あぁ神様、RING   作:猫毛布

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憶い<オモ(い)>
記憶から呼び起こす作業だから、コッチの漢字を使用


それぞれの憶い

 玉座に座る少女は目を覚ました。

 その双眸揃わぬ瞳を、やや寝ぼけて、目をゆっくりと開いた。

 そこは、お伽の国も真っ青なカオスな空間だった。

 

 濃い紫と淡い紫の斑模様の上着を羽織った男が高笑いをして、その横に溜め息を吐いた長身の女性がダイアが一つだけ書かれた服を着ている。

 そして高笑いする男の前にはどうしてだか落ち込んでいたり、どこか虚空を見つめていたり、もしくはソレらを見て笑っている女性が十人程。

 共通点としてはそれぞれスペードやクラブ、そしてハートのマークが入った服を着ているという事だろうか。

 よくよく見れば、絵柄の数が違う。

 二、を抜けば十二まで全て揃っているけれど、一人として同じモノは無い。

 

 なんじゃこりゃ。

 

 と玉座に座る少女、ヴィヴィオは思った。

 もちろん、言葉はかなり崩した物になるのだけれど、それでも意味合いとしては『なんじゃこりゃ』というのが一番合っている。

 そんなヴィヴィオが首をかしげていると、絵柄も無く、どうしてか素顔を隠した仮面の男がクツクツと笑いながら寄ってきた。

 

「あぁ、おはようございますデス。お姫様」

 

 見える口元はニヤリと笑っていて、そして被っていたヘタレた帽子を手に持って仰々しく礼をした彼は誰かを笑わせる為の道化ではなくて、まるで演劇者のようだった。ヴィヴィオにしてみれば、『おひめさま』発言の方が心を射たれたのだけれど。

 

「お姫様、お姫様。ワタクシ、ユウと申しますデス。ハヒ」

「おひめさま?」

「えぇ、お姫様をお姫様と呼ばず、なんと呼べばよろしいのですか? お姫様」

 

 肩を竦めてまるで当然の様に言ってのけたユウと名乗った道化。

 どこか調子外れな男とこの空間を見て、ヴィヴィオは目を少しだけ輝かした。そう、まるで御伽の国なのだ。夢の国。本の中に入ってしまったような、そんな感覚。

 

「お姫様、お姫様。実は、これは夢なのでございますデス」

「…………」

「おぉ、お姫様、お姫様。そう落ち込まないでください。お姫様が泣いてしまうとワタクシも泣いてしまいます」

 

 少しだけ落ち込んでしまったヴィヴィオの前で男はわざとらしく泣いてみせた。当然、演技である。

 

「さてさて、お姫様、お姫様。パーティをしますデス」

「パーティ?」

「お茶会ともいうデス。モットも、オカシナお茶会デスよ。甘いものは沢山ありますデス。なんせオカシのお茶会デスから」

 

 ユウが手を二度叩いた。クラブが四つ書かれた服を着た蜜柑色の髪を二つに分けたメガネの女性が眉間をこれでもかという風に顰めた。もう、なんて言うか、『なんでこんな男に従わなければいけないんだクソが』と口パクで言ってる程、眉間を顰めていた。

 ソレを見ながらもユウは気にせず『早くしろよ』と言わんばかりにもう一度手を叩いた。

 溜め息を吐いたメガネは空中で何かを掴み。思いっきり引っ張った。

 

 現れたのは、色取り取りの健康に悪そうなケーキや同じく健康に悪そうなキャンディ、そして健康に悪そうなクッキー、さらには確実にコレは食べ物ではないであろう黒い炭の塊。

 大人が見たら胸焼けする程の甘いモノの塊、否、コレはもはや軍だ。群では無く、軍。戦車も銃も剣さえもない、ただの軍隊であるのになんという威圧感か……!

