あぁ神様、RING   作:猫毛布

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知っている事、知らない人

「あ、すいませッ」

「……」

 

 ぶつかって当然の様に少年である体格のユウと大人に成長したすずかではユウがこける結果となる。

 こけた結果、深くかぶっていたフードがめくれ、ユウの顔がすずかの視界に入る。その顔は、当たり前の事ながら、素体となった彼の容姿に酷似していた。

 その事を頭で否定しながらも、言葉を詰まらせてしまうすずか。彼女の頭の中では、もしかして、そして違うと、二つの言葉が連鎖を起こしている。

 

 対して、見事なまでにすずかから意図されず『おっぱいアタック』をお見舞いされた彼はその柔らかさに感涙してる訳でもなく、ただ呆然とした様に見える。

 そんな彼の頭の中では、顔を見られた事、その相手が管理局であること、顔を見られてはいけないという博士の教えを破った事、そして目の前の女性をどう駆除するか、その事だけが頭の中に反芻している。

 

 対象は目の前だ

 ならばどうすればいい?

 腰にあるナイフを掴め

 接近の危険性を判断

 危険性はなし

 踏み込み動作と相手の動きを予測

 

 そんな事が、まるで複数の思考があるように、湧いては消えて、そしてまた湧く。 彼はそれに思考に従い、腰に手を置く。

 

「ごめんね、大丈夫かな?」

「……」

 

 そんな彼に優しく声を掛けたのは、未だに頭の中に疑問と否定が木霊しているすずかだ。

 声を掛けたのは頭の中にある疑問からの行動でもなく、否定からの行動でもなく、確認の為の行動でもない。自分が倒した子供に手を差し伸べる事に理由は必要か?それこそ、ここまで執拗な文字を並べるまでもない。

 少しだけぎこちない、とでも言えばいいのか、それとも少し自分でも困った様に笑顔を作る彼女を見て、彼の腰の手が止まる。

 

 やめろ

 落ち着け

 

 そんな思考が湧いて、消えた。

 目の前の彼女を殺す事を、自分が否定する。想像をすることを否定される。誰に?他成らぬ自分に。

 ともあれ、両者困った様に手を握り、少年がすくりと立つ。

 

「えっと、ご家族の方の面会とかかな?」

「……そう」

「そっかぁ…」

 

 当たり障りもない会話。しかしどことなくぎこちない会話。

 すずかだけが、この違和感の正体を知っていて、ソレも自分が関与する事であり、思わず苦笑する。

 やはり、彼を想い続けている様だ。

 そんな事を思って、更に笑みを深くする。忘れたとは思っていない。思っていないからこそ、何も関係ない、彼に似ているだけの子供を見て、彼を思い出してしまった。

 当然、ユウは夕であるのだけど。そんな事実、彼女は知りえない。

 

「お姉さんは……どうしてココに?」

「んー。お姉さんはココでお仕事をしてるんだ」

「お仕事……」

「うん」

 

 さて、ココで彼が彼女と話している理由は、先ほど彼が感じた否定の言葉に従っているワケでもなく、二番目の姉がここで情報の収集及び操作。少しでもその助けになるだろう、とそんな思惑が彼が彼女といる理由になる。

 当然、それは管理局に捕まる可能性、というリスクの面でみればかなり高くなる。高くなるのだけれど、色々と犯罪を犯している彼だが、顔はまだバレていない。バレたとしても、自身が死ぬか逃げるかすれば、それでいい。そんな利害思考が彼を動かした。

 

「私のお仕事は……うーん、悪い人を捕まえる事なのかな?」

「なのかな?」

「なのです。ふふふ」

 

 一人でクスクス笑う彼女を理解出来ない彼。しかし、それでも、彼と彼女は出会ってしまった。そして一緒にいるのだ。

 

「じゃぁ、私は用事があるんだけど」

「……ん」

「うーん、そうだ。何か困った事があるならココに電話して」

「…?」

「私の番号なんだ。いつでも電話していいよ」

「ありが……とう?」

「ふふふ、どういたしまして。私、月村すずか。あなたのお名前は?」

「……ユウ」

「……そっか」

 

 そうして、彼と彼女はそこで、別れてしまう。

 彼女の頭の中に多数の疑問を植え付けて。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

「あぁ、おかえり。随分とおそかったじゃないか」

「……そう?」

「誰かに襲われたとかかい?」

「……なんでもなかった」

「そうか、ならいいさ」

 

 博士は高笑いをし、彼は一人、ポケットの中に入れていたメモ用紙を誰かに伝える事は無く、ソレを自身で疑問にしていた。

 

