貧乳(になりたい)同盟。   作:石黒ニク

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花城るり:金髪ギャル。爆乳。彼氏が居るらしい。沙良はあまりよく思っていない。


2話 わたしが教えてほしいこと(後編)

「最後、私ですね。私は御園奈美と申します。気軽に御園奈美と呼んでください」

 

 え、と思わず変な声が出てしまった。

 

「あのさ。御園って、あの御園でいいんだよね?」

 

「どの御園のことを言っているのかはまるで理解に苦しみますが、沙良さんが思い浮かべている御園で間違いないと思います」

 

「いまさら知ったの、沙良ちゃん☆ るりたちは最初から知っていたよ☆」

 

 金髪ギャルが言うことを受け流しておいて、御園さんの言ったことをそのまま受け止める。この町で御園と言ったら、行政とかすべてを牛耳っている御園財閥くらいしかない。

 

 この子はつまり、自分のことを御園財閥の令嬢だと言っているのだ。そんな子がまさかわたしなんかが通う高校の門を叩いていただなんて、想像が決壊してしまうではないか。

 

「すみません。言うのが遅れてしまって。実は私、御園財閥の者なんです」

 

「い、いや。別に遅れた報告とかは良いんだけど……そんなこと、周りに言っちゃっていいの? 町の権力者の娘がこんなところに居たら、悪い人とかに掴まっちゃうんじゃないの?」

 

 当然の疑問が口を衝いて出てきた。こんなことをセレブに言うのも気が引けるけど、やっぱり彼女の身の安全が気になる。誘拐とかひどいことをされていないだろうか。

 

「その心配は無用です。そういう方は闇の権力で捻じ伏せているので……って、あ。パパに怒られちゃう。これはトップシークレットでした。ごめんなさい、聞かなかったことにしてください!」

 

 マジか。驚きが強すぎてしばらく忘れられそうにないんだけど。ニューラ〇イザーでも使わない限りは難しいように思う。

 

「闇の権力……? ところで、奈美ちゃんは好きな食べ物とかってある?」

 

 知佳の天然っぷりにはいつも驚かされる。この町のダークな部分を垣間見たというのに、御園さんの好きな食べ物のほうに話をシフトしてしまうだなんて。

 

 むしろ、天才まである。……いや、知佳が気遣いのできる良い子なのは当然だけど。

 

「好きな食べ物、ですか? ええと、そうですね……いっぱいあるんですけど、いちばんはオブラートですかね。特にきびだんごにへばり付いているオブラートが好きです!」

 

「分かる~☆ きびだんごのオブラートって特別な感じがして美味しいよね☆」

 

「あたしも駄菓子のなかではきびだんごが好きだな。オブラートは食わないけど」

 

「え。オブラートだったの、あれ。私ずっと包装のプラスチックだと思って、破きながら食べていたけど……」

 

 おっと。まさかの二極化だ。それにしても、華のJKがきびだんごのオブラートでそこまで話を盛り上げるとは。これって、わたしのための自己紹介だとばかり思っていたけど、彼女たちも実はお互いのことを、そんなに知らなかったんじゃないの?

 

 だとしたら、これはすごくいい機会だ。巨乳の彼女たちが巨乳だけではないことを知るチャンスだ。いままで内心では胸の大きさで呼んでいたけど、もしかしたらうっかりその卑劣なニックネームで呼んでしまうかもしれない。そうなればおそらく、第一次巨乳戦争は不可避。わたしだけ貧乳だけど、それはさておき。

 

「ちょっと、ちょっと亜希ちゃん☆ 知佳ちゃんも☆ それだけは聞き捨てならないよ☆」

 

「そ、そうですよ。きびだんごのオブラートこそが、きびだんごよりもきびたんごしらしめるんですよ!」

 

「奈美。悪いけど、言葉遊びが過ぎて、何を言っているのか分からない。あたしのなかでオブラートは、粉薬を飲みやすくするための器でしかないんだ。それ以外の摂取の仕方は極めて邪道だよ。そうだろ、知佳」

 

「んー。私は粉薬よりも錠剤のほうが良いかな。苦くないし。オブラートはみんなには悪いけど、味がなくて食べた気がしないから、きびだんごを食べるときはオブラートを破いていつも通りに食べるよ」

