発掘倉庫   作:ケツアゴ

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これで最後


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「ほらほら! どうしましたか!!」

 

 正直言って正面から襲撃をかけてくるだけはあると思うよ。前魔王の血統のカテレア達の魔力は魔王級には至らず、だからこそ僕達が魔王になることに賛同し、彼女達を追放する事に賛同してくれた貴族は多かった。今となっては領地運営の経験のない僕達ならば御しやすいと思われていたからかもしれないが。

 

 ただ、魔王の三倍以上の魔力を振るい僕に襲いかかるカテレアだけど、その力の使い方は何処か不安定だ。例えるなら途轍もない水圧のホースを支えきれずに周囲を水満たしにしている感じかな? おそらく何かしらのドーピング。……アザゼルの言う通りだ。僕たちに怨みを持っていると分かっているのに放置していた彼女達がこんな力を得て襲って来るなんて失態以外の何物でもないよ。

 

「貴方達も手伝いなさい!」

 

 更に魔王級の魔術師数十名による援護。……だが、僕には全く届かない。僕の魔力は前魔王の十倍程。ただ戦うのなら問題はない。だけど、この校舎を守る必要がある。会談が襲撃されただけでなく、その会場が跡形もなく吹き飛ばされたなんて今後に支障を来すからね。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 ドーピングでも核となる物が何処かにあるのなら其処だけを破壊すれば良い。でも、ドーピングのタネが薬品の類なのか体全体に行き渡っている。流石に此処までの相手だけを吹き飛ばすのは骨が折れる。

 

 ただ、この時僕は何処か楽観視していた。この場さえどうにかすれば終わりだと。

 

 

 

 

「……なんだ? かっ!?」

 

 異変は直ぐに訪れた。突如校庭中、いや学園の敷地中に咲き乱れる毒々しい色の花。其処から花弁と同じ毒々しい色の花粉が吹き出し、周囲に霧の様に漂う。魔術師の一人にまず症状があらわれた。口から泡を吹き出しながら首を掻き毟る。やがて眼球が毒々しい色へと変色し、体中の穴から血を噴き出して落下していった。

 

「なんだ、どうした!?」

 

「九龍とやらの仕業か!?」

 

 ……どうやら向こうの仕業じゃないみたいだ。僕は冷静に頭を働かせながら滅びの魔力で周囲の花粉をかき消すが次々に花粉は噴出される。

 

「雑草を駆除するときは……根っこからだね!」

 

 幸い、と言うべきではないのだけれど魔術師達はこの花粉で次々に倒れ僕の邪魔をする余裕はない。今が好機だ。

 

 僕が放った魔力はカテレアの胸部を消し飛ばし、そのまま眼下の花を消し飛ばす。地面を削るように放った魔力は視界に収まる全ての花を消滅させた、だが、この花は広範囲に生えている。恐らくは避難した皆の所でも。

 

 

「……行かないと」

 

 僕は急ぐべく壁に空いた穴から飛び出そうとし動きを止める。心臓を消し飛ばして息絶えたカテレアの死体から尋常ならざる力を感じたからだ。

 

「この力は今の僕以上!?」

 

 そう。間違いなく感じる力は今の僕を圧倒する程。あの大戦において三大勢力を混乱させた二天龍に匹敵するほどの力がカテレアから。正確にはカテレアの死体の内部から放たれる。やがて彼女の口から一輪の花が生えたかと思うと蕾が肥大化し、中から一人の青年が出てきた。

 

 

 

 

「やあ、初めまして」

 

「……初めまして。君は誰かな?」

 

 異常な状況下での出会いにも関わらず彼は平然と、それこそ道でバッタリであったかの様な自然な流れで話し掛けて来て、僕も思わず挨拶を返してしまう。

 

 眼鏡を掛けて黒いシャツの上から白衣を着ており、だらしなくネクタイを締めた短髪の青年。知的な風貌で理系の研究者を思わせる彼は開いた蕾の中からゆっくり降りるとカテレアの死体を見下ろした。

 

 

「彼女、馬鹿だと思わないかい? 数日前から体内に潜んでいたから知ったんだけど、最初から最後まで他人の力を借りる事を計算に入れて計画を練っていたんだ。それで誇り高いとか言うんだもんなぁ。いや、僕だって相棒と組んでるけどさ此処までじゃないよ」

 

 ヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべる彼の前でカテレアの死体は急速に枯れ、やがて消え去る。まるで体内から生えた花に全てを吸われたかのように。

 

 

「君は誰だと聞いたんだけどね」

 

 分かる。この男は危険だ。そして間違いなく敵。少しでも情報を引き出す必要があり、それは僕にしか出来ない役目だ。他の皆じゃ無駄に死ぬだけだと思う。いや、正義君の助手の彼女は分からないけれど。

 

 

 

 

 

「僕かい? 僕の名はザリチュ、『乾き』のザリチュ。今日は僕達の組織『ダエーワ』の活動再開を祝して知らせに来たんだ。……不吉をね!」

 

