ハリー・ポッター 新月の王と日蝕の姫   作:???

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第7話 決闘のちのケルベロス


第7話 Cerbero vidi post duelli

レクスに鼻っ柱をへし折られ、すっかり意気消沈していたドラコだったが、彼にぞっこんなパンジーの下手くそな励ましによっていつもの増長慢なドラコに戻った。

 そんなドラコが最初にしたことと言えばハリーが退学になるだろうという事を吹聴して回ることだった。だが放課後になろうとも、人付き合いの悪いレクスは当然として寮内でそれなりの交友の輪を持つリーゼですら誰かが退学になるという噂すら耳にしなかった。それでもポッターが退学になると信じて疑わない一部の馬鹿は浮かれすぎて減点をされるほどであった。

 やがて夕食の時間となり珍しくレクスが連れたドラコと大広間に入ると、ロンやフリードや双子のウィーズリーに囲まれて何やら騒いでいるのが目に入った。さしものドラコといえども上級生に突っかかる気概は無いようで、双子がどこかに立ち去るとハリーたちに向かって歩み出す。

 

「やぁポッター、それが最後の晩餐か?荷造りは終わったかい?マグルのところに帰る汽車にはいつ乗るんだ?」

「地上ではやけに元気だね。小さなお友達もたくさんいるようだしご自慢のお友達といるからかな」

 

 冷たく返されたハリーのひと言が図星だったのか顔を赤くして言葉を詰まらせるが、直ぐに持ち直し良いことを思いついたと言わんばかりの表情へと変える。

 

「なら、僕一人だっていつでも君の相手になろうじゃないか。お望みなら今夜だって構わない。魔法使いの決闘でね。無論マグル共がする野蛮な殴り合いじゃない。まぁポッターやウィーズリーじゃあ聞いたことも無いんじゃないか?」

 

 ドラコの嘲りの色を含んだ問い掛けに対してむっとしたロンが食って掛かる。

 

「もちろん聞いたことくらいあるさ。場所と時間は?まあ、お前に本当に来るだけの勇気があるなら、だけどな」

「なら今夜の真夜中、トロフィー室でどうだ。こちらの介添人はこのレクスだ」

「……」

「分かった。ハリーを介添人にする。逃げずに来いよ」

「ふっ、当然だろう」

 

 スリザリンのテーブルに着くなりドラコはレクスに頭を下げる。ドラコがレクスを介添人に指定した時ドラコだけに聞こえる小さな舌打ちをレクスがしたのだ。寮内ヒエラルキーにて最低でも同格以上かつ既に7年生を超える知識と技術を持つレクスは騒ぐのは好きではようだからこのままでは杖を突き付けられる気がしたのだ。

 

「いきなり巻き込んで悪かった。今度何か埋め合わせをするから許してくれ」

「……好きにして」

 

 夕食が終わり寮に戻る前にドラコは管理人のフィルチに何やら耳打ちしていたようだった。その後寮に戻るなりドラコは決闘の件を自慢し始めたのだ。

 

「ねぇ、あれってどう言うこと?」

「…巻き込まれた」

 

 寮の騒ぎから少し外れた位置にあるソファにてレクスは今回の件のあらましをリーゼに教える。

 聞き終わったリーゼは失望の色の混じる溜息を深く吐いた。今回の件を聞く限りドラコにはトロフィー室に出向く気が無いだろうとリーゼは考えた。なにせドラコは普段威張り散らし君臨していようとも、根本的にずる賢い小心者だからだ。おそらくポッターたちを嵌めるだけの罠だろう。

 

「それってドラコ行く気あるのかしら」

「……無い」

「そうよね。別にマルフォイが何しようともどうぞご勝手にと思うけどその手段は気に入らないわ」

 

 ドラコらしいと言えばドラコらしいが決闘とまで言っておいて、そもそも行かずに他人を貶めるのは気に入らない。そして何よりも私の友人をそんなことの出汁に使うとは覚悟しておきなさい、と心の中で呟いた。

 

「ああ本当に気に入らないわ。ドラコを焚きつけましょうかレクス」

 

