海の上の高校教師と女子高生   作:あーふぁ

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7.まほとふたりだけの時間

 黒森峰とプラウダの学園艦交流の3日間が過ぎた翌日。

 今日最後の授業をまほがいる教室で終えてから準備室に戻ると、すぐに放課後となった学生たちの騒がしくも楽しそうな声が廊下や窓越しに聞こえてくる。

 秋晴れな今日は窓から見上げた空が美しく澄んでいて、こんな日は焼き芋でも買って外でぼぅっとしたいなと思う。

 特に急ぐ仕事もなく、こうして暇をつぶすよりも何か行動をしたくなる。

 1度そう思うともうそれしか考えられなくなり、学食で適当な何かを買って食欲を満たすことにする。

 素早く立ち上がり、部屋を出ようと扉を開けたところでノックをしようとした制服姿のまほがいた。

 まほの手にはカバンがあり、ホームルームが終わってからすぐに来たらしい。

 時々放課後に来ることはあるけれど、滅多にないためにこういうのは珍しい。

 

「先生はどこか出かけるところだったか?」

「暇だから、そこらをぶらぶらと歩こうと思ったんだよ」

 

 僕はまほに背を向け、自分の椅子へと座る。

 それでもまほは入ろうとせず、僕が手招きをしてから入ってきた。いつもの席へ座り、カバンを自分の膝の上へと置く。

 まほは僕と目を合わせずに窓を見て、少ししてから僕へと目を合わせてきた。その時に机の引き出しに張ってあるメモに気づいたらしく、その表情はどこか不安げな様子だ。

 

「先生はノンナというプラウダの女子生徒に心当たりはあるだろうか」

「その子は前に言っていた妹みたいな子だよ。2日前にしばらくぶりに会ったけど、何かあった?」

「ノンナが妹みたいな、と言っていた子か。そのノンナから強い視線を感じるようになったんだ。まるで私を観察しているかのような。……先生はノンナと恋人関係ではないんだな?」

「ない。それはない。兄と妹の関係だよ。ノンナがまほに興味を持ったのはまほの話をしたからだと思う」

 

 まほは僕の言葉に納得した様子で、不安げな顔はなくなった。

 

「そういうことか。聞いてもいいのなら、私についてどんな話をしたんだ?」

 

 そう言われて僕はあの時のことを思い出す。

 まほについての話は仲が良すぎるとか、教師と生徒という関係に気をつけろ。あとは恋人ができるなら、ノンナが審査すると言ったぐらいかな。

 僕は考えををまとめ、要点だけを言うことにする。

 

「まほとは仲がいいって言う話だよ。ノンナは僕を昔と同じように兄と慕ってくれているんだ。だから、兄である僕と仲のいいまほのことが気になったかもしれない。今度ノンナに注意しておくよ」

「いや、大丈夫だ。理由がわかれば安心する。しかし、あの『ブリザードのノンナ』が兄に情熱的とはな」

 

 観察されたときのことを思い出したのか、まほは楽しそうに笑みを浮かべる。

 でも僕としてはノンナの異名が気になる。

 いったいなんなんだ。『ブリザード』だなんて。ノンナの外見や言葉遣いが冷たく見えるからだろうか。今度本人に会ったら聞いてみよう。

 

「ノンナと比較されて先生に捨てられないよう、私の戦車道をやっている姿をぜひとも見てもらいたいところだ」

「そんなことはしないけどなぁ。前に決勝を見たとき、機敏に動く戦車を指揮しているのがかっこよかったよ」

 

 あれはただただすごいと思った。生徒だからとかそんな補正ではなく、普通に見たとしても同じ感想を抱くだろう。

 それほど圧倒され、感激し、心に響いた姿だった。

 まほは僕の言葉に照れたのか、目をそらして落ち着かない様子だ。

 

「……それは嬉しいが、直接見てもらいたいという気持ちもわかって欲しい」

「確かに。じゃあ、まほは先に練習場に行っといで。あとから僕も行くから」

 

 まほは僕と目を合わせて、嬉しそうに微笑んでは勢いよく立ち上がると急いで部屋を出て行こうとする。

 

「待っているからな。必ず来るんだぞ?」

「わかってるよ」

 

