カズマと別れたゆになは、教会に今日のお布施を届け、露店で安い果物を買うと、泊まっている宿に帰った。
ゆになが泊まっている宿は家族経営の普通より割安なところだ。
住民の家と全く変わらない玄関ドアを開けると、帰って来たと経営者に伝える。
「ただいまです!!おばちゃん」
「お帰り、ゆになちゃん。今日もお布施をしてきたの?」
ゆになを出迎えてくれたのは、二十代後半の女性だった。
決して、おばちゃんとは言えない外見である。
「はい、欠かさずやらないと意味が無いですからねー。『継続は力なり』と言う言葉が古い古い故郷にありましたから!」
「古い…故郷?」
ゆになはセミロングの黒髪に赤い瞳を持っている。
どう見ても紅魔族の娘に見えるゆになが言う「古い古い故郷」におばちゃん(二十代後半)は疑問を抱く。
(故郷は確か、紅魔の里だったはず。でも、古い古い故郷ってどこの事を指してるのかしら?紅魔族が紅魔の里に住む前の話?それとも、ゆになちゃんには誰にも言えない様な秘密が!?)
おば、ねえさんは「ゆになには物凄い秘密があるんじゃないかな?」と予想を立てるが、あながち間違っていない。
古い古い故郷とは勿論、日本の事だ。
ゆになは肉体を初めからやり直した為、故郷と言ってしまえば紅魔の里になってしまうのだ。
そこでゆになは、日本を表す時は古い古いと枕詞を入れる。
紅魔族相手に言うときは考えた設定いう風に、我が記憶に残る前世の地では!という風に言っている。
勿論、誰もが設定だと思っているが、それはゆになの狙い通りなのだ。
しかし、その凝った設定が仇となってしまった。
普通の人ならそこまで気づかないのだが、このお姉さんは一体何者なのだろうか?
読書が趣味なごく普通のお姉さんです。
「いつかゆになちゃんの秘密を!!」と燃えているお姉さんの気を知らず、ゆになは部屋に戻ろうと、階段に足をかけた。
はっ!としたお姉さんが、ゆになにいつも通り聞いた。
「ゆになちゃん、今日の夕飯はどうする?」
「…今日も大丈夫です。これを買ってきましたので……………」
「いらない」と答えたゆになは心なしか元気がない。
そのことに気付くお姉さんだったが、ゆになは先ほど買ったばかりの果物をお姉さんに見せた。
値段が低いものを買った訳で、普通のサイズよりも小さい。
「……ゆになちゃん?」
「ごめんなさ~い!!日課のお祈りをしなきゃ!!また明日の朝で」
ゆになの小食に納得がいかないようだったが、ゆになが強引に階段を駆け上がった。
知ってた?ゆにははセミロングなんだってー!