ハリー・ポッター 新月の王と日蝕の姫 作:???
しかもこれから2週間は執筆ペースが落ちることが予想されます
重ね重ね申し訳ないです
それではどうぞ
第13話 新学期前に
人の部屋を見ればその者の性格が分かるという。ならばこの部屋の持ち主はどの様な性格なのだろうか。
部屋に配置されているのは、引き出しが1つ付いた程度のそれ以外に飾りも無い簡素な机と、ロクに埋まっていない本棚。それに加えて唯一
更に言えばその部屋の窓に取り付けられたカーテンは暗色系の物である為か、既に日中だというのにその分厚い生地は日光を遮っている。
そんな陰気な部屋でレクスは黙々と机に向かってペンを走らせている。ホグワーツから出ていた膨大な量の課題は初日に片づけたので、今やっている物は全て個人的な研究に属するモノだ。それらはレクスであっても一筋縄ではいかない程の難題である。人体錬成は兎も角として不老、特に時空に関する研究は世界中の魔法使いが何千年に渡って研究しているというのに未だに不完全なままであるのだ。レクスと言えども頭を抱えざるを得ない。
ただそれらの術式の開発の合間に手を付けていた自らの全力に耐え切れる出力機つまり、杖に相当する魔法道具の開発はほぼ終わっている為、後は調整をするだけだった。
当初は難航していたがレクスをして使いたくないどころか目にすらしたくないと思わせる程の、今の自分にとっての極上の触媒の存在を思い出したおかげで一気に進んだのだ。
ソレを手に取ったレクスは確認する様に色々な角度から光を当てる。今調べた限りでは問題無く運用出来ると確信したレクスは手に取っていた
レクスがナイフをしまったちょうどその時、ドアからノックが聞こえると同時に開け放たれた。そこに立っていたのはフリードだった。先日の兄の心構え云々の殊勝な態度は一体どこに消えたのかいつもの楽し気な笑顔を浮かべている。
「おいレクス。早く支度しろよ。今日はダイアゴン横丁に行くって父さんが朝言ってただろ」
「……終わってる。早い」
「あぁ、それは悪かったな。何しろ久しぶりの外出なもんでよ」
ちなみにヴァルトフォーゲンはダームストロング以上に秘密主義であることは有名な話である。だだヴァルトフォーゲン一族は特徴的な容姿をしているので一目でそれとわかるだろう。
ヴァルトフォーゲンの行き過ぎた秘密主義は城の内部にも及んでおり、
「まぁ、準備は終わってるんだな?よしなら行くぞ」
外出できる事の何がそんなにうれしいのか、今にも踊り出しそうな様子でこちらの手を取って走り出そうとしたがそれは躱して並走してついていく。
当然といえば当然だが向かった先の玄関ホールにはカイルが立っていた。そもそも許可なくここを離れることが許されるのは此奴かヴェルヘイムの二人しか居まい。カイルと目が合ったレクスはせっかくのちょっといい気分が台無しだと内心罵倒する。
「さて、では行くぞ。二人共私に掴まれ」
そう言ったカイルは両手を差し出した。片手ずつに掴まれという事なのだろうがその構図が気に入らないレクスは、その手を取るくらいならば今ここで死を選ぶと宣言してもいい程にカイルを嫌っていた。そんなレクスがフリードの背から向ける視線には紛れもなく憎悪が混じっていた。
別に自力で姿現しをすればいいのだが、生憎とここにはフリードが居る。後々で酷く騒ぐのは目に見えている為、妥協案として仕方なくフリードの肩に手を乗せる。それを確認したカイルは姿現しをする。視界が歪み乗り物酔いのような感覚がレクスを襲う。
レクスはカイル・ヴァルトフォーゲンを憎んでるのは間違いないが、それと同時に苦手としていた。どれだけ睨みつけようとも揺るがないむっつりとした鉄面皮は澄んだ湖に浮かぶ満月の様だった。しかし、時折同じ色の瞳でこちらをじっと見つめるその時だけは湖に小石が投げ込まれた時に浮かぶ波紋の様に何かの感情が見え隠れしている。それを理解できないレクスからは得体の知れないモノに見えたのだった。
新学期を間近に控えたダイアゴン横丁は例年通りまともに歩けない程に人波で溢れかえっていた。しかしそんな雑踏の中にあっても尚、埋もれない一組の親子がいた。その
「やっほー。久しぶりハーマイオニー」
「久しいわねハーマイオニー。一体何か月ぶりかしら」
「え、えぇ。久しぶりね二人共。……後ろ凄いことになってるわよ」
