ハリー・ポッター 新月の王と日蝕の姫   作:???

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第5話 ホグワーツでの日々


第5話 Die-ut-die Hogwarts

 レクスが目を覚ますと最初に目に付いたのが硬質的な石ではなく翠色を基調とした装飾の天井だった。一瞬ここはどこだと混乱し掛けたがすぐにホグワーツに入学したのだったと思い出す。同室となった者はドラコとセオドール・ノットとザビニ・フレーズの3人だったが、昨夜は3人とも疲れていたのか部屋が決まるなりベットに飛び込んでしまったのだった。

 レクスは長年の習慣により遅寝早起きという必要最低限の休息しか取らず、何があってもすぐ対応できるように浅い睡眠となるようになっていた。その為レクスが最後まで起きていてベットに入ったのは時計の針が頂点で重なったころであり、目を覚ましたのも同室内ではレクスが最も早かった。

 

 目を覚ましたレクスが手短に身支度を終わらせると例のトランクの研究室から表に出しても咎められない又は秘匿性の薄い魔術書を持ち出しトランクをしまう。部屋にあるテーブルを占領したレクスはそれらの魔術書の考察や訂正、更には理論の改良を行いそれらをレポートにしてまとめていく。他人に対する気遣いが皆無に等しいレクスは未だドラコたちが寝ているというのに高速でペンを紙に走らせ乱雑に魔術書をめくり新たな呪文の発音を確かめていく。

 そんなことをごく近距離で聞かされた3人、特に不運なことにテーブルに一番近いベットに眠っていたドラコはその被害をもろに受け、唸りながら上半身を起こし目をこする。

 

「な、なんだ……!?」

 

 ドラコが部屋を見渡すとレクスが凄まじい勢いで魔術書をめくりメモを書き殴っている。その鬼気迫る勢いに吞まれて話しかけづらく思ったドラコはそのまま再び眠りに着こうとしたが、このままではセオドールやザビニも起きてしまうかもしれないし、そもそもレクスの出す音が原因で目が覚めたというのにそれをどうにかしなければまた同じ事になると気付いたドラコは渋々と、話し掛けるなという雰囲気を醸し出しているレクスの背に声を掛けた。

 

「やぁおはようレクス。朝から熱心だね」

「……」

「あー、でもまだ早いからもう少し周りに気を配ってくれると嬉しいな」

 

 レクスはドラコに話しかけられても振り返るどころか作業している手を休める事すらしないため、心が折れそうになったが一応要求を伝えることができた。レクスはそれでもドラコの存在自体は知覚していたようで自身の周りに防音呪文を掛けて音が漏れないようにする。それを見たドラコは安心して眠りに着いた。次にドラコが目を覚ましたのは6時ごろでその頃になるとほかの二人も目を覚まし始めた。

 

「おはようマルフォイ、ヴァルトフォーゲン。ブレーズの奴はまだ寝てるようだな」

「おはようノット」

「……おはよう」

「そういえばヴァルトフォーゲンは初日の朝からいったい何をやっているんだ?」

「……研究」

「ヴァルトフォーゲンは優秀なんだな。まだ何も習ってないというのに」

「ああ、そうみたいなんだ。朝早くから起きていたみたいだしね」

「そうなのか。というよりもそろそろ急いだ方がいいんじゃないか?伝統あるスリザリン生として余裕を持って動くべきだろう」

「そうだな。ならブレーズも起こしていくか。おいブレーズ、起きろ、もう朝だぞ」

「あぁ……、すまないマルフォイ」

 

 レクスが資料を片付けている間にザビニも身支度が済んだようでレクスを先頭にして談話室への階段を降って行く。すると丁度女子寮の階段からもリーゼが降りてきた。まだ眠たいようで目をトロンとさせていたが良家の令嬢らしく装いは完璧だった。

 

「あら、おはようレクス。昨日はよく眠れたかしら?」

「……いつもと変わらない」

「そう。じゃあ大広間に向かいましょうか」

 

 スリザリンの談話室ではドラコたちが男女学年問わず談笑していたので、邪魔をしては悪いがさりとて1人では大広間に行きづらいと思っていたリーゼは丁度良く来てくれたレクスと大広間に向かう。

