ハリー・ポッター 新月の王と日蝕の姫 作:???
ファンタスティックビーストの最新作を見てきたばっかでモチベを上げてきたので次はなるべく早めにしたいと思います。
それではどうぞ
第14話 曇天の新学期
時が経つというのは早いものでダイアゴン横丁にて、新学期に向けて学用品の補充をしたあの日から既にひと月以上も経過していた。それはつまり新学期が始まるまでが秒読みというという事でもあり、キング・クロス駅は例年同様マグルや魔法族でごった返している。そんな混沌とした様相であったが九と四分の三番線ホームに入れば正気は狂気に、狂気は正気に裏返る。
ホームを行く人々の殆どが魔法使い然とした格好の者か、中世の絵画から飛び出してきたのかと言わんばかりの時代錯誤もいいところの格好の者であるかのどちらかに当てはまるのだった。
そんなマグルから見れば異常な空間を搔き分けて進む銀の家族がいた。しかしその三人も例に漏れず中世の貴族めいた服装である。ただ違うところがあるとすれば他のコスプレめいた格好とは違い完璧に着こなしているという点であろうか。またそれらに加え天性の覇気とでもいうのだろう、良くも悪くも人を圧倒する雰囲気を纏っていた。
その兄弟の内の兄と思わしき少年が周囲を見渡し一拍置くと、途端に超然とした雰囲気は消え去り欠伸した後に眠たそうに目を擦り弟に声を掛ける。
「ふぁぁ……。ねみぃ。なぁレクス」
「……何?」
「結局新学期が楽しみ過ぎて昨日は眠れなかったんだがレクスはどうだ」
「……一緒にするな」
兄と思わしき少年つまりフリードが眠そうな顔で話しかけるがレクスはいつも通り平常運転で会話の糸口をばっさり切り捨てた。それだけに飽き足らずレクスは一歩下がった場所で見守っていたカイルに一瞥することも無くホグワーツ特急に乗り込みそれを見たフリードが慌てて付いて行く。
出発時刻より相当早くにホグワーツ特急に乗り込んだ為か車内はまばらで廊下で他生徒とすれ違うことはなく殆どのコンパートメントが空室となっていた。それでも中に誰もいなかった訳では無いがレクスと存在を認めると、目が合ったら殺されるとでも思っているのか変な方向に顔を背け逃げ去ってしまう。
「ぶふっ……な、なぁレクス。お前魔法生物か何かと間違えられてるんじゃないか」
それを見ていたフリードが眠気も忘れて吹き出す。
フリードの必死に笑いを堪えようとしたとでも言いたげな表情が癪に障ったのかレクスは拳を握りしめて振るった。それを無防備な態勢で腹に受けたフリードの意識は暗転する。意識が薄れゆく中で最後に見たレクスは希望的観測も込みで多少は焦った様な表情をしているように見えた。
普段であれば意識を失うまではいかず暫く悶える程度の力加減で殴ったはずだというのにどこからどう見ても気絶していた。レクスの膂力をもってすれば人一人などたやすく殴り殺せる為、殺した時の感触ではないと理解しつつも一応脈をとり生死を確認する。
手に取った左手首からは確かな鼓動が感じられフリードが生きていることを確認した時のレクスの表情はほっとした時のモノであったが、それに気付くと忌々し気に顔を顰めた。その後このままでは邪魔になるだろうとレクスはフリードをひょいと持ち上げ近くのコンパートメントに入ると起こさないようにそっと降ろした。
長椅子に横たわるフリードの寝息は安らかで遠目に見れば死んでいるのかと思うほどであるが、近くで見れば呼吸音は聞こえ胸は上下に鼓動しているのが見える。
何故普段通りの力加減で殴ったというのにコイツは気絶したのだろうかとレクスはフリードの顔を眺めながら思索に耽るが、そういえば昨日は眠れなかったと言っていたなと思い出す。恐らくは徹夜による疲労が殴った時の衝撃と丁度重なり耐えられなかったのだろうと理解したレクスは懐から辞書の如くと形容できる程の分厚い本を取り出して静かに淡々と手に持った本をめくる。
その一室にはレクスがページをめくる音とフリードの寝息の音のみが流れる、ある種の調和の取れた空間となっていた。その調和が崩れたのはそれから約十分程度が経過した時、レクスが不意に手を止め扉を見つめる。するとノックもせず乱雑にコンパートメントの扉が開かれると同時に入ってきた生徒は体格からしておそらく上級生のようだ。その上級生はレクスの感情を感じさせない凍てついた刃の様な印象を受ける蒼の瞳に捉えられ蛇に睨まれた蛙の様に身体を硬直させる。
その上級生は見ていて哀れな程にさぁっと顔を青くして入って来た時とは打って変わり、まるで猛獣から逃げ出すようにそろりと退室し音をたてぬよう静かに扉を閉め去るのだった。
おそらくその生徒は幸運にも空いているコンパートメントを見つけたとでも思っていたのだろうが、実際には極めて不幸な事に中にいたのはスリザリンの魔王などと恐れられているレクスだったのだ。不幸中の幸いにもレクスは追撃を考えるようなことはせず直ぐに興味を失い視線を本に落とした。
