あぁ神様、RING   作:猫毛布

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銃底の正しい使い方

「た、助かった…」

「……クアットロ、ディエチ。逃げて」

「ユウも一緒に」

「……僕が補助する」

「ディエチちゃん、行くわよ」

「姉さん!?」

「……合図する」

 

 少年は息をゆっくりと吐いて意識を集中させる。

 ソレは彼にとって一つの儀式みたいなものだった。少年がただ、思考に従う為の、頭の中にいる、誰かになる為の。

 

 空間解析情報を密に

 “敵”を確認

 解析

 ベルカ式一人

 ミッド式二人

 高速型、砲台型、広域型区分

 

 少年の瞳が、黒から彼の魔力と同じ朱色へと変わっていく。

 彼の魔力と一緒とは思えない、透き通ってないな、濁った朱色へと。

 

「ユウ……?」

 

 思わず声を出してしまったのは姉であり、数字の十を冠する姉。

 しかし、そんな姉の声も今の彼には届かない。届くはずがない。今の彼は彼であって彼ではない。

 少しだけ伸ばしたディエチの腕を掴むクアットロ。振り向かれてから、少しだけ首を振る。

 

 こうして、少年は、一時的ながら、生前……いや、素体となった彼の様に、また大切な何かを守る為に人であることを捨てる。ソレも、容易く、捨てた。

 

 

 クアットロとディエチはシルバーカーテンを使い、消える。

 

「ロングアーチ!!」

 

 空に居た白髪の魔導士、八神はやては部下に指示を飛ばす。

 当然の事ながら、敵である少年からは目を離さない。

 黒いフードの奥から覗く濁った朱色の瞳。彼と同じ魔力光の少年から目を離せない。

 

「……君が、あの魔力弾を出したんやね」

「……」

「無言か。まぁええわ……。市街地での危険魔法使用により逮捕します」

 

 杖を少年に向けて、そう言い放つ。もちろんの事ながら、はやての後ろでは既に砲撃の準備を終えている高町なのはが居て、高速で動く事が出来るフェイト・テスタロッサもいる。

 普通の頭脳を持つ犯罪者なら、この時点で意味の無い抵抗はやめて投降している筈だ。投降しない者は、何か秘策のある者、もしくは頭の足りない者……そして、狂ってしまった者である。

 ユウは、残念な事に自分で最後の人間になる事を選んだのだ。

 

「……捕まえてみろ、クソどもめ」

「…はぁ、抵抗の意思確認。バインドの行使」

 

 白い帯が黒いパーカーに巻き付き、彼の動きを止める。止めた筈だ。

 

「さて、逃げたお二人さんを探そか」

「ケヒッ」

「はやてっ!!」

 

 白い帯が変色する。それこそ、彼を縛っている筈の部分から、白から、桃色に、そして、赤に、朱に変わる。

 ハラリと、まるで布が落ちるように彼を縛る力が消えたバインド。

 

『クアットロ』

 

 そう念話をしたと同時に彼の下に落ちていた朱い帯たちが空に向かう。

 同時に消えていた二人が消えた事をユウが確認した。そして、一回だけ踵を打ち鳴らす。

 コツリと音が小さく響き、彼の足元に巨大な魔法陣が展開される。

 

 デコイ展開

 かく乱用方陣展開

 三人の意識をこちらに向ける

 

 少年の思考は回転する。

 

「リインフォース」

『…主、』

「わかってる…わかってるからこそ、聞いたんや」

 

 はやては自身の半身とも言える存在に声を掛ける。杖を横になぞり、帯を消す。

 半身の答えは応。それは、つまり、少年が彼であるという事。なぜかは分からない。しかし、しかしだ。それでも戦わなくてはいけない。

 当然、目的は捕縛なのだけれど、目の前の存在がソレを容易く許すとは思えない。

 

「……なんでやろうね…」

「はやて、」

「はやてちゃん…」

「……ふぅ、抵抗を確認。これより武力行使による捕縛を試みる」

 

 まるで定型文の様にそう言って、はやてはもう一度杖を彼に向けた。

 自身の中で、必死に否定して。否定して、肯定して、そして否定した。

 

