ようやく、ようやく終わった鎧さんとの戦いに冒険者さん達は歓喜の声を上げている。そんな場所から少し離れた鎧さんの本体が消えた場所で、私達のパーティーは待っていた。ダクネスさんを。
ダクネスさんは鎧さんの本体が消えた場所で、祈りを捧げる姿で動きを止めている。そんなダクネスにめぐみんが恐る恐ると声をかけた。
慎重になるなら後から聞けばいいのに。
「ダクネス……何をしているのですか?」
「………祈りを捧げている。デュラハンは不当な理由で首を落とされた騎士が、恨みでアンデットに成り下がったモンスターだ。こいつとて、なりたくてアンデットになった訳ではないのだろう。自分で攻撃をしておいてなんだが、祈りくらいはな………」
めぐみんの問に、ダクネスさんは目を閉じたまま答えた。その様子はまるで罪を自白するように、私は見えます。
そう答えたダクネスさんにめぐみんは「………そうですか」と呟く。しかし、ダクネスさんはめぐみんの言葉を聞いていないようす。
私達が聞いてもいなのにもダクネスさんは話を続ける。
ダクネスさんに腕相撲を挑んで負けた挙句、腹いせにダクネスさんが鎧を脱いだら筋肉ガチガチだと、面白そうな噂を流したというセルドさん。
ダクネスさんの当たらない剣術を知ってか、大剣を団扇代わりにして仰いで風を送ってくれ。当たるなら当ててもいいぞ、とダクネスさんのコンプレックス刺激しまくったという勇者ヘインズさん。
私達とパーティーを組む前にダクネスさんと組んで、ダクネスさんのモンスターの群れに突っこんでいく性癖に大変苦労したらしいガリルさん。
……………………………この人、どれくらいの冒険者さん達に迷惑をかけて生きてきたのでしょうか!?このパーティーに入ってから、思えば結構はっちゃけている私でも他人と組んで出かけたクエストでは大人しくしていたよ!!
何故か今になって私達と出会う前に迷惑をかけた出来事を告白するダクネスさん。めぐみんは暗い話になっているのを察してか、慌てて話を切り上げるようにダクネスさんを促す。
これは当分動きそうにないだろうなぁ~、と私はこの場から離れようと後ろを向いた。ダクネスさんは変体騎士様だが、変に曲げない所があるからだ。
そして、後ろを向いた私が見たものとは!!!
なんか、祈りを捧げているダクネスさんを見て、微妙な顔をしている冒険者さんが三人。……どこかで見たことがあるような…。あ、鎧さんに殺された方ですか?
微妙な顔をしている理由は、この人達がセルドさん、ヘインズさん、ガリルさんだからです?
私の推測は直ぐに証明された。
「…………あいつらにもう一度会えるなら、一度くらい酒の席で飲み交わしたかったな……」
「「「お、おう」」」
ダクネスさんの悲しげの声に、照れくさそうに戸惑った声でお三方が反応したからだ。
やっぱり私の推測は当たっていた!
やがて、お三方の一人が前に出て、申し訳なさそうにダクネスさんをからかった事に対して謝り始めた。次々とかけられる声にダクネスさんは、祈りのポーズのまま、顔が赤くなっていく。
これは羞恥心?それともこういうプレイに興奮してですか?
どちらにせよ、これはやってしまいましたね~ダクネスさん。私だったら、完全引きこもるレベル。
多分羞恥心だろう、で顔が真っ赤になっているダクネスさんに、空気を読まないお方がダクネスさんを元気づける。誰だ?勿論、アクア様に決まっている。
「ダクネス、任せて頂戴!!私レベルになると、出来立てほやほやの死体くらい、ちょちょいのチョイで蘇生出来るわ!!これでお酒が一緒に飲めるじゃない。良かったわね!!」
なんと!死者に対してお祈りをしていると思っていたアクア様。実は死んでしまった彼らの冥福をお祈りどころか、復活の呪文を唱えていらしたとは!!!
恐るべし女神様!!やはり私のアクア様は間違っていない!!