 

 

 

◆◆

 

「死んだ人が、そのまま蘇る事ってあるのかな?」

「どうしたの?急に」

「ちょっと、ね」

 

 ライフルをいじっていた親友、アリシアについ聞いてしまう。それは、先ほど会ったあの少年を思い出しての言葉であった。

 マグカップを両手で大事に包み込んで椅子に少し凭れたすずかは、やはり彼の事が引っ掛ていた。

 そんなすずかを訝しげに見て、アリシアは少しだけ戸惑いながら口を開く。

 

「彼の話?」

「そうじゃないんだけど…」

「そうじゃないなら、そんな顔しないでよ」

「…どんな顔だった」

「ココに鏡は無いわ」

「言葉に出来ない程酷かったんだ…」

 

 溜め息を吐いて、ムニムニと顔を触るすずかに、やはり溜め息を吐いて言葉を続けるアリシア。

 

「そうね……あんまり声を大きくして言えないけれど、可能性としては大いにあるわ」

「……そうなんだ」

 

 その一言ですずかは法に触れる事を理解する。理解した上で、ライフルをイジっていた友人に更に先を促す。

 

「なんだっけ…えっと、向こう(地球)でも色々と言われてたけど…黒?違う、アー、アーロン?」

「留守の子供が泥棒でも退治するの?」

「それはアローンでしょ。違う、なんだっけな、『1/4πε(0)』?」

「クーロン定数だね」

「思い出したクローンだ」

 

 本当に覚えてなかったようで、彼女は一人ウキウキしながら手を合わせて喜ぶ。

 そんな彼女に自身の妹がソレに近いだろう、などとは言ってはいけない。

 

「倫理的にダメなんだ」

「まぁそうだね。後は…うーん、完全に同一体を作るならソレはまた別になるんだけど」

「別?」

「死体を蘇生させるの。私みたいに」

「……」

 

 自身を指差すアリシアは、まるでその事を誇る様にニンマリと笑う。すずかには理解出来ない感情だけれど、それでもアリシアは笑う。

 

「ソレも結構問題があってね。こっちは技術…というか設備と薬品関係、あとは材料の問題かな」

「そう…だよね」

「彼の死体はちゃんとあの場所に埋めたし……それに静かに眠れないと彼が怒るでしょ?」

「寝起きは悪かったからね」

「眉間に思いっきりシワを寄せて静かに荒れるタイプだったけどね」

「ふふふ」

「くふふ」

 

 二人して少しだけ笑う。

 もう既に過去と言って言いほどに年月は経ったが、鮮明に思い出せる彼の事。

 思わず苦笑してしまう程に彼を懐かしむ事が出来る。

 

「で、どうしてこんな話を?」

「…ココに来た時に、ゆぅ君に似た子を見たんだ」

「……ユウちゃんに?」

「うん…見間違い…だと想いたいかな」

「……ふむ、何時か、何処かわかる?」

「えっと……」

 

 すずかは腕に着けていた安っぽい、まるで屋台の景品のような時計を見て先ほどの少年とぶつかった時間を伝える。

 

「場所は…まぁいいや。入口から行動全部出すよ」

「お願い」

「ふふーふ。お願いされちゃったよ」

 

 またウキウキとして彼女はキーボードを叩く。ディスプレイに出されたのは入口付近にいたすずか。

 そのまま、時間は進み、おそらく少年とぶつかったであろう場所にカメラは変わる。

 平然と歩くすずかに黒いフードの子供がぶつかり、彼のフードがめくれる。捲れた事は確認できた、できたのだが…。

 

「……管理局ェ…」

「ちょうど死角になってるね」

 

 画面の端に少年が映り、その顔を確認することは出来ない。出来るのはブカブカの黒いパーカーを着ている事と少し底の厚い靴を履いている事ぐらいだ。

 コレが女の子でスカートなら、きっとスカートの中身が確認できたであろう小さなM字で尻餅をついた少年が確認出来る程度だ。本当に、残念すぎる。

 

「うーん、ちょっとカメラを戻して彼を追ってみようか」

 

 そう言ってまたカチャカチャとキーボードをイジってアリシアはカメラを切り替える。

 二つ程切り替えて、舌打ち。そしてディスプレイに映る小さな画面達。

 

「え?どうしたの?」

「……うーん、コレはマズイかも」

「……あ、」

 

 画面を数秒ほど確認してすずかも声を漏らす。

 自身の映る場所から、ぶつかる数十秒程前の時間になる。当然の事ながら少年の時間も数十秒巻き戻り、ぶつかる前の位置にいる筈なのだ。そして、当然の事ながら、ソコの映像に彼が映っていなければならない。