それから何度か違う生徒がそんな失敗を繰り返すうちに、噂が広まりそのコンパートメントは不可侵領域となり不用意に立ち入る者は居なくなる。しかしホグワーツ特急が出発する直前となった時にその固く閉ざされていた扉は開かれた。読書に没頭していながらも扉が開かれる前に今まではそれに気付き何らかのアクションを起こしていたのだが今回したことと言えば僅かに窓側に寄った程度だろう。
それから数秒と時間を空けず、控えめに扉がノックされたかと思えばリーゼとセラの2人が入って来た。
「久しぶりねレクス。貴方のいるコンパートメントは一目で分かったわ」
「周りに誰もいないからね。あ、フリードは寝てるんだ」
二つある内の一つの席はフリードが丸々占領している為それなりに窮屈になってしまうが2人はレクスの隣に座った。そもそもレクスの座っている位置が明らかに窓側に寄っているのは無言の肯定だろうと理解したリーゼは腰を下ろす。だがリーゼが廊下側の席に座ろうとした場所には、既に笑顔を浮かべたセラが座っていた。セラがニコニコ笑っているのはレクスが無表情なのと同じ事であるがその時の笑みは妙にイラっとさせるモノであったが、軽くため息をついたリーゼはぽっかりと空いている真ん中の席に腰を下ろす。
「ねぇ、フリードはどうしたの?」
「……、……睡眠不足」
「ふぅん。フリードらしいのかな」
気持ち良さそうに爆睡しているフリードを見ているセラがそう問いかけてもレクスは頭を上げるどころか淡々とページをめくる手すら止めず囁くようにそう呟く。どう考えても原因は十中八九レクスが殴った事にあるというのに遠因に過ぎないであろう事実を告げると、元々フリードのイメージと合わさりすっかり信じ込み納得したように頷いた。少なくともホグワーツ特急に乗り込むまでは睡眠不足を訴えていたのでひょっとすればレクスが何もしなくてもこの状況になった可能性は無きにしも非ずなのかもしれない。
「ああ、そう言えばレクスはロックハートの、ロックハート教授の指定書は一通り目を通してあるのかしら?」
「……一部は。時間の無駄」
「そう。一応私は目に通したわ。……小説としてならまだ読めたものではあるけれど、教科書として指定するなんて何を考えているのかしら」
リーゼの後半の愚痴に対してはレクスも大いに頷けるものであり、フローリッシュ・アンド・ブロッツで見た実物からしても期待のしようもない間抜けで、脳の代わりに塵屑でも収まっているか、さもなくば空っぽかのどちらかとしか思えない。思えないのだがアレを教師として認めたのはダンブルドアであるということが引っ掛かる。レクスやリーゼが違和感を覚えてダンブルドアの程の人物がそれを覚えないはずもないという程度には認めていた。故にあの道化っぷりがレクスの観察眼を欺くほどのカモフラージュであるという可能性もレクスがフリードに一発喰らうかもという程度にはあり得るのかもしれない。などと思考を巡らせていたレクスであったが結局はあり得ないだろうという結論に達しそれについて考えるのを止めると同時に開いていた本を閉じた。
それからそう時間を空けない内に汽笛が鳴り響き、キング・クロス駅からホグワーツへ出発することを告げる。一度閉じた本を開く気になれなかったレクスはふと窓の外を眺めるが、流れてゆく人混みの中で自身と同じ瞳を見つけ小さく舌打ちする。そうすれば当然隣に座っているリーゼの耳に届き、またセラにも聞こえたようでレクスの方を向く。面倒なことになったと内心ため息をつきリーゼの心配する声をばっさり切り捨てた。
「いきなりどうしたのよ」
「……何でもない」
リーゼのレクスとの付き合いはもう一年以上であるがそれでもレクスについて解っていることは多いとはけして言えない。
そう知らないのだ。常軌を逸した身体能力や年齢を鑑みればあまりにも逸脱した魔力や知識を持つ訳も、腕も白く華奢であるのに手の平はたこだらけで硬いことだったり、何処の暗殺者かと文句を言いたくなる程に気配に過敏だったりする理由も、時折瞳の奥で蠢く昏い光だったり堅気では出せないような鋭い威圧感の正体も、何も知らないのだ。
無論それらを切り貼りして勝手に推測することは出来る。だが例えその身勝手な推論にどれほど真実にたどり着いたモノがあろうとも、一体ソレに何の価値があるだろうか。所詮ソレはレクスから信頼を勝ち取り得た友情の産物とは程遠い全くの偶然に過ぎないというのに。
レクスは自らの来歴をペラペラと話すような人種では無いし、今のように詮索を嫌う。
リーゼの心配をレクスが突き放せば自然とコンパートメントの空気は静まり当事者であるリーゼは勿論セラも凍り付き空気が固形になったかの様に硬直してしまった。さしものレクスと言えどもこの状況で読書を再開するという選択は出来ないようであったが、場の空気を一新させる為なのだろうか唐突に誰何の声を上げた。
「……誰?」
