あぁ神様、RING   作:猫毛布

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御伽話を始めましょう

 随分と眠っていた。

 

 少年はそう思い、瞼を開いた。

 そこは、以前に見た真っ白い空間……いや、違う。白い空間は黒い線に汚されて、その先を見れば黒い塊がモソモソと動いていた。

 

―ん?おぉ、目が覚めたか。

 

 黒い塊は少年の方を向くでもなく、相変わらず、モソモソと動き、線を増やしていく。

 少年は溜め息を吐いて、黒い塊に寄る。

 

「……何?」

―これか?計画だよ。

 

 計画、と言われ少年は先の方から眺め、そして読み解いて、黒い塊に向いた。

 理解したのは、現在自身がいる管理局を崩す方法だった。隙も無く、一類の望みも全て断ち切る様に、徹底的に。

 

―ま、脅しだけどなぁ

 

 黒い塊はようやく立ち上がり、見慣れない煙管を口に咥えた。

 少年と男は向き合う。まるで鏡合わせのように。

 

「いいか、少年。少し君を利用したい」

―…………そう

「そうさ。まぁ安心しろ。全部終わらせるさ。変なやっかみも無くな。八神はいるかも知れんが」

 

 声を出した男がクツクツと意地悪く言う。

 少年はそんな彼に溜め息を吐いて、思う。

 

―こんな物が僕か

「随分な言いようだな、俺。まぁ性格的には十全だろう?」

―……知らない

「そいつはよかった。知ってたら通報するところだったよ」

―……自分が捕まる

「そうだな。俺達は一緒さ」

 

 男は紫煙を吐き出して、少年の頭をクシャリと撫でた。少年は鬱陶しそうに眉を寄せはしたが、男の手を払いはしなかった。

 その事に少しだけ苦笑して、男は歩き出す。

 

「んじゃ、まぁ、一週間程度借りるぞ」

―……ん

「さてさて、全部守ろうか。神様にはそう願った筈だぜ?」

 

 嗤う男と無口の少年。

 白い空間に残ったのは無口の少年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年は目を覚ました。

 気怠そうに瞼を開き、急いで補修していた首輪を容易く外してベッドに放った。

 

「さってと。久しい久しい現世ってか。いやはや」

 

 いつも無口な少年は苦笑して、その顔を歪める。

 ペタリと床に着いた足の踵を合わせる。瞬間に現れたのは朱色の五角形の絨毯。否、魔法陣だった。

 その魔法陣はゆっくりと広がり、そして部屋を覆い尽くす。

 

「んー、魔力遮断術式か。まぁ、関係なんてないけどさ」

 

 少年は壁に手を付けて何かを探るように瞼を落とす。

‐結界術式構築

‐遮断術式解析

‐遮断術式改正

‐遮断術式無力化

‐扉前に警備兵二人

 

「軽いなぁ。全く。まぁ、逆にここまで成長している事を評価すべきか?」

 

 弟子、というのもオカシナ金髪と碧眼を持つ少女を思い出しながら少年は苦笑した。

 少年によっていとも簡単に開いてしまった扉。

 突然開いた事に驚く管理局警備員二人。

 

「はろー、アディオス」

 

 ソレは一瞬だった。おそらく、二人が見えたのは朱色の軌跡だけだっただろう。

 何かが通り過ぎて、聞いたことも無い楽しげな少年の声が聞こえ、そして首筋に衝撃が走ったのだ。

 ドサリと落ちる警備兵を一瞥して、少年は溜め息を吐いた。

 

「おいおい、どんな出力をしてんだよ。アンヘルまでとは言わんが、フェイト並の出力は出てるんじゃね?」

 

 自身に解析魔法を行使しながら、自身には強すぎる力に溜め息を吐き捨てる。

 少年の元々の力は、特殊な事象を除けばこれの三割程度しかないのだ。

 その特殊な事象の時でも、これ程に無差別的な攻撃は出来なかった筈だ。

 少しだけ唸ってから、少年は吹っ切れたように息を吐いた。

 

「とりあえず、ここの制圧と聖王を迎えに行くか」

 

 はぁ、面倒だ。少年はそう言いながら、また歪な五角形を足に敷く。

 その魔法陣は伸び、起動六課の宿舎を全てに敷かれる。

 あらゆる情報が少年の頭の中にぶち込まれるが、少年は一つ一つを流して解析し、警備兵の胸ポケットの中に入っていたタバコを発見した。

 