 レクスもどの道ドラコが決闘から逃げるなら何をしてでも連れて行くつもりだったのでリーゼの提案は渡りに船だった。豚か何かに変えて引き摺って行くか四肢を一本程折って大人しくさせるかを考えていたが、社会的制裁で話が済むならそれの方が楽だと静かにうなずいた。

 レクスが頷いたのを確認したリーゼは、未だに自慢を続けているドラコに近付いて行く。どうせ行かないのであれば黙っていればいいというのに。

 

「ちょっといいかしら?マルフォイ」

「ああ、何だいシンクレア。ひょっとして僕の話でも聞きに来たのかい」

 

 リーゼが話し掛けるとドラコは面白いくらいに動揺して髪を整えながら頬を赤く染める。

 

「ええ、その事よ。ポッターとウィーズリーが真に受けて寮を抜け出したらフィルチがミセス・ノリスとお出迎えなのかと思っていたのだけれど」

「なぁっ⁈なっ、何を言うんだリーゼロッテ⁉︎」

「……逃げたら蟲」

「虫って何を知るつもりなんだ⁈」

「……」

 

 ドラコは内心考えていたポッターとウィーズリーの減点の為の計画を暴露され顔を青くする。そして介添人に指名したレクスの氷の様に冷たい印象の蒼の瞳と発言に引攣らせる。

 面子を重んじるスリザリンで実際に決闘をすっぽかせば、例えハリーやロンがどれだけ減点されようとも向こう一年は軽蔑されるだろう。

 助けを求め周囲に目を走らせるが瞳に映るのは、行かないのか 行くよな 小生意気なポッターやウィーズリーをぺしゃんこにしてしまえ などのドラコを信じ激励する顔だらけだ。

 誇らしげにスリザリンの談話室で語っていた時点でこう切り出されたら保身の為に行くしかないのだ。いや保身以前に逃げればレクスから何されるか分からない。だが少なくとも荷物に虫を仕込む程度ではすむまい。そんな生温い性格でないことは解っている。

 

「そ、そんな訳無いじゃないか。こ、このドラコ・マルフォイに掛かれば憐れなポッターや貧乏人のウィーズリー如きなんかに臆するとでも思ったのかい」

 

 ドラコはリーゼとレクスに乗せられていると分かっていながら行くと宣言した。させられてしまった。きっと彼は内心泣いているだろう。

 

「そう。なら良いわ」

 

 そう言い残しリーゼは元のソファに戻る。

 

「ねえレクス。決闘に私もついて行って良いかしら?」

「……構わない」

「ありがとう。なら今のうちに仮眠してくるわ」

 

 リーゼが女子寮に戻った後レクスは暇を持て余したがドラコに乞われて軽く指南していた。

 

「それでレクス。どんな魔法が有効なんだ?」

「……死の呪い」

「いやいやいや、それは駄目だろう。そもそも使えないよ」

「……悪霊の炎」

「はぁ、そんな魔術一年生どころか七年生だって使えないよ。もっと僕でも使えるような効果的なのは無いのかい?」

「……杖を捨て殴れ」

「それは遠回しに馬鹿にしているのかい」

「……時間」

 

 レクスに促され時計を見たドラコがそろそろ行こうかと席を立つとちょうどその時女子寮の階段から降りてきた。

「あら、これから行くのね。ちょうどよかった。私も行くわ」

「レクス聞いていないんだが…」

「……言ってない」

「ま、まあ僕も言ってなかったからな。さぁ行くぞ」

 

 ドラコの勇ましいかけ声と共に寮を飛び出したはいいがその後の行動が腰抜け同然だった。壁づたいに歩き角を曲がる時は何度も確認する。物音一つに対しても過敏に反応し幽霊(ゴースト)と遭遇した時は危うく声をあげそうになった。

 だが管理人のフィルチとその飼い猫のミセス・ノリスに見つからずにすんだのは幸運だっただろう。レクスたちがトロフィー室に着いた時にはハリーたちはまだ居なかった。

 

「なんだあいつら、臆病風にふかれたのか?」

 

