あぁ神様、RING   作:猫毛布

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自称と他称の化物

「やぁやぁ……まさかすずかがこんな所にいるなんてなぁ」

「…………予想した想像の一つだよ」

 

 すずかは溜め息を吐きながらユウを見る。

 そこにいるのは、あの時の彼をそのまま成長させたように、気怠げな瞳をした存在。

 黒い髪はテキトーな長さで、テキトーに切られ、これまたテキトーな彼の性格が適当に分かる程、テキトーだった。

 カチューシャに付いた猫耳の先を少しだけ触ってすずかは周りを見る。

 

 そこは図書室だった。

 すずかにとって、そしてユウにとって、互いにとても大事だと思える場所。なのはには彼女が墜ちた雪原、はやてと今の役職を考えた場所、フェイトは彼女自身の欲求を。

 少なからず、ユウがネックになっている問題の解決の為に動いた。動けている筈。

 

「懐かしいだろ?」

「……そうだね。ゆぅ君と会ったのはここだ」

「あぁ、本当に懐かしい」

 

 扉を開いた紫色の髪の少女と、窓際で必死になって本を読む少年。始まりはココだった。

 もしもここで出会っていなければ。きっとすずかはこの世界に入ることはなかったし、銃を携え恐れられる事もなかっただろう。

 

「私は、彼と出会って変われたよ」

 

 そんなユウの思いに応える様に、すずかは呟いた。

 

「もしかして、もしも、そんな事はどうでもいいんだ。私はゆぅ君と出会った訳だし、出会わなかった世界の私なんてそれこそどうでもいい」

「随分だな」

「異世界の自分を考えれる程、心は広くない。過去を振り返れる程、素晴らしい経歴もない。未来を視る程、優れた能力もない。私はどこまでいっても今が大切なの。今の一歩がないと、次の一歩が踏み出せない。過去に進まなかったから……あの時は力がなくて、求めるだけだった。止まってしまった。秘密を露呈して、それで満足した」

 

 寒さを耐える様に身を抱きしめて自身の中で溢れてくる何かを抑えるすずか。その何かがユウにはわからない。

 

「だから、畏れられる程、力を付けた。褒められる程、美しくもなった。認められる程、地位も得た。無駄にする為の覚悟も決めてた、彼を受け入れるだけの準備はした。あとはゆぅ君だけ、ゆぅ君だけが足りない」

 

 目の光がなくなる程、彼女は求めた。渇望した。彼の下へ行くのを躊躇していたのは、きっと望みを最後まで捨てきれなかったから。

 かと言って、夕は既に死人だ。生きていない。

 ユウは頭を掻いて、溜め息を吐いた。

 

「でも、俺は死んでるんだぜ?」

 

 吐いた言葉は真理であった。

 光のない瞳をユウに向けたすずかはニッコリと微笑んで、肩に担いでいたライフルを構えた。

 

 獣の咆哮にも似た轟音が図書室に響き、木製の床を赤く染める。

 ユウは片膝を着いて、足を打ち抜かれた事に気づいた。鼓動に合わせて吹き出す血が床に広がる。

 

「さっきから、黙ってたんだけど……彼のように喋るのはやめてくれるかな?」

「へ?」

 

 ユウの目の前に黒い穴が見えた。

 歪で、雑で、まるで女性の持つモノではない化け物《ライフル》が伸び、ソレを持つ女性は綺麗に微笑んでいる。

 どうしてだか、ユウを見下して、落胆している。

 

「アナタを見て直ぐに察したわ。ゆぅ君の事だからどうせ口八丁で私達を帰すつもりだったんだろうね」

「いや、何を言ってるんだよ」

「口を開かないで? 思わず首の後ろまで続く空気孔を開けちゃいそうだから」

 

 ユウは急いで口を閉じた。そんな様子にすずかはやはり溜め息を吐いた。

 

「どうせ結果を見たいから私の事は見てるんでしょ? ねぇ、ゆぅ君……コレを壊したら、アナタの所へ行くわ。邪魔してもいいよ……全部壊してアナタの所へ往くわ。存在してなくてもいいよ……全部終わらせて、アナタの所へ逝くから」

