ハリー・ポッター 新月の王と日蝕の姫   作:???

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第2話 常夜城にて


第2話 per Nosferatu

 ヴァルトフォーゲンという一族の歴史は長い。ではどれほど長いのか。1000年か?2000年か?いやいやヴァルトフォーゲンの歴史はその程度の物ではない。確かなところ紀元前1000年にはヴァルトフォーゲンなる魔法使いの存在が確認されている。つまり驚くべきことに3000年もの歴史を持つというのだ。まさに世界最古の魔法族を名乗るに相応しい規格外さといえるだろう。しかし紀元前600年にシンクレアを名乗る魔法使いの一団が現れ、ヴァルトフォーゲンは緩やかに衰退していった。そして今より1000年前両者の立場が入れ替わる。それが現代においてもよく知られている通称‵月蝕と呼ばれる事件だ。それ以降900年間歴史にヴァルトフォーゲンの名が乗ることはなかった。1900年代になり既に滅びたとされていたヴァルトフォーゲンの一族が現れる。

 ヴァルトフォーゲンの居城、常夜城(ノスフェラトゥ)はかつて現在のホグワーツ城の位置にあったといわれている。だが城を転移して以降常夜城(ノスフェラトゥ)の場所を知る者はいない。故に様々な伝説が伝えられる。ある一説によればそもそも移動していないだとか、また別の説によれば魔法界のどこかの山奥や森林に存在するだとか、はたまた月の裏側に存在するのだとか……。とまあ多くの説があるが最後の説はあまりに荒唐無稽すぎる為信じる者は極めて少ない。

 

 

 

 

 

 レクスがどこか研究施設の様な場所でパタンと本を閉じる。その本はそれなりに古いらしく年季が入っているように感じられる。レクスはその本を乱雑に本棚に放り込む。その本の題はヴァルトフォーゲンの歴史・121代目当主バルークス・ヴァルトフォーゲンとある。この本の厄介なところは開くと内容を解釈して聞かせるのだ。

 鬱陶しい本を黙らせたレクスは奥に戻り机の研究資料と向き合う。内容を軽く見るに研究内容は主に3つで人体錬成と時空に関連するモノと不老に関連するモノだった。既にそれらの紙には数多の魔術理論や魔法式が所狭しと書き込まれており、隙間が見当たらない程だ。それと並行して別に紙には魔法界マグル界問わず歴史であった事件が年代と共に詳細に書き出されており、不規則にバツ印が付けられている。

 

「……やはり不老は賢者の石が最短か」

 

 ひたすら考え詰めであったため鈍ってきた思考や、固まった思考をほぐす為に気分転換でもしようと席を立ち出口の梯子へと向かう。梯子を上がり扉と開け出るとそこはベットと、簡素な机と空の本棚のみが存在する極めて質素な部屋だった。レクスは研究室となっているトランクを閉め縮小し懐にしまい込む。

 部屋を出るとすっかり暗くなっており月が輝いて見えた。今日は朝食以降部屋を出ていなかったので時間の変化にわずかに驚く。そして気分転換にと常夜城(ノスフェラトゥ)内を気ままに歩き回る。燭台の光と月の光に照らされて光と影が入り混じり幻想的な雰囲気を醸し出している。そんな美しい雰囲気の廊下を歩くレクスはいつもの無表情な顔にわずかに嫌悪感を浮かべ、いつでも杖が抜けるようにしていた。折角気に入っている場所で気分転換をしていたというのに先程から殺気も隠さず付けてくる身の程知らずに塵のせいだ。やがてレクスの正面から10人の16歳程度の男女が立ち塞がり、後ろからも先程から隙を窺っていた10人の男女が来る。

 

「これはこれは、レクス・ヴァルトフォーゲン様。今宵はどちらへ?」

 

事情を全く知らない者が見れば16歳くらいの男女が11歳程度の少女を不良集団が脅している場面に見えるだろう。杖を持つ者だけでなく刃物まで持つ者がいて身体の見える部位に番号を彫ってあるならなおさらだ。

