1人の連邦兵士。彼は明日の反攻作戦を前に日記を残す。
たった一ページの日記に記された、彼の思い。
そして、彼の懺悔とは...


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マロロ・ユーバー伍長

マロロ・ユーバー記す。

宇宙世紀0079、1月3日7時20分。この日から人類は体験したことのない未曾有の戦争へと突入した。ジオン公国のがこの日サイド1・2・4へ毒ガス攻撃を敢行、コロニー住民は悶え苦しみ、死んでいった。

翌日4日、ジオンのブリティッシュ作戦始動、サイド2のコロニーを地球のジャブローへと落とす許されざる行為。この蛮行を許さない。1月10日、連邦必死の防戦によりサイド2コロニーは崩壊、しかしその破片がシドニーを直撃し、結果シドニーは地形ごと抉られた。...しかし文字にしてみると一週間戦争はえげつないもんだ。たった一週間で総人口の半分が死んだなんて信じられない。宇宙で、この地で、軍人も、民間人も多数が死んだ。けど悲しんでいる暇はない。

それでも戦争が続くのだ。

ルウム戦役での敗北、ジオンの地球侵攻。戦争は終わっていない、まだ人は死ぬ。大勢死ぬ。この地でもまた血が流れる。そんなことはこれ以上させないさ。もう人が死んでいいことなんてない。

そもそも独立を求めて同じスペースノイドを殺すような奴らがスペースノイドを代表して、なんて笑わせる、奴らは結局アースノイドを殺したいから戦争を仕掛けてきただけなのだ。何が自由だ、何が独立だ。ちくしょう。

奴らを倒さなくてはいけない。一つ目だ。奴こそ全てを奪う悪魔。その悪魔に魂を売る奴も悪魔だ。

仲間を、協力してくれた民間人を殺した奴らを許さない。絶対に殺す。

そして、その日は明日、7月15日に控えている。

我々の部隊は欧州方面へ侵攻する奴らをドーバー海峡で迎え撃つ。必ず勝って勢力をひっくり返す。楽観視してるわけじゃない。今まで嫌という程やられてきたんだ、そしてペキン、キリマンジャロ、そして一大拠点のキャリフォルニアを抑えられている。だから生きてこの日記を開ける日がもうないかもしれない。縁起でもないがこれが遺言になるかもしれない。そうなると1ページだけ書かれた日記となる、悲しいものだな、なぜ今になって書き始めたのか、せめても開戦直後に書いておけばという後悔がある。でも私はこの戦争で失うものは己の身体と存在だけだからこの遺言は誰の目にも届かない、独り言だ。というのも生涯孤独の孤児だからだ。そうじゃなきゃこんな仕事に就くはずがない。

子供の頃夢が叶うなら航空機のパイロットになりたかった、無論戦争とは関係なく。しかし皮肉にも戦争はその夢を叶えてくれた、人生で空を体感させてくれた戦争には、少なからず感謝している、だけどやはりそんなこと公に言えるはずがない。だからここに記す。戦争は憎い、だけど戦争に感謝している面もある。ほんと、自分でも何言ってるのだか。

さて、最後に書くことは懺悔だ。開戦から早6ヶ月、ここまで生き延びてきたんだから私も愛機のセイバーフィッシュで何度か撃破している。要は人殺しだ。

思い出すだけでも14機、緑の戦闘機6機と分離型戦車6機と、一つ目2機だ。なかなかのもんだ、自画自賛しておく。

単純計算人を20人ほど殺している。確実に死刑クラスだ、戦争じゃなきゃ。だけどこれでも他の部隊や隊長からお褒めの言葉をよくもらう。これが戦争なのだ。人を殺した数で偉くなれる、そんなシステムなんだ。

少し話が逸れた、実は航空機以外で自らの手で1人殺したことがある。

懺悔したいのはこれだ。俺は人殺しだ。

俺が殺したのは、若い小さな少年のような子だった。

我が欧州方面がジオンとここまにここまで抵抗出来たのはひとえに民間人の協力もある。一部ジオンに協力した民間人も存在するが大半は連邦に味方をしてくれた。それにより敵の位置や襲撃のタイミング等がこちらに入ってくるので圧倒的戦力差でもなんとか抗戦し続けることが出来た。だからこそ民間人は我々にとって頼れる存在だったのだ。軍人が民間人に協力してもらうなんて情けない話だ、だけど俺たちはもうそれだけ追い詰められていたんだ。

その協力者の中にいた少年のような子、彼は素直で良い子だった。

戦争に負けず直向きに前を向くその姿に、絶対にこんな子を戦争に巻き込んではいけないと部隊内で強く決意した。

だけど、現実は残酷だった。

ある日俺たちの元に来たのは縛られている少年ような子だった。どうやら彼はジオンに協力していたようでこちらの情報を流していたようだ。とても信じられなかった。だから俺たちは当初それを否定していたが、彼がジオンの兵士と接触する証拠を突きつけられ、何も言えなくなった。紛れもなく写っているのは彼だったからだ。この子は既に戦争の関係者だったんだ。