 気を抜けば支配されてしまいそうな程の甘い匂いを撒き散らし、毒々しいまでに昇華された色鮮やかすぎる物体達……!!

 目を奪い、そして嗅覚も消えた。流石に料理で聴覚の支配は無理なので、放置しよう。

 

 まぁ、そんなこんなで舞台ではティーパーティが開始された。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 時間は少しだけ進み、それぞれの扉に入ったコスプレイヤー達の話に戻る。

 ウサ耳を付けて金色の懐中時計を首に引っ掛けた高町なのはは少しだけ目眩を覚えた。その感覚を知っていたからこそ、深呼吸を繰り返し、相棒であり、長年を自身と共にしたパートナー、謂わば半身を握りなおす。

 

「転移だなんて……はぁ、ライトくんは大丈夫かなぁ」

 

 落ち着いた呼吸を取り戻し、コイビトとも言うべき人を思いやる。当然、両想いである……筈なのだけど、彼自身が思うところがあり、些か踏ん切りが付かない状態にもなっている。

 英雄と呼ばれる光。エースと呼ばれる自身。エースと呼ばれる度にこそばゆい感覚があったが、ソレも今では無い。エースと呼ばれる程、仕事をこなしたのだ。そして……、

 

「墜ちたらしいな」

「ッ!?」

 

 なのはは杖を向けた。槍にも似た、金色の杖先を声の主に向けた。

 シャクシャクと雪を踏みしめて、道化の仮面の無い、まるで昔のトモダチをそのまま成長させたような彼がそこにはいた。

 

 なのははどうしても彼を好きになることは出来なかった。いや、正確には好きになることは出来ていなかった。表面上はうまく付き合える程にオトナになった。オトナになったことで、余計に彼がわからなくなってしまった。

 

「知って……るんだね」

「あぁ……まぁ、ここ二日、正確には六課に居た時に色々漁ってたからなぁ」

「やっぱり、あの子供が」

「いやいや、正確にはアレは俺じゃないさ。いや、アレは俺なんだろうか? どちらにせよ、俺と似た、俺のような、けれども俺とは違う存在だ」

 

 適当に言葉を濁す彼をなのははやはり好きになることは出来なかった。それこそ、ラヴなんて以ての外で、ライクでさえも到達出来ないほど。けれども、嫌いではなかった。

 

「病院の記録も見たが、リハビリ生活も無茶してたようだな」

「……」

「墜ちた時には英雄に怪我をさせた。ヴィータにもだ」

 

 なのはは押し黙った。当然、彼の言っている事は事実である。

 そして、目の前の存在が、自身の大好きな人に一番影響力があったことが許せなかった。

 

「アナタが……、アナタが彼の事を英雄なんかにするから」

「…………」

「ライト君は、ずっと、ずっと苦しんでるんだよ!? どうして、どうしてあんな事をしたの!?」

「……必要だったからだ」

「必要? もう死んでるアナタが生きてるライト君を頼るの? 生きてる私じゃなくて、どうして死んでるアナタが……ッ!!」

「…………」

 

 次は夕が黙った。

 なのはの感情は、嫉妬。それも、彼が死んでから、ずっと積もっていた物だ。ライトは居ないはずの彼を無意識に求めた。もちろん、普段の生活でなのはや他の友人らを蔑ろにしていた訳ではない。

 けれど、なのはには……ずっと、それこそ自身を助けてくれた時からずっと見続けた光の僅かな違和感に気がついた。気付いてしまった。

 

 

 だからこそ、目の前の存在を許すことは出来なかった。

 

「ねぇ、どうして……どうして死んじゃったの? どうして、私達に相談してくれなかったの?」

 

 まるで縋るように、彼が死んだ事を悔やむ。

 決して好きになれなかった。

 子供の時は、まるで捨てるように命を捧げていた彼を好きになれなかった。

 オトナに成り、意図も容易く命を捨てた彼を許せなかった。

 きっと、別の未来もあった筈だった。

 それは、きっと、とても温かい未来だった。自身の隣にライトがいて。その隣に彼が居て男同士で笑い、彼の隣にはすずかが居て、そしてフェイトやアリシア、はやてもいる筈の未来を夢想する事は容易かった。

