貧乳(になりたい)同盟。   作:石黒ニク

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天野亜希:美乳ヤンキー。口調が悪いだけで、割と真面目な人。


2話 わたしが教えてほしいこと(前編)

 知佳との揉み合いで良い汗を掻いた私は、翌日を迎え、放課後まで気怠い学校生活を送った。いつも通りの代わり映えしない時間を過ごし、放課後の情事へとその身を焦がす。

 

 今は倉庫として使われている空き教室が、わたしたちの集合場所だ。摩りガラスの戸がモザイク代わりになって、室内で行われていることをある程度は隠すことができる。

 

「で、こんなところに、るりたちを集めて何をするの☆ 女だらけの乱交大会でもやっちゃうの?」

 

「常識的に考えてそれはないだろ。きっと、あたしたちにあれを教えてくれるんだよ」

 

「あれって、私たちが喉から手が出てくるくらいにほしがっているあれですか!?」

 

 大袈裟に言われても大したものじゃないから、過度な期待はしないでほしい。

 

「そうだよ。あなたたちが三度の飯よりもほしいと思っている、耳寄りな情報だよ」

 

 裏を返したら、わたしがこの世で最も要らない情報だけど彼女たちにそのことを伝える必要はない。何故なら、ここに居る理由がまったく違うから。

 

「ごくり……。沙良、ようやくおっぱいが小さくなる方法を教えてくれるんだね!」

 

「これで肩こりから解放されるんですね……はあ、良かった!」

 

 話を大袈裟にする空気から、生唾を呑んだ知佳のおかげで、話は簡単に進んだ。要するにわたしたちがここに居る理由は、大きく分けてふたつある。

 

 ひとつは、わたしが彼女たちに胸を小さくする方法を教えること。あとひとつは、まあ、その反対の意味を持つものだけど、確認して自覚するリスクを背負いたくはないので割愛。

 

「それを教えるのは良いんだけどさ、その前に教えてほしいものがあるんだけど」

 

「なあに☆ おっぱいを大きくする方法? そんなの簡単だよ☆ ひたすら揉めばいいんだよ☆」

 

 いや、確かに胸を大きくする方法は知りたいけど。わたしがここに居る理由だけど。でも、今はそうじゃなくて、もっとこの関係性のために必要なことだ。

 

 ひたすら揉むことで胸が大きくなったら苦労はしない。だって、そんな有名な方法をわたしが実践していない訳がない。現に昨日、わたしの部屋で知佳とふたり、さんざん胸やお尻を揉み合ったのだから。

 

「マジで? 小さくする方法じゃなかったっけか、それ」

 

「え……!?」

 

 思わず声が漏れてしまうほどの衝撃が走った。それならわたしは、なんのために恥を忍んで、家族の目を盗んで自分の胸を揉んでいたというのだろう。

 

 知らないうちに、わたしは。自分で貧乳ロードを駆け上がっていたとでもいうのか。そんなの、あんまりだよ。こんなのってないよ。絶望のし過ぎで魔女になっちゃいそうだよ。

 

「いや、情報は定かじゃないけど。一説によると、胸を揉むことでその周りの脂肪が燃焼するとかしないとからしくてよ。でも、花城的にはどうなんだ?」

 

「もー☆ だから花城じゃなくて、ちゃんと、るりって呼んでって言ったじゃん☆ まあ、るりの場合はるり自身じゃなくて、彼氏くんにたくさん育ててもらったんだけどね☆」

 

 女子高校生特有の彼氏自慢かよ。いや、実際にその通りなんだけど。

 

「そんなことはどうでも良くて! わたしが教えてほしいのは、あなたたちのことだよ」

 

「なあに☆ 経験人数の話かな☆」

 

 この子はどうせ、金髪のギャルだから一日に三千人くらいと関係を持っていそうだ。とにかく、経験人数の話ではない。ほとんど初対面に近い人の経験人数を訊くのは、マジでどうかしている。

 

「あ、そういえば、私たちってまだ、自己紹介していませんでしたよね?」

 

「あ? 自己紹介だって?」

 

 おさげ髪の奇乳おっぱい星人が閃いてくれたお陰で話が進みそう。ありがとう、奇乳おっぱい星人。そう、わたしたちはまだ互いのことを何も知らない状態なのだ。

 

 強いて言うなら、胸を小さくしたいという、わたしからしたらマジで意味不明な願いを持っている、ということくらいしか知らないのだ。あとは同学年の女の子ということだけ。

 

「あれ、沙良に教えてなかったっけ?」

 

「教えてもらってないよ。知佳以外が誰だか分からないまま、今日に至るよ!」

 

 できるなら、胸云々よりも先に個人情報を教えてもらいたかった節があるけど、あのときは割とそんな情報がなくても、話はまとまっていた気がする。だからといって、知らないままずっといる訳にもいかない。何となくそう思う。

 

「じゃあ、とりあえず皆、沙良に向かって簡単な自己紹介をしようね。名前とクラスと、あと好きな食べ物とか言ってみよっか! トップバッターは私で良いかな?」

 

「いや、知佳のことは知ってるから言わなくていいよ」

 

「沙良は知っていても皆が知らないでしょ。さすがに知り合いとはいえ、名前だけ知っていてもなんだか気まずい感じになっちゃうと思うし」

 

 それはまあ、同感だ。名前だけ知っている知り合いなんて、知り合いと呼べるのかも曖昧だから、せめて好きな食べ物くらいは、知っておくと話の種には困らないだろう。

 

 だが、わたしたちはあくまで華の女子高校生だ。好きな食べ物で話が広がるとは思えない。もっと女子高校生らしい話題を提供してくれないと、ヤバそうだ。

 