 

 『ダエーワ』、その名を聞いた僕の背中に嫌な汗が浮かぶ。話にだけ聞いた事がある。全ての悪を司る神『アンリマユ』を頂点とした七大魔王に率いられたゾロアスター教の存在。アンリマユが気紛れから自殺してから殆どが表舞台から姿を消したと聞いている。

 

 

「では、まず君に届けようか」

 

 ザリチュの瞳の色が変わる。先程までの軽薄な青年の物ではなく、獲物を甚振り殺戮を好む化物の瞳。咄嗟に構えた瞬間、腹部に違和感を感じる。

 

 

 

 

「君は僕達クラスって聞いていたんだけど……本気を出す前に終わっちゃったか」

 

 床から生えた茨が僕の腹を貫き内蔵に絡みつく。消し飛ばす前に主要な器官を全て締め付け、そして潰されたと理解した。退屈そうに欠伸をするザリチュの背中を見ながら僕は助からないと理解する。ああ、フェニックスの血でも引いていてそれが急に目覚めたら助かるのかなと馬鹿なことを考えていると自然と笑みが浮かぶ。

 

 

 変だな…もう…死ぬのに。とても…苦しいのに……。

 

 頭に浮かぶのは死への恐怖ではなく大切な家族との思い出。死の瞬間の走馬灯って本当にあるんだなと感心してしまった。……うん。僕だって悪魔の為と多くを切り捨ててきたんだ。僕が踏みにじられる番が来ただけだ、仕方ない。

 

 

 

 

 だけど僕もタダでは終わらない。皆にお前達の事を知らせて……お前だけでも道連れだ!!

 

 

 

「おや? おやおやおやおや? これは面白い!! 実に面白い!!」

 

『この姿を見ても驚かないんだね』

 

 僕の真の姿は悪魔とは別のもの、化物だ。人の姿をした滅びの魔力、触れるもの全てを消し飛ばす危険な力。この姿ならまだ持つ。もう死が確定した僕じゃ僅かな延命措置にしかならないけれどそれで十分だ。

 

 まず、空に魔力を打ち上げて文字を描く。ただ簡潔に『ダエーワ』と。もう視界もぼやけて狙いも付けられない。だから消し飛ばす。校舎ごと消し飛ばしてでも此奴は倒さなくてはならないんだ!!

 

 

 

 

『お前も…一緒に…来い!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔力の塊と化した僕の中で巨大な存在が吹き飛ぶのを感じ、僕の意識は途絶える。ああ、心残りが一つ。僕の可愛いミリキャス。もう一目だけでも君に会いたかったよ……。

 

 

 

 サーゼクス・ルシファーの葬儀は魔王なだけあって盛大に行われた。最期に新たな脅威が何であるかを伝え、強襲を仕掛けてきた犯人を道連れにしての立派な終わり方だと誰もが称え……た訳じゃ無かった。

 

「役立たずが。本当にダエーワの者を倒したのかさえ不明とは」

 

「戦闘能力があったからこそ他神話への牽制の為もあって魔王にしてやったのに期待外れだ」

 

 出席する老貴族は建前として悲しみと賞賛を浮かべながらも、実際は侮蔑と嘲笑、次の傀儡を誰にするかの迷い。出来れば自分達の近親者を押したいが、立場が上の者に睨まれたり失敗の責を問われたらとの迷い。魔王の後継者としての権利は欲しいけど、義務は嫌だって何処かのお嬢様みたいなあ連中が多かった。

 

 まぁ、欲望に忠実なのが良いって種族だし、これから他の勢力とも仲良くやる必要があるから仕方ないと言ったら仕方ないんだけどさ。

 

 

「私はビィディゼ・アバドンを推そう。他の勢力のトップを避難させた功績もあり、トップランカーだ。問題はあるまい。魔王としても、傀儡としても」

 

 そんな時こそ老貴族のナンバーワン、ゼクラム・バアルの出番さ。ビィディゼがゼクラムにとって都合の良い道具である事は上層部の多くが知っているし、発言者が発言者だから文句は出ない。

 

 

 

 

「これから前の魔王と比べられるだろうけど、悪魔ごときの評価なんて気にしないでね。今日から君に名前をあげるからさ。ビィディゼで良いよね?」

 

「ははぁっ! 有り難き幸せで御座います、創造主様っ!」

 

 勿論文句なんか言わせる気はないけれど、どうやら嬉しいのか感極まった様子。忠義とかよく分からないけれど、クロロももう少し……うぇ。傅く彼奴を想像したら気持ち悪くなったや。

 

 

 

「さて、これで魔王派と貴族派に僕の手駒を送り込めた。……アジュカは能力的にグレートレッド戦では捨て駒にしかなりそうにないし、ダエーワとならワンチャン有るかな? 出来れば数体纏めて相打ちになればいいのにさ」

 

