笑顔で名前を教えてくれと言い切った勇者(笑)。
これが普通の女の子なら、ハートを射抜かれているのだが、この男にいい思いを持っていない私は違う。
…………どうしよう、素直に名乗るべきか、それともボケに走るべきか……………。
と私が、状況に合わない悩みを考えていると、取り巻きの二人の内一人が言った。
「キョウヤこの人は仲間から『ゆにな』って言われてたわ」
「そう、キョウヤの魔剣を取り返そうとした私達を脅したの」
おぉっといきなりネタバレはないですぜ、取り巻きさん達。
素直にお名前を名乗っておきましょう。
そう決めた私は、ポーズを取って名を名乗った。
「我が名はゆにな!紅魔族一の冒険者で、禁術を操りし者!!……………というわけで、紅魔族に転生した元日本人の桂木由仁です。よろしくお願いします、御剣御夜君」
前半は紅魔族の名乗り方に乗取って決めポーズ姿で、後半は日本人転生者をアピールした自己紹介で勇者(笑)に名乗った。
ゼロ円スマイル付きである。
これは好印象間違いないのではないだろうか!!?
「へぇ~!君も転生者なんだ。ん、でも紅魔族って言ったよね?」
あ、このイケメンにはゆになちゃんのスマイルが効かないみたいですね。
「色々あって、生まれ変わりなんですよ。因みに、転生特典は別にあるからね」
「ってことは、僕よりも年上?それとも生まれ変わりだから年下?」
「どっちでもいいよ。キョウヤ君の接しやすい方で」
勇者(笑)に合わせて、ニコニコと会話を続ける私。
傍から見れば、イケメンな男と可愛い女の子(自分で言うか?)仲良く話し合っている風景。
だが、勇者(笑)の取り巻き共はそうは見えなかったみたいで
「キョウヤ!こんな奴と話したらダメよ!知らないうちに物を巻き上げられるわ!」
「この女はサトウカズマの仲間なのよ!きっと鬼畜に違いないわ。目的を思い出してキョウヤ!」
あっさりと、仮面の笑顔を見抜かれてしまった。
何で同性だとこういった裏の顔を直ぐに見抜かれるのかなぁ?
まさかこの二人、勇者(笑)と楽しく(見える)話していた私に嫉妬しているのではないだろうか?
恋する乙女は浮気に敏感とも言うし、お二人さんの私を見る目が彼氏に近ずく女を見る目だ。
なるほど、この取り巻き二人は勇者(笑)の事が好きなのか。
ほうほうと勇者(笑)と取り巻きを見ていると、勇者(笑)は取り巻き達に言われて当初の目的を思い出したらしい。
「話が脱線してしまったね。すまないがゆにな、その肩に担いでいる魔剣グラムを返してはくれないか?」