「あー、疲れた!」
部活終わりの身体をベッドに投げ出す。今日は特に濃密な放課後だった。主に同盟的な意味で。
「『貧乳(になりたい)同盟。』かあ。なんかすっごいメンタル鍛えられそう」
活動がすべて終わる頃には、たとえ貧乳と罵られても真顔を維持できそうだ。いま言われると、女子とは思えないパワーで顔面に殴りかかってしまうかもしれない。まあ、しないけど。
うん。たぶんね。
「さてと。新しくできたグループでも覗いてみようかな」
お母さんの作る夕食に呼ばれるまでのあいだ、特にやることもないので、スマホで遊ぶがてらSNSでも弄ることにする。制服にしわができるのなんて忘れて、ベッドでごろごろしながらスマホで漫画を読む。これ、もしかしてすっごい贅沢じゃない?
『貧乳(になりたい)同盟。』……見れば見るほど悪意の塊のようなグループ名だ。無意識のうちに歯ぎしりしてしまう。わたし以外のみんなはカッコのなかを読んでいるんだよね。マジ萎える。萎えすぎてハヤシガメ。
「なんだ、このノリ。動画サイトの子どもたちじゃん」
この時間に投稿されているってことは、5人で帰っているときに始まっていたってことじゃないか。花城さんがやけにニヤニヤしていたのはこれが理由だったんだ。知佳も言ってくれればよかったのに。
まだ美乳ヤンキーさんは書き込んでいないらしい。そういえば、彼女だけ急に用事を思い出したとかで走って帰っちゃったんだよね。その用事が終わっていないのだろうか。たぶん、全員がコメントを書き込まないとこのノリは終わらない。
メッセージの通知音がして、画面を見る。これで全員がコメントを書き込んだ。さすがに6コメ以降のノリはないはず。あったとしても、無視してやるんだから! でもまあ、女子の団結力には逆らえないんだけど。
「うん? 『なにる』ってなに? なにを言っているの?」
美乳ヤンキーこと天野さんの発言にハテナを浮かべていると、ほとんど同じようなタイミングで花城さんの『なにる?☆』と、まるで小ばかにしたかのようなメッセージが飛んできた。
くそう。思考回路が金髪ギャルと同じだ。サイアク。萎えすぎてドダイトス。
「それにしても、『なにる』ってなんだろ?」
天野さんは何を伝えたがっているんだ。なにる、ナニル、NANIRU。少し考えたら、カタカナで『な』と『に』を横に並べると、ひらがなの『た』に見えることだけは分かった。たる、タル、TARU。それでも意味が分からない。
「天野さんのコメント、よく見たら続きがあったや」
全文はこうだ――『こめってなにる』。『なにる』は『たる』に変換できるとして、『こめってたる』としてみるが、未だに頭を悩ませる。なんなんだ、いったい。彼女はまさか、幼稚なメッセージに嫌気が差したのだろうか。
だとして、煽り耐性が低すぎる。いや、別にわたしは煽っていないけど。
「あ。更新したら、だいぶスクロールしちゃったな。『なにる』まで戻らなくちゃ」
画面を下から上にストライクショットすると、ふと未読のメッセージが目に留まる。知佳のやつだ。
「え。ええと……」
――たぶんハテナの打ち間違いじゃないかな。
あ、なるほど。ハテナの打ち間違い、か。確かに入力画面では『る』と『?』の場所もスライドの方向も似ている。
「なんだ……打ち間違いか」
つまり、天野さんが言っていたのは『こめってなに?』。みんなが立て続けに打ち込んだ言葉の意味を知りたかったらしい。すぐさま御園さんが補足説明をしてくれている。
「ふっ……」
スマホの電源を消し、天井を仰ぐ。照明に向かって手を伸ばし、そして呟く。
「くだらな。すっごく時間の無駄じゃん。漫画でも読むか」
わたしが求めていた真実ってのはこんなものだったのか。行き場のない感情に寄り添うかのようにわたしは、ふらふらと本棚の前まで歩き、お気に入りの漫画でも読み耽ることにしたのだった。