あぁ神様、RING   作:猫毛布

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なお作者も訓練の様子


戦闘訓練

「てりゃぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」

「……」

 

 その場でクルリと身体を横に回転させて迫る拳を回避するユウ。

 拳を突き出したスバルは動く事が出来ない。

 彼はそんな彼女に蹴りを放とうと、クルリと回った遠心力を使いながら足を動かす。

 

「スバルさん!!」

 

 そんな事はさせない、と言わんばかりに赤髪の少年、エリオ・モンデュアルは槍を構えて突撃する。

 背後から迫る槍戦士の事を一切見ずにユウは目の前にいる拳闘士の顔の横で蹴り足を止めて、肩に足を乗せる。肩を足場に、その場でブワリと縦に回転してみせたユウは肩に乗せられた足とは逆の脚を槍に着ける。

 更に槍を足場にして次は大きく空に跳ぶ。何度か勢いに任せてクルクルと回転した後、何事もなかったかの様に彼は地面に着地する。

 

「ッ、」

 

 エリオとスバルは戦慄する。

 拘束衣を着て尚、自分達を翻弄する存在が目の前にいるのだから。まるで言いようにあしらわれている。

 目の前の少年は無表情に自分達を見ている。それこそ、まるで値踏みするように。

 

 

 さて、こんな状態になったのには理由がある。

 言ってしまえば、気まぐれ、の一言に尽きるのだけど。

 それでも説明させてほしい。戦闘描写の練習がしたいのだ。そんな作者の思いは放置して。

 

 彼が戦える、という事は知っていたなのはとヴィータ。そしてすずかは計画的に彼を教え子に当てる事を決めていた。

 当然そこには、ユウという人形の戦闘力の測定、という建前と教え子達と彼を当てる事で全く違う種類の人間と戦う、という刺激を与えるという本音がある。

 尤も、色々と安全面で問題はあるのだけど、ソレもすずかが彼の鎖を自在に出すことができるので解消しているし、彼自身も拘束衣と対魔法の首輪を着用させられているのである程度の戦闘力は減っている筈だ。

 減っている筈なのだけど。

 

「ゆぅ君ってこんなに強かったの?」

「うーん…私は詳しくわからないかな……ヴィータちゃんは?」

「……始めてあいつと会った時に、アタシ達相手に奇襲して無傷でシャマルを人質にしたぐらいに強い」

「嘘だよね?」

「嘘だと思うか?」

「でも奇襲だったんでしょ?」

「あぁ……マトモに一対一ならアタシが勝てる…と思う」

「ありゃりゃ、ヴィータちゃんに珍しく弱気だね」

「仕方ねーだろ。アイツが暴走プログラムを攻撃した時のあの剣を見ると、どうもな」

 

 ヴィータの言葉に三人…といっても、すずかは遠目で見ていただけだが、遠目で尚、煌々と輝く巨大な剣が見えたのだ。

 大量に魔力を込められた、あの魔剣を。

 もしも彼が生きていれば、あんなモノもう作れないさ、疲れるし。なんて少しだけ不貞腐れながら言ってしまうのだけど、そんな事彼女らは知らない。

 

 

 そんな不貞腐れる筈の少年は、迫るスバルとエリオの攻撃を躱しながら着々と種を植えていく。

 種、と言っても植物の種ではなく、魔力の種である。脚から少しの魔力の塊を出して、陣をソコに置く。

 設置型、それも自己で発動させるモノを既に両手で数えれない程度に植えた。

 植えていて気付いたのは自身のしている首輪が種に反応しないという事。どうやら魔力の放出、というより術式に反応しているらしく、設置型の魔力の少ししか出ていないソレらに反応はしないらしい。

 

 随分な作りだ…

 