 世の中そんなに上手く行くわけ無いし、ちゃんと作戦を考え何重にも準備をしておかないと考えながら僕は椅子に身を預ける。三大勢力は結局協定を結んだ。これから駒王町がその中心で、僕達以外の構成員は彼処を中心に攻撃に出るだろう。人を巻き込めば奴らの評判に傷が付くしね。

 

 

 

 

「まずは人造天使。天界に頼まれた転生システムも考えなきゃ……」

 

 同盟を組んだとしても、少し前まで敵対していた種族に命運を託すのは反発が大きいから、そう言ったのは僕の所に依頼が来る。アザゼルは自分で作りたいからって僕の研究に興味津々だったけど教えない。これから忙しくなると思うと急に眠気がやってきて、僕はそのまま目を閉じて睡魔に身を任せた……。

 

 

 

 

 

 

「ふぅーん。総督自ら出張ってくるって事は、堕天使は下の者が有能優秀なんだね」

 

「おうよ! 俺より書類仕事に向いてるからな」

 

 君はそれほど必要じゃないって言う嫌味が通じているのかいないのか、町に滞在することになったアザゼルはゲラゲラ笑っている。流石に協定の行われた地という事で何時までも領地運営の素人に任せるわけにも行かず、取りあえずの責任者をアザゼルにして、悪魔と天使から補佐官を派遣、重要な判断はトップ同士の話し合いで決めるらしい。

 

 サーゼクスが死んだし、リアス・グレモリー達も帰還するのかと思ったけど、非現実主義者の貴族達が反発、誇り高き悪魔が消えかけていた勢力に臆して逃げるわけには行かないって馬鹿騒ぎし始めた。

 

 僕も餌が有る方が旧魔王共を操りやすいし、サーゼクスの死亡で発言力の低下した魔王派じゃ抵抗しきれなかったから、残る奴らをどう利用するか考えなきゃね。

 

 

 最強の魔王という戦力を失い、純血悪魔を死なせるわけには行かない今、戦力の補充は急務とだけあって使えそうな人間や人外探しが活発化、セラフォルー・レヴィアタンは今後必要となる他神話との同盟に支障がでないように駆けずり回って過労気味らしい。

 

 造魔の予約も一杯だし、元から居るのと併せて獅子身中の虫は確実に悪魔社会を蝕んでいた。トップの一角と事実上のトップが敵なんだから仕方ないけど。

 

 

「新しい魔王の評判はどうだい?」

 

「上々だな。いくらサーゼクスが強くても実際に戦う姿を知ってる奴は民衆にゃ少ないし、それよか誰もが知っているトップランカーの方が分かり易いんだろ」

 

 悲しいけど其れが現実。どんな奴か分からない敵と相打ちになった最強って噂の魔王より、他勢力のトップを避難させて恩を売った有力選手の方が人気が出るもんだ。

 

 本当に笑えるよ。・・・・・・・使い易い駒が減ったのは残念だけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、この子達が新たな同族です。暖かい拍手を!」

 

 堕天使も悪魔も生殖が可能だ。だけど天使は可能だけど不可能だった。一定の条件下で互いに欲を捨てて励むことで漸く人との間に奇跡の子と呼ばれるハーフが生まれる。でも、実例は少ないし、所詮は男と女、欲を捨てきれないのが当たり前だ。

 

 

 だからこそ、ミカエルの血を引く十人の人造天使の御披露目は盛大に行われた。天界中の天使を集めただけでなく、同盟相手である悪魔や堕天使の所でも中継を流すらしい。

 

 最初は育て親に選ばれた天使に抱かれた七人の赤ん坊。セラフで話し合って決めた名前と共に顔のアップが映し出されるのを僕もテレビで観ていた。

 

 

「赤ちゃん・・・・・・・良いですね」

 

「だな・・・・・・・」

 

「君達さぁ人前でイチャイチャしないでくれる? こっちはミッテルトへのお仕置きで禁欲中なんだからさぁ」

 

 お披露目の様子を観たいと言い出したアーシアさんの為にリビングを解放するのは良いけれど、人肌寂しい思いをしている僕の前でラブラブなのを見せないで欲しい。

 

「其れではこの時より天界を支える三名の紹介です」

 

 これより始まるメインイベントは天界にとって記念すべき日の始まりであり、僕にとっては愉快な茶番だ。前に出てきた三人に注目が集まる。背中に生えた七対の黄金の翼が力を示し、美しさに天使達が息をのむ。イッセーは見とれてアーシアさんの嫉妬を買った。

 

「ハニエルです。パパの為に頑張るね!」

 

 一人目は母胎であるホムンクルスに酷似した美女。夜魔の因子が入っている為、強烈な色香を放ち、何人かの天使が翼を点滅させていた。

 

 あの見た目で幼い中身はあざとい。

 

「・・・・・・・レマディエル」

 

 二人目は機械的な印象を与える黒髪赤目の少女。右半分を髪で隠していて、隠れている異形の瞳は見えない。どうもコンプレックスらしく作り直しを求められたけど拒否した。僕が作り直しとか有り得ない。

 

 