 

 そして引き金を引くと同時に、轟音。

 ユウは一瞬の衝撃を受け、視界を失った。空になった金属が床にカランと落ちる音がした。

 

 

 

 

 

‐ナンバー5、意識強制暗転

 カット。

 フィードバックされた痛みに頭を抑えて、溜め息を吐き出す。

 自身の分身をスカリエッティに頼み、なんとか思考の共有をして動かしていたけれど、なぜすずかにはバレたのか。

 

‐前から演技は見破られてたからなぁ

‐仕方ない事だ

‐……

‐まぁ、落ち着けよ少年

 そうさ。まだ慌てるような時間じゃない。荒れるような心はまだ持ち合わさなくていい。それこそ焦る事もない。

 

「さてさて。不思議の国、注文の多い料理店、あぁ、はやてに火をつければカチカチ山も出来たなぁ……。いやはや、やりたい事はあれど、殺りたい事もない」

 

 けれど、満足はしている。

 ヴィヴィオを餌にしたのは悪いと思っているが、聖王を助力する為に地位を確立しておいたほうがいい。ソレにスカリエッティという頭脳があれば、ある程度の事件の補助に使えるはずだ。

 あの人間は自分の欲求に素直だ。玩具(発想)を与えれば際限なく遊べるほどに。それに、彼は意外に家族想いだ。それは少年であった時の自分が告げている。

 

‐…………博士

 あぁ、助けるさ。俺達の大切な親だからな。

‐…………ありがとう

 それだけを告げて、俺の奥の方へと潜った少年。そんな少年に苦笑してしまう。

 改めて、自分には力があまりない事を理解する。今だって、狂い帽子屋だけしか思考がいってない。他は全て隠した潰れている。

 その帽子屋も今しがた来た英雄と高町さんを確認して、スカリエッティの言伝して、その場から消えた。

 

「さてさて、サイゴだ」

 

 ケーブルの絡まる腕を上げて、通信を開く。どうやら変わっていなかったらしい彼へと繋いでみる。

 

「ハロー、友よ。お久しぶり、こんにちは、であってるのかね?」

『…………はぁ……』

 

 盛大に溜め息を吐いた画面の彼。黒い髪を短く切りそろえて、今や二児の親だった筈だ。そんな彼が俺を見て、思いっきり溜め息を吐きやがった。

 

「おいおい、旧友がこうして忙しい中通信を開いたんだから、もう少し何かあるだろ? ん?」

『奇遇だな、僕も今、とても忙しいんだ』

「なんだよ、つれないな……なら通信は切ろうか?」

『待て、切るんじゃない』

「愛しいならそう言ってくれ、ハラオウン提督殿」

『……君をぶちのめすのはその方舟から降ろしてからにしよう。何が目的だ』

「脚本家の道化が求める事はわかってるだろ?」

『…………はぁ。僕にも一枚噛めっていうのか?』

「いつかと一緒さ。俺が勝てば世界は終わる。オマエが勝てば管理局の再編の仕事が待っている」

 

 もちろん、俺がベットするのは俺の勝利。

 なんせ、勝った所で誰もいなくなるのだ。故に、俺は勝つことが出来ない。

 その事を知っていたのか、それとも俺がベットしたからか、クロノは苦虫を噛み潰したように眉間を寄せる。

 

『また自分を犠牲にするつもりか』

「俺の運は尽きてるんだよ。知ってるだろ? 『夜天の』の罪を償う時に終わったのさ」

『…………どうすればいい』

「簡単さ。英雄達が脱出したら方舟を上昇させ続ける。そこでアルカンシエルを撃てばいい」

『……道化はどうするつもりだ』

「そこで死ねばいいだろ」

『君は?』

「さてね。上手くいけば肉片でも残ってるんじゃね?」

『………………』

 

