シン・1話「共通点」
「はあっ、はぁっ……」
誰も居ないであろう、静かな廊下を走る。自分の荒い息遣いだけが響くのは少しだけ心地よい。だだっ広いセカイに私だけが取り残された気分がするから。孤独はあんまり好きじゃないんだけど、たまにはひとりぽっちの静けさも悪くない。
なんて考えながら、呼び出された教室まで一直線に駆け込むと、夕焼けに染まる幻想的な景色のなかに私を呼び出した張本人――最愛の幼なじみ、
更に彼女を取り囲むようにして、ビジュアル豊かな3人の女子生徒が並んでいた。何か恐ろしいカルト教団でも発足しているんじゃないかと思うくらいに、足並みがそろっていて、つい身震いしてしまった。
「お待たせ、知佳。こんな時間に呼び出してどうしたの? 部活終わりにちょうどスマホでナンプレをやろうとしていたからよかったけど、普段ならメッセージに気付くのは家に帰ってからだよ」
「ごめんごめん。みんなの用事がなくって、
「メッセージとか電話とかじゃなくて、呼び出しってどうしたの? それほど緊急な用事なの?」
「うん。わたしたちもそろそろ我慢の限界でさ。それに、頼る相手が沙良くらいしか居なくて」
話がまるで見えない。知佳だけでなく、彼女たちも私に同じ用事があるのだろうか。見ず知らずの私に? いったいなんの目的があるんだ。それはほとんど想像の域を超えなくって、だからこそ不安がある。
知佳に頼られるのはまだまともに思える。知佳とは旧知の仲で、乳首の形もへその形も知っている仲だ。でも、あの3人は見たことのない顔ぶれだ。乳首の色も乳輪のサイズも知らない。完全に初見だ。
――ごくり。
固唾を呑み込む。
よもや、ストレスの発散と称して、私をサンドバックにするんじゃあるめぇな? 私の心の弱さが江戸っ子として具現化されていく。4対1なんて卑怯だ。せめてトーナメント方式にしてほしい。
くだらない被害妄想を繰り広げているうち、重たそうな口を知佳が開く。
「あのね、沙良。ここに居るみんなにはある共通点があるの。なんだと思う?」
「……共通点?」
「そう、共通点。わたしと、みんな。簡単なクイズだよ。肩慣らし程度に、ちょっと答えてみて」
いきなりクイズを出されて、困惑気味。早く本題に入ってほしさはあるけど、知佳の可愛さには敵わない。つい甘えてしまう。知佳がいま流行りのブイチューバーだったら、破産必至の投げ銭をしてしまいそうだ。
「共通点かぁ。うーん……なんだろ。人間の女の子だとか、高校2年生だとか、当たり前にそういうのではないんだよね?」
「そりゃあね。もうちょっと柔軟に物事を俯瞰して考えれば、すぐにでも分かりそうな気がするけどな~」
共通点――なんだろ、ホントに分かんないや。どうしようもなく、『可愛い』以外の答えが思いつかない。金髪ギャルの子、黒髪おさげの子、赤髪ショートの子、そして茶髪ツインテの知佳。みんな違ってみんないい。金子み○ゞ先生。
「えー☆ 沙良ちゃん、分かんないの☆」
「実は全員オトコの娘とか? それくらいの意外性でもあるの?」
「男の子って。沙良はよくお泊まりとかでわたしのハダカ見てるでしょ」
それもそうだ。知佳が男の子だとしたら、私なんて世も末じゃないか。女の子っぽくないし。文化系の部活じゃないし。タピオカよりもクラフトコーラ派だし。パンケーキよりもお好み焼きだし。それに、女の子のアイデンティティともいえるパーツが未発達……あ、そうか。
「分かったよ、みんなの共通点。そしてそれは、私を傷つけることになる、もろばの剣だってことにもね」
「おお。ってことは、完全に分かったんだな。あたしらの共通点が何か。言ってみな、沙良」
赤髪ショートの、男勝りな口調の女の子に初めての会話で呼び捨てにされる始末。いや、この際それはどうでもいい。ヤンキー怖いし。マジでサンドバックにされそうだもの。
だから、意を決して答えてみる。
「よーく見ないと分からないけど、みんなはことごとく、おっぱいが大きいってことで良いんだよね?」
「ぴんぽーん☆ 大正解☆ さすがは沙良ちゃん☆ どすけべ~☆」
「正解したのに貶されるってどういうこと……」
てか、なにこのクイズ。めちゃくちゃ難しかった。会って間もない女の子たちと知佳の共通点なんか知らねーし。ほとんど自虐していただけで解けたようなものだし。悲しいけどね。