「儂はラミエル。宜しく頼むぞ」

 

 最後は青い髪のロングヘアーの幼女。何故か偉そうだ。

 

 三名ともキャラが濃いからか一瞬の沈黙が流れ、続いて万雷の喝采が響く。皆、新たな同士を、これからを担う同朋を祝福してくれているんだね。

 

 あの十人は天界の為、天使の為に働くという本能をインプットしている。だから役に立つよ。・・・・・・・僕の命令で天界に仇をなすその日まではね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、死ぬかと思ったよ、タルウィ」

 

「実際一度死んだじゃん。・・・・・・・もう寝るね、ザリチュ」

 

 

 

 

朝起きたら幼女(ただし育て親)がベッドの中で眠っていた。どういう状況かはすぐに思い出す。昨日、一人で眠ろうとしたら急にやって来たんだ。

 

「正義、油断したら駄目。足下掬われる」

 

「無限だからって防御も何もしないオーフィスに言われても・・・・・・・」

 

「むぅ」

 

 この後、久しぶりに一緒に寝ながら説教するって言い出して、ものの五秒で熟睡。しかも僕に抱きついてきたから締め落とされて気絶したんだった。

 

「んっ、其のプリン、我の・・・・・・・」

 

 寝涎を垂らしながら眠る姿はとても最強のドラゴンとは思えない。なんかもう、アレだよね。昔から物を知らないせいで老人の姿なのに子供っぽかったけど、今の姿だと尚更だ。

 

 

「早くグレートレッドを倒そうね・・・・・・・」

 

 寝冷えするわけは無いけど、黒歌が買ってきたアニメキャラのパジャマに手を伸ばし外れたボタンに手を掛ける。

 

 

 

「創造主様ー。朝御飯・・・・・・・悪かったね」

 

 クロロが入ってきて僕たちを視界に納め、直ぐに出て行こうとした。

 

「おい、分かって言ってるだろ?」

 

「うん。創造主様は確かにロリコンだけど、オーフィス様とそういう事にはならないって分かってるさ。冗談だよ、冗談」

 

 本当に此奴は質が悪いと思う。製造番号こそ九百代後半だけど、失敗も多いから付き合いは長い。此奴以降は材料を厳選しているしね。

 

 

 

「全く。偶に労いの言葉を掛けてやろうって気が無くなるよ」

 

「言葉より物でご褒美が欲しい。気持ちだけじゃ何の意味もないよ。現状を嘆くばかりの魔王達じゃあるまいしケチケチしないでさぁ」

 

「お前は最高傑作だけど性格は最低のゲスだな」

 

「いやいや、創造主様には適わないよ」

 

 ・・・・・・・やっぱり此奴は性格が悪い!

 

 

 

 

 

「夏休みは旅行に行こうか。バアル家の避暑地とかにさ」

 

 もう直ぐ夏休み、ミッテルトは宿題やら補習の課題が忙しそうだけど、まぁ旅行先で頑張って貰おう。何やら縋るような目をしているけど、ホムンクルスは手が足りていなくて量産中だから代理は無理だし。

 

「我も行く! 我も行く!」

 

 オーフィスが珍しくテンションを上げて主張。まぁ良いかな? ゼクラムには静かに過ごしたいって伝えてホムンクルスやらに警護させればご機嫌伺いに来る貴族も避けられるし、大王家の実質的な支配者に喧嘩を売る馬鹿は居ないでしょ。

 

「じゃあオーラ偽造のアイテムを新調して姿も九重と会ったときのにして一緒に行こうか」

 

「ん。我、嬉しい」

 

 オーフィスが嬉しいと僕も嬉しい。じゃあ準備に取りかかろうか。

 

 

 

 

 

 

 っと言うわけでやって来ましたバアル領。冥界だから照りつける太陽の日差しも海も存在しないけど、泳ぐには十分な大きさの湖と、その近くに建てられたログハウス風の別荘。ここら一体がバアル家の所有だから鬱陶しい悪魔と出会うことも無く、結界とホムンクルスの警備の合わせ技で不意にアザゼル辺りが来ることもない。

 

 湖に目をむければ、魔法によって異様なまでの透明度を得て丸見えの湖底を泳ぐオーフィスの姿。隣ではミッテルトがサンチェアに座ってドリンクを飲んでいる。そろそろエンプティーがバーベキューの準備を終える頃だし、最高の気分だ。

 

「いやー! バカンスは最高にゃ」

 

「黒歌、この後なんだが・・・・・・・」

 

「はいはい、ベッドで一勝負ね。今日は私が先攻だから」

 

「お前さん達、イチャイチャすんならあっちに行って欲しいぜぃ」

 

 此奴らさえ居なければ! バカンスを聞きつけて勝手に同行してきた馬鹿トリオ追い出そうとしたら、ならここら辺りで暴れて悪魔の警護を付けるって脅してきた。後で報復しよう。・・・・・・・口に含んだ物、其れも水を含めて納豆の味しか感じないようにするとか?