 ドラコがまだ来てないハリーたちにそもそも来る気の無かった事を棚に上げて文句を言いながら待つ事数分、ようやく来たのはいいがこっちに追加でリーゼが居るように向こうにも追加が居た。ハーマイオニーとフリード。此処までは予想の範疇だったが、更にセラフィーナとネビルまでついて来ていた。

 

「遅いじゃないかポッター。臆病風に吹かれたのかと思ったよ」

「ふん、そっちこそ来ないかと思ったよ」

 

 ドラコとハリーがいつものように言い合っているのを傍目にレクスとリーゼは兄妹と喋っていた。

 

「……何故お前が」

「ん?それはまぁ、あいつらが決闘をやるなんて言い出したからよ。つい気になってな」

 

 一年生同士の練習にすらならないだろうお遊びの決闘であっても決闘は決闘だ。気になるのは当然だとフリードは言う。

 

「はぁ、なんでセラまでいるのかしら?」

「わたしはハーマイオニーと一緒に止めようとしたんだけど締め出されちゃて、ていうかそれを言ったらなんでお姉ちゃんまでいるの!」

 

 しばらくするとその言い合いも決着が着き、決闘の作法を知っているハーマイオニーとリーゼが進行をする事になった。知っているドラコはともかく知らないハリーやロンは一体どうするつもりだったのだろうか。

 

「最初にすこし離れて、向かい合って立つ。次に、互いに一礼。

 お辞儀をしなさいウィーズリー。はぁマルフォイは知っているでしょう。お辞儀をしなさいって言ったでしょう。例え親の仇だろうとしなければいけないことになってるのよ」

「そうしたら杖を剣みたいに構えるのよ。3つ数えたら、互いに術を掛け合うの。そこっ、3つ数えたらって言ってるでしょう!」

 

 ちっともいう事を聞かない2人を制御するのに疲れたリーゼが扉の方を見たらさっと顔を青くする。レクスからはその時のリーゼの紅の瞳が妖しく虹色に変色し輝いているのが見えた。

 

「決闘は中止よ!」

「はぁ?何を言ってるんだ」

「そうだよシンクレア。なんで決闘を取りやめにするんだい」

 

 血相を変えたリーゼが小声で叫ぶ。

 

「いいから早く!フィルチが来るわ!」

 

 取り乱したリーゼはドラコやロンが抗議しようとも取り合わず、近くにいたセラフィーナの手を引いてトロフィー室の奥の扉に消えた。レクスの人外的な聴覚はフィルチの足音を捉えていた。いざとなれば全員の記憶を改竄した後、リーゼを連れて付き添い姿現しをすればいいと考えていたので黙っていたがリーゼは如何なる手段をもってフィルチに気付いたのだろうか。

 リーゼに続いてレクスまで出て行ってしまったのを怪訝そうに見ていたドラコら6人だが、硬い靴の歩く音とフィルチの低い声がレクスらが出ていった方とは反対側の扉のすぐ向こうで聞こえるのに気付いた。

 

「まったく、こんな時間に騒ぎまわりおって。よしよし、しっかり嗅ぐんだぞ、ミセス・ノリス。隅の方にも隠れてるかもしれないからな」

 

 残った6人もようやく事態の不味さを把握して慌ててトロフィー室を出て行く。最後に出たロンと入れ替わりでフィルチがトロフィー室に入って来た。間一髪のところだった。

 全身鎧がずらりと並んだ回廊を先に進んだ3人を追いかけ6人が走る。

 フィルチから逃れようと更に走ったロンはローブの裾を踏み転ぶ。目の前にいたネビルを巻き込んで。巻き込まれたネビルはドラコを掴み、ドミノ倒しの様に倒れ全身鎧も一緒に倒してしまった。

 鎧が倒れ凄まじい金属音が鳴り轟いた。

 後ろからフィルチの怒鳴り声が聞こえたが構わず走った。

 出鱈目に走った9人は気付くと妖精の魔法の教室の前にいた。

 

「このウィーズリーっ…、ロングボトムの大間抜けですら転ばなかったのに……」

 

 息も絶え絶えにドラコがロンを罵る。

 近くの教室の扉から青白い男が現れた。ピーブスだ。

 