 けれど、それは夢想でしか無い。

 ありえるかもしれない。もしかしたら。そんな淡い希望でしかなく、今となっては過去でしかないのだ。

 

「……後ろを振り返る事はいい事だ。でも前を見ることをやめるなよ。高町なのは」

「…………」

「俺に対しての色々は、聞いた。例えばここで俺がお前の問いに応えたとする。応えても、もう遅いんだ。というか、応えようが無い。死人に口無し、ってのはよく言ったもんだな」

「ずっと喋ってるのにね」

「ん、まぁ、アレだ、幽霊だって、怨霊だって、それこそクローンだって喋るだろ? そういう事さ」

 

 肩を竦めた彼になのはは苦笑した。

 どうせ、こうなることはわかっていたのだ。既に過ぎた事を言っても彼は応えてくれない。応えたとしても、なのは自身が彼の事を信じていないのだから、応えの意味もない。

 

 

 

 なのはは深呼吸をした。

 ゆっくりと目を開いた先は長い廊下だった。誰もいない廊下。

 少しだけ首を動かして後ろを振り返りそうになって、なのはは苦笑した。

 苦笑してから、フワリと浮いて、廊下を自身の持てる最高のスピードで駆けた。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 所代わり、方舟の外側に移る。

 

 尤も、事件を起こした道化は管理局クソ喰らえなんて言ってのけているが、本当に落ちたら結構危険であるので、均衡状態を保つように戦力の調整をしている。

 

 そんな均衡状態でムズムズしているだろう管理局が『くっそー、こうなったら強行突破してやんよ!!』みたいな事にならないようの一手であり、そして先につながる為の一手を空中ディスプレイに映し出した。

 

 ソコには道化の仮面を被った男と、自身らが信頼をおいている銀髪の英雄が争っていた。

 

『うぉぉおおおおおおお』

『くっ……!!』

 

 英雄が振り下ろした剣を寸での所で避けた道化。しかし避けることが精一杯らしく、次の攻撃に繋がることはない。

 続けて英雄の連撃。道化は魔力弾を射出してどうにか距離を取り、そしてその距離を英雄が詰めてもう一度猛攻を仕掛ける。

 

―これは、いけるんじゃないか?

 

 誰かがそういった。

 その言葉が広がり、そして英雄への期待が膨らみ、ソレが戦力となしていく。

 

 

 

 と、まぁ表舞台は大体こんな感じ。

 

 

 

 

「さて、英雄。話があるんだ」

「……いや、まず状況を教えろよ」

「『えーゆー』の扉に入った、転移魔法とか無い、尺もない」

「…………おい」

「いいか、まず落ち着いて考えろ。誰もお前の踏ん切りなんて見たくも読みたくもないんだ」

「おい」

「いやいや、まぁ当然、偉大な加害者様はきっとお前の事が大好きで堪らないんだよ。それこそきっとツギハギのヤブ医者を追いかける幼女並に」

「……いや、もういいわ。で話って?」

「単刀直入ってエロくね?」

「お前ってさ、子供の時の方が真面目なんじゃないか?」

「いやいや、今も至って真面目。真面目にふざけている訳だ」

「タチが悪いな」

「猫が悪い。全部猫のせいだ」

「いや、下ネタを混ぜるな」

「どこが下ネタなんだよ。童貞か? まさか未経験ですか……」

「おい……おい」

「まぁいいや。オマエが童貞だろうと非処女だろうと気にしないさ」

「非処女ってなんだよ」

「非処女ってのはだな」

「そういうことじゃねぇよ。馬鹿か? 馬鹿になっちゃったのか?」

「失礼な奴だな。あたいったら天才よ」

「あっそ。もういいわ。さっさと片つけようぜ」

「うん、だな。ドクター……ジェイル・スカリエッティを任せたい。もちろん、その娘達もな」

「いやいやいやいやいやいや、どうしろってんだ」

「俺の名前……あー、『名も知らぬ研究者』ってのをスカリエッティに譲る。それである程度アイツの罪を消すことが出来る。管理局上層部、それこそ老害は姉さん……えっと、二番目の娘が潰してる筈だ」