 

 

 

 

「って言うかヴァーリ。堕天使を裏切るって計画はどうするのさ」

 

 会談の時はそんな空気じゃなくって裏切り損ねたけど、今ならまだ魔王主催のパーティーがあるし、そこで裏切れば貴族連中がアザゼルに不満を抱くだろう。血筋を含めて暴露して、其れをゼクラムに非難させれば・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「今朝、裏切る旨を書いた手紙を各勢力に送ったけど、不味かったか?」

 

「君の思考能力がね」

 

 よし。ヴァーリには何かしらの嫌がらせをしよう。僕は頭脳をフル回転させてヴァーリへの嫌がらせを考案しだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冥界に帰るわよ」

 

 最近、部長が本当に不機嫌だ。任されていた領地を今までに不始末を理由に管理能力無しとして取り上げられたのが不満らしい。コカビエルの件では計画書に詳細が載っていて知ったんだけど、下手すれば街が吹き飛んでいたらしい。つまり、俺の両親もアーシアも死んでいたかも知れないんだ。

 

 アーシアと恋人になって、将来結婚を考えているって二人に話した時、俺の前に母さんが宿し、生まれなかった兄弟について教えられた。俺がどんな想いを託されて育てられたかも知って、申し訳なくって涙がでた。

 

 性犯罪をし続けてゴメン。危険な悪魔社会の一員になってゴメン。親不孝でゴメン・・・・・・・。

 

 口には出さないけど俺は安心している。部長が管理者でなくなって良かったと。テロ組織やダエーワに対抗するために必要な今後の同盟の為にも、協定の象徴であるこの街はキチンと管理して守って貰えるらしいし一安心だ。

 

「そうだわ。アーシアも一緒に来ないかしら? これから戦力も必要だから目を付けた他の誰かに取られても嫌だし」

 

 只、これから部長について行って本当に良いのか不安だ。今だから分かる。この人の言う慈愛はコレクターがレア物に向ける愛情で、自分に懐いている子は可愛がり余所余所しい方の子は粗雑に扱う母親の様だ。

 

「アーシアなら天界の人が何か用が有るからってイギリスに行く予定ですよ、部長」

 

「そう、残念ね。実家を見たら気が変わるかもって思ったのに。そうだわ、イッセー。写真に撮って、どんなに良い所か教えて上げて頂戴」

 

「・・・・・・・はい」

 

 ああ、俺の心が冷めているのにも気付かないんだろうな。木場の奴は相変わらず不安定なままだし、これからどうなるんだろ? ・・・・・・・一度悪魔になったら戻れない。悪魔に魂を売るってこういう事か。神様が要らない物を押しつけなくちゃ俺は普通に生きていたんだよな。アーシアと出会えただけでチャラだけど、出生率も低いし、子供ができないまま死別した時、俺は何を心の支えにしたら良いんだろう・・・・・・・。

 

 

 

 

 そういや今後は悪魔祓いを削減するらしいけど、危険なはぐれ悪魔の対処はどうするんだろう? 何か対策するよな。テロとか居るんだし、厳しく取り締まる口実は出来たし。

 

 

 

 うん! だったら大丈夫だ。悪魔社会も明るくなってきたな! ・・・・・・・大丈夫かな?「あー暇暇暇暇暇暇暇!」

 

 バカンス六日目、早くも飽きた。毎日釣りや湖水浴をして、バーベキューをする。それなりに楽しかったけど、冥界のテレビはあまり面白くないし、そろそろ帰ろうかなと思う。

 

 しかし、どうして此処まで娯楽が少ないんだろうね。

 

「まぁ仕方ないっすよ。戦争で絶滅の危機に瀕したんっすから。人にとっては長くても、ウチ達のような一万年生きる種族からしたらそれ程っす」

 

 とは、ミッテルトの弁。まぁ最重要な戦後の復興ばかりに力を注いで娯楽が発展する暇が無かったって事か。他の国による支援も無いだろうしね。旧魔王は娯楽を制限していたのかな?

 

 でも、街に出かけるのは億劫だ。言いつければ買い物をしてくれるホムンクルスも居るし、出掛ける理由がない。

 

「我、退屈。街に行きたい」

 

「よし。買い物にでも行こう。クロロ、護衛お願い」

 

 オーフィスの希望なら仕方ないよね!