 大広間はまだ早い時間帯の為か人もまばらだったがそれでも赤、青、黄、緑とほぼ各寮ずつに別れていた。レクスとリーゼはスリザリン生なので緑に向かうと2人の分の椅子が座りやすいように引かれる。それをしたのはガタイの良い男子生徒でおそらく上級生だった。

 

「初日から余裕を持って行動するとはいい心がけだ」

「ありがとうございます。……それで先輩のお名前をお聞きしても?」

「ああ、すまない。俺はマーカス・フリントだ。ちなみにスリザリンのクィディッチのキャプテンをやっている」

「クィディッチのキャプテンですか」

「ああ。2人はクィディッチに興味あるか?」

「人並み程度には。レクスは?」

「……一回。フリードにせがまれて」

「それでどうだったんだ?」

「……ボコボコにして泣かした」

「初めてで?そりゃ凄いな!それなら来年クィディッチチームに入らないか」

「……興味無いが、考えておく」

「前向きに考えておいてくれ。後は俺からホグワーツ生活をアドバイスだ。取り敢えず2週間は寮を出るなら複数人で動くんだ。城の構造が複雑すぎるからな慣れていないと簡単に迷子になるぞ。それにホグワーツ自体が広いからな、もし迷子になってしまえば遅刻は避けられないぞ。初日なら先生方も見逃してくれるだろうが2回目以降はそうもいかないだろう」

「気を付けて動くようにしますね」

「そうした方がいいだろうな。俺はもう行くが君たちはゆっくりしていくといい。丁度他の新入生が来たようだからな」

 

 マーカスが示した方を見るとスリザリン生だけではなく他の寮生もゾロゾロと来るのが見える。レクスがそちらを見ると人混みの向こうでハリーとロンとフリードがドラコと言い争いをしているのが見えた。ドラコがロンを挑発しそれをフリードは気に入らなかったのか差し出された手を撥ね退けた。ドラコはアレに拒絶された事が余程ショックだったのか呆然としているところをレクスの知らない女生徒に慰められている。その一部始終を見ていたリーゼはため息をつく。

 

「彼は何がしたいのかしらね。あんな事言って仲良くなれるわけないじゃない」

 

 

 

 

 

 レクス達の記念すべき最初の授業は変身学だった。変身学の教室に着くとまだマクゴナガルは来ていないようだがその代わりに教卓の上には、眼の周りに眼鏡のような模様のあるトラ猫が自分が教師だと言わんばかりの堂々とした態度で座っている。レクスはその猫のらしくない仕草や人間臭さから猫が動物モドキ(アニメーガス)であると見抜きマクゴナガルであると推測した。動物モドキ(アニメーガス)はレクスも習得しようと思えば多少の時間を必要とする程には高度な技術である為、変身学の教師として腕の証明になるだろう。

 やがて授業開始の時刻となるがマクゴナガルが現れない為に教室中に困惑が広がる。スリザリン生の印象ではマクゴナガルは、スリザリンの寮監でもあるスネイプと同じように厳格な教師だと認知されていたからだ。騒めきを鬱陶しく感じたレクスは静めろという意思を込めてトラ猫を見る。するとレクスの推察通りにマクゴナガルは動物モドキ(アニメーガス)でトラ猫から人間の姿へと変身する。

 

「流石はスリザリン。遅刻者はいない様ですね。後ミスタ・ヴァルトフォーゲンは私が動物モドキ(アニメーガス)であると見抜いていましたね。スリザリンに10点差し上げましょう」

 

 授業がまだ始まっていないというのに加点されたレクスを他のスリザリン生は感嘆の声を上げる。点呼を取り遅刻者がいないことを確認したマクゴナガルはニコリと微笑むが、しかし表情を元の厳格そうな顔に戻す。

 

「変身術はホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なもののひとつです。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒には出て行ってもらいますし2度と私のクラスには入れません。これは初めから警告しておきます。

なお、絶対にいないとは思いますが私の授業を妨害するようなことをした愚かな生徒には、罰として1日豚として過ごしてもらいます」

 

 その忠告をマクゴナガルなりのジョークであると受け取った大半のスリザリン生は笑うが、一部のスリザリン生はマクゴナガルの目が笑っていないことに気付いた。この教師はやると言えばやるだろうと。