上官は俺たちが彼と仲良くしているのを知っていたようだ。

上官と一緒に彼を連れてきた兵士は一言告げた。

「殺せ、とのことです」

そして腰につけられた拳銃を隊長に渡した。

震えた、なぜそこまでする必要があるのだろうか?思わず尋ねた。

「こいつはどうやら戦争孤児です。ジオンはそれを利用して物資の対価にこちらの情報を要求しているようです。こいつだけではありません、既にそうやって釣られた子が何人もいることが確認されています。返せばきっと同じことを繰り返すでしょう。だからこそなのです」

戦争の被害者なんだ、この子も。

部隊の誰も、その言葉に返せなかった。連れてきた兵士と上官が去っても、俺たちは固まっていた。殺せと言われて殺すなんてできない。俺たちが殺すのは敵の兵士だけだ。民間人を殺すなんて。

縛られた子は何も言わずただ黙って下を向いていた、今でも覚えている、現実に救いはないと思っている絶望の眼だった。殺されることを恐怖し、目には涙を浮かべていた。死にたくない、死にたくない、そう訴えてきているようだった。

黙っていた隊長は彼を見下ろしながらゆっくりと近づいていく。まさか、嫌な汗が流れてる。慌てて止めに入ろうとしたが

「待ってろ」

隊長はそんな彼のの後ろに回り手を縛っていた縄をナイフで切断した。彼は最初何をされたかわからずポカンとしていた。

「立てるか?」

隊長が聞くとゆっくりうなづいてから立ち上がる。足には無数の傷跡があった。それが原因か立ち上がると少し顔を歪めた。

「大丈夫か!待ってろ」

それを見てか部隊のお調子者が基地の備蓄倉庫の方へ走って行った。隊長は頼むとその後ろ姿に声をかけて近くの簡易椅子に座らせた。

それからは隊員一同で怪我を治療した。少年はその間一言も発さなかった、だけど俺たちはあえてそれに触れなかった。

あれだけ天真爛漫で向日葵のような笑顔を咲かせていた少年とは思えない、暗く絶望に沈んだ顔だった。

 

 

 

「お前、スパイだったのか?」

部隊のごちゃごちゃした部屋、汚い部屋だ。誰か掃除したらいいのにどうもうちの部隊の人間はがさつな人間が多いようだ、とやかく言う俺もその1人だがな。

そんな汚い部屋に子供入れて4人が入るとそれだけで狭く感じる。

そんな狭い部屋で、俺たちは全てを知る。

隊長の問いに少年は答える。いつもの無邪気な声ではなく、掠れた悲嘆の声を。

 

少年には連邦の軍人である父親と母親がいた。父親は宇宙の部隊に配属されているため年に数回しか会わないようだ。だけどそんな父がかっこよく、何よりの憧れだった。

何度か父の所属している部隊の写真が送られてきた時、彼はそれを大事に保管する。部隊で笑う父の姿、軍人として敬礼する姿。

どんな英雄よりも身近で、誇りだった。

だけど、それを戦争は簡単に砕いた。

ルウム戦役で、父親が戦死した。

その一報を受けた少年は泣いた、涙が枯れるまで母親と一緒に泣いた。そして、母親の足が悪くなった。病気だったのかもしれない、しかし少年の家にはそんなお金はなかった。

今を生きていくだけで精一杯だった。

そんな時ジオンの降下作戦が開始され、この地球も戦場となる。

足の悪い母親と一緒になんとか戦火を避け続けた。

必死に食べ物をかき集め、時には水だけを啜り。

なんとか生き抜いてきたのである。

 

そんなある日、母親が急に息絶えた。

 

足が悪くなったのが原因か、何か病気を発症していたのか

今となってはわからない。だけど、それはあまりに唐突な死だった。

昨日まで楽しく話していた人間が、今日起きるとベットで冷たくなっていた。

その死は、少年が受け入れるまで時間がかかった。

その現実を受け入れられたのは、母親の簡単な葬式が終わった後だ。

集合墓に刻まれた母親の名前を指で押しなぞって、そして。

 

生前、母親は言っていた。

生きていればいい。

死ぬなんて考えちゃダメ。

 

その言葉が嗚咽を漏らす少年の頭に響く。

そうだ、生きないといけない。生き延びないと。

少年は強く決心した。母親と父親の分まで生き延びてやると。

そんな少年の思いを現実は容赦なく踏みにじった。

戦火の中で天涯孤独な少年を雇うところなんて存在しなかった。転々と生き延びて、泥を啜って、この場所に流れ着いたようだ。

その時に1つの噂を聞く。

ジオンのスパイとして命令通り動けば、食料を貰えると。ジオン軍は地球に降下してから物資が行き届かず膠着していると小さく噂されていたため、最初に聞いた時それを間に受けることはなかった。

