないし、かといってこのチャンスをふいにするのも勿体なさすぎる。

今から新しい作戦を考えている暇もない。

 

「いえ、お兄さんに色仕掛けなんてことができるとは思ってません」

「え? しなくていいのか?」

「はい。さっきのはあくまで例です。本当にやって欲しいとは思ってません」

「よかったぁ……」

「ただ、ちょっと相手の手を引っ張ってお兄さんの胸に添えてくれればそれでOKです」

「それ俺が痴漢なだけじゃない!?」

 

この場合は痴女か。

 

「あ~、京子ちゃん?」

 

いつの間にか俺たちに近寄っていた丸山さんが躊躇いがちに話しかけてきた。

ま、まずい……! 聞かれた……か?

 

「な、なんでしょうか?」

「ちょっと用事があるから、僕についてきてくれないかな?」

「話?」

「うん。替えの服を取りに行くについでに、君に合う服を探したいんだ」

 

 

 

えっ? まさかのチャンス到来???

 

 

 

 




読者モデルの行動やポージングに関しては目を瞑って下さい><
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