 

 

 

 

 

「やはり注目されていますね、創造主様。この美しすぎる私が!」

 

 

 取り合えずバアル家の避暑地だけあって庶民が暮らす街からは遠かったけど、転移は使わずに魔獣に乗っての移動も娯楽の内。景色を楽しみながら着いた街からは活気が失われていた。食料品店に並ぶ商品の数は少なく、そして高い。今注文を待っている喫茶店も随分と高価だ。

 

「悪魔に混じって堕天使もチラホラ。敵意は感じないし、何かして来たら処分で。どうせ生半可な事じゃ僕に碌な抗議も出来ないからさ。ほら、口元ベトベト」

 

 それでもクロロが言う様に此方を伺う奴らが複数人。髪型と姿を変えたオーフィスの口元に付いたクリームを拭いつつ、ミッテルトが差し出したスプーンを口に入れる。

 

「はい、あーんッス。……所で随分と騒がれてるッスね」

 

 先程買った新聞にはサーゼクスの死を悼む声や新魔王ビィディセが多くの貴族の不正を暴いた事を評価する記事、そして僕が前に作った駒の消費数計測器によって約束されていた眷属の座を失った奴が貴族に楯突いて粛清されたという記事が掲載されている。

 

 因みに不正を暴けたのはバックにいるバアル家のお陰だ。実質的のトップだからね、ゼクラム・バアル(造魔寄生済み)はさ。

 

「この世は我が世と思う望月の……って事ばかりじゃないのが癪だけどさ」

 

 冥界の作物に打撃を与える為に用意した害虫型の魔獣だけど、それ以外の要因で予測以上の食料危機が発生している。その結果が価格の高騰による景気の悪化だ。

 

 どんどん枯れていっているんだ、作物がさ。

 

「ダエーワの六大魔王の仕業ですね。資料にそういった記述がありました。会談の時の事から判断すると、サーゼクスと相打ちになった……事になっている奴の相方でしょう」

 

「景気の悪化で僕に入ってくるお金も減るし、腹立つよね」

 

「……潰しますか?」

 

「敵の情報と戦力が整ったらね」

 

 行き当たりばったりとか下策中の下策だし、確実に倒せない相手とは戦わないに限るよ。ただし、敵は潰す。弱くても潰す。それが大切な存在を守る手段だからね。

 

 

「あっ、そろそろ人造天使から定期連絡が来る頃か」

 

 

 

 

 

 

 今の天界の情勢は厳しい。最高指導者であり管理者である神の不在。我々の根幹を揺るがす事実をひた隠しにして多くの者を騙し切り捨てる毎日は良心の呵責との戦いだ。何度か何もかも投げ出してしまいたいと思った。

 

 

「パパー!」

 

 だが、今は違う。投げ出さなくて本当に良かったと心の底から思っている。その理由たる幸せを多くの者から奪っていると自覚していながら……。

 

「おや、お仕事は終わりましたか?」

 

「うん! ハニエル、パパの為に頑張ったの」

 

 駆け寄って来た()の頭を撫でてやる。この子の母親は私の最初の相手をしたホムンクルスだ。母親そっくりのハニエルを見ていると、あの時の事を思い出してしまう。込み上げて来る劣情を必死で押し殺し、自分の娘だと自分に言い聞かせる。

 

(若い頃はアザゼル達を軽蔑したものですが……)

 

 あの快楽は抗い辛い。もう一度彼女達と会いたいとの想いが込み上げて、私でもこれなのだから、今後この方法で増える天使の親も堕天使になる危険がないからこそ、今までの禁欲の反動が出ないか少し怖くなる。

 

「あのねあのね! ハニエル、パパとお散歩したいな!」

 

「そうですね。私も仕事が一段落したことですし、他の二人も誘いましょう」

 

「うん!」

 

 腕にじゃれついて来る娘とのんびり歩く。幸せとはこんな事を言うのですね。

 

 

「そうそう。今度、アザゼルとの会談がありまして、貴女も出ますか?」

 

「あのオジさん、臭いから嫌ーい」

 

「そうですか。なら、仕方ありませんね」

 

 我ながら親馬鹿だと思う。……この子が成長すれば私の事も臭いとか言うのでしょうか? 加齢臭を抑える薬がないか九龍君に相談してみましょう。

 

 

 

 

 

 

「……散歩に同行? それはご命令でしょうか、ミカエル様」

 

「いえ、命令ではありませんよ、レマディエル」

 

 ハニエルと共に向かった勉強室で自習をしていたレマディエルを誘ったのですが、どうもこの子は感情が薄い。髪で隠れていない左側は人形のようで少し心配だ。

 

「もう少し感情を出す練習をしましょう」

 

 だけど、この子も私の娘だ。この気持ちが父性なのか断言は出来ないが、私はこの子の幸せを望んでいる。

 

「感情? この状況における価値を認めず。主の命に従う僕たることが天使の存在意義なれば」

 

 少し痛ましい。この子は私達が天界の存続の為に作り出した信者そのものだ。死すら神の為なら厭わず、自分を徹底的に押し殺す。いや、この子はそのような物を持っていないのかもしれない。

 

「私は貴女に笑っていて欲しい。それでは駄目ですか? それと私の事はお父さんと呼んでくれれば嬉しいです」

 

「……分かりません。ですが、ミカエ……お父様の望みならば努力致します」

 

「ええ、ならばまず一歩目として一緒に遊びましょう」

 

 少しだけ感情を見せてくれたレマディエルを肩車し、次は私もと言ってくるハニエルを宥める。ああ、これが子育ての難しさという幸せですかね?

