ハリー・ポッター 新月の王と日蝕の姫 作:???
いつになったらホグワーツに着くのかと思っていると、やがてアナウンスが流れレクス達新入生はプラットホームの一角に集められる。すると暗がりから大の大人ですら軽々と持ち上げることが出来そうなほど屈強そうな大男が出てきた。人間にはあり得ない程の巨躯からレクスはその大男が巨人と人間の混血であると理解した。
「イッチ(一)年生!イッチ(一)年生はこっちだ!ほれ!」
そんな大男がランタンを片手に掲げ新入生を先導する。しかし周囲の光源はそのランタン1つのみであり、鬱蒼としている森林を通り抜けるには少々心許ない。その為新入生たちは転びながら着いていくしかないが大男はそういった機微に疎いのか速度を落とすことなく慣れた調子で進んで行く。幸いにもレクスは闇夜であってもさしたる苦労のない程の瞳を有している為、感覚的には昼間とそう変わらないので新入生の間を通り抜け歩いて行く事が出来る。あの男は少なくともホグワーツ勤務のはずだろう?なら光源くらいなら出して見せればいいだろうに。
「おい、待てって、レクス」
「……」
すいすいと人混みを進んで行くレクスを見てフリードは慌てて着いて行こうとするが、レクスはその抗議に取り合うこともせず歩みを止めない。何とかして追いついたフリードだったがちょうどその時、木の根に足を取られて体勢を大きく崩す。転びそうになったフリードは咄嗟にレクスの手を取ろうとするが、レクスに手を撥ね退けられ顔から大きな音を立てて転んだ。それを見ていたレクスは僅かに鼻を鳴らし表情を歪める。それは反省などではなく嘲りによるものではあったがレクスが杖を一振りし傷を癒す。
「おお、ありがとう、って元々はお前がどんどん先に行くせいだろうが」
「……ホグワーツ城」
「あ?何だって?」
「……見えた」
レクスの視線の先に目をやると急に視界が開け大きな黒い湖畔が現れた。それと同時に集団中にざわめきが広がる。湖畔には巨大で荘厳な城が佇んでいた。その城はレクスから見ても
レクスとフリードを除いた新入生たちはこれほどまで巨大な建造物を見たことがなかったのか魔法族出身の生徒からも感嘆の声が上がる。
湖を渡るためにレクス達は4人1組となってボートに乗り込み、崖下のトンネルを通って地下の船着場に到着した。その後船着場から岩場を削ってそのままらしいゴツゴツした岩の階段を上がっていくとやがてホグワーツ城の玄関前まで辿り着いた。大人が数人ががりで開けるような重厚そうな樫の扉を大男は軽々開け中に入る。住宅が数軒ほど入りそうなほど大きな玄関ホールに出ると1人の厳格そうな老魔女が新入生を迎える。
「ご苦労様です、ハグリッド。あとは私が誘導しましょう」
「マクゴナガル先生、後は頼みます」
ハグリッドは緑色のローブを纏う老魔女 マクゴナガルに新入生を引き渡しその場を後にする。
「ひとまずはホグワーツ入学おめでとう新入生の皆さん。歓迎会が間も無く始まりますが、大広間の席に着く前に皆さんが入る寮を決めなければなりません。寮の組み分けの儀式は、これからの皆さんの生活に大きく関わってくる大切なものです。勉強するのも、寝起きするのも、自由時間を過ごす時にも関わってきます」
マクゴナガルは声を荒げなくともよく通る、自然と周囲のざわめきを鎮める声でホグワーツの説明を続ける。
「あなた方がこれから組み分けられる寮について軽く説明します。勇気を重んずる勇敢な獅子の寮 グリフィンドール。慈愛を重んずる誠実な穴熊の寮 ハップルパフ。知識を重んずる意欲の大鷲の寮 レイブンクロー。狡猾を重んずる野心の大蛇の寮 スリザリン。それぞれの寮に築いてきた輝かしき歴史があり、沢山の偉大な魔法使いや魔女を輩出して来ました。
またホグワーツでの己の全ての行いは各寮の点数に影響します。模範となるような規律正しい行いをすれば加点を、それぞれ校則を破る等の非行を行えば減点を。些細なことであろうと自らの行いが学年末の寮対抗戦に影響を及ぼしますので注意なさい。それでは間もなく全校列席の前で組分けの儀式が始まります。待っている間、出来るだけ身なりを整えておきなさい」