「……で? オレは何をすればいいんだ?」

「スカリエッティの保護。ついでにオマエの権限をフル利用してアイツ等を助けてほしい」

「…………危険は?」

「無い」

「…………わかったよ。やればいいんだろ、やれば」

「助かる。いやぁ、オマエが話のわかるやつでよかったよ」

「ちなみに話がわからなかったらどうなってたんだ?」

「そりゃぁ、あれだろ? 肉体言語で今のお前に勝てる気がしないから、洗脳とか、催眠とか」

「よかった、いま心の底からよかったと思う」

「ん、じゃぁとりあえず高町さんと一緒にヴィヴィオを助けて戻ってくれ。タイミングはコッチで合わせるさ」

「タイミング?」

「映像で俺とお前が戦ってる」

「…………え?」

「で、俺を負けた事にしてれば、お前の評価があがる。スカリエッティの保護が容易い。あとはほら、お前自身の影響力も上がるからな」

「……ぜんぶ計算尽くかよ」

「当然。ここまでに至るまでの計算は全部したさ。それこそ、すずかやフェイトのパンツの色までな」

「いっきにカッコ悪くなったな」

「カッコ付けるのは会話だけでいいさ」

 

 

 

 

◆◆

 

 八神はやては驚愕していた。

 それは強制転移魔法を行使された事でも、目の前に方舟の核と呼ぶべきモノがある事でも、その核に対して立て看板で<方舟の核です。触れないでください>と書かれていることでもなく、その立て看板に凭れながら欠伸をしていた少年の存在にあった。

 どうにか驚きを顔に出すことはなかったが、誤魔化すように髪を乱暴に撫でて息を吐いた。

 

「なんや、主犯の人がどないしてこんな所におるんや」

「そりゃぁ、核がなけりゃ飛べないからだろ。重要だから守ってるんだよ」

「さよか。道案内した人間の言葉とは思えへんなぁ」

「転移しただけで案内はしてないさ」

「……まぁ、どうでもええわ」

「そうさ、どうでもいいことだ」

 

 少年と八神はやての溜め息が重なった。

 八神はやては過去にあったこと、そして今に至るまで彼を考えない日はなかった。最初は恨み言だった。いつしかソレはどうして行動したのか、という疑念に変わり、そして行動した理由に行き着いた。

 自分を助けた理由も、自分を突き放した理由も、自分を傷つけた理由も、自分を置いていった理由も、全て同じ理由で、全部が違う行動だった。それだけの話。

 

「で、なんで昔の格好なん?」

「コッチの方が雰囲気出るだろ?」

「ショタ気は一切ないんよ。フェイトちゃんにでもしとき」

「あー、まぁアッチはアッチで理由があるからなぁ」

「……ふぅん」

 

 その言葉にとりあえず親友たちの無事を確認した八神はやては彼に気づかれないように溜め息を吐いた。尤もはやて自身、彼が気がつかないワケがない。とも思っているのだが。

 自然なタイミングに至ってわざとらしくない、わざと吐いた溜め息に面倒そうに頭を掻いた夕。

 

「私の前にその格好で出てきたんは? なんか理由があるんやろ?」

「お前、俺を吹っ切れなてないだろ」

「……そんな訳あるかいな。もう男なんて何人も引っ掛けとるよ」

「いや、それはそれでお兄さん心配なんだが」

「お姉さんの心配なんかせんでもええんよ」

「むぅ……」

 