「おぉ、勤務中の喫煙はいけないなぁ」

 

 少年程の年齢の喫煙はいったいどうなのか、等と問答する気はもはや無い。

 少年はタバコを口に咥え、同時に見つけたライターを手に取り、少しだけ考えて、自身に魔法を行使する。

 

 朱色の光が彼を包み、そして晴れた時にそこにいたのは少年では無かった。

 ボサついた黒い髪を地面スレスレまで伸ばして、平凡な容姿に縁の無いメガネ、瞳の色はまるで血が渇いたように汚れた赤色。

 男は、ふむ、と一言だけ呟いてようやく咥えたタバコに火をつける。

 

「ゴホッゴホッ、にが……あの人みたいにはいかんか」

 

 随分と格好のつかない事を言いながら、咥えたタバコを離す事も無く、少しだけ涙目で通信を開く。

 

「はーい、ドク。ご機嫌麗しゅう」

『クク、やぁ名も知らぬ。ご機嫌麗しゅう』

「四人の様子はどうだい?」

『君の方が知っているだろう?』

「あー、問答は無しにしようぜ。ちゃんと足取りも足止めもできてるんだろ?」

『知っているからこそ聞くんだろう?』

「当然じゃないか。出来てない、なんて言ってくれるなよ?」

『あぁ、もちろんじゃないか』

「じゃぁいいさ」

 

 男は涙目になりながら、紫煙を吹く。

 

『そうだ、聞き忘れてた事があったよ』

「なんだ?計画は凡そアンタの計画だぞ?」

『どうして君は彼女達、ひいては私達を守ろうとするのかね?』

「なんだ、オカシイか?」

『あぁ、悪人をしている私を守ろうとするのはオカシナ話だろう?』

「どうしてするのか。答えは簡単さ。そこに守るモノがあるからさ」

『……なるほど』

「まぁ……守る事しか出来ない、って言い換えてもいいがね。期待する答えかい?」

『あぁ、十分さ。十分すぎるよ。名も知らぬ』

「じゃぁ、スカリエッティ。偉大なる無限の欲望よ。君の欲にたる、一つの願いを聞いていただこう」

『送られてきた資料だね』

「話が早い。では、十全に、善なる行為を叩き潰そうか」

 

 男達は嗤い、互いに別の通信を開く。

 片や管理局に向けて、片や自身を捉えていた場所に向かって。

 

「機動六課ご来場の皆様!!こんばんは!!いや、おはようございます!?ハハッ!どうっでもいいか!!今、このワタクシ、ユウ・エンプティが全ての情報を奪ってやったぜ!!ひゃッハ!!謂わば手前らは捕虜さ!!一応、俺の居場所を教えといてやるよ!!さぁ、始まりだ!!踊ってやるよ!!」

 

 男は……ユウ・エンプティ叫び、面白そうに通信を開き続け、機動六課の内部情報及び外部への情報を全て遮断した。

 つまり、機動六課自体が一つの牢獄と化した事と同義であった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ、第一段階終了。あとはみんなの無事を祈るばかり、ってか?」

『テロリストの言葉ではないね』

「クク、俺はいつだって世の中の平和を祈ってるさ。世界は大嫌いだけどな」

『全くだ』

 

 似た者同士の男達は嗤い、通信を切る。

 ユウ・エンプティは自身の左手に触れて、少しだけ苦笑する。

 

「そうは思わねぇか?アンヘル」

 

 何もない左手に向かって、彼はそう呟いた。

 呟いて、らしくなさに気付いたのか髪をクシャクシャと掻き、タバコを廊下に放る。

 

「さってと。んじゃ、通してもらおうか、シャマル、ザッフィー」

「……どうして?」

「どうして?面白い質問だな、シャマル。どう答えようか……」

「答えなくてもいい。お前は止める」

「ザッフィーが?ハハッ、面白い冗談じゃねぇか」

 

 緋色の光が彼に密集して、膜の様に彼を包む。足元には五角形の魔法陣。

 秒間二百回にも及ぶ固有空間解析魔法。以前の彼には出来なかった芸当。処理する能力、維持する魔力、行動出来る力。今の彼には全て揃ってしまっている。

 

「さぁ、来いよ。騎士ども。俺は止める事は出来ないぜ?」

 

 その一言の後、ユウは地を蹴り、自身を二人の間に入れた。

‐左からザッフィーの拳

‐右にいるシャマルのおっぱいに向け掌打

‐うっひょう、柔らかい

‐…………

‐ヒャッハー!主人格様がお怒りだァ!!