 

「なんなんだお前はっ!」

「どうしてお前だけ」

「同じ”名無し”だったはずなのにっ」

「血も涙も無い怪物め!」

「この殺戮者が!」

 

 常夜城ノスフェラトゥでは”名無し”と呼ばれる者達がいる。理由は様々だがが大きく分けて二つ。ひとつは育児放棄された者達。あるいは労働力としてここ常夜城(ノスフェラトゥ)で製造されたホムンクルス。ここ常夜城(ノスフェラトゥ)において”名無し”は蔑まれる存在で、特にホムンクルスの”名無し”は屋敷しもべ妖精以下の存在として扱われる。レクスを囲う10人が中性的で鏡写しのように同じ顔立ちな為彼らは後者だろう。

 

「……だから何?」

 

彼らの悲痛な慟哭(叫び)に対してレクスはどこまでも無感動だった。まさかこの塵共はこれだけのために来たのか?そうでは無いというのはこの塵共の装備を見ればわかるが。

 

「なっ!?」

 

 彼らとしてもそこまで無感動に一刀両断されるとは考えていなかったのか言葉を詰まらせる。予想外の返答に言葉を詰まらせたリーダー格の少年だったがよくよく考えれば自分達は話し合いをしに来たのでは無い。自分達は身の程を分からせる為に来たのだと持ち直し、口角を釣り上げて杖を向ける。しかしこの段階に至ってもレクスは杖を抜くどころか触ろうともしない。

 

「はっ!死んで身の程を知れ!ディフィンド!」

 

 まず放たれたのは切断呪文だが、レクスにとって避けるにすら値しない劣悪な練度の呪文であったため魔力を集めた左手の甲で弾き別の塵の頸動脈に当てる。鮮血が噴水の様に吹き出し周囲の塵を紅く染める。

 

「は?……な、え?」

 

 それは塵にはあまりに理解しがたい事だったようで思考ごと身体が固まる。誰の前で呆けていると内心嘲り人間を超越した速度で前方に駆け寄り手頃な位置に居る2人を右と左の手刀で頭を落とす。ここでようやく塵どもは我に返り現状を把握し絶叫交じりに呪文を連発する。

 流石に近距離で放たれた呪文は躱せない、故に再び弾き術者に返し吹き飛ばす。高速で石の壁に叩き付けられた塵共は頭から血を流して倒れ伏せる。後ろから放たれる呪文を長年の経験によって感じ取り振り向かず紙一重で避ける。すると射線上にいた塵に命中し倒れ伏せる。射線の先に何があるか位は把握しておけ間抜け。

 杖を振るえない程の超近距離で拳を握り心臓を殴り付ける。枯木の割れる様な音が響くが気にせず拳を押し通し心臓を殴り潰す。短剣を持った塵が切り掛かって来るが手首を掴み魔法の射線上に投げる。その間に手頃な位置にいる塵を蹴り飛ばし前方最後の塵に投げつけ、先程投げる時に奪っておいた短剣を投げる。短剣は1人目の首を裂き2人目の心臓を貫いた。

 振り返ると残りの10人は腰を抜かして震えながら逃げようとしていた。今更何をしているんだ?襲い掛かってきた塵供の分際で。

 ここでようやくレクスは杖を懐より取り出した。未だ殺戮は終わらないと悟った塵供は使い物にならない足を引きずりながら這ってでも逃げようとする。しかしレクスがそれを許すはずも無い。

 

「……フィンドファイア」

 

 そして選択した呪文は悪霊の炎、単純な破壊力なら死の呪いすら上回り最強の呪文の一つとも数えられる。ただしその威力故か並みの魔法使いが使えば制御できずに術者もろとも周囲一帯を焼き殺す呪文なのだがレクスはそれを完全に制御し焼き尽くす。