 少しだけ不貞腐れたように唇を尖らした彼に思わず苦笑する。背丈的に自身の方が年上だと言うのに、どうしてか彼を前にすると自身はまだまだ年下らしい、と思ってしまうはやて。

 当然、彼の精神年齢を考えれば、まだまだ八神はやては少女の域だ。そんな事を知っているのは彼自身だけなのだが。

 

 夕の疑問に対して強い言葉を使って返したのは、はやて自身が図星だと感じていたからだ。けれども、心配させてはいけないのだ。

 なんせ彼は、

 

「まぁ、あれや。死人に口無し、言うやろ? あんまりコッチに興味を持ってたらアカンのちゃう?」

「おいおい、死人に梔子《クチナシ》すら添えてくれなかった人間がいうことかね」

「花言葉に自信が持てんかったんよ」

「『私は幸せです』……まぁ、墓に入ってなかった俺がどうこう言える立場では無いわな」

「キョンシーかゾンビみたいなモノやもんなぁ……」

「正確にはクローン体だけどなぁ……こうやって記憶を持ってる事自体ふしぎ発見みたいなモノだよ」

「ボッシュートです」

「スーパーはやてちゃんがッ!!」

「うぉい、私に探検家みたいな格好させんといてや」

「させねぇよ。アレは確かに萌えるモノがあるが、触手とかそう言う類のものがな」

「架空の考古学者映画もビックリな魔物を出さんといてや」

「あのテーマソングが過去と未来に行く車映画と被る」

「私はトンネル掘って捕虜収容所から逃げ出すあれかなぁ」

「まぁトムとディックな話はいいさ。ハリーの話をしよう」

「せやね。どこまでいっても通じへん話はええわ」

 

 互いに溜め息を吐いて一段落。

 何も変わってなかった。変わることなど出来なかった。変わっていたかもしれない、と考えていたのは自分で、変わっていたのも自分だと思っていたはやては安堵の息を少しだけ吐いた。

 

「私は……やっぱり後悔しとるよ」

「……そうか」

「ほら、仮にも助けられた身やん。二回も」

「両方とも助けたとも思ってないがね」

「でも私は助けられた」

「……そうかい」

「そうや。だから……今も助けようとしてる私が居る。助けたい人がおる。勝手に死ぬことなんて許さへん」

「もう死んでる身さ」

「茶化しなや」

「チャカなんざ持ってねぇよ」

「なんや、質量兵器所持でしょっぴく事も出来ひんか」

「まぁ……何にしても、死人がこうやって現実に関わるのはこれで終わりさ」

「…………」

 

 夕の言葉にまるで喉の詰まったように言葉を出すことが出来ない。例え出たとしても、ソレはきっと、まるで子供のような言葉で、自身の素直すぎる想いを伝えてしまうだけだ。

 成長した自分。そして時の止まっていた彼。

 八神はやては杖を構えた。金十字の杖を構え、その先を核へと向けた。ただソレをジッと見る夕は、決して止める事はない。

 

「なぁ、夕君」

「ん?」

「私が嫌い、って言うたやん」

「あぁ、言ったな」

「嘘やろ?」

「…………嫌いな人間を助ける程、器量はデカくないさ」

「さよか」

 

 一つだけ、心を縛っていた何かが解れた。それははやてにとって一番の楔だったモノで、自分自身で偽っていた部分だった。

 八神はやては夕の言葉にへにゃりと笑って、もう一度杖を握り直して、自身の足でしっかりと床を踏みしめた。

 次は皮肉ではなく、自身がもう一人で立つ事が出来るという事を見せつける為に。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 フェイト・テスタロッサは大きく息を吐いた。

 電流の走る二刀で舞いを踊るように身を翻し、迫り来るドローンを回避し、そして貫いた。

 貫いたドローンは煙を吹き出し、落ちる。彼女の後ろを確認すれば二桁に到達しそうな程のガレキが積み上がっている。

 