 たとえば、好きな動画投稿者とか、好きな香水とか。そんな感じの。とりあえず巷で話題になってるやつなんかをチョイスしておくと良さそうだ。流行に乗っておけばそれでいいのだ。

 

「まず、私ね。私の名前は、大場知佳だよ。クラスは二組で、好きな食べ物は苺かな! これからも、よろしくね!」

 

 うん、知ってた。苺好きが変わっていないことにびっくりしたけど。さすがはロリ巨乳。あざとい好物をアピールしてきた。それが無自覚なものだから、わたしも昔は苦労したものだ。

 

「へえ、知佳ちゃん、苺が好きだったんだ☆ 練乳かけて食べると、なお美味しいよね☆」

 

「練乳の甘さと、苺の甘酸っぱさがマッチして、それはもう最高なんですよ!」

 

「え、そうなの!? 今度やってみるね!」

 

「でもるりの場合は男の人の練乳だから、知佳ちゃんにはまだ早いかも☆」

 

 下ネタじゃねーか。何だこいつ。下ネタが酸素かよ。

 

「なあ、花城。男の練乳ってなんだよ? 男から練乳が出るのか? それとも、そういう商品があるのか?」

 

 やめて、もうその話を続けようとしないで、美乳ヤンキーさん。マジでやめて。

 

「んー☆ 教えてあげても良いけど、今は自己紹介の時間だし、やめておくね☆」

 

 金髪のギャルが空気を読むなんて、あり得ない。とにかく、わたしの想いが伝わってくれてよかった。知佳の前で汚らわしい話をするなど、花壇を踏み荒らすようなもので。

 

 だから、際どい話は二度としないでいただきたい。そう言っている訳であります。

 

「じゃあ次は、るりちゃんにしてもらおうかな!」

 

「オーケー☆ るりに任せてよ☆」

 

 金髪の爆乳ギャルのことなんてどうだっていいけど、一応聞いておこうか。念のため、フルネームくらいは頭の片隅に入れておく必要がある。名前割れしちゃっているけど。

 

「るりはねー、花城るりって言うの☆ 可愛い名前でしょ☆ 可愛い名前で可愛い美貌を持つ絶世の美少女……略して花城るりだよ☆ 好きな食べ物はチェリーかな☆」

 

 可愛いって自分で言うのかよ。しかも連呼したし、変なふたつ名まであったし。好きな食べ物の情報が頭に入ってこなかった。あとのふたりを覚えられる自信がない。

 

「うんうん、確かにるりちゃんは可愛いよね! チェリーなら私も好きだよ」

 

「果物ばっかりですけど、さくらんぼなら私も好きですよ?」

 

「さくらんぼじゃなくて、チェリーだよ☆ 奈美ちゃんは食べたことないの?」

 

 さくらんぼを英語にすると、もれなくチェリーのはずだけど、この子はギャルだから英語も分からないのだろう。それか、さくらんぼのことを言っていないか、どちらかだ。たぶん、後者。

 

「ええと、はい。美味しいですよね、チェリー」

 

 変わり身が早い。この子、変わり身が早い。たぶん、話がかみ合っていないことを知っていて話に乗っているよ。すごいよ、その気遣い。さすがは奇乳おっぱい星人さま。

 

「あ、そうだ☆ 今度の週末に、選りすぐりのチェリーだけを集めたパーティーがあるんだけど、良かったらふたりも連れていってあげよっか☆」

 

 なにその、需要がマニアックなパーティー。立食パーティーなら、つまみ食いみたいな画が浮かぶけど。さくらんぼのことを言っていないのだとしたら、吐きそうになるイメージしかない。

 

「え、良いの!? やった!!」

 

「選りすぐりのチェリー、ですか。それは面白そうです!」

 

 奇乳おっぱい星人さまはともかく、知佳を変なパーティーに巻き込まないでください。マジで止めて。無垢な少女を穢さないで。穢していいのはわたしだけだよ、たぶん。

 

「亜希ちゃんと沙良ちゃんも良かったら、連れていってあげるよ☆」

 

 こっちにも飛び火してきた。汚らわしいパーティーなど誰が行くものか。

 

「ううん、わたしは良いや。四人で楽しんできて」

 

 この時点で知佳を切り捨てたも同然のことを言ってしまったけど、意外に強い知佳のことだ。きっと、不健全な環境でも何とかやっていけるはずだ。

 

「いや、あたしも遠慮しておく。その日は外せない用事があるんだよ」

 

「えー、なになに? るりのお誘いよりも大事な用事ってなあに☆」

 

「それよりも自己紹介だろ。なあ、奈美。先にあたしがやっていいか?」

 

「はい、どうぞ。私はまだ自己紹介の言葉が思いつかないので、むしろお願いします」

 

 美乳ヤンキーさんが軌道修正してくれたお陰で、自己紹介に時間を割く必要はなくなった。ありがとう、美乳ヤンキーさん。ファーストネームはもう知ってしまっているけど、美乳ヤンキーさんのほうが語感が良いので、内心でこのまま呼ばせてもらう。

 

「あたしは天野亜希っていうんだ。クラスは、そこの花城と同じ三組だ。好きな食べ物はマグロかな。赤身の部分がいちばん好きだな」

 

 外見が完全にヤンキーだから身構えていたけど、大したことはなく淡々と自己紹介だけされて終わってしまった。何というか、見た目以上の普通さだった。

 

 ギャップ萌えというやつだろうか。なんだかとても彼女に魅力を感じる。




だいぶ遅れましたが、生存報告とクリスマスプレゼントを同時にさせていただきます。次話はいつになるのでしょうかね。
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