「うぅ、また厄介なのが」

 

 ロンがピーブスを見て呻く。

 ピーブズはレクスたちをみつけると暗い目を輝かせ、癪にさわる嫌らしい甲高い笑い声をあげた。

 

「おやおや、真夜中にフラフラしているのかい?一年生ちゃん。チッ、チッ、チッ、悪い子、悪い子、捕まるぞ」

「あなたが黙ってくれたらなら捕まらなくて済むわ。お願いピーブス」

「フィルチに言おう。言わなくちゃ。君たちのためなる事だものね」

 

 ハーマイオニーが懇願に対してピーブスは当たりの良い言葉を使っているが、目は嗜虐心に満ちている。

 

「黙れ。下級霊風情が」

 

 ドラコが耐え切れずピーブスに怒鳴る。

 ピーブスが一瞬黙った後、大声で叫ぶ。

 

「生徒がベットから抜け出した!妖精の___」

「シレンシオ」

 

 レクスがピーブスに魔法を掛けるとピーブスは声が出せなくなり水揚げされた魚の様に口をパクパクさせている。

 それを見ていたドラコは歓声を上げるがすぐに我に返り近くの扉に飛びつく。

 

「クソッ、駄目だこの扉は閉まってる」

 

 ドラコが扉を開けようとするが鍵が掛かっているようで開かない。それを見たレクスは無言呪文で解錠した。鍵の開いた音がしたため扉の向こうへどっとなだれ込んだ。

 レクスは暗闇でも問題なく見えるが、残りの全員はそんな目をしていないので気付いていないようだがその部屋には自分達の他にもう一人、いや一匹いた。

 下手な小屋よりも大きい巨体に、子どもすら丸呑みに出来そうな頭が3つある巨犬、つまりはケルベロスだ。

 その頭にある一対の血走った目は探るように此方を見ているが、レクスと顔の1つと目が合うと僅かに後退りし怯えながら警戒するように唸る。

 

「連中はどっちに行った。さぁ言えピーブス!」

 

 フィルチが追いついて来て外にいるピーブスに聞くが呪文によってピーブスはしばらく喋れない。

 

「早く言え!ピーブス!」

 

 ピーブスは身振り手振りで罵りヒューと消える。

 

「フィルチも消えた。もう大丈__」

 

 フリードが安堵の表情を浮かべ振り返るがすぐに顔を引き攣らせた。漸く三頭犬の存在に気づいたのだ。

気付いたフリードたちは慌てて反対側に滑り込む。リーゼはケルベロスに杖を向けているレクスの手を引き脱出する。リーゼは知る由もないがレクスにとってはケルベロスだろうと子犬と脅威度は変わらない。

 

「クソッ、ダンブルドアは何を考えてるんだ⁉︎学校内であんな怪物を飼うだと⁈パパに訴えてやる!」

 

 レクスは寮に戻った後ベットで横になりながら何故ケルベロスがいたのかを考えていた。禁じられた廊下の件はケルベロスがいるからだろう。何故いるのかを考えるとやはり門番としているのが状況からしてしっくりくる。次にならば何を守っているのかだがこれは既に推測出来ている。賢者の石だ。

 リーゼと初めて会った日レクスはノクターン横丁にてフラメル夫妻、ひいては賢者の石の情報を探しに来ていた。ほとんどは無駄な情報であったがボージンという男から買った情報に、ニコラス・フラメルがかつての友誼を頼みに賢者の石をダンブルドアに託した、というものであった。

 賢者の石などという非常に強力な魔法の品を保管するのであれば、肌身離さず持ち歩くか金庫に入れて厳重な守りを敷くかのどちらかだろう。であるならば金庫に相当する場所があるではないか。

 レクスは自分の才能を正しく理解していた。才能は過去現在そして未来においても最上であると。いずれは森羅万象のあらゆる存在がひれ伏し、あらゆる現象を手中に収められると本気で思っているがそれは未来の話だ。

 現状ではまだダンブルドアには敵わないと理解している。

 ならば待とう絶好の機会を。

 


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