 杖を向けられた彼は遠くに離れた姉を確認してから、腰から一本のナイフを取り出す。

 何の変哲もないナイフ。鈍い銀色と黒いグリップのナイフを軽く握り、身体をひねる。引き絞った体、小さな体躯を更に小さくなる。

 ギチギチと筋肉が引き伸ばされ、戻ろうと力が加わる。それでも少年はソレを無視して極限まで捻る。

 

 そして、ソレを解放した。

 

「ッ!?」

 

 はやての視界が鈍色に光る。

 自分の意思とは関係なく動いた体は杖を動かして、迫る鈍色を弾いた。

 

『主!!』

「え?」

 

 一瞬の出来事だった。

 それこそ、銀色の閃光が彼女の視界を埋めて、すぐの出来事。

 弾いた鈍色、そして視界に映ったのは黒。そして二つの朱色。

 

 油断していた、と言えばそうではない。

 それこそ、自身に油断などなかった。ただ、意識が逸れたのだ、彼から、鈍色に逸れた。その一瞬だけだ。

 しかし、彼女を襲うのは横からの衝撃。

 咄嗟に防御してくれた半身に感謝しながらも、指示を飛ばす。

 

「なのはちゃん!!」

「おっけぃ!!」

 

 ちょうど射線上に少年が居る。

 当然のことながらはやては彼を墜とす為に指示を出した。しかし、思考の中でソレを否定される。

 また彼を落とすのか?と、何かが囁く。囁いて、それがまた思考で塗りつぶされる。彼ならばこの程度で落ちる訳が無い。

 墜ちる訳が、

 

「ッ!?」

 

 直感と言っていい何かが彼女の頭をよぎる。 

 そして桜色の奔流に塗りつぶされた少年。普通ならば、墜ちている、墜ちている筈なのだ。

 しかし、何かを感じとったはやては叫ぶ。叫んで、友達に危機を知らせる。

 

「なのはちゃん!!逃げて!!」

「え?」

「……墜ちろ」

 

 桜色の奔流を遡る様に、少年は現れ、右手に握るナイフを白い魔導士に突き立てる。

 高速で動けるフェイトもなのはの砲撃の余波に当たらない為に少し引いている状態。故に助ける事は出来ない。

 

 

 

「ったく、あぶねぇな」

 

 鈍色を防いだのは、綺麗な銀色の刀身。

 その先を辿れば、柄を握る男の姿。長くなった銀色の髪を後ろで一つ括りにした、整った顔。異色瞳である、管理局の英雄。

 

「ライト君!!」

「なんとか間に合ったな……」

「……チッ」

 

 少年は舌打ちをして銀色の刀身を足場に後ろへ宙返りして距離を保つ。

 彼の足元には朱い魔力弾が光り、彼はソコに足を乗せて立つ。

 

「……靴に鉄板あり、か」

「ライト君…」

「安心しろ、お前らはオレが守るさ……」

「…英雄……ライト・スメラギ」

「なんだ、オレの事を知っていたのか。出来ることなら、その名前に免じて捕まって欲しいがな」

「……残念」

「そうかい!!」

 

 ライトが加速する。

 鋭い刀身が少年に迫り、ソレを少年がナイフで応戦する。

 鉄同士がぶつかり合う音が響く。一度、二度、三度。

 

 危険だ

 

 そう、少年の思考が告げる。

 少年はソレに従い四度目の攻撃をスルリと受け流して、地面に向かって跳躍する。

 地面に両手から着き、肘を曲げる。そのまま前に転がる事により衝撃を和らげた。

 

 スっと立ち上がった彼は右手のナイフを見て、捨てた。

 刀身の折れたナイフがカランと音を立てて地面に捨てられる。

 

「なんだ、惜しかったな」

 

 銀色を肩で担いで、英雄も地面に着地した。そして、彼の後方の中空に歪みが発生する。

 それは、剣であり、斧であり、槍であり、杖であり、そして武器であった。

 数多もの武器が少年に狙いを定めて、滞空する。

 

「もう一度警告する。大人しく、捕まれ」

「……」

 

 少年は思考する。アレを回避できるのかと。

 答えは否だ。あれほどの量の武器を回避する事は不可能だ。

 

 ならば、封じてしまえばいい

 

 少年の意図とは別に、口が開く。

 

「友を殺した英雄は、また殺すのか?」

「ッ!?」

 

 ライトは息を飲み込んだ。当然である。

 あの事件は公的な書類はあるが、そこに化物と英雄が友人関係であることなど一切書かれていない。

 しかし、少年は知っていた。何故?