 念を押す姿がかわいく見え、手を振ってまほと一時的な別れを告げた。

 まほがいなくなってから、ゆっくりとコーヒーを飲んで時間を潰す。

 そうしたあとに戦車道の練習をやっている場所へと向かう。

 今まで行ったことがない場所から、近づくたびに腹に響く重い砲撃音が響くと帰りたくなる。

 そんなことを思っていると戦車道用の略帽をかぶり、黒いジャケットと濃い赤色のミニスカートを履いた女の子が向かっている先の向こう側から僕のそばへとやってきた。

 話を聞くと、まほが道案内用に寄越した人とのことだ。

 その子の案内に従って森を抜けると、荒野が広がっていた。

 木や建物はなく見通しがいい場所で、地面は車両の履帯のあとがあちこちにある。それに戦車のエンジン音や砲撃音が響き渡っている。

 そんなところを戦車が走り、急停止しては急発進する姿があった。

 戦車の姿に圧倒されていると案内の子が僕を呼んで、また僕はあとをついていく。

 ついた先は屋根付きのベンチがある場所だった。テーブルと椅子がそれぞれ3セットある広い空間になっていた。

 そこには戦車道をやっている子たちが4人いて、真剣に戦車が様々に走っている様子を見ている。その中には僕が授業を教えている子もいた。

 案内の子と僕が近づいていくと気づいたらしく、笑みを浮かべて手招きしてくる。

 自分たちの空間であるこの場所に教師が来たら嫌がると思ったけれど、好意的なのが不思議だ。

 その理由を聞こうとする間もなく、自分たちが座っていたところを僕へと勧めてくる。そうして案内してくれた子も含めて、僕の隣や周りに集まりなおしてきた。

 そうして次々にまほや戦車に関することを教えてくれる。

 まほの乗っている戦車は212という数字が描かれているティーガーIということや戦車道の大会が終わってから隊長になったこと。まほが準備室へ行ったあとはいつも気分良さそうだとか、自分たちが先生の話をすると興味なさそうな振りしてもその話題に興味を持っているなど。

 生徒たちにはばれていない、またはばれていても小さな疑いぐらいかと思っていた。でも予想以上に僕とまほの関係は広まっているらしい。

 戦車道で有名人であるまほだから、注目されていたのだろう。

 彼女たちは僕とまほは恋人関係なのかと聞いてきたけれど、そこははっきり違うと答えた。

 そうやって彼女たちと雑談をしていると、戦車の音が段々と近づいてくるのが聞こえてくる。

 その方向を見るとティーガーIが砲塔を動かし、砲身をこっちに向かないようにしてまっすぐ向かってくる。

 隣にいた子たちは慌てて僕から離れ、さっきの女子高生らしい騒がしさはなくなって真面目な様子で立ち上がっては直立の姿勢を取る。

 僕はどうすればいいか困惑し、戦車が近づいてくるのを座りながらただ待つことしかできなかった。

 動けなくなった僕たちの前まで戦車はやってくると、エンジンが止まる。

 砲塔のキューポラからジャケットを着ているまほが顔を出して無表情で僕たちを見つめてきていた。

 

「お前たち、見学をしないのならランニングをしてきたらどうだ?」

 

 まほが静かに抑揚のない声でそう言うと、周りにいた5人はすぐに「走ってきます!」と大声で答えては一斉に慌てて走り出していった。

 1人になった僕は、自分までが悪いことをしたかという気分でいっぱいだ。

 まほは走っていった人たちを見送ったあと、今度は僕のことを見ながら戦車の中に向かって「休憩だ」と言ってから降りてきた。

 そうして僕の前まで歩いてきては、すぐ隣に座って顔をこちらへと向けてくる。

 

「何か言うことはないか?」

「……そのジャケット姿、かっこいいね」

「違う、そうではない。いや、褒められるのは嬉しいが聞きたいのは違うことだ」

 

 さっきまでの落ち着きはどこかへと消え、今は恥ずかしがっている。

 かっこいいとか美人だとか、そんなことは言われなれているだろうし。

 それでも恥ずかしがっているのは僕が外見のことは褒めたことがないから変な気分かもしれない。

 

「先生が来てくれたのは嬉しいが、なぜ他の生徒と楽しそうに話をしていたんだ。教師なのだから練習の邪魔をしないようにするのが当然なのではないか?」

「まほとのことを聞かれたんだよ。僕との関係がどうとか。そういうのでで話が盛り上がってたんだ」

「あの子らにはきつく言っておこう。……私が普段会いに行くのが迷惑だというのなら、これからは控えることにしようか?」

「構わないさ。僕はまほと話をするのが好きだから」

「私も先生と話をするのは好きだ」

 