 その後マクゴナガルは教卓を豚に変えてまた元の教卓に戻すということをやったが、生徒に対しておふざけが過ぎると豚に変えるぞと脅した後に教卓を豚に変えるとは趣味が悪いと生徒は顔を引き攣らせるが、レクスは別のことを考えていた。次にフリードが煩かったら豚か机に変えてやろうと。

 変身術の基礎部分の理論と魔術の仕組みと術の扱い方を黒板にまとめた。それらをノートにとった後は、一人一人にマッチ棒を配り、それを針に変える練習が始まる。

 レクスはそれらを配られてからも課題に取り掛からずに周りを観察していた。オーケストラの指揮者のように杖を振る者 何度やっても出来ず杖を投げ出してしまう者、杖で直接叩いて着火させた者、教科書の見本と見比べながら振る者、など様々だった。

 もしここに感情の機微に敏い者がいればレクスの僅かな表情から落胆の色が見えただろう。フリードの件からして大した教育など受けていないのは察していたが、それでも宝石の原石のような磨かずとも輝ける者は居ないのかと落胆のため息をつくが後ろの席からの歓声にかき消される。

 

「皆さんミス・シンクレアがやりましたよ。お見事ですスリザリンに5点差し上げましょう。皆さん彼女を見習って頑張りましょう」

 

 リーゼがマッチ棒を針に変えることに成功したのだ。落胆の色の無くなった瞳をレクスは好奇心に染める。やはり姉妹ではリーゼが太陽(・・)なのだろうか。無論ヴェルヘイムに従う訳がないが予言で自らに比肩しうると言われたのなら気になるだろう。

 レクスはしばらくリーゼを見つめていたが我に帰ると杖を取り出す。興が乗ったレクスは杖をマッチ棒に向ける。するとマッチ棒が金属光沢のある鋭角的な細い棒、すなわち針に変化した。

 

「まぁ、ミスタ・ヴァルトフォーゲンもやりました。スリザリンに5点差し上げましょう」

 

 課題を達成した実例が2件ある為、彼らは目の色を変えて取り組むが結局完璧にマッチ棒を針に変えることができたのは2人だけだった。そもそも僅かにでも変化させられたのがレクスとリーゼを入れても6人しかいなかった。

 

 次の授業は魔法薬学の授業だった為地下室に向かっている。担当の教師はスリザリンの寮監でもあるセブルス・スネイプだった。噂によればスリザリン贔屓が酷く他寮特にグリフィンドールを嫌っているらしい。

 皆楽しそうに談笑して歩いていたが途端に険悪になる。魔法薬学はスリザリンとの合同授業である為、教室が近くなるとどう足掻いても合流してしまう為だ。

 新入生は寮の先輩から色々な話を聞かされる。グリフィンドールからは、スリザリンは自尊心(プライド)が高いくせにすることが汚いと。スリザリンからは、グリフィンドールは阿呆の集団のくせして傲慢だと。こういう小さな事が長年積み重なってスリザリンとグリフィンドールの不仲を引き起こしているのだろう。

魔法薬学の教室に入ると緑と赤、すなわちスリザリンとグリフィンドールにきっちりと別れている。

 やがて授業開始の時間となりスネイプは時間ギリギリに来たグリフィンドール生を睨みつける。

 出席を取る為名簿を読み上げるスネイプだったがハリーのところで止まりその表情に嗜虐的な不快な笑みをニヤリと浮かべる。

 

「ああ、左様。ハリー・ポッター……我らが新しい ーー スターだね」

 

 出席を取り終えたスネイプは生徒を見渡し、朗々と己が受け持つ授業について語る。マクゴナガルと同じくそう大きくない声量だというのに自然と教室中に響く声だった。

 

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学んでもらう。このクラスでは杖を振り回すような馬鹿げた事はやらん。これでも魔法かと思う者も多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……。諸君がこの素晴らしさを完全に理解することは期待してはおらん。我が輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である。もっとも、我が輩がこれまで教えて来たウスノロどもより諸君がまだましであるならの話だが」

 

 スネイプは自らの魔法薬学に対する考えを詩的に表現するがそれを終えると教室を見渡し、ある一点を見つめ叫ぶ。

 

「ポッターッ!アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 

 ハリーは突然の名指しの質問にギョッとして目を白黒させるが、これは彼が悪いのではない。仮に手元にある教科書を隅から隅まで読んでいたとして載っているのは僅かな数行の記述のみで理解できないだろう。なにせその問題は本来なら六年生の問題だからだ。