 一つの可能性がライトの思考を支配して、動きを鈍らせる。

 鈍った動きが滞空していた武器達にも伝わり、そしてソレが少年に知れる。

 

「……」

「クソっ」

 

 少年が迫る事を確認したライト。いま剣軍を射出しても、まだ間に合う。しかし、ソレをすることを彼自身が否定した。

 否定した結果、彼は持っていた銀色で少年と相対する。

 

「お前!!どうしてソレを知ってる!!」

「……」

 

 少年は答えない。いや、応える事は出来る。しかし、答えではない。それこそ、彼は知らないのだ。自身の素体となった化け物の事を。

 そして、その化け物の何かが自分に口を開かせた事も。

 

 イラつきを隠せないライトは新しいナイフを握った少年と鍔迫り合いを繰り広げる。ガチャガチャと鍔同士がぶつかり、顔が接近する。

 接近して、朱い双眸、そして少年の顔を確認してしまったのだ。

 

「ッ…ユウ……!!」

 

 英雄は故人である友人の名を呟く。故人でありながら、目の前にいる彼の名を、その口から出した。

 

「どうして、お前が!!」

「……」

 

 少年は答えない。答えなどないのだから。

 ユウが視線を落とさずに足を動かす。

 ジャリ、っと音が鳴り、ライトは自身の足が踏まれそうな事に気がついた。気がついて、片足を浮かせ、回避。

 しかし、少年の意図はそこではない。意識を逸らす事に意味がある。

 少年は両手で握ったナイフを片手で握り、一つの手をライトの手に向ける。ライトの意識は足に向かっている。

 そしてライトの人差し指と中指を力強く、握り潰す。

 

「グッ…」

「……」

 

 少年は距離を取り、ニヤリと嗤う。

 嗤い、そして、頭を下げた。

 

 ガウンッ

 

 とまるで咆哮のような音が響き、淡い緋色の閃光が先ほど彼の頭が在った場所を通過する。

 カランッと何かが落ちる。残留魔力という淡い緋色の硝煙が銃口から空に霧散する。

 

「……また、会ったね」

「……」

 

 紫色の長い髪を束ねる事もなく、自然に垂らした白衣の女性。戦場には似つかわしくない格好で、戦場らしいライフルを片手に持つ。

 

「すずか、コイツは!!」

「大丈夫、知ってるよ」

 

 嘘である。彼女は知らなかった。正確には確定していなかった。しかし、今の一言で分かってしまった。

 わかってしまって、それでも、彼女は銃口を彼に向けなければいけなかった。

 

「大人しく、捕まってくれないかな?」

「……断る」

「そっか……フェイトちゃん」

 

 一言だけ、友人に向かって声を出す。

 その声に反応して、フェイトは彼にバインドを掛ける。

 バチバチと発光する金色のバインドに彼は縛られ、そしてソレも徐々に朱色の染まっていく。

 

 魔導ライフル解析

 出現する魔力弾の予想

 予測から否定式を算出

 回避可能

 

 そう頭の中で結論づけた彼は、ある意味油断していたのだろう。

 油断していたからこそ、彼女の行動はわからなかった。

 

 ブワリと白衣が捲れ、月村すずかが接近する。

 銃身を握り、振りかぶる。

 

「ちょっと、我慢してね?」

 

 そして、銃をまるで鈍器の如く振るった。振るって、彼の頭を直撃させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで時間が停止した様に、誰も動かない、動けない。少年に至ってはグワングワンと首がカクついている。

 そんな停止した時間のなか一人だけ、何かやりきった感を出す彼女は流れてもない汗を袖で拭い、息を吐く。

 

「目標沈黙。捕縛します」

 

 えええぇぇぇぇぇぇぇ…………

 

 まるで何もなかったかの様に喋りだしたすずかにそんな事を言える人間は誰もいなかった。

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