 ならない、のだけれど。

 黒い影は一切無いのだ。

 

 アリシアは、時間を進め、そしてすずかにぶつかる影をもう一度確認した。

 

「まるで影法師ね」

 

 そのカメラにだけしか映らない少年。

 すずかと共にしか映らない少年。

 

「……映像をいじられた痕跡とかは?」

「一切なし。というか、すずかとぶつかってるこの映像に加工の痕跡が残ってるぐらいかな」

「……どう思う?」

「他者の考えだったら、すずかの妄言に私が付き合ってる感じかな」

「本音は?」

「この少年が認識阻害を掛け続けて、すずかとぶつかったカメラに何かをした」

「……うーん、私がもっと本局に信頼とかされてたら真に受けられるんだけどなぁ」

「嫌われてるからねぇ」

「ふふふ、アリシアちゃんもね」

「私は嫌ってるもの。理論も渡したのに自分で作れないクズを好きになる理由は無いわ」

「私は、元々意識してないから」

「その冷たい態度で折れない姿から、一部の局員には人気なんだけどね」

「そうなんだ……まったく意識してないからわかんなかった」

 

 そんな言葉に苦笑するアリシア。

 確かに彼女の戦い方は完全に独りで戦う為のモノだ。というか、すずか自身が独りで居る事が多い。

 誰にも頼らずに、誰にも近寄らせず、誰にも触れさせずに、全てを駆逐していく。

 白衣にライフルを担いで、硝煙を揺らして戦場を独りで歩く彼女。

 まぁ、普段の性格は非常に当たり障りがなく、いい性格なのだけれど。ふと戦場に放り込まれた、というか自身から行っている時は、イイ性格に変わる。

 いや、言葉使いはいつもの様に丁寧なのだけれど、トゲがあるというか、トゲそのものというか、丁寧語でなじられる訳だ。「邪魔です、どいてください。もしくは地べたに這いつくばってください」などと平然と上司に言う程度に、彼女は性格に裏表のない素直なジョセイデス。

 

「踏まれたいとか、蔑まれたいとか、ぶち込まれたいとか」

「聞かなきゃよかった」

「言わなきゃよかった」

 

 そしてまた二人でクスクスと笑い出す。こういう事をしてるからアリシアの研究室は『魔女の部屋』とか言われたり、一部のファンが熱狂することを彼女達は知らない。知らない筈。いや、アリシアは知っててやってる。

 すずかは……うん、語らない方がいい。なんというか作者の寿命的に。そして、この文の尺的に。

 

 

 

 

 

 

 

 

****************************

 

『ユウ、聞こえるかしら?』

「……クアットロ、聞こえる」

『ルゥお嬢様が少し危険だそうよ』

「……セインは?」

『あの子にも伝えたわ』

 

 少年は少しだけ上を見上げる。

 ビルの隙間、そこから見える憎々しい程の青い空。そしてソコにポツリと飛行する輸送ヘリ。

 あの中では今、聖王となるべき子供がいる。そしてその状況も、かなり離れている筈のクアットロの状況も、そして今しがた意識を向けたルーテシア・アルピーノの状況も彼の頭の中に入っている。

 

「…状況、把握。陽動?」

『理解が早くて助かるわ、お願いね』

「……わかった」

『あと、今日のご飯は焼き魚がいいわ』

「……極めて、了解」

 

 ブツリと通信が切れて、彼は息を吐き出す。

 そして、もう一度深く吸って、おそらく博士がつけたであろう多重思考を回転させる。

 

 この位置をバラす訳にはいかない

 ならば他方で多方に魔法を展開すればいい

 さぁ機械よ、魔力の蓄えは十分か?

 オーライ、もちろんさ

 機会を逃す事もない

 さぁ、戦争を始めよう

 小さな自身が演じる、小さな戦争だ

 

「ケヒッ」

 

 少年は嗤う。まるで先ほどまでの無表情を思わせない程に口角を歪めて、喉から声を出す。

 フワリと両手を広げて、まるで指揮者の様に雄大に構える。

 

 少年の位置からは、いや、今この廃墟に居る誰にも見えない、誰も確認出来ない位置に展開されていく魔法陣。朱く、朱い光を煌々と主張して、ソレは発動する。

 彼がここに至るまでの道のりで点々と設置した、種。それが、彼の指揮により、芽吹いた。

 

 

 

◆◆

 

 

『コチラロングアーチ!!多数の魔力反応あり!!数…えッ!?』

「どうした!?」

『数…20です……それも、同じ反応が…』

 

 ルーテシアを捕縛していた人間達が驚く。

 この状況での増援、それも多数。

 

 魔力反応があったとされる場所の方角を見れば、ソコに浮かぶ朱い珠。

 遠く離れていてもわかる程に煌々と輝くソレ。

 そんな、状況下、ヴィータだけは違う反応をした。いや、息を飲み込むという事に関しては部下達と同じであった。しかし、違う。

 

「そんな……」

 

 ギシリと歯を強く噛んで自身の思考を否定する。

 ありえない。アイツが生きている事は、ありえない。ありえるのなら、何故今になって?どうして今更?