マクゴナガルがそう言い残しその場を後にすると、抑えられていた分新入生たちのざわめきは先程よりも大きいモノであったが、さしたる時間もかけずにマクゴナガルが戻って来たせいで慌てて俯く生徒がちらほらと見えた。
「さぁ準備が出来ました。一列になって付いてきなさい」
大広間はホグワーツの規格に相応しい荘厳で広大な空間だ。何千という蝋燭が広間を照らし、中央には4つの長テーブルが置かれている。そこには金色の皿やゴブレットが置かれ、そして何百人もの上級生達がすでに着席して一年生達を凝視していた。上座には5つ目のテーブルがあり、そこに座っているのは学校長のダンブルドアを始めとする教師陣だ。天井の装飾も見事の一言である。本当の空に見えるよう魔法がかけられたそこは、まるでプラネタリウムのように満天の星が広がっていた。
その光景に新入生が見とれていると、おもむろにマクゴナガルが4本足の椅子を置きその上に汚らしい継ぎ接ぎだらけの魔法使いの被るような如何にもといった帽子を用意した。無論ただの帽子ではない。新入生たちの学校生活或いは人生を決めると言って過言ではないほどの重要な役割を持つのは、彼あるいは彼女こそが意思ある帽子、組み分け帽子だ。継ぎ接ぎの一部分が裂け口の様に動く。
私はきれいじゃないけれど
人は見かけによらぬもの
私をしのぐ賢い帽子
あるなら私をは身を引こう
山高帽子は真っ黒だ
シルクハットはすらりと高い
私はホグワーツ組み分け帽子
私は彼らの上をいく
君の頭に隠れたものを
組み分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう
君が行くべき寮の名を
グリフィンドールに行くならば
勇気ある者が住まう寮
勇猛果敢な騎士道で
他とは違うグリフィンドール
ハッフルパフに行くならば
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない
古く賢きレイブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
ここで必ず得るだろう
スリザリンではもしかして
君はまことの友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ
かぶってごらん! 恐れずに!
興奮せずに、お任せを!
君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)
だって私は考える帽子!
どうやら歌はホグワーツ4寮の特色を表すものらしい。組分け帽子が歌い終わると上級生や教師たちが拍手する。
「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子を被り、椅子に座って組み分けを受けて下さい」
「アボット・ハンナ!」
「ハッフルパフ!」
少女がかぶると一拍おいて進むべき寮を示す。するとハッフルパフのテーブルから歓声が上がり少女を温かく迎える。その後も組み分けは続いていくが現時点では組み分け困難者は1人もおらず間髪いれずに流れ作業に新入生は進むべき寮を告げられていく。最初に出た組み分け困難者はハーマイオニー・グレンジャーという名の少女だったが、やがてグリフィンドールの名を組み分け帽子は叫ぶ。次に組み分け困難者となったのは先程レクスとも会ったハリー・ポッターだったが彼もまたグリフィンドールであった。例年は知らないが組み分け困難者はグリフィンドールに選ばれやすい傾向でもあるのだろうか。
「シンクレア・リーゼロッテ!」
組み分けの儀式に飽きてきていたレクスであったが数少ない知人のリーゼの名が呼ばれ組み分け帽子をジッと見つめる。リーゼもまた組み分け困難者のようでしばらく組み分け帽子を唸らせていたがやがて裂け目が大きく裂け進むべき寮の名を叫ぶ。
「フーム、難しい。他者を思いやる心が無いわけでは無いがそれは身内にのみ向けられる。頭も悪いわけではなくむしろ賢く知識を蓄えることを望んでいるか。だがあえて此処ならば……スリザリン!」
スリザリンのテーブルから拍手と歓声が上がる。