だが、ある日なんとかこぎつけた仕事をクビになった。予想しない解雇に、少年は焦った。

このままじゃ当分はご飯にありつけないと。

ふと思い出す、ジオンの噂を。

なんとしてでも生きたい。父の所属していた連邦を裏切っても。

そうだ、僕は連邦が好きだったんじゃない。父親が好きなんだ。

そんな父もいない。戦争が奪った。

戦争が憎い。さう嘆いても何も返ってこない。

少年は暗い闇の街中をゆっくりと進む、目的地はジオンの基地。

そうだ、生きなきゃいけないんだ。いや、死にたくない。

僕は、死にたくない。

ジオンの基地に行った

 

「もう、いい」

隊長は顔を背けて言った。俺たちもその気分だ。これを話している彼自身が一番辛いんだ。

「もういいんだ....疲れただろ。ここで寝ろよ」

隊長は隅のベットに少年をつれていくと、そこに横になるよう伝える。少年は何も言わずついていき、言われた通り横になる。

横になった時、ちらりと見えた少年の目から、涙が一筋溢れていた。

だが顔は能面のように無表情で、あまりに不気味だった。

それからは無言、ただ俺たちは1つ決めていた。これは話さずともわかっていたのかもしれない。

「戦争で戦っているのは、軍人だけじゃない」

隊長があの時ふと漏らした一言を、俺は忘れはしない。

 

翌日、少年は部屋から逃げていた。

夜の間に逃げたのだろう。だけど俺たち誰1人それを追おうとはしなかった。

わかっていたからだ。隊長がわざとらしく机にお金や食料や水を置いていたの見ていたから。

「これでよかったんだな」

命令を無視しているのだから、罰せられるかもしれない。

だけど、これでいいんだ。これで。

 

それから1ヶ月後、あの件はなんとかバレずに済んだ。部隊総出の言いくるめでなんとかなった。その前に戦局が悪いのでそんなことに構っている余裕もなかったのかもしれない。

少年はどこで何をしているのか。

あのお金で戦争とは無縁の場所に行って欲しい、そう願っていた。

だけど、それは幻想だった。

少年は、また同じことをしたのだ。

連邦にスパイをしたのだ。

 

その事が分かったのは俺だけが基地に残っていた時だった。

隊長含めお調子者が何をしていたのか、思い出せない。

「ユーバー伍長、来たまえ」

あの時少年を連れてきた上官が俺を呼んだ。ついていくとそこは独房だと分かった。その一室を開けると

そこにはあの少年がいた。

手足を縛られて、何箇所に殴打されたのかあざができていた。

「こいつは前に命令したやつではないか?」

なんでだよ?なんでまた?

「これは命令違反、ではないか?」

少年は顔を向けない、ボサボサの髪がその表情を隠す。

「しかし今は戦局が悪い、君たちの活躍が欲しいのだ。よって今ここで君が代表してけじめを取れば、何もなかったことにしよう」

けじめ、そんな。そんなことは

上官は僕にあの時と同じ拳銃を渡す、俺は受け取れなかった。そんなことは、俺には。

受け取らない俺を見て無理やり腕を引っ張り手に押し付けた。

拳銃を持つ手が震える。

そんな俺に、少年が言った。

「殺して」

あれほどまでに行きたかっていた少年が吐いた一言。彼は何か思い知ったのか?彼はこの1ヶ月で何かあったのか?

そんなこと言っちゃいけないのに、彼はそれを簡単に口に出す。

「殺して」

「早く」

無理だ。無理だこんなこと。

そんな俺を見てか上官が声を荒げた。

「貴様!一度ならず二度も逆らうか?こうなれば部隊ごと罰せなければならない。我々が今どのような現状かわかっているのか!奴ら悪魔に勝たなくてはいけない!そのためには敵を殺すのだ。殺すしかないのだ」

「早く、早く殺してよ!早く」

少年も声を荒げた。その声はあまりにも低く、あの無邪気な少年ではなかった。

あ、あぁ。言葉がでない。手が相変わらず震える。もう、頭が考えることを拒否した。

そこからの意識はない。ただ覚えているのが、引き金を引いたことだ。

 

 

それから、隊長達は帰ってきた。魂の抜けたような俺を見て心配そうに気を使ってくれたが、俺は何も話さなかった。話せなかった。

だから隊長やお調子者はあの少年が生きていると思いこんで死んでいった。天国か地獄、あの世で再開していたのなら、俺は顔を合わせられるのだろうか?

あの子に何かしてあげられたのだろうか?

あの子は一体この1ヶ月で何を見たのだろうか?

ひとつ言えるのは

俺は、結局ダメな大人だったんだ。

 

さて、これ以上書くともう心がどうにかなっちまいそうだ。

もう、頃合いだ。それじゃあ一区切りだ。

 

 

 

 

 

マロロ・ユーバー伍長

ドーバー海峡にて戦死。破損した機体で1つ目に特攻し、華々しい最後を飾る。

これにより二回級特進となる。

なお15日のドーバー海峡の反攻作戦は失敗、戦力の半数を失った。

 




ありそうなものを書きましたが、実際はどうでしょうか?

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