 そんな思考が彼を過る。

 尤も、彼の思考を否定してしまうのだけど、普通、というか今現在蔓延っている、ミッド式、及びベルカ式の魔導というのはその場で影響のあるモノである。

 故に首輪を制作したアリシアはソレだけに対応した式を首輪に内包した。ただ、それだけなのだ。

 設置型の魔導を止める事は非常に面倒なのだ。ソレに、放出式だけでいい筈の魔導に態々ややこしい且つ手間な設置式を組み込む人間がどれだけいるというのか。

 その設置式を得意とする人形が存在する可能性など…それこそ無きに等しいのだ。

 そんな無い存在である彼は、また種を植えていく。

 

「……」

 

 相変わらず猛攻を続けるスバルとエリオ。

 当たりそうで当たらない攻撃。しかも彼が少しずつ後ろに移動しているからか、彼女らは自分達が優勢であると思っている。

 当然、そう思うように彼が仕向けているのだけど。

 人間の意思というのは、自身を否定する事に鈍感だ。逆に肯定する時は徹底してしてしまう。

 今、自分たちは攻撃できている。

 今は優勢だ、攻め時だ。

 そんな事を思考してしまう。

 

 残念な事に、彼に攻撃を当てようとするならば彼の知覚外、それこそ行使している空間解析魔法の外に出て逃げれない程の範囲攻撃をするか、もしくは解析スピード以上の速度を出して彼を攻撃するか…或いは、解析魔法を止めてしまうか。

 もちろん、接近戦で圧倒出来るのならすればいい。脚しか使えない彼を圧倒することなど、ストライクアーツを修めているスバルならば容易いだろう。尤も、彼が戦う気であるならば、の話だ。

 今の彼は反撃の時を待っている、いわば戦う気のない状態である。九割を回避に向け、そして一割を種植えに意識を向けている。

 

 彼の探知できる範囲ギリギリに、一人状況を見ているオレンジ色の髪をした少女がいる。

 スバル達に遠隔で指示を出しているティアナ・ランスターである。キャロはこの戦闘に出てはいるが、完全に空気である。

 彼女自身も戦闘に参加、援護をすべきなのだけど、今は状況の理解に必死なのである。教官であるなのはに言わせればソレも同時にすべきだ、などと無茶な事を言われそうだけど正論なのである。

 自身の未熟さを噛み締めながら、ティアナは必死で思考する。

 それは人間の苦手とする否定の思考であり、今の状況が思っているよりも最悪かもしれない、と思う事。

 

 彼の知覚範囲は彼が測定したスバルの速度よりも自身の方が速く走れる範囲であり、誰にも追いつけない距離である。

 そのギリギリの範囲に彼女は居るのだ。

 

 尤も、ソレを知らないティアナはただ純粋に、スバル達と離れすぎた事が問題だと思っている。

 当然である。この訓練の前に上官であるヴィータから聞いていたのだ。

 先日自分達を襲った魔力弾の全てが彼によるモノだと。

 今の状況と、ソレを照らし合わせて、最悪の状況を頭の中に再生する。

 想像出来たのは、魔力弾による自身への一斉射撃。

 

 避ける事も、防御する事も不可能な絶対の一撃。

 確実に自分はリタイアすることになる、が少年自身も魔力弾を打っている時は止まっている筈である。

 故に、彼が行動したと同時にこの訓練は終わりを告げる。

 実戦ならば死ぬかもしれない。が、どうにか防ぐこともできるかもしれない。

 

 

 

 

 

 そんな自己犠牲の精神はそっちのけで、彼の思考へと向かう。

 ちょうど、ギリギリのライン。それこそエリオの初速でも捕らえられず、スバルの加速力をもってしても追いつかれないギリギリのラインで二人の攻撃を防ぐ彼。

 そんな彼の知覚領域ギリギリに立った少女が溜め息を吐いたことを彼は知覚した。

 ソレは好機で有り、同時に彼に危機感を覚えさせた。

 

 自分を犠牲にできる人間は成長すると、確実に大切な人に危害を及ぼす敵になる。

 つまり、成長する前に刈り取らなければいけない。

 

「うぉぉぉおおお!!」

「……ッ!!」

 