 

「カット」

 

 容易くザフィーラの攻撃をいなし、シャマルを壁に押し付けて首を抑えた。

 ザフィーラは腕を引こうとしたが、やめた。彼の腕が自身の肘に触れていたからだ。

 

「おぉ、よく気付いたなぁ」

「舐めるな……」

「じゃぁ、わかってくれよ。俺だってお前らとは戦いたくないんだよ」

「……おっぱい、触られた」

「事故です。ごめんなさい」

「お前は……やはり、お前か」

「おいおい、俺が俺以外になんだってんだ」

「化け物?」

「あれ?シャマルさんひどくない?」

「……目的はなんだ?」

「世界の破壊さ」

「嘘はいい」

「嘘じゃないんだけどなぁ」

 

 ユウは苦笑して、けれどもその手は離さない。

 ニヤリと冷や汗を流しながら嗤うザフィーラも駆け引きが上手いという訳ではない。今はユウがただ乗ってくれている、という話である。

 もちろん、ザフィーラもその事は知っているし、ユウも話に乗っている理由がある。

 

「まぁ、腕の一本ぐらい貰ってくぞ」

「……あぁ、そうしろ」

 

 ゴキッと渇いた音が響き、ザフィーラは歯を食いしばり声を上げるのを抑えた。

 ソレを見ていたシャマルは目を逸らして、苦虫を噛んだように眉間を寄せる。

 

「そろそろ、避難は終わってる頃かね」

「ッ、気づいているか」

「当然。今この空間で知らない事はないね」

 

 ケケッ、とユウは嗤い、ザフィーラは額から汗を流す。昔に味方だった彼が今は敵として君臨している。

 なんと、なんと恐ろしい事か。全てを見通す、見通しすぎる彼は、敵として、最高に戦いたくない相手だった。

 

「さっさと隊舎を爆破でもしますかね。俺にも格好ってのがある訳だし」

「その為の避難か」

「うん、ご苦労さん。そろそろ向こうからお迎えとそっちからの敵さんも来そうだし」

 

 シャマルの首から手を離して、ユウはテクテクと歩き出す。

 少し歩いたところで止まって、ザフィーラ達に振り返り、少しだけ笑った。

 

「あー、まぁ、なんだ。はやて達によろしくな。俺は聖王様をお迎えに上がらにゃぁならんのだ」

 

 アーッハッハッハ、と軽快に嗤いながら、ユウは歩き始めた。

 

 

 

 

 

 そして男は一つの扉を開く。

 そこにいたのは、怯えた金髪で赤と緑の異色瞳の少女。

 そんな怯えた少女を見ながら、男は思わず苦笑する。

 そして、彼女に片膝を付き、軽く手を取った。

 ソレは劇的で、まるでどこかの騎士が姫に向かってするように、彼は少女に微笑んだ。

 

「おとぎ話は好きかい?」

「おとぎ、ばなし?」

「そう。ウサギも、ネコも、面白く喋る。まるで夢の様な世界さ」

「うさぎさんも?」

「そう、うさぎさんもきっとしゃべるよ。俺はね、そういう世界の住人なんだ」

「おとぎ話の?」

「そう。本の中から出てきたんだ。君を連れて行く為に」

「でも、」

「高町なのは達には俺から言っておくよ。キミが来たいか、来たくないかさ」

「わたし?」

「さぁ、お姫様。御伽噺への扉はキミが開けるんだ」

「いきたい……ワタシ!!行ってみたい!!」

 

 男はニヤリと嗤う。少女にバレないように。

 

「では、俺が、御伽噺の化け物役の俺が!! 君を、姫様を夢の世界へとご案内してしんぜよう。心の準備は? 楽しむ準備は? なくってもいいさ!! 存分の楽しもう!!」

 

 ユウは少女の額に手を置いて、ゆっくりと睡眠魔法を行使する。

 まるで、彼女を夢へと誘う様に。眠った彼女はユウに抱えられ、三者から見たその姿は間違いなく、犯罪臭がする誘拐現場だった事は黙って置こう。

 

 

 

 

 

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