「別に気にする必要はないわ。そっちこそ家族はどうしたのよ」
数ヶ月ぶりにハーマイオニーと会ったセラが飛びつくようにハグするのを見ていたリーゼは呆れたように苦笑いした。引っ付いて離れないセラを2人で引き剝がしながらも会話は進んでいく。
リーゼに親はどうしたのかと聞かれればハーマイオニーはすぐ近くにある白い壁の建物を指差した。
「パパとママならまだグリンゴッツで換金しているわ。それにここに立っていれば誰か見つからないかと思ったのよ。まぁ最初に会ったのは貴女たちだけどね」
「あ、そういえばロンたちも今日だっけ?」
「ええ、その筈よ。手紙の内容通りならハリーも一緒のはずね」
「いくら手紙出しても返事来なかったからからね。無事でよかったよ」
「手紙と言えば。ねぇリーゼ」
「何かしら?」
「結局ヴァルトフォーゲンには手紙届いたの?」
「届いたわ。ただし……、一か月後だけれどね」
そうポツリとこぼしたリーゼの呟きは微かな怒りの他に待ち焦がれる様な色が混じっていた。ただそれは本人も気付いていないようで、セラとハーマイオニーはリーゼにばれないようにそっと互いに顔を見合わせた。するとそれからしばらくもしない内にリーゼは向けられたどことなく生温かい視線に首を傾げる。ちょうどその時先程リーゼとセラが割った人波からレクターが出て来た。
「去年の事を忘れたのかい。2人で進んで行くとまた迷子に待ってしまうよ、って……おや?君は」
そんな言葉と共に現れたレクターだが声や表情には険が無く、歳不相応な少年じみた笑顔を浮かべていた。それでもハーマイオニーを視界に入れると怪訝そうな顔をした。
「お父様、この娘がハーマイオニーよ」
「ああ、君がそうなのかい。よく娘の話に出て来るから一度会ってみたかったんだ。いつも娘がお世話になっているね。ありがとう」
「リーゼとセラの……。そんなことないです。私の方こそお世話になっています」
「これからも仲良くしてくれると助かるよ。セラはともかくリーゼは勘違いされやすい性格をしてるからね」
「それなら大丈夫です。二人とも私の大事な友達ですから」
「それは良かった。ところでご家族はどうしたんだい。1人だと危ないから送るよ」
リーゼから説明を受けたレクターは納得した様に頷き少年の様な笑みとは別種の柔らかな笑みを浮かべた。その後の質問対して、ハーマイオニーはリーゼに言ったように返すとレクターはいつものように親切の押し付けで強引に首を縦に振らせ、そろそろ換金も終わるだろうからとグリンゴッツに向かうのだった。その道中で今思い出したと言わんばかりの態度でレクターはこう告げた。
「あぁそうそう、言い忘れていたよ。この後フローリッシュ・アンド・ブロッツでカイル達と待ち合わせしてるからね」
おおよそダイアゴン横丁の反対側の地点では、レクスらも溢れかえる程の人波を裂いて進んでいた。結果は殆ど同じだがその過程はまるで違う。大衆がリーゼたちに見惚れた結果人波を割って進むことが出来たならば、レクスの不機嫌な表情が大衆にとっては恐ろしい重圧となり結果足を止め3人が通り過ぎるのを待っているのだ。
「フリードももう裾丈が足りないだろう。レクスは……、お前もだな。一応新調しておけ。学用品を揃えるのはその後だ」
その年頃の男子としてはそれなりの体格をしているフリードは、1年前の制服では既にサイズが小さく不格好なので新調するという話は、
マダム・マルキンの洋装店は新入生や同じ様に裾丈を合わせようという生徒で混雑していたのだが、意外と回転率がよくそう待たないうちに二人の採寸が始まった。顔の長さなど要らない場所を採寸する巻尺を払いながらフリードは声のトーンを落としてとなりのレクスに話しかけた。
「なぁ、闇の魔術に対する防衛術の教科書ってロックハートのばっかだろ。前に読んでたよな。どんなのだ」
「……見るに堪えない」
ロックハートの本を読んでレクスが最初に思ったのがそれだった。
勲三等マーリン勲章であれば授与されるのは比較的容易であるが読んだ限りではまず嘘だろうという事は理解できた。そして、仮に百歩か万歩譲ってそれらが全て事実であるならば勲三等マーリン勲章などでは到底収まりきらないという事実が胡散臭さを助長させている。
その内容は九割九分が主人公、つまりロックハート自身を讃えるのもので、描写には妙に薄い部分があって人から聞いた物をアレンジしたのかと思わせる様な箇所が存在していて、筆者に深い知識が無いのだろうという事が察せられる。