 突き出された槍の腹を蹴り飛ばし、二人の間を突き抜けるように彼は踏み込んだ。

 無駄というムダが省かれた、至高の一歩であり、ユウが夕で在った時に多用した直線では最速を誇る踏み込み。

 咄嗟の事で、スバル達は目の前からユウが消えたと判断し、そして自身達の間をすり抜ける存在を知覚したのは一拍ほど遅れた時だった。

 

「……咲け」

 

 たった一言。それは起動用に設定した一言。

 それだけを彼が呟き、彼の走った後から朱色の魔力弾が宙へと舞う。まるで、大きな綿毛の様に、スバル達を阻む。

 そんな綿毛に追いつかれない様に彼は走る。

 一番危険だと判断した、最も成長しそうな、今は小さい存在を消しに。

 

 

 数秒してユウはその場に着く。

 ティアナは予想できない行動に少しだけ止まり、そして新しく思考する。

 危険でもあり、そしてコレはチャンスでもある。

 スバル達の足止めに恐らく彼は魔法弾を全て使った筈だ。そして……

 と思考して、思考を止める。

 

 彼の濁った朱の瞳を見てしまったからだ。

 まるで全てを否定するように、まるで彼の魔力の塊の様な瞳を。

 

 そんな彼の脚が上がる。

 振り下ろされれば、恐らく自分がリタイア…いや、死ぬだろう。

 そう咄嗟に思考がよぎった彼女は、察しが良すぎたのだろう。自身が死ぬ、と理解した時人は純粋に二つに分かれる。

 諦める人間。そして、

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」

 

 彼女のように足掻く人間に。

 咄嗟に相棒を握って、銃口から刃を形成。ソレを彼に突き立てる為に、彼女は立ち上がり、彼へと一歩だけ進む。それだけの距離。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失敗、だったのかな?」

「いや、どちらかと言えば成功だったろ」

「そうかな……」

 

 なのはとヴィータはレストルームにて向かい合う形で溜め息を吐いていた。

 あの後、すずかとなのはの手によって二人の攻撃は止められて、どちらも怪我は負っていない。もっとも、ティアナの方はその後気絶してしまったのだけど。

 

「普段の教導では教えれない……事も無いが、アイツが敵だったからこそ、教えれる事もあるだろ」

「そうだよね……ここからが私達の仕事だもんね」

「なのはの仕事だけどな」

「えー、ヴィータちゃんも手伝ってよぉ」

「アタシにそう言う精神的な事を求めるんじゃねーよ。それこそティアナが再起不能になる」

 

 肩を竦めるヴィータに苦笑しながら、なのはは攻撃を止められた彼を思う。

 

「大丈夫……じゃなかったの?」

「……わからねぇ。正直、アイツがこんだけティアナに執着するとは思わなかった」

「…あの時から、動けてないのかな」

「動きたくても、動けねぇんだろ」

「……そっか。そう……だよね」

 

 少なからず、というか明らかに自身も原因の一部であるだろう恋人が英雄と呼ばれ始めるきっかけになった事件を思い出す。

 思い出して、落ち込む。

 

「はぁ……あの時の私って……」

「まぁ、落ち着けよ。私もはやてから聞いた話だけだけど……いや、言わないでおこう」

「ちょっと、はやてちゃんはなんて言ってたの!?凄く気になるの!!」

「お前の名誉の為だ。諦めろ」

「逆に名誉なんてなくちゃってるよ!!」

「なんだ、知ってたのか」

 

 更に落ち込みだしたなのはにヴィータは苦笑して。そして、溜め息を吐く。

 

「なのはの所為じゃねーよ……アレは、アイツが全部かってにしたことだ……ってアイツも言ってたんだろ?」

「……でも」

「でも、もテロもねーさ。それだけだ」

「うん……」

「ということで、ティアナの事は頼んだ、なのは隊長」

 

 その言葉を置き去りにヴィータはレストルームから出て行った。キョトンとする隊長を放置して。

 そんな隊長は今までの話をぶった斬り、そして自分に責任を全部放り投げた副隊長を追いかけることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月も高く昇り、星たちがうんたらかんたら。そんなこんなで夜を迎える。 

 

「……」

 