 金色の尻尾を揺らして、最後の一体を落とした彼女は再度ゆっくりと息を吐きだした。

 露出度の高いバリアジャケット。露出している太ももや首元にじんわりと汗を出して、顎に伝う汗を腕で拭った。

 

「いやぁ、相変わらず速いな」

「……あの時なら、私の方が遅かったよ」

「今なら勝てるってか? シグナムにも勝てなかった手前ェが?」

 

 黒い髪を後ろで一括りにした男がメガネを外した。チャイナ服にも似たソレを纏い、歪めた口から歯をむき出しにする。

 あの時は浅黒かった肌は今は少し白く感じる肌色。巫山戯た言動など一切無く、あるのは純粋な敵意だった。

 フェイトは深く息を吸い込んで、吐きだした。

 セネターと呼ばれていた御影夕はメガネを放り投げた。

 フェイトが息を止めて、足に力を入れる。

 ユウの爪先に力が入り、前のめりに成る。

 

 メガネがカシャンと音を立てたと同時に二人の姿が消え、次の瞬間には鍔迫り合いをするように肉薄した二人が存在した。剣を持った手を抑える形の変則的な鍔迫り、お互いの顔には笑みが貼り付けられている。

 

「おいおい!! 随分と速いじゃねぇか!!」

「ユウも……、ずっと追い求めてた!! やっとだ!! やっと、本気で、本気のユウと戦える!!」

「この戦闘狂めッ!!」

 

 ユウの足が動く。足刀が開いたフェイトの脇腹へと迫る。押す事をしていた腕を引き迫っている足刀を肘で抑えるフェイト。そのまま体制を崩す形となったユウに対して、一閃! 黄色の軌跡がユウを二つに割き、ユウの影が消えた。雑だった前髪が一部分整ってしまったユウが距離をとって存在した。

 

「抑えるか」

「避けられた」

 

 同時に、にやりを笑いが溢れたフェイト。シグナムとの戦いは剣士同士であり、どうしても互いの手を知っているからこそ、対処も分かり、千日手へと変わっていた。

 刺激はある。けれども、自身が求めていた事は、夜天の書と戦っていた、あの英雄と本気で戦っていた、セネターとして自分と茶化すようにしていた彼との、純粋な戦い。

 名も無き少年であった時に見た、移動と大量の魔法弾、そして肉弾戦。両手を縛って尚圧倒した戦闘力。自分の中に燻った何かを、今しがた再確認したフェイトは宣言するように、確かめるように、言い放つ。

 

「ユウ」

「なんだよ」

「殺し合おうよ《愛し合おうよ》ッ!!」

「随分な告白だことだッ!!」

 

 ユウの背後に回るように移動したフェイトは剣を振りかぶった。瞬間、フェイトの脚元に朱色の魔法陣が描かれる。

 反応した。反応せざるを得なかった。なんせ、ソレは自身が始めて縛った時と同じ術式だったのだ。

 魔法陣から鎖が伸び、フェイトを縛る。魔力を集中させ無理やり鎖を引きちぎる。

 ユウの振り向き様の蹴りが腹部へと伸び、ソレは相棒でもあるバルディッシュの腹で抑える事が出来た。が、勢いは殺す事が出来ない。

 

「ッ!?」

 

 吹き飛ばされ、壁へと打ち付けられる。頭を打ち付けたのか多少朦朧とする頭。咄嗟に唇を噛んで意識を戻す。

 なんせ、目の前には直線速度ではおそらく自身よりも速い彼が居るのだ。黒い弾丸がフェイトの視界には見えた。ソレは普段から高速戦闘をしていたフェイトだからこそ見えた。

 今にもコチラに膝を打ち付け、この戦いの幕を下げようとする彼が迫っている事が。

 手を壁に叩きつけ、その反動で横へと逃れる。フェイトの居た場所に弾丸にも似た彼が打ち付けられ、まるで蜘蛛のように壁に張り付きフェイトを睨んでいる。

 

