ミッドチルダ時空管理局古代遺物管理部機動六課。六課自体が急造の部隊であり、その目的は古代遺物、つまりロストロギアの回収が主になる。
当然の事ながら、回収目的の機動隊はあと五つ程あるのだけれど、フットワークの軽い、いつでも動けるような部隊はこの六課だけである。
さて、そんな前提で話は進めるのだが。急造部隊、それも回収目的である機動六課に敵を監禁するスペースは設けられているのか?答えは否だ。
そもそも、この隊を創設した八神はやて自身、監禁という手はあまり取りたくはない、そんな人物である。
監禁するぐらいならバラしてゴミ箱に入れておく、そんな奇特な性格でも無いのだけれど。
ともあれ、ライフルの銃床で殴られた彼はそんな機動六課のとある一室で眠っていた。
眠っていた、と記したのだから、そろそろ起きてくれないと、筆者としても困るのだけれど。
「……―」
さて、彼が起きた所で話は進む。当然である。確かに彼の状態を語っててもいいのだけれど、話のネタというものが早々に尽きてしまい台本よろしくの文になってしまう。遊び心は常に必要である。
「……」
彼は暗い、と思考する。残念な事に今の部屋は太陽が昇り始め、徐々に光が差し込んでる訳だが、彼には暗いと判断された。
つまりだ、少年には目隠しがされている訳だ。何故か?彼を知る人物達が少年に必要のない情報を与えるのは不利と考えたからだ。
故に彼の今の格好は、両手を縛られ、目隠しと猿轡(布製)をされて、その首には首輪がはめれている。
首輪の形状なんて、当然どこにでもあるような首輪だ。真っ黒い色で、ジャラジャラと前から鎖が伸びて、ソレが腕の手錠に付いている。どこにでもある首輪だ。どこにでもない?きっとある。ある筈だ。例えこの首輪が何処かの金髪科学者が戯れで作った対魔導士用の首輪だったとしても、きっとどこにでもあるはずなんだ。ワンオフのモノだが。
ともかくとして、そんな対魔導士の首輪をはめられた彼は、そんな事を知らずにいつもの様に解析魔法を行使する。
「……ッ」
彼の首が少し痛んだ。
アリシア製の首輪は、徹底して魔力に反応する。もちろんのことだが、彼女ならば、相手に魔法を使わせないつもりならば対魔力の式を首輪に仕込んでいる筈なのだけれど、この首輪は違う。なんたって、対魔力ではなく、対魔導士用の首輪なのだ。
相手の魔力に反応して、熱魔法と雷魔法で相手の首を焼く。ソレがこの首輪だ。
当然の事だが、相手に魔法を使わせない為のモノである。精神を屈服させればいいじゃない、とはコレの製作者の一言である。ちなみにその一言を言った時の彼女は凄く恍惚としてました。血はしっかり受け継がれているようです。
魔法を使えば自身に痛みが走ると知った彼は、それでも魔法を行使する。
ジクジクと首が焼かれる。そうであっても、彼は何も感じずにただ、魔法を行使する。
どれほど空間解析の範囲を広げても、解析はこの部屋以外には及ばなかった。ソレもそのはずだ。この部屋こそが対魔法の一室なのだ。
急造部隊にそんな予算が?工事現場に狂い金髪科学者がいたのだ、仕方ないね。仕方ない。
解析魔法を打ち切り、彼は溜め息を吐いた。
どうしようもない空間の中、彼は立ち上がり、扉だと判断した場所に向かう。幸いな事ながら彼の足は自由だ。
扉の前に立ち、何度かその場でステップを踏む。
タタン、タタン。
左脚を軸に立ち、極限まで収めた右足を扉に向けて解放する。
ガンッ、と金属音が部屋に響く。彼の裸足の右足が少し痛む。しかし、扉は微動だにしない。が、そんな事は関係ない。
ガンッ、ガンッ、ガンッ。
彼は何度も扉を蹴り続ける。何度も、何度も、何度も。
少し、彼は休む。扉の前からは動かずに。
グチュリ、と床を踏んだ時に嫌な感触がしたが、彼は意に介さない。
一つだけ息を吐いて、身体を前のめりにする。
「まったく、無駄な抵抗はやめろって」
扉が唐突に開く音が彼に聞こえた。同時に男の声も。
その声は、先の戦闘で聞いた銀髪の男の声だ。
皇 光。局員、そして一般人にでさえ、英雄と奉られる男がソコにいた。
そんな彼は倒れてくる少年を当然のように受け止め、溜め息を吐いた。
抱きとめられた少年は、勢いよく右足を上げた。
さて、身長的に…というよりも体制的に凭れている人間が膝を上げればどうなるか。それはもう、男であるならば、言い難い、なんというか、鋭くて、鈍い、もう言葉に出来ないが、ともかく、痛い。
そんな一撃を喰らってしまった英雄を責める術は私は持ち合わせていない、いや、むしろ呻き声一つ上げなかった彼を褒めてやりたい。