読んでいて学べる物は1つも無いこれを教科書に指定する様な奴は頭が空っぽなのか塵で埋め尽くされているかのどちらかだろうとレクスは思った。
「お、おう。辛辣だな」
口数は少ないが基本的に噓は言わないレクスの口から出た批評は、フリードが想像していたより数倍辛辣で思わず誰かに聞かれていないか心配になり周囲を見渡すほどだったが、幸いにも誰かに聞かれているということはなく、誰かに絡まれたり睨まれたりすることなく店を出る事が出来た。
しかし大通りに出たレクスらを出迎えたのは割る隙間もない程に敷き詰められた人の波だった。しかも気の滅入る事に流れを見れば行きたい方向にあるフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店とは真逆の流れである。
そのせいかダイアゴン横丁に来た当初よりも五割増しに不機嫌になったレクスは強引に搔き分けて進んで、その後ろをフリードが付いて歩いた。しかしそれでも到着は予定よりだいぶ遅れてしまい、レクスたちが書店に到着した頃にはリーゼたちはとっくについていたようだ。
「……何?」
久しぶりにリーゼたちと再会したレクスは困惑していた。それは書店でサイン会をしているロックハートが予想以上に頭が空っぽそうだったからでも、偶然グリフィンドールの5人組が集まっていたからでも、双子のウィーズリーが馴れ馴れしく絡んできたからでも、赤毛の中年がマグルのおそらく夫婦であろう男女に妙な質問を立て続けにしているからでもない。リーゼがレクスをじぃっと見つめているからだ。原因に心当たりのないレクスはただ見つめ返すしかないが、やがてリーゼが小さくポツリと呟く。
「久しぶりねレクス。……それでなぜ返信があんなに遅かったのかしら」
リーゼの詰問にも似た響きの問いを受けたレクスはその時はじめて疑問が氷解した。ただこれには訳があるのだ。
それらの事情のうち、知られても問題無いと判断した事柄から一つ一つ説明していけばリーゼの何処か険のあった表情も柔らかくなっていく。
「そうだったのね。ならどうすればすぐ届くのかしら」
「……両面鏡」
「そうよね。でもそう簡単に手に入る物じゃないわ」
「……」
一対揃った両面鏡があるから渡そう、と言おうとしたレクスだったがそれは店内に響く騒音にかき消された。一体何事かと振り返ってみれば陳列棚も倒しそうな勢いでアーサー・ウィーズリーとルシウス・マルフォイが殴り合っている。戦闘職でもある闇払いであるなら兎も角、事務職である魔法省の役人のアーサーやホグワーツの理事のルシウスでは、肉体的にそう鍛えられている訳ではないのでどちらも技術もへったくれも無いが、それ故に全力で殴り合っている。
両者ともに右ストレートが相手の顔に炸裂したタイミングで後ろからレクターとカイルが取り押さえる。
「何をやっているんだいアーサー」
「こんな公衆の面前で何をやっているんだ二人とも」
取り押さえられてもしばらくは逃れようともがいていたが、やがて冷静になったのか暴れることはなくなり手を放しても殴り合うことはなかった。二人とも酷い格好でアーサーは唇から血を流し、左目の周りが紫色になっていたルシウスだが注目されているのを嫌い舌打ちと捨て台詞を残してドラコと出て行く。
「まったくとんでもない一族だ」
「それは否定しないけど今回に限って言えば君は言えないよアーサー」
「君たちにも迷惑をかけてしまったか。すまなかった」
「それは別に構わないが店から出ていくべきだな」
「ああ。うん、そうだ。気分直しにグレンジャー夫妻も誘って漏れ鍋で一杯やらないか」
漏れ鍋はそう大きなパブではないので四つの家族が来店すれば貸し切りでなくても実質そのようなものになってしまった。
豆知識じゃないけど本編に出るか分からない設定コーナー
なおこのコーナーは不定期です
レクスは~~を懐にしまった。
これは検知不可能拡大呪文の掛かったポケットを随所に仕込んであるということです。なので実は相当の量の物資を常に持ち歩いています
カイル・ヴァルトフォーゲンとレクター・シンクレア
この2人はいわゆる親世代
カイルは退職したがレクターはバリバリ現役の闇払い
今でこそ親友だが実はめちゃくちゃ仲が悪かった