悪霊の炎は守護霊呪文と同じく何らかの生物の形をとって現れる。レクスの悪霊の炎の姿は一言で言うならば混沌。それ以上的確な答えはないだろう。混ざりすぎてレクス本来の生物がわからず、混ざっている獣で種別を判断できるのはごく一部で、頭は獅子と山羊、胴はドラゴンで、足は人の手と熊と鳥と狼、尻尾には無数の蛇と蠍の尾、鳥の羽根に竜の翼。それだけでなく全身至る所に苦悶の表情を浮かべる人の顔が浮かんでは消える。

 

「なんで?何が違うの?私たちと同じ___」

「……黙れ」

 

 それを見た"名無し"達は絶望し杖を手放し逃げる事もせず座りつくす。レクスは杖を一振りし次々に死体すら残らぬ程に焼き尽くす。絵画になっていてもおかしくない程だった白と黒の芸術に凄惨な赫を加えてレクスはその場を去っていく。常人ならば見ただけで狂ってしまうほどの殺戮をその手で成したレクスの精神は一切変わっていなかった。しかしレクスの心に波紋を残した”名無し”の罵倒があった。なんでお前だけが!か。そんな事ボクが知りたいと俯くレクスの表情は泣いていたのかもしれない。

 

「ほぅ、レクス、お主また力を付けたのではないか?」

 

 歩き始めたレクスだったがそう話しかけられた時、背筋が凍るような感覚に囚われ、嘗てその身に刻まれた恐怖を思い出し、そのせいで歯がうまく噛み合わなくなる。

 かの月蝕以降ヴァルトフォーゲンは表向きの皮を捨て去り闇の中で繁栄していった。全てはシンクレア(太陽)ヴァルトフォーゲン(満月)が呑み込まんとするため。

 力こそ全て。勝者こそが正義。敗者に口なし。そんな巫山戯た法がまかり通るヴァルトフォーゲンの居城常夜城(ノスフェラトゥ)で最も絶大な権力を持つ者は誰か。それは決まっているヴァルトフォーゲンにおいて最も強い者だ。それは当然次期当主たちではない。常夜城(ノスフェラトゥ)の主たる現当主ですらここでは最強ではない。

 では誰が最強なのか?答えはひとつだ。今レクスの目の前にいる、好々爺然とした孫を褒めるような表情を浮かべる老人こそが、ヴァルトフォーゲン最高位の魔法使いヴェルヘイム・ヴァルトフォーゲンだ。かつてはレクスらと同じく銀髪であったであろう髪は今は一本残らず見事な白髪となっており顎髭は腰のあたりまで伸ばしている。背骨は真っ直ぐで、老人らしい弱々しさは一切感じられず挙動ひとつひとつに覇気が感じられるが、対照的に目の蒼眼は濁り切り見るものを引き摺り込むような狂気すら感じられる。

 

「……ヴェ、ヴェルヘイム。……何故」

「そろそろ調整(・・)の時期だろう?着いてきなさい」

 

 ああ、恐怖が縛る身体を憎悪が解放し目の前を歩くヴェルヘイムを殺したくなるがまだだ。今はその時ではないと耐えて刃を研ぎ澄ませと無理やり押し込める。

 ヴェルヘイムの研究室へと入り、床に描かれたレクスをして複雑怪奇と言わざるを得ない程に緻密な魔法陣の上に横たわる。ヴェルヘイムはそれを尻目に逐次状況に合わせて魔法陣を書き換えていく。調整(・・)というだけあって自らの身体を弄繰り回される為、激痛が全身を迸るが意地でも顔に出さない。

 

「終わりだレクス。……そう言えば明日だったかホグワーツは」

「……」

 

 調整(・・)が終わりもう用は無いといわんばかりに立ち上がり去ろうとするレクスの肩をヴェルヘイムが、骨が軋む音がする程の強さで掴み掛かり目に自分の姿が映る程顔を近づけてくる。

 

「日蝕を。日蝕を何としても成し遂げるのだ」

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