 

 ルーテシアに掴みかかった手が震える。

 そして、この場所にいない彼が腕を振るう。それに同調して、全ての魔力弾が彼女達に向かう。

 魔法陣の数は20。その一つから出された魔力弾は四つ。100の朱色が、彼女達に迫る。

 

「ッ、スバル!!ギンガ!!シールドを!!」

「ハイッ」

 

 咄嗟に出た指示に迅速に対応出来たのは日頃の訓練の賜物だろう。そして、咄嗟に指示を出せたヴィータは思考を巡らせる。自身が最悪だと思う思考を。

 もしも、彼がこの攻撃をしたならば?

 

『…セイン、レリックとルーテシアを』

『りょうかーい』

 

 全員が外側を向き防御壁をしている中、まるで中心にいたルーテシアを守る様に展開された防御を地面から抜けて、セインが悠々と姿を現し、ルーテシアを攫う。

 逃走を確認した後、少年は腕を下ろす。

 

『反応……消えました……』

「……チクショー…」

 

 陽動だと気付いた時には遅く、しかし誰かが欠ければあの魔力弾の壁を防ぐことは不可能だった。そんないやらしい攻撃方法だとヴィータは理解した。そして、ソレをやってのける、微妙な力加減をわかっている人物を脳内に浮かべたが、即座に否定した。

 彼は、死んでいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところがどっこい。全てを忘れて生き返ってた少年は自身の手を見ながら疑問に思う。

 確かに全力、それはもう、管理局に人間を殺す勢いで撃ち続けた筈だ。筈なのに、何故か死ななかった。

 

 当然、特務六課の人間達が防御することも含め、そしてその防御硬度を解析して尚、倒す事は出来なかった。

 計算ミスか?と一人首を傾げたが、展開していた魔法陣を解析しても出力が上がっていない。

 つまり、計算ミスではなく、出力が上げれなかった。何故か?少年は思考の渦に巻き込まれる。

 博士が付与したと考えてる多重思考で、彼は考えた。考えた末に答えは出なかった。

 

 そして、更に深く思考をしようとした所で、空間解析に使っていた思考がアラートを鳴らす。

 高速で接近している反応アリ、と。

 

 そして、輸送ヘリと砲撃の間に滑り込むように入り込んだ事も確認できた。

 

「クアットロ」

『は~い、どうしたのかしら』

「……墜ちてない、逃げよう」

『え?』

 

 更に、思考がアラートを鳴らし、彼は地を蹴り上空へ向かう。

 

 既に種はなくなった

 どうするべきだ?

 クアットロ達が危険

 移動して間に合うだろうか?

 間に合わせる

 

 そんな思考達に従う様に、彼は自身で作った魔力弾に足を付けて、蹴り加速する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「離れた?」

「どうして?」

「クアットロ、危険」

「ユウ!?」

 

 二人の元にロケット弾よろしく着地したのは、黒いフードの少年。少しの土埃に隠れて彼はフードを被り直す。

 そして、チラリと上を見上げる。

 そこにいるのは、三角の白い魔法陣を展開し、黒い塊を製精している人間。白く短い髪と赤い瞳を地面に向けて杖を掲げる。

 

「広域空間攻撃?」

「……」

 

 ユウは何故かソレを見て、少しだけ嗤う。

 彼のどこかが反応してしまったのだろう。そんな事、今ここに居る誰もが分からないことだけれど。

 

「やばい、逃げないと」

「無理よ、アレだけの広域魔法…確実に逃げるのは、無理」

「……大丈夫」

 

 ユウは手を空に向ける。

 何もない、左手を、空に、黒い塊に、向ける。

 

「アレは……識ってるから」

「ユウ…?」

 

 まるでソレは誰かの様に。

 そして少年自身、何故ソレを知っているか分からない。しかし、識っているのだ。確実に。

 

 術式解析

 否定式確立

 変換式確立

 吸収魔法壁、行使

 

 黒い波動が当たる直前、彼らの周りは、朱く染まった。

 

 

 

 

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