 

 

 

 

 

 

「なんじゃ、ハニにレマではないか。それに父上も。儂に何か用か?」

 

 三人目の娘(本人は長女だと主張)のラミエルは青い髪の幼い少女だ。だが、その実力も力への貪欲さも姉妹の中でトップ。今も修練場で上級天使数名を相手取っている。」

 

「ラミエルも一緒にお散歩しよー!」

 

「ご飯まで時間もあります。トレーニングのクールダウンには最適かと」

 

 私の肩車争奪戦を終えた二人は今は両側で手を繋いで歩いている。二人に誘われ顎に手を当てたラミエルは最後に私に視線を向ける。

 

「ふむ、まぁ良いじゃろう。だがっ!」

 

 その速度は凄まじく、瞬く間に私に正面から抱き付いたラミエルは得意顔だ。

 

 

 

「父上の抱っこは儂が貰った! ふはははははっ!!」

 

 そして何だかんだ言って一番甘えん坊なのもこの子。まだ赤子の娘息子達も大きくなったら今回みたいに無邪気な争いに参加するのでしょうね。......不思議と母親に会いたいと言いませんが、彼女達の分まで私はこの子達を愛する。さて、忙しくなりますね。

 

 

 

 

 

 

「......ナース、今まで何処に?」

 

「何も成し遂げていない癖に英雄を名乗る小僧共が調子に乗って居たのでな。おびき寄せて狩っておいた。霧を使う眼鏡と魔獣を生み出す小僧を瀕死にしてから残りを逃がすと言ってやったが......仲間を置いて逃げた奴が背中から攻撃された時の顔は最高だな。面白かったので瀕死の二人は放置しておいた」

 

「あー暇暇暇暇暇暇暇!」

 

 バカンス六日目、早くも飽きた。毎日釣りや湖水浴をして、バーベキューをする。それなりに楽しかったけど、冥界のテレビはあまり面白くないし、そろそろ帰ろうかなと思う。

 

 しかし、どうして此処まで娯楽が少ないんだろうね。

 

「まぁ仕方ないっすよ。戦争で絶滅の危機に瀕したんっすから。人にとっては長くても、ウチ達のような一万年生きる種族からしたらそれ程っす」

 

 とは、ミッテルトの弁。まぁ最重要な戦後の復興ばかりに力を注いで娯楽が発展する暇が無かったって事か。他の国による支援も無いだろうしね。旧魔王は娯楽を制限していたのかな?

 

 でも、街に出かけるのは億劫だ。言いつければ買い物をしてくれるホムンクルスも居るし、出掛ける理由がない。

 

「我、退屈。街に行きたい」

 

「よし。買い物にでも行こう。クロロ、護衛お願い」

 

 オーフィスの希望なら仕方ないよね!

 

 

 

 

 

「やはり注目されていますね、創造主様。この美しすぎる私が!」

 

 

 取り合えずバアル家の避暑地だけあって庶民が暮らす街からは遠かったけど、転移は使わずに魔獣に乗っての移動も娯楽の内。景色を楽しみながら着いた街からは活気が失われていた。食料品店に並ぶ商品の数は少なく、そして高い。今注文を待っている喫茶店も随分と高価だ。

 

「悪魔に混じって堕天使もチラホラ。敵意は感じないし、何かして来たら処分で。どうせ生半可な事じゃ僕に碌な抗議も出来ないからさ。ほら、口元ベトベト」

 

 それでもクロロが言う様に此方を伺う奴らが複数人。髪型と姿を変えたオーフィスの口元に付いたクリームを拭いつつ、ミッテルトが差し出したスプーンを口に入れる。

 

「はい、あーんッス。……所で随分と騒がれてるッスね」

 

 先程買った新聞にはサーゼクスの死を悼む声や新魔王ビィディセが多くの貴族の不正を暴いた事を評価する記事、そして僕が前に作った駒の消費数計測器によって約束されていた眷属の座を失った奴が貴族に楯突いて粛清されたという記事が掲載されている。

 

 因みに不正を暴けたのはバックにいるバアル家のお陰だ。実質的のトップだからね、ゼクラム・バアル(造魔寄生済み)はさ。

 

「この世は我が世と思う望月の……って事ばかりじゃないのが癪だけどさ」

 

 冥界の作物に打撃を与える為に用意した害虫型の魔獣だけど、それ以外の要因で予測以上の食料危機が発生している。その結果が価格の高騰による景気の悪化だ。

 

 どんどん枯れていっているんだ、作物がさ。

 

「ダエーワの六大魔王の仕業ですね。資料にそういった記述がありました。会談の時の事から判断すると、サーゼクスと相打ちになった……事になっている奴の相方でしょう」

 

「景気の悪化で僕に入ってくるお金も減るし、腹立つよね」

 

「……潰しますか?」

 

「敵の情報と戦力が整ったらね」

 

 行き当たりばったりとか下策中の下策だし、確実に倒せない相手とは戦わないに限るよ。ただし、敵は潰す。弱くても潰す。それが大切な存在を守る手段だからね。

 