そんな事はどうでもいいのだが、ともかく、少年は容易く監禁部屋からの脱出を成功させた。
実際、英雄は彼を部屋から出すために来たのだが、そんな事、彼は知る由もない。
◆◆
捕獲された。
逃亡劇なんて書く事もなく、首輪についた信号をアリシアが追って、魔力で繋ぐことの出来る首輪と鎖ですずかが捕獲した。
なんというか、犬の逃走劇だってアレほど早く終結は迎えなかっただろう。
「どうして逃げたのかな?」
「……逃げない訳がない」
「そうだね。ソレが普通だった」
クスリと声が漏れたのは、先の戦いで少年をライフルの銃床で殴った、もはや少女とは言えない年齢の女性。
彼女の手にしっかり握られた鎖が、ジャラリと音を鳴らす。
その鎖が握られた時の話をするが、彼女の顔は一瞬だけ恍惚としていた筈だ。彼女に裏表はない。
「足まで怪我してる」
「こんなの怪我じゃない」
「うーん、ソレは普通じゃないよ」
それでも、やっぱり彼ならそんな事言っちゃうんだろうなぁ、と少しだけ上を向きながら想像する。
どこからどう見ても、少年は彼なのだ。
それでも、頭のどこかで否定される。否定されて、それも否定してしまう。顔には決して出さないが、頭を抱えて悶絶していてもおかしくはないだろう。
「……女の子は?」
「え?」
「あの場所に……女の子が居たはず」
「あぁ、いたね。無事だよ。今は……なのはちゃん達と一緒じゃないかな」
「……ん」
「あの女の子、いったい何なの?」
「……」
少年は答えない。当然である。みすみす情報を開示などしない。
まぁ、彼が捕縛され、女の子も一緒に保護された時点でメディカルチェックに通されている。主治医?湖の騎士様だが、その隣には白衣の金髪がムフフ、と笑っていたそうな。
つまる所、女の子が聖王のクローンだと言う事は既に知られている訳だ。もちろん情報はある程度の人間にしか伝わっていないのだけど。
そんな彼女達の前の扉が開く。
中から飛び出してきたのは、淡い金髪と涙目の異色目をした少女。聖王。
噂をすれば影、と咄嗟にすずかは呑気にも考えてしまった。
涙目の女の子はユウとすずかの方を向いて、トテトテと目を拭いながら近づく。
「ヴィヴィオちゃんぅ…」
「ふぇぇ」
「なのはちゃんまで…ハァ」
扉から出てきたのは、バスタオル姿で涙目のすずかの親友。エースオブエース、高町なのは。
その魅力的な肢体を白いバスタオルのみで隠した彼女に思わず溜め息を吐いてしまう親友。咄嗟の事ながら、指をパチンと弾いて天井に備え付けられたカメラを破壊したすずか。
弾いた硬貨の事なんかまるで無かったように、縋り付くヴィヴィオを軽く抱きとめて頭を撫でる。
「どうしたのかなぁ?」
「ふぇぇ、えぐっ」
「そっかそっか、うんうん」
全く意味がわからなかった。
すずかはチラリとなのはの方を向いて事情を説明するように求める。というか服を着て欲しいとちょっとだけ思った。
相変わらず無表情で、聖王を確認している彼に悪影響じゃないか。いっそバスタオルまで取ればいい。
「えっと、お風呂に入ろうとして…」
「ヴィヴィオちゃんも入れようとした、今に至る」
「えっと、ごめんなさい」
「謝らなくても大丈夫だよ、たぶん」
しょんぼりしている親友に苦笑して、彼女は撫でる手を止める。
そのまま満面の笑みで、ヴィヴィオを見てから口を開く。
「よし、ヴィヴィオちゃん!おっきいお風呂に行こう!」
「おっきい……おふろ…?」
「そう!今なら広くてキモチイイよ!」
「この時間なら…確かに、みんな仕事してるけど。御か…この子はどうするの?」
なのははすずかの隣にいた、拘束具アリアリの少年を見る。その少年は首をコテン、と傾げていた。
「もちろん、彼も入ってもらうよ?」
「……ちょっと待ってね、今何が起こってるかまとめるから…」
なのはは考えた。飛行魔法と自身で動かす魔力弾を同時使用する時の様に並列思考をもってして考えた。
考えた結果、親友にショタコンの気があるかもしれない懸念に気がついた。しかし、彼女はこの隊のショタ枠であるエリオには一切反応しなかった筈だ。
つまりだ、彼女はショタコンというより、
「ユウコン?」
「よし、そこにいるお姉さんと一緒にお風呂にゴー!」
「ごー!」
「そしてヴィヴィオちゃんも乗り気だし……」
泣くなよ。とどこからか英雄様の声が聞こえたような気がした。まぁどうでもイイ事だけど。
~ラスト
お風呂が書きたいが為にどうも変な動かし方になった。
後悔はしていない。