 フェイトの背筋がゾクリと震えた。明確な敵意を持った彼を相手にするのは始めてであり、そして純粋に彼に恐怖した。

 同時に、フェイトは興奮していた。まるでタガが外れたように、笑い出す。

 

「アハハハハ!! 最高だよ!! 思ってたよりもッ、ずっとイイよッ! ユウ!!」

「そいつはどうもッ!」

 

 ユウはフェイトへと接近する。フェイトは鋭く尖った魔法弾を四つほど待機させ、そして放った。

 ユウは足を止め、高速で迫る魔法弾を一つだけ弾いた。その魔法弾が別の魔法弾へと当たり全てを相殺した。が、同時にユウの動きが雷性質の魔力によって停止した。一瞬である。たった一瞬。

 けれどその一瞬でフェイトは動ける。ユウへと剣を伸ばせる。

 

「ハァァァァアアアアア!!」

 

 フェイトが腕を伸ばした。振りかぶる事も無く、線での攻撃ではなく、点を貫く突き。

 ユウの正中線を貫くような突き。一瞬遅れ、ユウが動く。移動しても回避出来ない。ユウは左足を踏み込み半身に身体を逸らす。両腕の二の腕と肘の部分と背中に空間ができ、ソコにバルディッシュが抜ける。

 嫌な予感がフェイトに走った。ただそれだけである。ただの予感がフェイトにバルディッシュを引かすだけの何かを与えた。

 腕と背中の間から逃れたバルディッシュ。腕を引いたことで攻撃の手を辞めざるおえないフェイト。そして、踏み込んだ左脚で跳び右足を浮かしせたユウ。

 右足は勢いを保ち、空気を切りながらフェイトの側頭部へ向かう。体制上、上体を反らし避けることは出来ない。頷くように避けたフェイトが顔をあげ、攻撃をしようとする。

 そんなフェイトの頭を狙う、二枚目の牙が迫る事など知る由もない。

 

「ガッ!?」

 

 突然来た横からの衝撃を抑える事も出来ず、フェイトは横に飛ばされ転倒した。

 何が起こったのかわからない。何かしらの攻撃を食らった。

 軽い脳震盪で朦朧としている意識で何が当たったのか確認をする。意識外からの攻撃など見える筈が無い。

 

 避けた右脚の遠心力を用いた、左脚の回し蹴りなど、相対している人間が反応出来る事は無い。

 回転を殺すように、もう一度一回転したユウは朦朧としているフェイトに向かって歩きだす。

 

「おお、気絶させるつもりで打ったんだが……まだ意識があるか」

「なんとか……ね」

「まぁ……あれだ、お前さんは強かったさ。あぁ、そりゃぁもう、本当に」

「でも、負けた」

「お兄さんだって、それなりにプライドっていうのがあるんだよ」

「そのプライドがあったから……ユウは先に死んじゃったの?」

「…………さてな」

「勝てると、思ってたんだけどなぁ……」

 

 フェイトはバルディッシュに向き、微笑む。自身と共に成長する相棒に。

 

「ねぇ、ユウ」

「ん」

「後で……もう一回戦えるかな?」

「……」

「次は負けない。今よりももっと強くなれるから……だから、ユウ……目が覚めたら……」

 

 そこでフェイト・テスタロッサの意識が墜ちた。同時に露出度の高い服から着物へと変わり、手に持った剣は黄色い三角形の宝石に戻った。

 ユウは頭を乱暴に掻いて、溜め息をひとつだけ吐いた。

 

「……ハァ、天然だから。ってのは理由になるのかね……いや、どうだか」

 

 そんなユウの言葉を聞くのは黄色い宝石だけしかなかったのだ。

 

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