 

「あっ、そろそろ人造天使から定期連絡が来る頃か」

 

 

 

 

 

 

 今の天界の情勢は厳しい。最高指導者であり管理者である神の不在。我々の根幹を揺るがす事実をひた隠しにして多くの者を騙し切り捨てる毎日は良心の呵責との戦いだ。何度か何もかも投げ出してしまいたいと思った。

 

 

「パパー!」

 

 だが、今は違う。投げ出さなくて本当に良かったと心の底から思っている。その理由たる幸せを多くの者から奪っていると自覚していながら……。

 

「おや、お仕事は終わりましたか?」

 

「うん! ハニエル、パパの為に頑張ったの」

 

 駆け寄って来た()の頭を撫でてやる。この子の母親は私の最初の相手をしたホムンクルスだ。母親そっくりのハニエルを見ていると、あの時の事を思い出してしまう。込み上げて来る劣情を必死で押し殺し、自分の娘だと自分に言い聞かせる。

 

(若い頃はアザゼル達を軽蔑したものですが……)

 

 あの快楽は抗い辛い。もう一度彼女達と会いたいとの想いが込み上げて、私でもこれなのだから、今後この方法で増える天使の親も堕天使になる危険がないからこそ、今までの禁欲の反動が出ないか少し怖くなる。

 

「あのねあのね! ハニエル、パパとお散歩したいな!」

 

「そうですね。私も仕事が一段落したことですし、他の二人も誘いましょう」

 

「うん!」

 

 腕にじゃれついて来る娘とのんびり歩く。幸せとはこんな事を言うのですね。

 

 

「そうそう。今度、アザゼルとの会談がありまして、貴女も出ますか?」

 

「あのオジさん、臭いから嫌ーい」

 

「そうですか。なら、仕方ありませんね」

 

 我ながら親馬鹿だと思う。……この子が成長すれば私の事も臭いとか言うのでしょうか? 加齢臭を抑える薬がないか九龍君に相談してみましょう。

 

 

 

 

 

 

「……散歩に同行? それはご命令でしょうか、ミカエル様」

 

「いえ、命令ではありませんよ、レマディエル」

 

 ハニエルと共に向かった勉強室で自習をしていたレマディエルを誘ったのですが、どうもこの子は感情が薄い。髪で隠れていない左側は人形のようで少し心配だ。

 

「もう少し感情を出す練習をしましょう」

 

 だけど、この子も私の娘だ。この気持ちが父性なのか断言は出来ないが、私はこの子の幸せを望んでいる。

 

「感情? この状況における価値を認めず。主の命に従う僕たることが天使の存在意義なれば」

 

 少し痛ましい。この子は私達が天界の存続の為に作り出した信者そのものだ。死すら神の為なら厭わず、自分を徹底的に押し殺す。いや、この子はそのような物を持っていないのかもしれない。

 

「私は貴女に笑っていて欲しい。それでは駄目ですか? それと私の事はお父さんと呼んでくれれば嬉しいです」

 

「……分かりません。ですが、ミカエ……お父様の望みならば努力致します」

 

「ええ、ならばまず一歩目として一緒に遊びましょう」

 

 少しだけ感情を見せてくれたレマディエルを肩車し、次は私もと言ってくるハニエルを宥める。ああ、これが子育ての難しさという幸せですかね?

 

 

 

 

 

 

「なんじゃ、ハニにレマではないか。それに父上も。儂に何か用か?」

 

 三人目の娘(本人は長女だと主張)のラミエルは青い髪の幼い少女だ。だが、その実力も力への貪欲さも姉妹の中でトップ。今も修練場で上級天使数名を相手取っている。」

 

「ラミエルも一緒にお散歩しよー!」

 

「ご飯まで時間もあります。トレーニングのクールダウンには最適かと」

 

 私の肩車争奪戦を終えた二人は今は両側で手を繋いで歩いている。二人に誘われ顎に手を当てたラミエルは最後に私に視線を向ける。

 

「ふむ、まぁ良いじゃろう。だがっ!」

 

 その速度は凄まじく、瞬く間に私に正面から抱き付いたラミエルは得意顔だ。

 

 

 

「父上の抱っこは儂が貰った! ふはははははっ!!」

 

 そして何だかんだ言って一番甘えん坊なのもこの子。まだ赤子の娘息子達も大きくなったら今回みたいに無邪気な争いに参加するのでしょうね。......不思議と母親に会いたいと言いませんが、彼女達の分まで私はこの子達を愛する。さて、忙しくなりますね。

 

 

 

 

 

 

「......ナース、今まで何処に?」

 

「何も成し遂げていない癖に英雄を名乗る小僧共が調子に乗って居たのでな。おびき寄せて狩っておいた。霧を使う眼鏡と魔獣を生み出す小僧を瀕死にしてから残りを逃がすと言ってやったが......仲間を置いて逃げた奴が背中から攻撃された時の顔は最高だな。面白かったので瀕死の二人は放置しておいた」

 

 


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