 

 と思ったら、三極化だった。知佳だけオブラートの本質を理解していないように思える。否、それでいい。知佳の場合はそれでいいんだ。わたしが許可する。だって、知佳は可愛いから。文句は誰にも言わせない。知佳の味方にはわたしが付く。

 

「こうなったら、ニュー〇ライザーできびだんごのオブラートを破かずに食べていた頃まで知佳さんの記憶を戻すしか……!」

 

「え、実際にあるの?」

 

「あはは。冗談です。さすがにみなさんのきびだんごの食べ方にまではケチをつけませんよ。私には私の、知佳さんには知佳さんのきびだんごが心のなかにありますからね」

 

 とは言うが、内心では腸が煮えくり返っているに違いない。そのうち、すべての町民にニューラ〇イザーできびだんごの食べ方について洗脳しているのかもしれない。そんな奇妙な妄想をしているうちに冷や汗が出てきた。

 

「じゃ、じゃあ、自己紹介はこれで終わりかな。知佳に、花城さん、天野さん、御園さん。この四人が巨乳という最強のチートスキルを持っているのにもかかわらず、手放したいというメンバーってことでいいのね?」

 

「なんか悪意があるように思えるなあ☆ 別にいいけどね☆」

 

「でもまあ、手放したいというのはほんとだからな。あんたには悪いが、邪魔だとさえ思うんだよ」

 

 ぜいたくな悩みだこと。わたしなんか、邪魔だと思ったことすらない。むしろ、欲しい。ギブミーおっぱい。

 

「ちょっと待って。まだ自己紹介していない人が居るんじゃないの?」

 

「いや、したと思うよ。知佳、花城さん、天野さん、御園さん。これで全員でしょ?」

 

「沙良は? 沙良はしなくっていいの?」

 

 わたしか。すっかり忘れていた。初対面のときから知佳の影響で、名前だけ知られているから自己紹介をする必要がないのだと思っていた。

 

「えっと、いまさら?」

 

「自己紹介に時効なんてないよ☆ るりは沙良ちゃんのこと、名前と胸のサイズしか知らないよ☆」

 

 それはそれでどういうことなんだろう。もしかして、売っているのだろうか。ケンカを。売っているのならば、言い値で買ってあげなくては。だけど、花城さんとケンカとなると、巨乳マウントを取られそうで嫌だ。

 

「入学式のときみたいなシンプルなやつはダメだよ、沙良。ちゃんと好きな食べ物のことも言ってね?」

 

「そんな、幼稚園児みたいな……」

 

「幼稚園児って、おい。あたしらはみんな乳飲み子だって言いたいのかよ。巨乳だけに」

 

 それだと、わたしは巨乳じゃないからハブられているみたいじゃないか。でも、残念。わたしは巨乳なので、幼稚園児みたいな自己紹介をすることができるのだ! あっはっはっは! はは……

 

「じゃあ、いまさらだけど自己紹介するね。わたしの名前は前田沙良。気軽に沙良でいいよ。好きな食べ物は惣菜のクレープかな。甘いのはあんまり好きじゃないかも。とにかく、これからよろしくね、みんな」

 

「うん、知ってた。沙良ってば好きな食べ物のだいたいが渋いんだよねえ。そういうとこも可愛いけどね」

 

「へえ。名字、前田なのか。アドバイザーとしてよろしくな、沙良」

 

「私も惣菜のクレープ好きです! キャビアとタピオカの入ったやつが特にたまらないんですよねっ」

 

「その自己紹介も良いけど、大切なところを忘れているよ、沙良ちゃん☆ あなたは貧乳でしょ☆」

 

 みんな、それぞれ異なる反応なのが面白いけど、金髪ギャル。あんただけは看過できねえ。

 

 だいたい胸の小さい人を貧乳と表現すること自体がおかしい。それはただ育っていないだけで、貧しくはない。差別用語だ、そんなの。せめて微乳と言ってほしい。育つ可能性があるのだから、希望の微乳で希乳と呼んでほしい。呼べ。




最終投稿が2年前ですね。本当にすみませんでした。
2年も前なので誰も読んでいないと思いますが、ひっそりと投稿を再開しますね。
言い訳→しばらくカク〇ムで遊んでいました。

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