貧乳(になりたい)同盟。   作:石黒ニク

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前田沙良:主人公。貧乳。



旧題『貧乳(になりたい)系女子の日常』
1話 持つ者、持たざる者(前編)


 その日の放課後、わたしは幼馴染であり親友でもある知佳に呼び出された。

 

 なんでも急ぎの用事らしく、部活が終わってからすぐ来てほしいとのことだった。場所はわたしたちの教室で、知佳以外に、三人の女の子が居るらしい。他でもない知佳の頼みだったから、わたしは約束通り、部活が終わるとすぐに教室へと駆け込んだのだった。

 

 夕焼けに染まる教室の中に、四人の女子生徒が窓の傍で佇んでいた。そのうちのひとりは、わたしを呼び出した本人である知佳だ。

 

「知佳。こんな時間に呼び出してどうしたの? それと、その人たちは?」

 

 その中から知佳を見つけて話し掛ける。話し掛けるというよりは、『問い詰める』のほうが合っているような気もするけど。

 

「沙良、意外と早かったね」

 

 知佳はそう言うだけで、彼女らの説明はしなかった。彼女らも彼女らで自ら名乗るような真似はしなかった。

 

「用事ってなに? その人たちにも関係あるの?」

 

「あるよ。超あるよ。だからここに居るんじゃない!」

 

 知佳だけじゃなくて、この人たちもわたしに用事が? いったい、なんの用だろう?

 

「ねえ、沙良。いきなりで悪いんだけど、お願いがあるんだ! 良いかな?」

 

 知佳がいきなり声を大きく出したせいで、少し驚いた。

 

「え、いいけど、なに? 今日出された宿題のこと? それとも、テスト勉強を一緒にしたい、とか?」

 

「確かにそれもあるけどね、違うの」

 

 じゃあ、なんだろう? 呼び出しておいてまで、今日のうちに話したいことって?

 

「あのね、少し言いづらいんだけど……私たち、貧乳になりたいの。どうしたらいいと思う!?」

 

 え? 知佳は今、なんて言った?

 

「え? ヒンドゥー? え?? なに?」

 

「私たちね、おっぱいを小さくしたいの。それで、どうやったら小さくなれるか沙良に訊いておきたくて」

 

「え、ちょっと待って。少し状況が整理できないから時間ちょうだい」

 

 許可をもらって少しの間、頭の中を整理する。彼女たちは、なにを言っていた?

 

 整理し終えて再度、彼女たちに尋ねる。

 

「……なんでそれをわたしに聞いたの?」

 

「だって沙良さん、貧乳でしょ☆」

 

 ――わたしが、貧乳?

 

 目線を彼女たちから自身の胸に向ける。凹凸の目立たない、ふたつの微かな膨らみを目の当たりにして、少し唇を噛む。

 

 そして彼女たちの胸を見つめる。そこには驚くべき事実があった。なんと、目の前の彼女たちは、全員わたしより胸の大きい者だったのだ。

 

 それに気付いてわたしはまた血が出ない程度に唇を噛む。

 

「私たちの周りに頼れそうな貧乳の子って、沙良以外に居なくてさ。だから、沙良に相談したくて……」

 

 貧乳の子。なんだろう、とても傷付く。

 

 知佳や彼女たちの中では問題視してないのだろうけど、当事者であるわたしにとってそれは、持つ者と持たざる者の線引きのように思えて仕方ない。

 

「ねえ、知佳たちはどうして胸を小さくしたいの?」

 

 わたしからすれば、胸を大きくする方法が知りたいのに。どうしてこの巨乳ガールズは、列を揃えて胸を小さくしたいのだろう。

 

「どうしてって、決まってるだろ! 合うサイズがないんだぜ!?」

 

 赤茶色気味のショートヘアの子が叫ぶ。制服はだらしなく着こなし、口調は見た目通りのものを使っていた。おそらくだけど、援助交際とかやっていそう。

 

「サイズって、なんの?」

 

 おそるおそる訊いてみると、今度は大人しめなお下げ髪の女の子が小さな声で言った。

 

「ええと、少し言いにくいけど、ブラジャーです。近くのランジェリーショップにも置いてなくて……困ってるんです」

 

 その子の胸は、制服がはち切れそうなくらいの、とんでもない大きさを誇っていた。人の頭くらいありそうだけど、ここまで来ると、なんだか普通とは思えない。

 

「あの……あまり見つめないでくださいぃ」

 

 その子の胸ばかりを注視していると、本人に注意を受けてしまった。見てしまうものは仕方ない。だって、そこに巨乳があるから。巨乳というより、奇乳に近い印象がある。

 

「ま、さすがに彼女みたいに店にないってことはないけど、ここにいる皆は、そんな感じの悩みがあるんだよね……」

 

 わたしを除いて、だよね。あいにくだけど、わたしのサイズの下着はデパートの格安ワゴンにも置いてある。上下セットが数千円とかで売っていたりもする。

 

「そうそう! そのおかげでタンスに、合わないサイズのブラが溜まっててさー!」

 

「あんたもそうなのか!? へへ、実はあたしもタンスに入り切らなくてよー!」

 

「その話、わたしも聞かないとダメかな?」

 

 少なくとも、合わないサイズのブラなんてないわたしが、聞いていい話ではないように思う。目には既に涙が溜まって、収まりそうにない。この人たちはきっと、私の涙の話をしているのだ。そう思うことにする。

 

「なに言ってるのさ、沙良! 私たちは沙良に相談してるんだよー?」

 

 相談? 虐めじゃなくて?