 小さく息をつき、安心したまほは優し気な顔で僕をじっと見つめてくるる。

 それがなんだか恥ずかしくて、ごまかすように視線を遠くにいる戦車に向ける。その戦車は遠くへと射撃練習をしていたり、別な戦車は全力疾走をしている。

 実際に見る戦車の音は重低音や視覚での印象が強く、戦車道という競技が人気になるのもわかってくる。

 練習場に来たはいいものの、話ばかりでこうやって見る余裕がなかった。戦車を見ていると、心が少し落ち着いてくる。

 

「私たちの関係はどう言えばいいものなのだろうな」

「仲のいい教師と生徒。それでいいじゃないか。もし、そうでないのなら……」

「そうでないのなら?」

「わからない!」

「……なんだ、それは」

 

 開き直って大声を出した僕に、まほはあきれた表情になるがそれも一瞬で、すぐに笑顔を浮かべてはおかしそうに声をあげて笑う。

 

「何も答えが決まってなくてもいいじゃないか。別に今すぐ決めなくてもいいと思うんだ」

 

 今はお互いに仲の良い教師と生徒な関係。

 だけれど、その先はわからない。ノンナのように妹みたいな関係になるかもしれないし、親友というのもある。絶対にありえないと思うけれど、もしかしたら将来は恋人にだってなる可能性もある。

 

「私はまだ1年生だからな。卒業までで先生との時間はまだある。急いで悩む必要もないか」

「そうだね。悩むだけ悩んでから……。いや、教師的立場からすれば悩まないで即答するとこなんだけどね」

「先生は変わっているからな」

 

 普通なら問題になるようなことは避けるべきだ。でも僕はまほと一緒に居続けたい。

 この居心地のいい関係をなくしたくなくて。

 でもそれは良い教師を目指しすことと矛盾するような気がしてくる。

 生徒と仲が良すぎて、周りからは教え子に手を出している人と思われるかもしれないから。

 

「……僕は良い教師でありたいと思っているよ。生徒に親身になって悩みを一緒に解決していくとか」

「確かにそれは良い教師だな」

 

 まほはそう言って戦車へと乗り上がり、キューポラの中に向かって「休憩は終わりだ」と言ってから降りてくる。

 そうして僕の前へとやってくると、戦車をちらりと見てから僕へと視線を戻す。

 

「先生から見て、私はどんな生徒だろうか」

「かわいい生徒だよ。さっきいた子たちもね」

「それは教師としての言葉だな」

 

 僕のまほは穏やかな笑みを浮かべ、僕も同じ笑みを浮かべる。

 そのときに戦車のエンジンがかかり、アイドリング状態となったエンジン音であたりは少し賑やかになる。

 僕とまほの間に会話はなく、見つめあうだけだったがまほがちらりと戦車のほうを見てから僕へと視線を戻す。

 

「……さっきの話だが、私の悩みを先生に解決してもらおうか」

「ほほう、聞こうじゃないか」

 

 からかうような笑みを浮かべるまほに、どんな悩みがやってくるか楽しみになる。

 きっと冗談を言うかもしれない。だとしたら、それはかなり珍しい。

 まほはいつでも本当の言葉しか言わないから。

 

「今ぐらいは私だけを見て欲しいということさ」

 

 まほはにやりとした笑みを浮かべると、さっきよりも足早に戦車へと近づいては素早く戦車の中へと入っていった。

 戦車はゆっくりと後退し、僕からある程度距離を取ると旋回をしてから走り始めた。

 段々と加速していくなか、キューポラから体を出すまほ。

 そのまほはさっきの言葉のせいか、ちょっと恥ずかしそうな顔で僕をちらりと見るとすぐに進行方向へと顔を向けた。

 そうして戦車と共に僕の前から去っていったまほ。

 戦車に乗り込む姿や走らせている姿はとてもかっこいい。もちろん、最後の表情のようなかわいいところもある。

 その姿に目を離せないまま、僕はそのまま戦車を見続けていた。

 僕とまほの関係はいつかは必ず変わっていくものだけど、それまではこうして平穏で楽しく過ごしていきたいと思う。

 準備室という安心できる場所で、信頼できる西住まほと一緒の時間を。




ひとまず話が終了。
この後のプロットはまだありません。
続けて4万字を超える話は書いたことがないため、未知の世界に。
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