……………………………でもねアクア様、ダクネスさんには少し恥ずかしかったみたいですよ。
アクア様には悪気がなかったのであろうが、背後に本人達がいるとも知らずに恥ずかしい独白を思い出したらしく、ダクネスさんは顔を両手で隠した。
チラッと見えた範囲では、顔を真っ赤にして涙目になっていたよ。
「アクア様、アクア様。死体の蘇生お疲れ様でした」
「そうでしょう!もっと褒めてくれてもいいのよ!!」
「それは後でお三方に蘇生代金を要請するといいですよ。まぁ、そのことは置いておいて。蘇生が出来るならもう少し前に言って下さい。私は兎も角、カズマ君が「どうして蘇生出来るって重要な魔法を教えなかったんだ!!」って怒られちゃいますよ?そのせいでダクネスさんがご褒美とは方向が違うらしい羞恥攻めを受ける事になってますし……」
「ど、どどどどうしよう!!ゆにな助けてよ~!!カズマに怒られるのは嫌よ!!!えーっと……ほら!頭を撫でてあげるから私を助けて~~!!!」
「あー分かりました。私がアクア様に口止めしていたことにしましょう」
私はアクア様から報酬の頭ナデナデを受けていながら、ダクネスさんがカズマ君の攻撃を受けて「死にたい」と呟いているのボーっとみる。
どうやら、カズマ君は手加減をしないそうで、追撃を行っているようです。
さてと、そろそろ帰りましょうかね。
ここに居てもダクネスさんを虐めるカズマ君しか見れないし、まだ魔力枯渇で動けないめぐみんで遊ぶのもいいけど、今日は何だか疲れたや。
鎧さんの討伐報酬も、急なことなので今日で準備出来るわけないし、私も随分と魔力を使っている。
『魔力自然回復速度UP』を付けているけど、まだまだ時間がかかりそうな感じ。今日は帰って寝るのが一番いいかな?
あ~、アクア様のナデナデ気持ちいい。名残惜しいけど、そろそろ。
「アクア様、そろそろ大丈夫です。たっぷりと報酬を頂きましたので、カズマ君への対応はお任せください。では疲れましたので今日はこの辺で………飲み過ぎない様に気を付けて。また明日です」
「っえ、来ないの?…………」
「はい。…………………めぐみん、私のなけなしの魔力を貸してあげるので、後日倍返しでいいですよ」
「えっ!?急に決めないで…ひゃうぅ!!ちょ!なけなしって言っている割には結構多いのですか!!??あっ、ちょ!もう十分です!十分ですから!!!返すのが大変になりますから!!!」
よし、これでめぐみんへの嫌がらせは終了。心置きなく帰れるぞぉ。
へぇっ!?魔力枯渇で動けないめぐみんとは疲れたから遊ばないんじゃなかったか?って?実は私、結構考えをコロコロと変えるのだ!
まぁ、疲れたのは変わらないから、魔力枯渇で動けないめぐみんに大量の魔力を与えて魔力を回復させてあげると同時に、後日倍返ししてもらう約束を一方通行で取り付けて困らせる。これぞ一石二鳥(違います)
そんな訳でめぐみんへの嫌がらせ行為も終わり、私は喜びに浮かれている冒険者さん達の脇を通り過ぎて、アクア様の洪水クラスの水害に襲われて混乱している町の中に入っていった。
ゆになが街の中に帰って行き、取り残されたカズマ達一行。
ダクネスはカズマに違うタイプの羞恥攻めを喰らい、地面にへたり込んでいる。その横でめぐみんが、ゆになから貰った魔力が多過ぎて魔力酔いを起こしてダウン。一方でアクアはこれから起こる宴会を待ち遠しそうにソワソワしている。
そんなパーティーメンバーを空しい目で眺めながらカズマは、少し気になったことを考えていた。
何かがおかしかったような気がしてたまらん。…………………あいつ、無理していなかったか?
カズマはアクアにいつもよりもがっつかなかったゆになの態度を見て、何かがおかしいと考えた。ギャルゲーで鍛えた観察眼と考察力を駆使して、ゆになは無理をしていた?と考え着く。
「なぁ、アクア。何か感じなかったか?」
「え~、さぁ?私にはいつもと違うようには見えなかったわよ?それよりも早く宴会をしましょう!!」
やっぱり此奴に聞いた俺がバカだった。
カズマはアクアに聞いた自分に呆れながら、アクアが思った印象も自分の考えに入れて再度ゆになについて考える。
アクアでも気付かない程の変化。カズマは自分の気のせいだと思えなかった。
あいつは単純そうに見えて単純じゃないのか?兎に角、あいつの言動は今後要注意だな。
ああいったタイプがラスボスとかよくあるパターンだし。
カズマはそう結論を出すと、いい加減鬱陶しくなってきたアクアを黙らす為に動きだした。