 

「ごめんなさい、沙良さん。頼れる人がもはや、沙良さんしか居ないんです!」

 

「だから、沙良。お願いっ! 私たちに胸を小さくする魔法みたいな方法を教えてっ!!」

 

 知佳がそう言うと、いつ示し合わせたのか分からないけど、全員がほとんど同時に頭を下げた。作為的ではなく、どうやら彼女たちの言葉は本物みたいだ。

 

 切実で、無垢で。だからこそムカつく。知佳が相手でも、それは譲れない感情だ。

 

 でもその前に、わたしに胸を大きくする、魔法みたいな方法を教えてくれないと、差別天秤は釣り合わない。先天性のものだとか、遺伝とか言われたら、諦めるしかないけど。

 

「そんなの簡単だよ。整形手術でもして切除すればいいんだ」

 

 そして、その切除した乳房を私に移植すれば、あっという間に巨乳を手に入れることができるという計画的な犯行を思い付いた。思い付いただけで、口にはしない。

 

「いや、さすがに身体に傷をつけるのは堪忍だな」

 

「そういうのはピアスか処女喪失だけで充分だよ☆」

 

「そ、それに、手術するお金なんて、普通の女子高校生は持っていませんよ」

 

 さすがに冗談のつもりだったんだけど。思いのほか、真剣に答えが返ってきて驚いた。

 

「それで、沙良。どうなの? 私たちのお願い、聞いてくれる?」

 

 知佳によって、話は戻された。閑話休題というやつだ。さすがは幼馴染。わたしが冗談を言ったことを理解している。もしくは、時間的に早く話をしたいだけなのかもしれない。

 

「教えることは別に構わないけどさ、その代わり条件がひとつあるんだ」

 

 わたしが彼女らに提示する条件はたったひとつだけ。胸を小さくするような方法を教える代わりに、彼女らに教えてほしいことがある。そんなの、最初から決まっている。

 

「なに?」

 

「胸を大きくする方法を、教えて」

 

 内心でため息を吐く。もう、ひとりで悩まなくても良いとなると、なんだか清々しい気分だ。夕日に染まった教室で、小一時間は窓の外を眺めて黄昏たっていい。

 

「はあ? 胸を大きくする方法って、そんなの知って、なにになるんだよ?」

 

 わたしの言葉に間髪入れずに、援交疑惑のヤンキー少女がなんか言ってきた。喧嘩でも売ってきているのだろうか。たぶん、勝てそうにないけど、売られたものは買う性格だ。

 

「じゃあさ、逆に胸を小さくする方法なんて知ってどうするのさ?」

 

 彼女の質問には答えてないけど、挑発するには最高の言葉選びだと思う。

 

「あ? そんなの、決まっているだろ。単純に邪魔なんだよ。それと、先も言ったようにオーダーメイドしないとブラのサイズがないからな。お前くらいならブラなんて要らないだろ?」

 

 あ、こいつ。いま、売った喧嘩を買い戻したな。高値で買い取りやがったな。

 

 控えめとはいえ、わたしだってブラジャーを着けている。

 

 平坦ではなく控えめだから、着ける必要があるのだ。

 

 それに、女の子にはだれしも、ブラを着ける権利くらいあるものだ。それを胸の大きさで否定するのは違うと思うけどな。そんな感じでヤンキーを睨む。

 

「ちょっと、亜希ちゃん☆ それは言い過ぎだよ☆ 胸が小さくたってブラジャーは着けるものだし、男の人が、るりみたいな大きなおっぱいが好きな、おっぱい星人だとしても、たぶん千人にひとりくらいには需要があるはずだよ☆」

 

 わたしを庇ってくれているのかと思ったら、こいつも敵だった。味方かと思って近づいてみたら、普通に敵で不意打ちを食らったかのような気分だ。本当に、あと味が悪い。

 

「それもどうかと思いますけど……あ、私は胸を小さくできたら、肩こりも多少は軽くなるのかなと思って。それと、この大きさだから周りの、特に男の子の視線が気になって」

 

 気を遣ってくれているのは分かるけど、要するに胸が大きすぎて辛いってことらしい。その悩みはぜいたくだと思う。わたしなんて、胸が小さすぎて辛いんだから。

 

 良いよね、そっちは。ロマンスがありあまっていて。こっちはロマンスなんて、欠片もないんだからさ。むしろ、ロマンスをありあまらせてみたいものだ。喉から手が出るくらいにわたしは。ロマンスを求めている。ああ、ロマンス。ロマンスの女神さまになりたい。

 

「あ、るりも理由言うの忘れてた☆ るりにはね、彼氏が居るんだけど。彼のあそこを刺激するために、おっぱいで挟んであげているんだけど、さすがに胸を持ちながら毎回擦るのは疲れるし、面倒だなって☆ だから丁度良いサイズまで小さくしたいの☆」

 

 なんなんだ、こいつは。女の子が夕方から使っていい言葉じゃない。純真無垢な知佳がいる前で、そういう下品な言葉は使わないでほしい。

 

 それから、自分の名前を一人称で使うのはどうかと思う。ぶりっ子にある典型的なパターンだ。異性には好かれるけど、同性には嫌われるという典型的な嫌われ要素だ。

 

 どこから見ても美少女なら使っても構わない。ただ、金髪のギャルが使っていい一人称じゃない。金髪のギャルはせいぜい、あたい、とかを使っていればいいんだ。

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