 長い沈黙がクロノを襲う。きっと頭の中で色々と対応策を考えているのだろう。

 けれど、無理だ。

 なんせ、俺は悪党である事を望んだのだ。諦めている人間を助ける事はない。助けれる事はない。誰かの為に自分を犠牲にするなど、道化か愚者か英雄しかしてはいけないことだ。

 

「お前は英雄じゃないさ……」

『…………友人を犠牲にするつもりはない』

「……計画は伝えたぞ」

『おい、待』

 

 強制的に通信を遮断して座りなおす。

‐まったく、イケメンめ

‐お前が引き金を引きことに意味はあるのさ

‐また辛い事を任せてしまう

 カット、カットカット。

 手に巻き付いたコードを一本だけ抜く。準備は出来た。

 

 息を吐き出す。

 思考は出来る。呼吸も十全。クロノと話している時は普段の顔を出来た。まだ取り繕える。

 抜け出していく魔力をヴィヴィオの魔力に近い状態に変換してどうにか方舟を動かす。どうやら魔力の総量はスカリエッティが上げてくれたらしい。

 額から流れる汗を拭う事が出来ない。

 体から力が抜けていく。

 けれど俺は魔力を流し続ける。

 誰の為に?

 

「…………さてね」

 

 俺は道化だ。道化は道化でしかない。道化で在り続けなくてはいけない。

 だからこそ、俺は目の前の壁を壊した人間を笑顔で歓迎しなくてはいけない。

 

「こんにちは、すずか。随分ボロボロじゃないか」

「こんにちは、ゆぅ君。随分コードが伸びてるね。タコ足配線にも程があるよ」

 

 銃身の折れたライフルを捨てた彼女は俺にゆっくりと近づいた。

 頬に伸びた手を、俺は抑える事も出来ない。

 

「やっと、やっと会えた」

「……俺は会いたくなかったよ」

「逃げられなくなるからでしょ?」

「逃げてほしかったからさ」

 

 方舟を揺らす衝撃が起こり、アラートが鳴り響く。

‐核の破壊確認

‐はやて、フェイトの転移完了

‐高町さん、英雄、ナンバーズ、スカリエッティの脱出確認

 どうやら上手くいってるらしい。

 あとは目の前の彼女をどうにかして、アルカンシエルで終わりだ。

 

「……どうなるの?」

「アルカンシエルはわかるよな」

「……そっか」

 

 彼女との会話は随分早く終わった。

 それこそ、子供の時のままなのだ。察しのいい彼女は俺の言葉を理解してくれる。

 俺の座る椅子の肘掛を背凭れにして座ったすずか。俺の手をしっかりと握って、微笑む。

 

「ねぇ、ゆぅ君」

「ん?」

「私、綺麗になった?」

「……あぁ、綺麗だ」

「誰に渡したくない?」

「……誰かの物になるのか?」

「化け物のモノになるよ」

「それは愉快な冗談だ」

 

 やはり彼女はしっかりと俺の手を握って微笑んでいる。

 上昇が止まることはない。きっと、そろそろアルカンシエルの収束が終わる頃だろう。

 

「……ねぇ、ゆぅ君」

「……どうした、すずか」

「次は二人だから、寂しくないよ」

「…………そうか、そうだな」

「そうだよ」

 

 すずかが俺を抱きしめる。

 唇が当たり、首をしっかりと拘束して、俺を逃がさない様にしている。

 数分、いや正確には数秒程して唇が離される。

 顔を真っ赤にしたすずかが見えて、潤んだ瞳が細められて、笑顔に変わる。

 俺は咄嗟に上を向いてしまう。どうしようもなく、口が開いてしまう。

 

「なぁ、すずか」

「どうしたの? ゆぅ君」

「……月が綺麗ですね」

「……はい」

 

 当然、方舟の中から月が見える事はない。

 けれども、俺達の中ではそんな事はどうでもいいのだ。月が見えても、見えなくても。それこそ、どうだっていい。

 なんせ、俺はどうしようもなく、不器用なのだから、きっとこの言葉の方がよかったのだろう。

 

 

 

 

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