そんなもの解るのはごく僅かな例外のみだ。そしてごく僅かな例外に属するグリフィンドールのハーマイオニー・グレンジャーだが、手を挙げていても空気の如く無視されている。

 

「わかりません」

「どうやら有名なだけではどうにもならないらしい」

 

 緑側つまりスリザリン生が手を挙げる。リーゼだ。それを見てレクスはジッと探るようにリーゼを見つめる。

 

「わかるのかね?シンクレア」

「はい。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを混ぜたならば『生ける屍の水薬』と呼ばれる分量によっては名前の通り屍の如く眠らせるほど強力な眠り薬となります。

また完成にはこれらに加えて他にも刻んだカノコソウの根、催眠豆の汁を加える必要があります。更に付け加えて言うのなら催眠豆の汁の成分は熱に弱いため作業は特に迅速に行う必要があります」

「正解だ。スリザリンに5点だ。ではポッター、挽回の機会をくれてやる。ベゾアール石を見つけて来いと言われたらどこを探すね?」

「……わかりません」 

「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな?ポッター」

 

 ひたすら手を上げ続けるハーマイオニーを空気の如く無視するスネイプはスリザリン生の顔を見渡しレクスと目が合った。

 

「ならば、次はお前だヴァルトフォーゲン。お前ならばわかるだろう?」

「……ベゾアール石は山羊の胃から取り出す。萎びた内臓のような形で大抵の解毒剤となる」

 

 分からなかったらこの場に既に居ないと内心毒吐きながら答える。

 ヴァルトフォーゲンの虐待(教育)のひとつに、強力な毒薬を飲ませて本人に解毒をさせると言うものがあったからだ。当然毒が回れば死に至り、回りきる前に解毒薬を配るなどと言う人道もある筈が無く、この教育のせいで千人近くの”名無し”が死んでいった。

 

「正解だ。だが教師には敬語を使うように。スリザリンに3点だ」

「……また、魔力を込めた水に付けると発光する為本物の判断は容易です」

「最近学会の報告で解ったことだというのに知っているとは。追加でスリザリンに10点」

 

 スリザリン生であれば挙手せずとも指名されるのでハーマイオニーは愕然としている。

 

「ではポッター、モンクスフードとウルフスベーンの違いは何だね?」 

「わかりません……ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

 

 これもわからなかったハリーはついに限界に達したのか言葉を選んでスネイプに意見する。

 その一言にハーマイオニーは自分が当てられるかもと希望を抱き半ば席を立ちながらさらに手を伸ばす。ハーマイオニーに座れと指示を出し、粘着質な不快な笑みを浮かべる。

 

「ポッター、教師に対するその物言いは無礼だ。グリフィンドール、2点減点」 

「さて、シンクレアかヴァルトフォーゲン、あるいは別の生徒でも構わんが、解る者はいるか?」

 

 レクスとリーゼは顔を見合わせる。レクスは首を横に振りリーゼに回答権を譲る。

 

「モンクスフードとウルフスベーンは呼び方が違うだけで同じ物で成分に違いはありません」

「正解だ、スリザリンに3点くれてやろう。更に付け加えるならばマグルの言葉でトリカブトと呼ばれるものだ。さて、諸君、何故いま言ったことを全てノートに書き取らんのだ?」

 

 その言葉で一斉に羽ペンと羊皮紙を取り出す音が響いた。

 2人一組でペアを組ませおできを治す簡単な薬を作らせる。がその後もスネイプはグリフィンドールの粗を探し減点し、またはスリザリンに加点していく。

 大きな騒音が鳴り響いた。何事かと振り返るとネビル・ロングボトムが大失敗をして鍋を壊し、おできを治す薬の失敗作を周囲にぶちまけ自分も全身に浴びたようだ。

 

「彼が失敗すれば自分がよく見えると考えたな?グリフィンドール2点減点」

 

 レクスからはスネイプがハリーを相当憎んでいるように見えた。だがハリーを見るスネイプの目は憎悪だけでは無くレクスの与えられたの無い感情も混じっているようだった。あれはカイルがフリードに時折するような目であり、ダイアゴン横丁でレクターがリーゼたちと合流出来た時と同じ目だ。

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