その声は明らかにコンパートメントの外へと向けられており、それの証拠にレクスの誰何に対して微かな驚愕を感じさせる声が聞こえた。それから一拍おいて扉を開けて入ってきたのはハーマイオニーとレクスの知らない赤毛の女生徒だった。
「えっと、ここ空いてるかしら」
そう言って入って来たハーマイオニーはコンパートメントを見渡してフリードが片側を占領しているため空いてない現状を見てどうしたものかと悩みんでいたがそれはすぐさま解消されることになる。
いきなり立ち上がったレクスがフリードのそばまで近寄ったかと思えば上体をそっと起こしその隣に座ったのだ。そして場所は作ったから後は好きにしろと言わんばかりに見渡した。とはいえリーゼやセラは右も左も分からないような新入生を知り合いと分断するような真似はしたくないようで、結局レクスの隣はリーゼとなった。
「ありがとう。ハリーとロンを探していたらもうどこも空いてなかったのよ」
「でも今一緒じゃないってことは見つからなかったの?」
「そうなのセラ。大体探したんだけど誰も見てないっていうのよ。もしかしたら乗り遅れたのかも」
リーゼから見ても対角の隣に座っているジニーの顔はただでさえ緊張のせいか血色がいいとは言えなかったが、隣のハーマイオニーから兄たちが乗り遅れたのかもなどと言われて青を通り越して白くなっていた。そんなジニーの顔色を見かねたリーゼが呆れながら助け舟を出す。
「いくら何でもそれはないと思うけれど」
「でも、もしそうだったら……」
「はぁ……。それならそれで大丈夫でしょう?あの駅に何人の魔法使いがいると思っているのよ。落ち着きなさいハーマイオニー」
「あ、それもそうね」
そうしてようやく平静を取り戻したハーマイオニーもリーゼに目配せされてジニーの顔色に気付き何とかやわらげようと色々と錯誤する。
「ジニーはどの寮に入りたいと思う?やっぱりグリフィンドール?」
「うん、グリフィンドールがいいわ。ところで寮はどうやって分けるの?パパもママも教えてくれないしフレッドとジョージはトロールと喧嘩だって冗談しか言わないし」
大体の魔法族で受け継がれている組み分けについての情報を隠すというものは、今もウィーズリー家に受け継がれているようで兄弟がいるならば噓を吹き込まれて直前になって拍子抜けするまでがある種の様式美となっている。ただウィーズリー家の末の妹であるジニーは一つ上の兄であるロンとは違いトロールが出て来るなんてことはないと看破したがそれでも分からないモノは恐ろしいらしい。ハーマイオニーもリーゼたちも本心としては教えて不安を取り除いてあげたいのだろうが様式美を破壊してもいいのだろうかと悩み目で会話する。
「組み分けについて話せないけど少なくともケガをするような事は一切無いわ」
「ふーん。ところでハーマイオニーはグリフィンドールだしリーゼはスリザリンなのにどうしてそんなに仲がいいの?」
「それこそトロールが関係するのよ」
新入生と在校生では進む道が違う為リーゼらはジニーと別れた後、去年向かった方向とは逆の道を歩いていた。するとやがて狭い道が開けた場所に出た。そこにはおそらくこれでホグワーツまで向かうのであろう馬車が何台も泊まっていた。
だが奇妙な事にその馬車には牽引する為の縄はついていたがその先には何もいないのだ。そういう物だと考えれば別におかしいことはないはずだが、それが変に頭に引っ掛かるリーゼは自らの知識を総動員してソレの正体を探る。
熟考すること一分経つと先頭にいた集団は殆どが馬車に乗り終わり、次がレクスやリーゼたちとなりステップを上がる。フリードやセラはその違和感に気づかず周りを眺めていて、同じく疑問に思っているらしいハーマイオニーと協力して推理していく。そんな中リーゼはふとレクスの横顔を見ると一点に視線が固定されていることに気付いた。
「ひょっとしてレクスは何か見えているのかしら?」
「……見えてる」
完全な透明ではなくレクスに見えているということは何らかの条件があるということだろうか。とそこまで思考を進めたリーゼだったが、何故か自分でもなんて不謹慎なと思う程のある仮説が頭に浮かぶ。
それが外れていますようにと願いながらも頭の中ではどこか納得している自分がいた。
「ねぇ……。答えたくなければ別にいいのだけれど馬車を曳いているのはもしかしてセストラル?」
「……正解」
震えそうになる唇を何とか抑えながら吐き出したリーゼの問いに対する返答はレクスらしい簡潔なものだった。だがその表情は何処か痛みに耐える時の顔にも罪を告白する懺悔者の顔にも見え、その横顔は鋭いナイフの様にリーゼの心に突き刺さる。
さして広い馬車では無いので声を抑えて会話しようにも出来ない為気まずい空気が流れそれっきり誰一人として喋ることはなかった。
レクスにも皆にも申し訳ないことをしたと反省しているリーゼの気分は外の曇天の如く沈み新学期だというのに酷く憂鬱だった。
ファンタスティックビースト 黒の魔法使いの誕生は凄かったですよ。過去作を履修済みなら是非見に行く事をオススメします。