 拘束衣は脱がされ、かなり大きなYシャツを着せられたユウは垂れてしまっている袖を見ながら首を傾げる。本当にこれでいいのかと。まぁ着せた本人は満足しているから、きっとあっているのだろう。

 そんな着せた本人は常に着ている白衣や制服から薄いネグリジェを着用している。スケスケだと思った紳士諸君は今すぐに正座しておこう。

 ネグリジェ、といってもあんなエロエロなモノだけだと思うなかれ。それこそ男性用のモノも名称違いとはいえあるのだから。

 まぁそんなスケスケでは無いネグリジェを着用したすずかはやんわりと鎖を引っ張る。当然ながら、その先には首輪があり、首輪を着けられているのは犬ではなく少年なのだ。

 エロくない。エロくなんかない。

 

「寝よっか」

「……」

 

 少年に否定の言葉もなく、彼女のベッドにゆっくりと身体を倒す。

 ユウ自身、彼女に逆らえないことは重々に理解している行動だった。従順な裸Yシャツの少年とネグリジェのお姉さんとか。いや、なんでもない。

 しっかりと布団を被せられたユウの隣にすずかも横たわる。

 目の前を見れば、相手の顔がすぐに見える。

 

 ふとすずかの手が彼を撫でる。

 優しく、髪を梳き、やんわりと耳を触り、頬を撫で、細い指は彼の唇に触れて、離れる。

 どうしようもなく、彼に似た少年。しかし、彼ではない少年。しかし、彼でもある少年。

 

「愛してるよ……ゆぅ君」

「…?」

「わからないよね……」

 

 すずかはゆっくりと彼を抱く。

 彼の頭を自らの胸に収めて、少しだけ安心感が得れた。それでも、ソレは彼の身体を得ただけでしかない。

 

「君の身体はすぐに手に入る、でもそんなのイラナイ」

「……」

「私に、君の心を頂戴……嫌なら、言って欲しいかな」

「……ごめん」

 

 少年の口から出てきた謝罪の言葉。

 それは拒絶でも拒んだ結果でもなくて、自分に分からない事だから、そして目の前の彼女が辛そうな顔をしていたから、自然に出てきてしまった言葉。

 そんな言葉をしっかりと理解している彼女は、微笑んで、彼の額に唇を軽く付ける。

 

「おやすみ、ユウ」

「……おやすみなさい」

 

 そういって、彼女は目を閉じた。

 数分程して、規則正しい寝息が聞こえて来た事を確認して、彼はようやく思考する。

 

 どうしてこの女性はそんなに悲しい顔をするんだろう

 どうして、

 どうして、

 ボクに心を求めるんだろう

 どうして、どうして…

 

 頭の中に反芻する疑問に答えは出ずに、彼は悩む。

 悩んでいたが、そんな事も露知らず、すずかは抱き枕のように彼を抱きしめる。

 まるで甘い密の様な匂いと布越しにだが、はっきりとした柔らかさと暖かさを持つソレに彼の思考は徐々に落ちていく。

 ゆっくりと、甘い匂いに思考が遮断されていき、瞼がゆっくりと降りてくる。

 彼はすずかの背中に腕を回して、少しだけ、遠慮しがちに抱きしめる。

 

 まるで、安心を求めるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、問題です。

 吸血姫の活動時間を考えてみよう。

 当然ながら、夜が活動時間であり、昼間に少しだけ眠ればどうにかなる生活習慣の彼女だ。

 つまり、少年が遠慮しがちに抱きしめている、今現在、彼女は起きているのだ。

 胸に僅かにあたる寝息を確認していると彼は寝たらしい。今ならば、彼女のしたい放題と言ってもいい。

 

 が、身体はイラナイ、と言った手前、彼女の行動は制限されてしまう。

 こう、なんというか、すごくモンモンした気持ちの中、彼女は夜を過ごすことになるのだけど。

 

 

 

 当然、極限に安心しきった彼はそんな事を知るわけがない。

 

「普通……逆なんじゃないかなぁ」

 

 そんな少しだけ情けない姫様の言葉も、寝ている彼には聞こえなかった。

 

 

 

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