「シンクレア・セラフィーナ!」
「グリフィンドール!」
グリフィンドールのテーブルから拍手と歓声が上がる。組み分けの儀式も順調に進んでいき終わりが見え始め、空腹などの理由で皆がしらけ始めていた頃。
「ヴァルトフォーゲン・フリード!」
「グリフィンドール!」
グリフィンドールのテーブルから生き残った男の子ハリー・ポッターの時と同じくらいの拍手と歓声が上がりフリードはグリフィンドール生と握手を交わす。自分が終わったなら次は弟のレクスだとフリードは同じ寮になればいいと思いながらレクスを見る。
「ヴァルトフォーゲン・レクス!」
フリードは前に出て来るのにかなりの緊張を強いられたがレクスはそういったことはないようでどこまでも自然体そのものであった。レクスの名が呼ばれた時は先程のフリードやハリー・ポッターと同じようにざわめきが広がるがレクスが歩みだすとそれは自然と止む。
静まり返った大広間をレクスは静かに歩いて行く。それだけだというのに教師を含めて皆レクスの雰囲気に呑まれ、なんの変哲も無い赤絨毯は王座までの道、見窄らしい椅子と帽子は玉座と王冠に見え、周りの生徒は王の凱旋を歓迎する民衆といったところか。
もはや大広間にはレクスの歩む音のみが響いていた。
ダンブルドアは自らの目を疑う。顔付きも、眼の色も、血筋も、何から何を含めても『彼』とは関係の無い筈。しかしそれでも連想させずにはいられない。在りし日の『ヴォルデモート卿』、すなわちトム・リドルを。
(ふぅむ。これは…)
レクスの頭に直接声が響く。組み分け帽子の声だ。組み分け帽子はかのグリフィンドールより命を受けて以来1000年の間ホグワーツで生徒の経験と素質を見出しそして本人の意思を確認しその者にとって最良の結果となるよう選んできた。それは今回も変わらない筈であった。
しかし組み分け帽子はレクスの思考を読み取ろうとしてもまるで読めない。それはホグワーツを1000年支えてきたという自負のあった組み分け帽子の
そして組分け帽子にはレクスについて何一つとして理解出来なかった。思想はもちろんのこと、溢れんばかりの才能の上限すら計れなかった。組分け帽子に唯一理解出来たことがあるとすれば他者を一切信頼しない極めて強固な拒絶心のみ。それ程の拒絶心を持つ者などここ以外にはあり得ないと悔し紛れに進むべき寮の名を叫ぶ。
「…スリザリンッ‼︎」
教員のテーブルに背を向け歓声と拍手の嵐の中スリザリンのテーブルに着くレクスをダンブルドアはジッと見つめていた。その時ダンブルドアはレクスについて考えていた。それは
かつての魔法戦士としての自分は危険だと認識していた。何故ならあの目には覚えがあるから。かつての既に袂を分けた友と夢を語り合った時の自分と同じ目であったから。しかし、今の自分は魔法戦士ではなくホグワーツの校長だ。教師としての自分からはレクスの背中が酷く脆く儚く見えた。少なくともあの頃の自分には心のうちを語り合える友がいたが彼はどうだろうか。
歓声の中スリザリンのテーブルについたレクスはスリザリン寮の生徒と挨拶を交わしていた。とは言っても来た生徒に対して軽く一瞥するだけだが。その中にはドラコや彼の友人もいたのだが機嫌の良くなかったレクスはそもそも存在に気付いていなかったがリーゼが返ってくる頃にはいつもの無表情に戻っていた。
「結局同じ寮になったわね。改めてよろしくねレクス」
「…よろしくリーゼ」
リーゼはレクスに手を差し出す。だがレクスはリーゼロッテの手を取らない。彼の同年代との交流はフリードと話すか襲い掛かってくる者を仕留めるか、の二択しかなくある意味で箱入りと言えるだろう。だからその意味の判断がつかなかったのだ。リーゼは羞恥心ゆえか顔を赤くする。
「ほら、握手よ。握手」
そうされてようやくレクスは差し出された手の意味を知りリーゼロッテの手を握る。その後は出された豪勢な夕食を食べ、4階の右側廊下に立ち入らないなどの注意を受け、生徒全員でダンブルドアの指揮で校歌斉唱してそれぞれの寮に案内された。
新入生は明日からの学校生活に心を躍らせていたのにたいしレクスの瞳はどこまでも冷めきっていた。